コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

Wanted dead or alive 8

03_01_2.jpg  翌朝2人は羽田空港から根室中標津空港行きの飛行機に一般客と交じり搭乗していた。日曜日のせいか機内は満席だ。
 2人は北海道に遊びに行く大学生風の明るい色のジャケットにパンツといった軽い服装で窓側の2人席に並んで座っている。
 飛び上がって少し経った時、ジョーが窓から眼下を見下ろした。が、厚い雲に覆われて下界は見えない。もっとも見えても筑波サーキットが見えるわけはないのだが。
「空じゃなくて地上を走りたかったな・・・」
 ポツリとジョーが呟いた。
「おれもお前がトップでチェッカーフラッグを受けるのをもう一度見たかったぜ」
「そんなもの、これから何回でも見せてやるよ」
 ガラにもない事を呟いたのをちょっと後悔したようにジョーはサービスのコーヒーについてきたピーナッツを口に放り込んだ。カリッといい音がした。
 昨日トーニの所から戻ったジョーは彼の話の内容を神宮寺に告げた。そして自分は付け狙われているかもしれない。今回の仕事の相手と、もう1つやっかいな奴らを抱えてしまうかもしれない。それが仕事にどう影響するかわからない、と懸念した。
 ジョーの話を聞き、“そうか”と、一瞬彼を気遣う表情をした神宮寺だったが、“ま、相手がわかっていればやり様があるさ。この際1つや2つも大して変わらない”と笑って言った。
 大してどころか大いに変わる。相手がわかっていると言っても憶測にすぎない。本来の仕事の対象者に至ってはどこにいるのかわからないのだ。
 だがいつもは慎重な神宮寺の、大らかというか─そんな貌を見るのがジョーは好きだ。無条件にこいつは信頼できると思う。

 空港に降り立った2人は先行し車両などの準備をしていた立花と高浜と合流した。
 目の前にはランドクルーザー・プラドTZと、後ろに牽引されているトラベルトレーラーがあった。就寝定員5人の中型だ。中にはキッチンはもちろんシャワーもついている。
「急だったから運転席と一体になったフルコンやキャブコンは調達できなかった」
「かまわねーよ。1回こういうの運転したかったんだ」目を輝かせジョーが言う。「レースの時のトレーラーハウスは大型だから、牽引免許がないと運転できないんだ」
「だけど男2人っていうのが悲しいね。こーいう時は隣に美人がほしい」
「そーか?おれはお前でいいぜ、神宮寺。女に気を遣って運転するなんて真っ平さ」
 と言うが、相手が男だろうが女だろうが好きな車を目の前にしてジョーが相手に気を遣うなんて事ができるとは思えない。きっといつもの?ゴーイン(強引)・マイウェイ?だ。
「で、なんだよ、この荷物は。やたらと食い物ばっかりじゃないか」
「だって途中で腹減ったら困るだろ」案の定、高浜が揃えたらしい。「秘境知床に入るんだ。大型スーパーなんてないぜ。何日かかるかわからないし帰りは3人になるんだろ?」
「国道があるんだからスーパーくらいあるさ。いざとなったらキャンプ場も山小屋もあるし─。は?いちごキャンディ?高浜に頼んだのが間違いだったな」
「ブドウの方がよかったか?」真剣に訊き、「いらないなら置いていけ。おれが引き受ける」
 堂々と言い放つ高浜にみんな呆れて笑ってしまった。
「無線機はプラドの後ろに積んである」
 立花がハッチバックを開けた。このタイプは3列8人乗りだがシートがセットされているのは前の2列だけで、3列目のシートはそれぞれ左右に畳まれ広い空間ができている。そこに無線機や爆薬などが置かれている。
「おれ達はここで待機しているから何かあったらすぐ連絡してくれ」
「ああ、ありがとう立花」
「ま、ゆっくり温泉にでも入っててくれ。出動はねえよ」
「ジョー、ホントに食糧それだけでいいのか?」
「なるべく車を軽くしたいんだ。どうしてもだめだったら鹿でも熊でも捕るさ」
「国立公園だぜ、ジョー」神宮寺が苦笑した。「狩りはまずいだろう」
「フン、その国立公園にテロリストのアジトを作られ気がつかねえって方がまずいと思うがね」
 そう言ってプラドのドライバーシートに体を滑り込ませた。
 それもそうだな、と神宮寺も乗り込もうとして─動きを止めた。顔だけ振り返る。目は立花達の遥か後方に向けられた。
「どうしたんだ?」
 硬い声でジョーが訊いた。そしてドアを開けようとしたが
「出るな」小さいが鋭い声がジョーの動きを止めた。そしてそばにいる立花に何か耳打ちすると自分もプラドに乗り込んだ。「行こう」
「・・・・・」
 ジョーが頷きエンジンを掛けた。牽引物があるせいで動き出しが重い。だが結城自動車工業の敷地で大型トラベルトレーラーを引っ張った時よりは軽く感じた。3955CC、V6エンジンのプラドの力強さが運転をラクにしてくれる。が、
「・・・奴らかな」
「どうだろ。それにしては動きが早すぎると思うが・・。この車が珍しくて見ていただけかもしれないし」そんな事で神宮寺が反応するとも思えないが。「もしそうならご招待して車内を見せてやってもいいけどな。そのまま出られなくなるかもしれないけど」
「そーだな」
 ジョーが口元を歪めた。
 まったく頼りになる男だぜ神宮寺。お前が笑ってくれればおれは安心する─。
 慣れないオートマに眉をしかめながら、それでも機嫌の良いジョーの運転する車は空港から国道272号に入った。
 とたんに目の前に真っ直ぐに続く道が現れた。通称ミルクロードと呼ばれる道で、見渡す限りの牧場地帯にまるで空まで続いているかのような道が前方に伸びている。
 ジョーは思わずアクセルを踏み込みたくなった。が、?後ろ?がいる事に気づき彼の想いの三分の一くらいのスピードアップで我慢した。
 やがて車は国道335号に出て北上する。この40キロ程先に羅臼の町がある。
 知床半島の見所はこの羅臼と後の多くは半島の反対─西側にある。とりあえず羅臼の町を目指す事にした。
「無線機の受信スイッチを入れておこう」神宮寺が後席に移動した。畳んであるシートを1つセットし、そこに腰かけながら無線機をいじっている。「警察庁の無線機に割り込んできたのが4日前。それからは一度も連絡はないそうだ。もしかしたらもう連絡できない状態にあるのかもしれないな」
「相手がどこから連絡してきたのかわからねえのかな」
「無理だ。1分もなかったんだぞ。記録を取るだけで精一杯だったろう」
「使えねーな」
 ふと右を見ると民家の向こう側に海が見えた。半島の西のオホーツク海は夏でも冷たい青い色をしている。こちらの太平洋側はなんとなく暖かそうだ。
「ここまで来ると太平洋も綺麗だな。タオルミーナの海には負けるけど・・・。そういえばおれがタオルミーナに行っている間、お前と鷲尾さんは何をしていたんだ?」
「パレルモに出られる時間はあったけど、鷲尾さんが船に残るって言うからおれも残っていた」ピッとスイッチの音がした。「だが出航時間が近づくにつれウロウロし始めて。もしお前が戻ってこなかったら鷲尾さん海に飛び込んででもシチリアに残ったぜ」
「・・・・・」
 そうかもしれない。だが自分は日本に戻ってきてしまった。鷲尾はわかってくれていると思うがやはりちょっと気が咎める。
 それに・・・シチリアの、あのタオルミーナの海─。
 あそこに暮らした事などないのになぜこんなにも心に残っているのか。この想いはジョーのものか、それとも帰る事のできない故郷を想うカテリーナのものなのか。
「なあ、神宮寺」ジョーは隣に戻ってきた相棒に言った。「もしも・・・もしもおれに─」
「おい、ジョー」
「いいから聞けよ」ジョーは相棒に柔らかい視線を向け、が、すぐに前を向いた。「もしもおれに万一の事があったら・・・青山のオヤジやオフクロの所と・・・シチリアの、あのタオルミーナの碧い海におれを・・・」
「いやだね。おれが先かもしれないし─。自分で行って、やってくれ」
「どーやってだよっ!」
「おれはしたくない事は聞かないし、約束しないんだ」
「勝手な奴だ」
「どっちがだっ!」
 神宮寺が言い放ち、この後なんとなく2人共黙ってしまった。が、おそらく考えている事は同じだろう。
 もしジョーの言うような事態に陥ったとしたらそれは2人同時に、だろうと─。
 
 この日は羅臼の町を突っ切りそのまま海岸線を北上し道道87号の終点、相泊という小さな温泉場まで行き、その後ゆっくりと羅臼近くまで引き返してきた。
 その間無線機にはなんの連絡も入らず、道警やJBからの情報にも目ぼしいものはなかった。 
  結局2人は羅臼の町で夕食を摂り─観光地とはいえあまりいない風貌の2人は完全に目立っていたが─小さな食料品店でコーラやサイダーを買った。
 本当はカニやウニで一杯といきたいところだが、一応仕事中なので我慢した。そして彼らは町から離れた山地の、少し開いた広場にトラベルトレーラーを乗り入れた。
 キャンプ場も宿泊施設もいくつかあったが、万一の事を考えるとあまり一般人と一緒ではない方がいいだろうと思った。
 2人はそう広くはないが機能的なトレーラーハウスの中のダイニングテーブルで、東京では珍しくなった瓶のコーラやサイダーを開けていた。もちろん無線機はこちらに移動させオンの状態だ。連絡が入ったらすぐに出発しなければならない。
「いい月だな」小さな窓から天空を見上げ神宮寺が言った。空には周囲をぼおっとぼやかしている月が見える。「ロマンチックな夜ってわけだ。相手が相手なら・・」
「恋人同士なら熱く燃え上がる夜、って事だな」
「お前が言うと悪寒が走る」
 悪かったな!と、もう1本サイダーを取ろうと立ち上がったジョーが動きを止めた。神宮寺が振り向いた。2人の視線が一点に─窓に集中する。その狭い空間を動くものがあった。
 ジョーが素早く移動してロッカーの中の銃を取り、オートマグを神宮寺に放った。そして室内の電気を消した。
 神宮寺は一瞬ブラインドを下ろそうかと迷ったが結局やめた。ここを塞いでしまったら外の様子がわからなくなる。日にちがあれば車外モニタを付けられたのだが─。多少の危険は仕方がない。
 山の中なので照明などはなく、ぼおっとした月明かりだけが頼りだった。その中に3つの影が浮かび上がった。明らかな殺意を向けてくる。
「どっちだろう・・。おれの客か、それとも・・」
 ジョーが呟いた。
 ジョーを追ってきたファミリーの手の者か、それともハインツとやらがとった行動がばれ、どうかして知った2人の救出者の抹殺を目論む者か─。どちらにしろ味方ではない事は確かだ。
「だがファミリーにしろハインツの方にしろ動きが早すぎる。まるで前もってわかっていたような─」
 神宮寺の言葉が銃声で消された。窓はすぐに風通しがよくなり車体にもバンバンと当たっているのがわかる。
 このトレーラーは急遽レンタルされたものなので窓も壁も防弾ではない。ただ壁の内側の窓以外の所には薄い鉄板が取り付けられ強化されている。しかしそれもいつまで持つかわからない。
 そのうち爆発物が投げられたのかトレーラーの周りに火の手が上がった。が、さっき降った雨のおかげで地面や木々が濡れているせいか燃え方は悪い。が、窓のそばにも飛んでくるようになったのでブラインドを下ろした。
「チッ!おれ達は燃えたくねーのによっ」ジョーはブラインドの間にバレルを入れ応戦するが相手に当てる事は難しい。「くそォ、爆薬はプラドに積んだままだし─わっ!」
 一発の弾が壁を貫通し、ジョーはあわてて頭を下げた。マシンガンでなくてよかったと思う。
「コーラだ、ジョー。コーラとサイダーの瓶をカラにしろ!」
 神宮寺が叫び自分はトレーラーの後部に走り込んだ。灯油缶を持ってくる。
「なるほどね」
 ニヤッと口元を歪めたジョーが、次々とコーラやサイダーの中味を床に開け神宮寺に渡していく。彼はその瓶の中に灯油を入れ、破いたシーツでフタをした。
「威力は小さいが燃えてくれれば」
 だがあの小さな窓から相手に向かって投げつけるのは指南の業だ。そのうち車内のあちこちを弾が通って行くようになった。
「ルーフを上げてくれ!」
 ライターと即席の火炎瓶を1本手にしたジョーが叫んだ。神宮寺がホップアップルーフの上昇スイッチを入れた。天井の一部がゆっくり上がっていく。が、その隙間は人が1人出られるかどうかだ。ジョーがテーブルを足掛かりにルーフに取りついた。
「ジョー、おれが出る!」
 ジョーの意図を悟った神宮寺が叫んだ。確かに彼の方がジョーより細身だ。だが胸が閊えたもののジョーはなんとか車外へと這い出す事ができた。
 月明かりの中、トレーラーの上に立つジョーに気づいたのだろう。弾丸が集中する。
「ゴールキックは得意だったんだ!」
 ジョーはシーツに火を点けた火炎瓶を思いっきり蹴り飛ばした。
 彼は中学生の頃サッカー部でゴールキーパーをしていた。他の子ども達より大きな体が蹴り出すボールは相手の脅威になった。
 ジョーは火の点いた火炎瓶を神宮寺から受け取ると、次々と蹴り出していく。
 普通ボールを遠くへ飛ばすためにはインサイドキックを使うが、これだと瓶の横を蹴る確率が高くヘタすると蹴ったとたんに割れてしまう。それを防ぐためにジョーは瓶の底をトーキックで強引に、力任せに蹴り飛ばしているのだ。
「くっ!」
 ジョーの左肩と右足から血が吹き出しそのままルーフの横に倒れた。が、飛んで行った7、8本の火炎瓶は男達の頭上や体に当たって割れ、髪や服を燃やした。あわてて逃げて行くのがわかった。
「大丈夫か、ジョー!」
 ルーフから神宮寺が身を乗り出した。
「掠っただけだから大丈夫だ」神宮寺に続きジョーがルーフから車内に戻る。床に足を着いたとたん座り込んだ。「だけど、指が痛ェ」
「え?」見るとジョーの右足の指は爪が割れ出血していた。「そうか、素足だったな」
「蹴ったとたん思い出した」
 ジョーが顔をしかめる。弾傷よりこっちの方が痛い。これはもうインサイドだのトーだのの話ではない。真っ直ぐ飛んだのさえ奇跡かまぐれだ。
「無事かな、救急箱・・・」
 神宮寺がコーラやサイダーが流れる床を奥に進み探し出してきた。なるべく濡れていない所にジョーを座らせ箱を開け消毒薬を取り出すと
「いいっ、自分でやるっ」とひったくられた。「その方が滲みないような気がする」
 そうかな?、と思ったがそっちはジョーに任せて神宮寺は後始末とJBに連絡を取った。
 北海道に渡ったその日のうちの襲撃に森は驚いていた。神宮寺と同じ疑問を持ったようだ。
(もしかしたら・・・)
 神宮寺がチラッとジョーに目を向けた。彼はさっきより難しい顔をしていた。やはり誰がやっても滲みるもんは滲みるのだ。神宮寺は肩をすくめて
「ジョー、ちょっと奴らのいた所を見てくる。何か手掛かりがあるかもしれない」
「1人じゃ危ないぜ。おれも行くからちょっと待て」今度はバンソウコウ相手に格闘し始めた。その間に神宮寺がトレーラーから出て行く。「あ、こら、待てって!」
「お前は中にいろ。もし奴らが来たらまた瓶を蹴ってくれ」
 痛えよ!、とわめくジョーの声を背中に神宮寺はさっき奴らが立っていた場所へと向かう。
 彼はジョーの顔の見えない所で考え事をしたかったのだ。


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Comment

淳 says... "覚書き"
例のあのタオルミーナの海の台詞。
考えていたのとはまったく別のシーンで、それも突然使ってしまった。
ま、これはこれでいいかな、と思うが。

憧れのトレーラーハウスを出したが、もう少し格好良いトレーラーアクション(って、どーいうのだ?)が書きたかったな。
いつか彼らに長旅をさせたい。
もちろんトレーラーハウスで!

ちなみに知床は自然がたっぷりの地だが、整備された道路が多い。街もあり半島の先っぽ以外はスーパーがない、なんて事は決してない。
昔、有名な岬の歌で「なにもない─」と歌ったら地元の方に怒られたそうだ。
2010.12.21 12:08 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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