コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

封印されし記憶 7

  「うむ、手のキズもだいぶよくなったね」 
  言いながら榊原が包帯を巻き直してくれる。グルグル巻きから、手の甲を覆うだけになった。
  「左肩はもう少しかかるかな。痛みは?」ジョーが小さく首を振る「そうか─。ところでジョー」
 ガーゼやピンセットを終いながら訊いた。
  「君はクロードの家を知っているかね」
  「え?」思わず榊原をみる「どうして・・」
  「行方がわからないそうだ。潜伏先も─。で、君が知っていないかと」
  「いえ・・」ジョーが俯き目を瞑る「知りません。おれは外で会っていたし」
  「そうか・・」榊原がため息をつく「私にはあのクロードが国際手配を受けるような事をするとは、とても信じられないのだが・・」 
  「ドクタはクロードを知ってるんですか」
  「4、5年ほどJBで一緒だったよ。外国人のくせに日本が大好きで日本語もすぐ覚えた。そのくせ私の名前は言いづらいのか“サケーハラ”と言っていたが」ふと遠い目をした「陽気で気さくで、なぜか子ども好きで」
  「今もそんな感じですよ。子ども好きが女好きになってるけど」
  「そうかね」目を細め笑う。それから長く息をつき、ジョーを見つめた「ジョー、もしクロードの居場所がわかるのなら私に教えてほしい」
  「え・・・」
  「私は彼に会って、どうしても訊きたい事があるんだ」
  「訊きたい事?」ジョーの目が問う。
 しかし榊原は視線を外し考え込んでいる。
 ジョーは待った。と、榊原はジョーの左手を取り脈拍を診た。小さく息をつく。 
  「ジョー、実は私達は君に話していない事があるんだ」
  「え」
  これ以上、まだ何かあるのか・・・。ジョーは体を固くする。
  「と、言っても隠していたわけではない。事実確認ができていないので話さなかっただけだが」榊原は椅子に深く座り直した「あの事件を調べているうちに、クロードに対して1つの疑惑が持ち上がった─セキュリティの事だ」
  「セキュリティ?」
  「阿佐谷のアサクラ邸は、当時の最高水準のセキュリティシステムで守られていた。しかし犯人の男はそれを突破した」ジョーが榊原を凝視する「もちろん訪問の約束があり、アサクラさんが招き入れたのかもしれない。しかし翌日の現場検証やJBのセキュリティシステムのデータから、あの夜アサクラ邸のセキュリティの1部に不備があった事が判明した」
  「あ・・・」
 ジョーは思い出した。報告書に書かれていた“セキュリティの1部に不備あり”という言葉を。あの時は時間がなかったので深くは考えなかったが。
  「当時クロードは、セキュリティシステムの担当者としてよくアサクラ邸を訪問していた。さらに悪い事に、事件後管理課からセキュリティに関するフロッピーが1枚紛失している事がわかって─」 
  「ド、ドクタ」ジョーが遮る「まさかクロードがそれをカルディに渡した、と」
  「管理課と捜査課・・私もだが・・色々調べたよ。クロードにも話を訊いた。もちろん彼は否定した。JBのメンバーは彼がアサクラさんをとても慕っている事を知っていたから、まさか、という思いだった。そしてそれ以上に、クロードがフロッピーを持ち出しカルディと会って渡したという証拠も掴めなかった」
  「・・クロードが・・・そんな事をするわけがない・・」苦しそうにジョーが言う「もし、そうだとしたら・・今さらおれに声を掛けるなんて事をするはずは・・」
  「私もそう思うよ」榊原が再びジョーの左手を取る「しかし・・疑われた事が原因だったのか、それから1年後に彼はJBをやめた。セキュリティに関する捜査はそこで終わってしまったんだ。だから私はもう1度彼自身に訊きたい」
  「・・・・・」
 ジョーの脳裏に、わずか半年だが両親と暮らした家が浮かぶ。
 豪邸の多いこの地区で、小さな平屋のアサクラ邸は庭の木々にその身を隠すようにひっそりと建っていた。
 絶対に触ってはいけないと言われていた機械が家の内外にあった。
 いつだったか、庭でクロードとキャッチボールをしていた時、ジョーの投げたボールをクロードがミットで弾いてしまい、さらに庭の大木に当たりとんでもない方向に飛んでいってしまった事があった。
 警報が鳴り響き、クロードがあわてて家に飛び込んだ。夜勤明けで帰宅したばかりだったアサクラも一緒に、家の内外の機械の間を飛びまわっていた─。
 騒ぎが収まるとクロードは、父に叱られているジョーを庇い一緒に叱られてくれた。
 確かにクロードなら、あの家のセキュリティをどうにかする事ができるだろう。フロッピーを誰かに渡すより、彼自身の方がより正確に完璧に・・・。
  「だ、だけど・・・まさか・・」ギラッと赤い光が見えた。ジョーは息を呑む。暗い?・・庭?・・・あれは、ダレ・・・?「・・・うっ」
  「ジョー」倒れ込もうとするジョーの体に手をまわし榊原が彼をベッドに横たわらせた「大丈夫か、ジョー。すまなかった」
 医者としては不用意な言動を詫びた。
 しかしジョーは目を固く閉じ唇を噛みしめたまま何も言わなかった。


  「なに!?車を盗まれた!?」眉村の声が響く「いったいなんの冗談だねっ」
  『い、いえ、ジョーダンではなくて』電話の向こうでは、若い伊藤や中根の2人が眉村の剣幕にしどろもどろしている『その・・ジョーに乗って行かれたようで・・』
  「ジョー?」眉村が受話器を見つめる。
 他の捜査課のメンバーはそんな眉村をみつめたまま動かない。と、
  「眉村君」課長室のドアが開き山田が呼んだ「来てくれ」
 眉村は受話器を戻すと課長室に入る。パソコンのモニタには森と榊原、そして神宮寺が映っていた。
  『捜査課の車がジョーに乗っ取られたようだ』森の言葉に山田と眉村が顔を見合わせる『西崎君の見舞いのために、病院に止めてあったそうだな』
  『・・・私の責任です』榊原が言う『私が不用意にも言った言葉が・・・』
  『ドクターの責任じゃない』神宮寺だ『あいつ、やっぱりネコかぶってたんだ』
 コンビとは思えない・・・いやコンビだからこそ言えるのかもしれないが、彼にしてはきつい言い方をする。
 『計画的犯行というやつですよ』
 確かにそうかもしれない。 
  今回ジョーが入院していた部屋は前庭に面しているいつもの302号室ではなく、廊下を挟んだ反対側の301号室だった。302には西崎が入っていた。 
   301は裏の駐車場に面している。ジョーはよく裏庭を見ていた。きっとJBの車が度々訪れるのを知っていたのだろう。自分の所には誰も来ないから、おそらく西崎の所か、JBの医療部長でもある榊原の所にか・・・。
  ジョーはチャンスを待った。服は、着ていたシャツがロッカーにある。かなりよれているがこの際仕方がない。アテンザや服をJBに取りに行くのはむずかしいからだ。
  外来時間になると捜査課の車─ソアラが入ってきた。
  榊原は今日はJBに行くと言っていた。チャンスだ。ジョーは素早く裏庭に出る。
  この日のためにおとなしく体を休め、体力をつけておいたのだ。
  狙撃部などの特殊車両と違い、何台かあるJBの車両は市販車と変わりがない。不特定多数の人間が使う車両に、個人レベルのセキュリティは不可能だ。JBと直結しているPCナビだけはパスワードがいるが、あとは市販車と同じである。
  ジョーが針金1本でドアを開け、配線を直結させてエンジンを掛けるのにそう時間は掛からない。
   『通信機もソアラのトレーサーも切られている。Nシステムにも引っかかっていない』
   『追われ慣れているからよく知ってるぜ』珍しく神宮寺が毒づく。
  彼は怒っていた。わかっていたのにまんまと出し抜かれた自分に。1人で行ってしまったジョーに。
   「ジョーはやはり、クロードの家を」山田が言う。榊原がため息をついた。
   『ICPOからも捜査協力の依頼が来ている。クロードの居場所を捜す事を優先しよう。そこに必ずジョーもいる』
   森の指令が下った。 


  「君は会うたびにケガが増えているね」
 ドアが開きジョーの姿を見るとクロードが言った。爆風によるキズは小さいが、結構受けたらしく顔や体にバンソウコウが目立つ。
  「今度会う時には、ミイラ男になっていそうだ」
  「い、いたのか・・」驚いたようにジョーは呟く。
  「ヘンな事を言うね。いると思ったから来たんだろ?」クロードはジョーを部屋に入れてくれた「それとも・・・もう逃げ出したと思ってたのか?」
  「ク、クロード、おれはここの事は─!」
  「すまない、冗談だ」クロードは口元を歪めるとジョーに微笑んでみせた「ええと・・・君にはジンは強いかな・・」
  「クロード、おれは訊きたい事があって来たんだ」
  「・・私には、もう君に教える事はないよ」 
  「武器の・・密輸の仕事をしてるって本当か」
  「─」ジンを持ったクロードの動きが止まる「なぜ・・・」
  「鷲尾さんから聞いた」
  「・・・そうか」クロードはちょっと困ったように笑った「パリ本部の長官の情報なら・・本当だろうさ」
  「あんたがおれに教えてくれた事は本当だった。報告書も検視書も見た。あんたの言う通りだった。おれは・・あんたを信用できると思った・・」
  「今はもう、信用できないと?」
  「わ、わからない」ジョーは目を瞑り、首を小刻みに振る「わからないけど国際指名手配を受けている以上、放っておく事も─」顔を上げクロードを見る。目の前に銃口が見えた「─」
  「私も君を放っておく事ができなくなった」顔を歪ませ、クロードはジョーを見る。サイレンサー付きの銃口をジョーの額に押し当てた。
  「クロード・・・」
  「ワシオも余計な事を言う。君とはいい関係でいたかったよ、ジョージ」
 トリガーに指が掛かる。ジョーが息を呑む。こんな場面は慣れているはずなのに、なぜか体が動かない。クロードを凝視する事しかできない。
 サイレンサー特有のくぐもった銃声が小さく響いた。


 東京に残っている捜査課の第1部隊から第3部隊の動きは速やかだった。
 彼らはまず、神宮寺が以前ジョーから聞いていた池袋のクラブと大泉のクレー射撃場を調べた。店自体はクロードとは何も関係はないようだ。彼はいつも現金払いだったのでクレジットの記録も残っていない。
 ただ1つ気になるのは、クラブのホステスが1人とクレー仲間のニコスという男が、ここ2、3日ほどパッタリと来なくなった事だ。だがそれは単なる偶然なのか、それとも彼らはクロードの仕事仲間で、国際手配を察して姿を消したのかはわからない。
  (他に手がかりはないだろうか)
 捜査は眉村達に任せ、神宮寺は1人ダブルJ専用室でジョーとの会話を思い出していた。クロードの顔を直接見たのも、ジョーから経過を聞いていたのも神宮寺だけだ。
  (そうだ、アテンザ!)
 彼は事故処理班に頼み、一緒に地下駐車場まで下りた。
  「ドアのカギを開けてカーナビを使えるようにしてくれ」
 神宮寺の言葉に事故処理班の石川達が動く。
 アテンザはJBの車ではなく、立花個人の物だがこの際仕方がない。せめて専門の石川達に任せた方がダメージは少ないだろう。
 彼らは5分と掛からずドアを開けカーナビを点けた。神宮寺がログを見る。保谷の、あの病院跡の前に石神井の住所があった。
  「ここだ」
 神宮寺は通信機で森を呼び出した。


  「こいつが国際警察の長官の息子か」ドイツ語だ「いい奴が手に入ったなあ、クロード。こいつを人質にして─」
  「無駄だ。彼は人質にはならない。役には立たないよ」
  「長官の息子を抑えているだけでも有利だぜ」別の男が笑った。
 クロードはもう何も言わず、大きなシートで後部座席を覆った。


 神宮寺と捜査課の6人は、あれから1時間後には石神井のマンションに到着していた。
 建物の横にソアラが停めてある。ここに間違いないようだ。
 マンションの入り口はオートロックではなく各ドアも普通のキーだった。すぐに開いた。しかし室内には誰もいなかった。だが少し前まで人がいたような空気がある。
  「神宮寺君、あれを」眉村が指さす「血だ・・」
 確かにその赤いシミは血のようだ。ジュータンとソファの1部に飛び散っている。量としてはわずかなものだ。
  「このTシャツはジョーのだ」
 そのソファの上に、クシャクシャになったシャツが丸めてあった。そこにも少しだが血が付いている。
  「やはりジョーはここに来たんだ」
  「この部屋にはもう戻ってこないかもしれないな。なんとか手がかりを探さないと」
  「眉村さん」中根だ「地図です。いくつかの地区にマルが付いています」
 中根が手渡したのは、東京の詳しい区分地図だった。


 ガシャン!という響きに急速に意識を持ち上げられた。ジョーはゆっくりと目を開ける。視界がぼやける。焦点が合わない。頭が痛い。
  「うう・・」ジョーは目をギュッと瞑り再び開けた。目の前にクロードの顔が現れた。驚いて体を起こす「あっ、つっ!」
 左手が何かに引っ張られ、ジョーは今まで寝ていたベッドに仰向けに倒れた。手首が火のついたように痛む。見ると彼の左手はベッドの鉄のヘッドに手錠で繋がれていた。
  「おとなしくしていたまえ」クロードが言う「暴れても自分が痛いだけだよ」
  「なぜ・・」ジョーがクロードを睨めつける「なぜ、おれを殺さなかったんだ・・」
  「ん?」クロードが困ったように眉をひそめた「もう少し、バンソウコウを増やしたらどうなるかな?って」
 自分の頬を指さす。つられてジョーも自由な右手で自分の頬に触った。特大のバンソウコウが貼られていた。
  「このー!ふざけるな!」
 勢いよく体を跳ね起こし、また引き戻された。手首が金属とこすれる痛みに声が漏れた。 
  「無茶をするな。あまりケガをされても困るんだ」
  「・・なに?」
  「君は大事な人質だからね。ワシオに要求を突きつけるための─」
  「クロード・・・」ジョーが目を見開く「忘れたのか?おれ達は人質にはならない。おれと引き換えに何かを要求しても聞き入れられないぜ」
  「そう思うよ」クロードが肩をすくめた「しかし奴らはそうは思っていない」
  「奴ら・・」クロードの仲間がいるのだろうか、ここに─。と、今気がついたが「ここはあのマンションじゃ─」
  「あそこは捨てた。ここは隠れ家の1つだ」クロードが手錠を確認する。
 ジョーは蹴飛ばしてやろうと、わずかに身じろぐ。クロードの体がサッと離れる。
  「・・くそォ」ジョーは唇を噛みしめた。
  「おとなしくしていた方がいい。君の世話はセシルがしてくれる」
  「セシル!?まさか彼女も─!?」
  「ニコスもいるよ。彼らは君を気に入ってるからやさしい。だが他の連中は違う。君を利用する事だけを考えている。だからおとなしくしていた方がいい」
  「勝手な事を言うな!」
  「セシルに食事を持ってこさせよう。あ、彼女に手を出さないでくれ。ああ見えても彼女、年下が好みなんだ」ウインクをして部屋を出て行った。
  「手を出すなって─、この恰好でどうやって手を出せるって言うんだよ」
 ジョーはクロードが出て行ったドアを睨みつけた。


 神宮寺と捜査課で手分けして地図のマル潰しが始まった。
 都内だけだがあまりにも数が多いので陽動作戦では、という意見もあったが、少しでも可能性があるのなら確かめないわけにはいかない。
 しかし数が多いのはもちろんだが、マルのいくつかは大きなマンションだったり民家だったりするので即踏み込んで確かめるのもむずかしく、結局一般警察の手も借りて、周りから固めていくしかなかった。
 神宮寺はポルシェのPCナビをオンにする。次は港区だ。─と、
  『神宮寺君、森だ』神宮寺の腕時計─タグホイヤー・リンクが鳴った『至急JBに戻ってくれ。奴らからの連絡が入った』
  「わかりました」
  神宮寺はUターンしてポルシェを新宿方面に向けた。制限速度ギリギリで走る。 ジョーではないが、ポルシェも日本の道路向きの車じゃないなあ、と思う。しかしジョーのように何台も車を持とうとは思わない。自分はこのポルシェ928タイプが好きだし合っていると思う。だからこれ1台で充分だ。
  (もしかしたら、奴は自分に合うものをまだ掴みきれていないのかもしれない)
 ふと、思う。


  「クロード、まずいわよ、あの子」ジョーのいる部屋のドアを見ながらセシルが言う「ここへ来て3日経つけど、食事どころか水も摂らないの」
  「ん・・・」それはクロードも知っていた。
 彼は元JB員なので、こういう時のジョーの考えがよくわかる。彼らは食事に何かを混入される事を警戒する。それが毒薬ならまだしも、もし自白剤だったら・・・。
 お腹いっぱいご馳走になって、ついでに国際警察の機密をペラペラしゃべったりしたら目も当てられない。
  「入っていないんだけどなあ・・」
 クロードが再び唸る。
 
                                             6 へ       ⇔    8 へ
 

スポンサーサイト

Comment

淳 says... "覚書き"
いつもの事なのだが・・突然ストーリーが入り込む。
前日まで考えてもいなかったシーンが突然入る。
でもなンとかなるが。

世の中、ドイツの話題が多い。
サッカーW杯は今回はドイツ。
子どもらの研修旅行(高校)もドイツ(ドイツ、オーストラリア、沖縄から選ぶ)を希望しているし。
滞在はベルリンらしいがブンデスリーガ(サッカー)の試合が観られるという。
淳が行きたい!
2011.01.10 17:58 | URL | #vDtZmC8A [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://junstory.blog63.fc2.com/tb.php/18-d31d4a4f
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。