コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

Wanted dead or alive 4

「どうしたんだ、ジョー。あの走りは」持ち時間を走り終えピットに戻ってきたジョーに沢口が言った。「こんなタイムでは筑波での入賞は難しいぞ。車に問題があるのか?」
「いえ・・・。ブルーコンドルは快調です」
「だったらなぜ─」
 沢口は、ブルーコンドル(ランボルギーニ・カウンタック)のドアを閉め愛用のレーシンググラブを外すジョーを見た。
 他のメカニッククルーが車体を押してピットに運ぶ。いつもならジョーも手伝うのだが、今はぼんやりとそれを見送っている。
「顔色が悪いな。体調不良ならキャンセル─」
「いえ、大丈夫です」沢口に目を向け、ふとその後ろの神宮寺に気がつく。グラブがキュッと握られた。「どうしたんだ、こんな所まで─。まさか仕事が─」
「いや、お前の走りを見に来ただけさ」神宮寺が沢口に頭を下げた。沢口は小さく息をつくとピットへ行ってしまった。「当日仕事が入ったら見に来れないだろ?だから今のうちにお前の走りを見ておこうと思って」
「・・・いやな事言うぜ」
 ジョーは横目で神宮寺を睨みつけた。彼に仕事が入るという事はつまりジョーにも入るという事だ。当然レースはキャンセルだ。
「なのになんだよ、あの走りは。コーナーはカクカク、ストレートはスピードに乗らないし。あれじゃあコンドルじゃなくてアヒルのジョーだ」
「半分はお前のせいだぞ」相棒の辛辣な感想にジョーが言い返す。「昨日遅くまでパソコンの前に座らされたせいだ」
 今朝起きたら目の前を漢字が走り、頭の中では報告書と始末書がタップダンスをしていた。そこへバンドよろしく加わろうとするパソコン本体やプリンタを蹴散らして六本木に向かったのだ。
「後の半分は?」
「──」
 まだ文句を言おうとする口を閉じジョーが相棒を見る。こいつ、それを言わせたかったのか。細い眼のくせにおれの心内をいともたやすく見抜いてしまう─。
 ジョーはため息をついてレーシングスーツのチャックをスーと下げた。薄いアンダー越しに鍛えられた筋肉が綺麗に並んでいる。
 ジョーはもちろん神宮寺もそうなのだが、食事の量は多くてもあまり余計な肉はつかない。
「もう、暑いな」
 腕を抜いて上部だけ脱ぐ。上下一体となっているスーツは脱いだ上部が腰の辺りでダラリと下がった。少々だらしない格好だが、不思議とジョーに似合っている。
 コースでは次のインテグラが快調な走りを見せていた。
「午前中にトーニに会ってきたんだけど─」ジョーは六本木ヒルズの駐車場での事を神宮寺に話した。「あれは通りすがりの誰かを襲って─なんてものじゃなく、明らかにおれに向けられたものだ。体中がビリビリして今でもその感覚が忘れられない」
「そんな事があったのか」こんな仕事をしていれば恨みの1つや2つは買っているかもしれないが。「だけどお前が六本木に行く事を決めたのは今朝だろ?知っている者は限られる。
「・・・・・」
 トーニはもちろん、ロレンツォも知っているだろう。そしてジョーから連絡があった時、トーニのそばにいたマルティーノもまた─。
 だがジョーにグランディーテに戻ってほしいと頼むマルティーノがジョーを襲う理由がわからない。いや、表向きはそう見せているが実は・・・。
「まさか・・・。彼はシニョーレが選んだ男だ。そんな事をするはずは─」
 だがまだ2回しか会っていないジョーには確証が持てない。
 たとえ誰に襲われようが太刀打つ自信はあるが、彼らのすぐそばにいる人間がそんな事をしてほしくなかった。
 自分ははっきりとイタリアには行かないと断言している。放っておいてくれればいい。
「それと・・トーニと一緒の時に関に遇った。誰かとヒルズ見物に来たらしいが」
「関さん?ジョー、変な事を考えるな。公安がお前に手を出すわけないだろう」
 関がいたのは偶然だ。ジョーにもわかっているはずだが─。
 その時沢口がジョーを呼んだ。明日のスケジュールの打ちあわせだ。
 ピットに向かうジョーに、
「気をつけろ。相手の正体がわからないし─」
 珍しく神宮寺が言葉を濁す。ジョーが踵を返した。背中に神宮寺の視線を感じた。
 いやな予感がする─。彼はこう言いたかったのだ。

 レース当日、ここ筑波の空は申し分のない青空が広がっていた。
 今回のレースはN2公式戦で入賞者にはポイントが与えられる。この年間ポイントにより、ひとつ上のライセンスが取得できるのだ。
 しかし今回のレースはいつもとレース内容が少々異なっていた。午前中にスタートポジションを決める予選を行い─しかしここで参加車両25台のうち、下位3台が落とされた。
 F1やスーパーGTほど知名度の高くないツーリングカー・レースを少しでも盛り立てようと主催者側の思考らしいが、出場する方にすれば酷な仕打ちだ。
 予選で調子が上がらなかったジョーは7位スタートとなった。だが全長2045メートルのこのコースを20周するレースだ。充分に上位は、いや1位は狙える。
 ここ筑波サーキットはストレート区間が非常に短く、マシンの性能差が出にくいコースだ。
 反面、各コーナーにはかなりのカント(バンク)が与えられており、非常に高速度で旋回できる。マシンセッティングを含めたドライバーのスキルがものをいうコースだ。
「ジョー、第1へアピンに注意しろ。予選の時のようにステアリングをモタつかせていたらタイムロスになるぞ。バックストレッチは思い切りアクセルを踏み込め」
 沢口の言葉にジョーは頷き、ふとメインストレート後ろの観客席に目をやる。どこかにトーニと神宮寺がいるはずだが、それを確かめている時間はない。
 2人はそれぞれの都合で予選には間に合わなかったのだ。だから決勝戦で7位スタートのブルーコンドルを見て、神宮寺は驚いているかもしれない。それとも2日前のあの走りでは当然だと思っているのか─。
 どちらにしても腹が立つ。要は1位になればいいのだ。
 ジョーは静かに闘志を燃やし始めた。

 予選を勝ち抜いた22台のマシンがスタートグリップに並ぶ。目の前にこれだけたくさんの車が見えるのは初めてだ。それもフェアレディZやシルビア、RX─8と走りの良いマシンばかりだ。
 だがすぐにおれの前を走れないようにしてやる。ジョーの眼がコンドルのそれになる。
 スターターライトがオールグリーンになった。
 22台のマシンが一斉に飛び出す。すぐさま前を行くシルビアを躱し6位に上がった。そのまま第1コーナーに突っ込む。続くS字の手前でもう1台抜いた。
 予選での不調を払拭し、青いコンドルが襲いかかる。
「ジョーの奴、やっとエンジンが掛かったな」
 観客席で神宮寺が苦笑していた。
 彼はスタートギリギリに着いて、7番目にある青い車体を目にし驚いた。が、あっという間に5位に上がったブルーコンドルにホッと息をついていた。
 おとといサーキットで顔を合わせて以来彼はジョーに会っていない。だからそれ以後も彼の身辺に異変が生じたかどうかもわからない。しかしレースに参戦しているという事は、とりあえず無事だな、と思った。
 その神宮寺の目が遥か前方の観客席に向けられた。トーニがいた。後ろ姿だがその独特の雰囲気でジョー同様目立っていた。が、その隣にいるのは・・・。
「シニョーレ?」確かにロレンツォだ。そしてさらにマルティーノの姿も見える。「来てくれたんだ」
 神宮寺の口元に笑みが広がった。

「すごいな、ジョー。本当にレーサーだったんだ」そのトーニが変な感心をしていた。「でもまさかじい様まで来るとは思わなかったな。今日のスケジュールはいいの?」
「これも仕事のうちだ」ジロリとあのブルーグレイの瞳がトーニを睨んだ。「レース産業に投資するなら1つでも多くのレースやレーサーを見ておかなくては」
「ふうん・・・」イタリアから遠く離れたアジアの端の小さな国、そして小さなレース。とてもメリットがあるとは思えないが・・・。「素直じゃないな、じい様も」
「なにか言ったか」
「いーえ、なんにも!あ、ジョーがまた1台抜いた」
 見るとダンロップコーナーから第2へアピンまでのコースでブルーコンドルがZのインをついてサイド・イン・サイドのままヘヤピンの手前でZを振り切った。そのままヘヤピンに突入する。
 コーナーの立ち上がり速度が、それに続くバックストレッチの最高速度に直接影響するため、マシンの向きをうまく変えて、できるだけ早く加速状態に持っていかなければならない。ここで加速に乗れば、次はコース最長437メートルのバックストレッチだ。各車スピードが上がるのがわかる。
 ジョーは最終コーナーで再び前車のインを突こうとした。が、なかなか入れてもらえない。それどころか反対に寄られて前を塞がれた。そのままメインストレートを爆走する。
「おれの前を走ってるンじゃねえ!」
 ジョーが怒鳴った。
『熱くなるな、ジョー』イヤホンに沢口の声が響く。『まだ半分残っているんだ。君の腕なら大丈夫。必ずトップに立てる。落ちついて行け』
「そんな優しい事言われると気持ちが萎えちまうぜ」
 ジョーは文句を言い、だがひとつ息を吸い静かに吐き出す。気持ちを萎えさせずに自分を落ちつかせた。
 レースではそれができるのに、どうして仕事ではできないんだ?と、以前神宮寺に言われた。そんなのあたりまえだ。レースが好きだからだ。いつもその場にいたいからだ。そのためだったらおれはどんな事でもする。
 そして18周目でジョーがトップに躍り出た。それもホンダのNSXにメインストレートで勝負をかけ、第1コーナーの手前で抜き去ったのだ。
 観客席の目の前でのデット・ヒートに人々は大いに沸いた。
 こうなるとジョーの独壇場だ。彼はラスト1周のピットボードを目の端に捕らえ、ブルーコンドルを跳ばす。
 一瞬このままゴールしてしまうのがもったいない気がした。
 まだ走りたい。いつまでも走っていたい。ジョーの至福の時だ。
 と、ダンロップコーナーを抜けた時、目の端で何かキラリと光る物を捕らえた。が、すぐに後ろに飛んでいってしまう。
 何かが乱反射したのか。今まで気づかなかったが─。と、突然ジョーの後ろを走っていたNSXがスピンした。が、3位の車と離れていたために他車を巻き込む事なくマシンの向きを戻し再びジョーの後を追う。
 その頃ジョーはバックストレッチに入っていた。そのまま最終コーナーを回る。目の前でチェッカーフラグが振り下ろされた。
「やったよ、じい様!ジョーが優勝だ!」
「そうだな」
 短く呟くロレンツォの瞳が少し和んだように細くなった。


       3 へ      ⇔     5  へ
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Comment

淳 says... "覚書き"
ジョーが参戦している「N2」レースのデータがほとんどない。ネットで調べてもJAFに入ってもだめ。
元々レースの本でピックアップしたものだがレース自体少ないしよくわからない。
もう少しわかりやすいカテゴリに替えようかと思っている。

この日は珍しくもセリカSSを3台も見てしまった。
2台はいつもの赤い車。あと1台は初めて見る真っ白な車体。
やはりすぐ目に付くものの、ジョーが乗る車にしてはおとなしいかも。
しかし3台ともどうして淳くらいの(か、少し上)の女性が乗っているんだ??
2010.12.16 14:58 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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