コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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封印されし記憶 6

  『暴発?ワルサーがかね』
  「はい」モニタの中の鷲尾に向かい森が静かに言った。
 彼は1時間ほど前にJBに戻り、資料室での一件を聞き各人に聞き取り調査を行い、鷲尾に報告している。 
   『それで、ジョージは?』 
   「暴発時の跳弾が右手の甲を掠ったようです。出血はありますがケガ自体は大した事ありません。ただ意識が戻らないので榊原病院へ─」
   『・・そうか』鷲尾は深く息をつく。自分がもう少しうまく話していたら・・と、後悔が胸を締め付ける『・・あの子を、これからどうしたら・・』
   「・・・・・」森は一瞬、鷲尾の言う意味が分からなかった「今回のジョーの行動についての処分は私の方で考えますがー」
  フッと鷲尾が顔を上げた。森の言葉が途切れる。
  鷲尾は今まで森が見た事もない暗い悲しい目をしていた。


  「あ、あのワルサーが・・」神宮寺が驚いて山田捜査課々長を見た「本当に・・」
  「そうだ」
 自分のデスクについた山田は、目の前に立つ神宮寺を見上げ言った。
  「ですが、あのワルサーは父親の形見として鷲尾長官から渡されたと─」
  「それも本当だ。あの銃はアサクラさんが愛用していたものだ」
  「で、でも・・なぜそんな銃を・・」
 納得しない神宮寺を見ながら、山田は静かに立ち上がり窓に体を寄せる。新宿御苑の緑が見える。
  「いくらアサクラさんが愛用していたものであっても、両親を撃ち殺した銃を鷲尾さんはなぜジョーに渡したんですか」 
  「・・当時、私達もそう思ったよ」山田が静かに話し出す。
  12年前のあの夜、山田は捜査課の一員として鷲尾達と現場に駆けつけた1人だ。
 玄関そばに落ちていたワルサーを見つけたのも彼だった。その時は誰もがその夜の凶行が、そのワルサーよって行われたものだとは思わなかった。
 だが事実が明らかになるとワルサーは鑑識の手に渡り、さらに調べられ最終的には当時JBの副支部長だった鷲尾にその処分が一任された。
 その後は誰もワルサーの行方を知らない。鷲尾がそのまま保管しているらしいが、聞く者はもちろんいなかった。
  「だから、JBに入隊したジョーがあのワルサーを手にしているのを見た時は本当に驚いたよ」
 それはそうだろう。その頃のJBにはアサクラの事件に直接関わった者はまだ何人もいたのだ。
 「おまけに彼の様子からすると、そのワルサーがあの夜の凶器だとは知らないようだった。自慢そうに、嬉しそうにワルサーを手にしていた。私と、今はカナダに移動になったが、同僚の吉村という男と2人で鷲尾さんを訪ねて聞いたんだ。なぜあの銃を彼に─と」
  「・・・・・」神宮寺が聞き入る。
  「鷲尾さんはただ一言、こう言ったよ」山田が小さく息をつく「“あの子にはこの銃が必要なんだ”と・・」
 山田は再びイスに腰を下ろした。
  「その一言だけだ。細かい事情はわからないが、彼の心情はわかるような気がした。私達はそれ以上何も言えなかったよ」
 しばし静かになった課長室の外からは、捜査課室のざわめきがかすかに聞こえてくる。完全な防音にはしていない。
  「それでも、ジョーとワルサーを奇異の目で見る者もいた。ワルサーの素性を教えてやろうというお節介な者もいたようだ。しかし結局彼の耳には何も入らず、Sメンバーになる頃にはそんな話も消えていた。それほどにジョーとワルサーは一体化し、片方のみの存在はありえなくなっていた」
 神宮寺が頷く。
 確かにSメンバーとしてジョーとコンビを組んだ当初、彼のワルサーに対する執着は半端なものではなかったと思い出した。神宮寺はもちろん、誰にも触らせなかった。あとで父親の形見の品だと聞いて納得したが。
  「結局鷲尾さんはあの銃を処分できず、8年間も大切に保管していたのだな・・」
  「そしてジョーの手に渡った・・」神宮寺が呟く「今回の出動で彼は1回もワルサーを撃っていない。このまま撃てなくなるのでは・・」
 神宮寺の言葉に山田は何も答えなかった。


 目の前で赤い光が散る─ああ、まただ、とジョーは思った。
 次に来るのは真っ赤な炎だ。炎がいっぱいに広がって・・・え?・・・違う・・・?・・・なんだ、この光景は・・・。
 暗い・・外?・・あれはおれの家だ・・両親と一緒に住んでいた・・だけど、あれは?・・あれは誰・・?
 ジョーの呼吸は落ちついている。静かに眠っている。だが彼の心の奥深い所では、光と炎の激しい戦いが繰り返されていた。
 もうどのくらい続いているのか・・彼自身わからないままに・・・。


  「フラッシュバック・・ですか」森が聞き返した。
  「ええ、チーフの話を聞いた限りでは」榊原院長はパテーションの向こうのベッドに寝ているジョーに目をやり、また森に戻した「彼は幼い頃の体験によりPTSDを抱えています。もっとも普段は心の奥底に追いやられていてめったに表には出てきませんが、それが今回のように昔をよく知る人間に会い話をしているうちに、彼の心の底に沈めておいた記憶が段々と浮かび上がってきたのでしょう」
 榊原はジョーのカルテを手にしている。それは彼が9才の時のものだ。
  「PTSDの症例としてはよくある事です。子どものうちはむずかしいかもしれないが、大人になるにつれてうまくつき合う人の方が多いでしょう。ただ彼の場合は少々やっかいでして─。受けたショックが大きすぎて、見たであろう光景の1部を忘れているようで・・・いや無意識のうちに封印してしまったようです」次のカルテを見る「彼が“見ていない”と封印しても、実際に脳は記憶しています。昔の話をされ脳が思い出す。しかし彼自身は“見ていない”─このギャップが彼の脳の中で折り合いがつかなくなってきてー」 
  「・・鷲尾さんが心配していたのは、これか・・・」
  「クロードにはそんなつもりはなかったと思いますけど・・」
  「ドクターはクロードをご存知で?」
  「同僚ですよ。もっとも私は捜査課でしたが」
 ああ、ここにも1人、当時を知っている人間がいたんだ、と森は思った。彼はその頃はまだ警察学校にいたのだ。
  「幸いというか、暴発によるケガは軽症ですから、ここはしばらく休ませた方がいいでしょう」
  「そうですね」森もベッドに目をやる「彼の処分はまだ決まっていませんから。それまでここで拘置しておいてもらえればー」
  「病院なんですけどねェ、ここは」森の言葉に榊原は肩をすくめた「しかし・・場合によっては長い拘置になるかもしれませんよ」
 森が驚いて振り返る。
 榊原はジョーに目をやったまま、それ以上何も言わなかった。


 赤い光が目の前を支配する。いつまでこの光を見ていなければならないのか、と思う。そもそも自分は、いつからこの光を見ているのだろう・・・。
 時々、頭の隅の方で何かが見えるのだが、それはすぐに視界から外れる。あとに残るのは赤い光だけだ。光が再び彼を支配しようとする─が、
  「!」
 突然、目が覚めた。金属音がした。ジョーは音のした方に顔を向ける。
  「すまない。起こしてしまったか」
  床から何かを拾い上げ男が言った。長身の細身だが、ガッチリとしたしなやかな体をしている。しかし目はとても穏やかだ。
  「気分はどうだ?丸2日寝ていたんだぞ」
  (・・だれだ・・こいつ・・)まず思った。スキのない油断できない相手のようだ。
  ジョーは警戒心を露わに男を睨む。
  「・・あの時は悪かったよ、ジョー」そんなジョーの態度に男─神宮寺は困ったように言う「あの時はお前を止めるより他に仕方がなかったんだ。ワルサーの事を聞いたのはそのあとだったし・・」
  (ワルサー?聞いた?・・なにを・・)
 頭が混乱している。ジョーは右手を動かしたが痛みを感じて呻いた。手首から先が包帯でグルグル巻きにされている。ふと見ると、左腕も透明のチューブで点滴のスタンドに繋がれていた。
  「無理に動かさない方がいい。軽症だから包帯もすぐ取れるそうだ」
 そう言って微笑む男の顔がぼやけた。
 意識が何かに引っ張られていくように沈んでいく。暗くなった。
  「ジョー?」
 その時ドアがノックされ榊原が入ってきた。
  「気がついたかね」言いながらベッドに近づいてくる。
 その声を聞き、ジョーの意識が跳ねた。突然体を起こし榊原の白衣の胸倉を掴む。点滴のスタンドが引っ張られ倒れた。
  「ジョー!?」神宮寺があわててジョーを抑える「な、なにを─」
  「あんたも知っていたんだろ!」ジョーが叫んだ「ワルサーの事を知っていたんだ!そして黙っていた!鷲尾さんにそう言われたのか!」
  「わ、私は・・」胸を締め付けられ、それでも榊原は抵抗しない「鷲尾さんはそんな事は言わない。私は私の判断で君に黙っていようと─」
  「なぜ皆黙っていたんだ!なぜ教えてくれない!」
 榊原をさらに強く締め上げ─しかし、ふいにその動きが止まる。小さく声を上げ、そのまま榊原の胸に倒れこんだ。それでもまだ白衣を握っている。
  「ジョー」榊原がジョーの耳元に口を寄せた「そんな事を教えて・・いったい誰が幸せになる?」
  「─」ジョーが顔を上げて榊原を見た。
  「知って苦しむなら、知らない方がいい事だってある」榊原が静かに言った「あの時、君に教えなかった事が本当によかったのか・・今となってはわからない・・。しかしあの時はそれが1番良いと思ったんだ。おそらく私だけではなく、事実を知っている誰もが・・・」
  「・・・・・」
 ジョーの腕から力が抜け、白衣から手が離れた。そのまま崩れ落ちそうになるのを榊原が支えベッドに座らせる。体が震え目頭が熱くなる。手を伸ばし白衣を掴んだ。その手の上に榊原の手が重なる。抑えきれずに声が漏れた。
 しかしジョーは泣く事ができなかった。


 翌日、眉村捜査課副課長が森の命令書を持ってジョーの病室を訪れた。彼は10日間の謹慎処分をジョーに告げた。
 あれだけの騒ぎを起こして少し軽いかもしれないが、謹慎する場所は榊原病院だ。ジョーにとっては1番いたくない場所だろう─と、誰もがそう思った。
 しかしそれとは裏腹に、気がついた日からジョーは病院でおとなしくしているという。榊原の言う事を聞き、体を休め食事もキチンと摂っている。あの日のように激する事もなく、心配していた過去の記憶に襲われる事もないようだ。
 このまま落ちついて、いつものジョーに戻ってくれる事を皆が願う。が、
  (あいつの事だ。油断はできない)密かに神宮寺は思う。
 そして彼のカンはよく当たるのだ。
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