コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

Wanted dead or alive 7

六本木  翌日は明日の出動に備え神宮寺もジョーも早めにJBに入った。
 北海道は知床の地図を広げ頭に叩き込む。国立公園でもあり世界遺産でもある地域だ。
 今回のこの仕事は公安3課から持ち込まれた。
 先日、ミハイル・ハインツと名乗るドイツ人の科学者が警察庁に突然連絡を入れてきた。と、言っても電話ではなく、警察庁が使っている無線に割り込んできたのだ。
 通信時間は1分、内容は自分はドイツでテロ組織に拉致された科学者で、?シレトコ?という所にあるアジトに連れてこられ爆発物を作らされている。近々他の国へ移動するらしい。その前に助けてほしい─。
 そして最後に、この組織はザーツというテロ組織の末端だと告げてきた。
 国際テロ組織ザーツとはJBだけではなく各国の国際警察や一般警察が関わってきた。そこでこの一件を警察庁は公安3課に回し、赤井公安部長がJBに持って来たのだ。
 赤井と森はまずこの証言の信憑性のついて話し合った。が、情報があまりにも少なすぎる。クルクルと変わる警察庁の無線波長に入り込んで来るくらいだから、ただのいたずらとは思えない。その上、1つ気になる事がある。
 この証言が届く2日前、知床半島近くの斜里町という小さな町で原因不明の爆発事故が立て続けに2件起こっているのだ。これがハインツの言っていた組織が起こしたものかどうかはわからないが、このまま何もしないでいるわけにもいかない。そこでダブルJに出動の命が下ったのだ。
「知床と言っても広いぜ。車の入れる所も限られているし」大型スクリーンに地図を映したままジョーがウッズマンの22ロングライフル弾を揃えている。「おまけにどこにいるかわからないんだろ?そんな奴をどうやって見つけろって言うんだ」
「現地でキャンピング・カーを用意してくれている。それには警察庁と同じ無線機がセットされている。うまくすればまた相手からの無線をキャッチできるかもしれない」
「気の長い話だ」
 ジョーが悪舌をつき、それでもモクモクと準備を続ける。本当ならこの時間彼はサーキットにいてブルーコンドルを走らせていたはずだ。そして明日の大会目指して闘志を燃やしていただろう。
 だが今回の任務のためジョーはレースに出られなくなった。それは今回が初めてではないし覚悟はしていた。
 沢口に連絡を入れると、そうか、と一言だけ言った。スタッフにも迷惑を掛けている。あんなに喜びはりきっていた彼らの想いを潰してしまった。
 そして何よりもジョー自身の熱い想いが壊れた。何かしていなくてはとても自分を保つ事はできない。と、携帯電話の着信音が響いた。ジョーがイスの背に放ってあったジャケットから携帯を取り出す。トーニからだ。あの夜以来、何かあった時のためにジョーはトーニに自分のプライベートの携帯の番号を教えていた。
 彼は至急話したい事があるのでホテルまで来てほしい、と言う。
「だけど─」
 ジョーは躊躇った。が
「行ってこい。今、会わなかったら当分会えないぜ。ただし2時間で帰ってこい」
「─わかった」
 ジョーはトーニに今からそちらに向かうと告げ電話を切った。

 六本木まで目立たない車で行く事も考えたが、もし本当にジョーを張っている奴がいるのならそんな小細工をしても仕方がない。それにコソコソするのもいやなので堂々と赤いセリカで乗りつけてやった。
 トーニに言われたとおり9階でエレベータを降り901をノックする。
「待っていたよ、ジョー」
 トーニが迎えてくれた。
 中に入ると角部屋に当たるそこは大きなガラス窓とゆったりしたライティングデスク、そして3人掛けのソファが置かれた部屋だった。そのソファのそばにマルティーノがいた。
「プライベートとは別の、仕事用の部屋さ」
「どうぞ、ジョー」マルティーノがソファを勧め、用意してあったコーヒーをカップに注いだ。「傷の具合はどうですか?あ、これが本題ではありませんが」
「医師に手当てをしてもらったから大丈夫だ」口元に笑みを刷きジョーが答えた。「時間があまり取れない。話というのはなんだ?」
「あなた方が襲われた夜、私はシニョーレの指示でイタリアに電話を入れました」
「シニョーレの?彼はあの夜の事を知っているのか?」
「はい、私が報告しました」マルティーノはチラリとジョーを窺ったが彼が何も言わないので話を続けた。「グランディーテくらい大きな企業になると独自の調査機関がありまして、私はそこにジェルマーノ・ファミリーの動向を調べるよう命じました」
「!」
 ジョーの体がビクンと跳ねた。目つきがきつくなっていくのがわかる。その眼をマルティーノに向けた。
 ジョーの眼に捕まったマルティーノは息を詰め口を閉じた。
「つまりシニョーレは、おれ達を襲ったのはジェルマーノ・ファミリーだと思っているという事か」
「実際にファミリーの何人かが日本に向かったらしい」今度はトーニが言った。「おれ達は日本の企業と手を結ぶためにここへ来た。それを君に会うためだと、君をグランディーテに引き戻すためだと思ったのかもしれない。だから」
「いっその事、始末しちまおうと─」ジョーが呟き、突然笑い出した。「なんだ、そうか。ファミリーがおれを狙っているのか。諦めの悪い奴らだなあ」
「ジョー・・」声を上げて笑うジョーにトーニもマルティーノもアッケにとられた。「笑い事じゃない。危険だ。警察に届けるかボディガードをつけるかした方がいい」
「このおれに?」フンと鼻で笑ってやる。「おれを守れる奴なんて日本にはいないさ」
 いや、1人だけいる。だがそいつとは明日からしばらく行動を共にする。だから大丈夫だ。
「この前のレースの妨害だって奴らの仕業かもしれない。明日からのレースだって─」
「明日から仕事で東京を離れる。レースはキャンセルした」
「キャンセルって・・」
 トーニは、今まで不敵な笑みを見せていたジョーがちょっと哀しそうに微笑むのを茫然と見ていた。
 仕事は大事だがジョーの心内を思うとやり切れなかった。それはマルティーノにもわかったのだろう。突然
「ジョー、イタリアへ来てください。イタリアでなら好きなレースにいつでも出られます。シニョーレはあなたを中心にレーシング・チームを作ります。だから─」
「それ以上言うな、マルティーノ」ジョーの低い声がマルティーノを止めた。「殴りたくなる」
「ジョー、仕事ってどこへ行くんだ?万一奴らがそれを知ったら」
「それは言えないよ、トーニ。大丈夫、相手がわかっていれば対処できる」再び笑みを刷きトーニを見た。「おれはそういう奴らを扱っているんだぜ」
「ごめんよ、ジョー。ファミリーの事では色々と君に負担をかけているようだね。ミスター・セキに聞いた。彼は君の事をとても想っている。いい友人だよ」
「関が?奴はなんて言ったんだ?」
「・・君の周りの大きなものが、君の?枷?になっている・・・と」
「・・・・・」
 関はトーニに、ジョーの置かれた立場を伝えたかったのか。しかし部外者に、いや、それどころかその?大きなもの?の近くにいるトーニに公安に関する話などできるはずがない.
 トーニに言った事・・それが関の精一杯の言葉だ。
「余計な事を・・・」一瞬目を伏せ、しかし顔を上げたジョーの目は穏やかな一点の曇りもない空のようにはっきりしていた。「もう行くよ。これからは連絡が取れなくなる。元気で」
「じい様に会っていかないか」
 トーニの言葉に、しかしジョーは首を振った。そして何か言いたげのトーニを振り切り踵を返した。なんの迷いもなく確かな歩を進める。
「ジョー、気をつけて─。La grazia di risparmio di Dio(神のご加護を)」
「Grazie」足を止め、わずかに顔をトーニとマルティーノに向けて「Come per te il successo della felicità ed il lavoro(あんた達も、幸せ仕事の成功を)」
「Lei、 Italiamo・・(君、イタリア語を・・)」
 驚くトーニに薄っすらとした笑みを返しジョーは出て行った。
 残されたトーニとマルティーノはしばらくの間無言でその場に立ちすくんでいた。

 ロビーホールの片隅にロレンツォは立っていた。反対側にあるエレベータが到着するたびに目をそちらに向ける。
 やがて上階から着いたエレベータから1人の男が降りてきた。
 枯葉色の髪を靡かせ、心持ちアゴを上げ真っ直ぐな目を向けて歩くその男をロレンツォが見つめる。
 男─ジョーは彼とは反対側の出口に向かっている。
 もちろんロレンツォはこれからジョーが何をするのかは知らない。だがジャケットの裾を翻すように颯爽と歩くその姿に彼の決意と力強さを感じた。
 あれは間違いなくカテリーナの息子で自分の孫・・・そう、あの?男?の子でもある。─と、その視線を感じたのかジョーが足を止めた。
 背中に感じる懐かしい想い。幼い頃には溢れるほど体中に浴びていたその暖かい想いをしばし体に受け、だがジョーはそのまま歩き出した。一度も振り返らず、やがて閉まるドアの向こうに消えた。
 その後ろ姿がまだそこにあるようにロレンツォが見つめていた。
 

         6 へ      ⇔     8 へ
 
スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/177-9b5e3c88