コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Wanted dead or alive 9

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 翌朝、中標津から駆けつけてくれた立花と高浜にトラベルトレーラーを渡し、神宮寺と ジョーはプラドで任務を続行した。
 広大な北海道を旅するバックパッカーやキャンピングカーは多く見かけるが、車体を弾丸でボコボコにされているトレーラーはさすがに目立つ。中標津まで牽引して戻る立花達が通報されないのを祈るばかりだ。
 無線機も新しい物に換え、今日は通称知床横断道路と呼ばれている国道334号線を経てウトロ方面に出てみる事にした。
 知床連山を超えるくねくねとした道が続く難所だが、神宮寺の運転するプラドは快調に飛ばしていく。途中の知床岬の展望台からは知床連山を代表する羅臼岳が大迫力で望める。この辺りは観光客も多い。が、2人の乗るプラドはそのまま走り抜けた。
「大きな事件もなく平和だな」
 ラジオのニュースを聞いてジョーは言った。
 夕べの事が報道される事はないだろう。こちらも取材に応じるつもりはない。と、一瞬─ほんの15秒程のスポットニュースが昨日行われたツーリングカー東日本大会の結果を伝えた。
 優勝者の名前を聞き、ジョーの頬がピクッと跳ねた。先日のレースでジョーに続いてチェッカーフラッグを受けたNSXだった。1位のジョーが辞退したので繰り上げ出場となったのだ。
 チャンスを掴んでも手を離せばあっという間に他人の所に飛んで行ってしまう。それは承知の上だがやはり辛かった。
 ジョーは無線機の置いてある後部に移動した。と、オンのままの無線機からガガガ・・と音が響いた。明らかに受信している。だが山地のせいか音声は聞こえない。ジョーがチューニングを試みるがだめだ。
「チェッ!使えねーぜ!」思わずバンッ!とぶっ叩く。ガー!と大きな音になった。「あ、あれ・・?」
「無線機壊してどうするんだ!」神宮寺の声が飛んだ。「もう少しで山地から抜けられるのに」
 と、リンクとスピードマスターが同時に鳴った。森からだ。神宮寺は知床自然センターと書かれた建物の駐車場にプラダを入れた。
『今、警察庁が例のハインツ博士からの無線をキャッチした』
「それはよかった。こっちの機械はジョーに壊されました」
 余計な事言うな、とジョーが睨む。
『彼がいるのはカムイワッカから硫黄山へと向かう登山コースの途中にある新噴火口と呼ばれる所から山地に1キロ程入った古い山小屋らしい。至急向かってくれ」
「ラジャ」
 神宮寺が車を県道93号─知床公園線に乗せた。
「ゲッ、山道かよ」
 助手席に戻りナビを操作していたジョーが声を上げた。当然山へ入る事も考え準備してきたが、彼のつま先はまだバンソウコウのお世話になっている。
「辛かったら車に残ってもいいぞ」
「お断りだ。それじゃあなんのために来たのかわからない」
 レースを諦めて来たのだ。なんとしてもそのハインツとやらの顔を見てやる。
 途中知床五湖のそばを通るがもちろん湖は見えない。その先はくねくねと曲がり道が続く。
 やがてカムイワッカの駐車場が見えてきた。
 ここに車を入れ2人は登山準備をする。と、言っても本格的な登山ではないので長袖シャツの上にタウンパーカーを着てトレッキングシューズを履くだけだ。持ち物も多くは持っていかれないので小さなザックに水と手袋、携帯食糧、そして胸にはそれぞれの愛銃が収められている。
 地図で見るとハインツの言っていた新噴火口までは1時間20分くらいで登れそうだ。この2人ならもっと早いだろう。
「本当に大丈夫か、ジョー」
 見るとジョーの靴下の先が赤く染まっていた。だが一応訊いた神宮寺だが、ジョーがやめるわけがない事くらいわかっている。
 案の定彼はチラッと神宮寺に目を向けただけだ。そのまま何も言わずにプラドを降りた。
 登山コースの入り口には入山届けの用紙が置いてあったが2人は通り過ぎた。観光地でもあり、登山コースといってもある程度整備されているので歩きやすかった。
 連休にはまだ遠い平日と言う事もあり登山者は少なく、2人はかなりのハイピッチで登って行った。オホーツクの海も近いのでさぞかし良い眺めなのだろうと思ったが、木々に隠れ遠くは望めない。もう少し上がれば視界が開けてくるだろう。
 2人は展望台まで20分、続く新噴火口までの火山灰と火山礫のルートを30分で登り切った。
 この辺りはまだ所々から硫黄が噴出している。この先はハイマツ帯で足場が木の根なので歩きにくそうだ。だが2人はJBから刻々と送られてくるナビに従ってコースを外れ、山地へと入って行った。少し急な斜面を硫黄川に沿って進む。
 山歩きで迂闊に沢を歩くのは厳禁だが今は仕方がない。幸い雨の心配はさなそうだ。
 ジョーはちょっと右足を気にしているが黙って神宮寺の後に続く。確か昨夜の弾傷もあるはずだ。左肩と合わせ一応手当ては済んでいるが。
「どうした?」
 立ち止り振り返るジョーに神宮寺が訊いた。
「いや・・」
 実は川沿いに降りる前からしきりに後ろが気になっていた。誰かに見られているような、いや、つけられているのかもしれない。
 だがその気配は常に感じるものではなく、追跡者がふと気を抜いた時に感じ、またすぐわからなくなるといったものだった。もし追跡者がいるとすればかなり慣れている者だ。
 ジョーはそれを神宮寺に話したが
「とにかく今はその山小屋を見つけハインツ博士と会う事を優先しよう」
 と、言われ頷くしかなかった。
 突然、JBからのナビが切れた。この辺りが限界らしい。切れる前に画面に出ていた方向へさらに山地に入る。
 周囲は木々に覆われ視界が悪い。木の根が露出している所も多く、ジョーはちょっと辛そうだ。
 やがて目の前に見えてきたのは山小屋というには大きすぎる建物だった。いや山小屋と言ったのはハインツで、山の中の建物だからそう表現したのかもしれない。
 2人は遠巻きに建物の周りを一周したが出入り口は正面のドアだけだった。
「行くぞ」
 神宮寺が言いジョーが頷く。2人は木を使いながらドアに近づく。取りついた。鍵は掛かっていない。2人が素早く滑り込む。ちょっとしたホールになっていた。何年も放置されていたのか内部は何もなく荒れていた。
 2人は慎重に奥に進んでみた。細長い廊下が続く。ビジネスホテルのようだった。が、人の気配はない。
「おい、本当にここでいいのか?」
 ジョーの問いに、ん?と神宮寺が唸った。と、どこからかバンバンと何かを叩く音が聞こえてきた。その方向─さらに奥に進み角を曲がると、音はドアの閉まった一室から聞こえていた。耳を寄せると、“Helfen Sie ihm!(助けてくれ)”と聞こえた。
「Ist es Heinz-Arzt?(ハインツ博士ですか)」ジョーが訊いた。“Ja!”という答えが返ってきた。「Weil ich eine Tür breche, sei bitte weit(ドアを壊すので離れてください)」
 ジョーが言い神宮寺のオートマグがノブの周りを吹き飛ばした。ウッズマンをかまえたジョーが先に入る。部屋の隅には50才くらいの背の高い男がいた。
「Heinz-Arzt?」男が頷いた。「Bist du in Ordnung?(大丈夫ですか?)」
「Ja、Danke」と、ジョーに言い「日本語でも大丈夫です」
 と、神宮寺に向かって言った。
「あなたを攫ったのは何者なんです?そいつらはどこへ行ったんだ」
「ここを出る準備をしています。荷物運んでます。私は連絡したのがバレて監禁された。奴らはまたすぐに戻ってくるでしょう」なおも問いたげなジョーに、「詳しい話はここを出てからします。奴らが戻ってくると私また捕まる。それはまずい」
 そう言いドアに向かおうとしたハインツの胸がジョーの腕に当たった。何か硬い物が触れたとたん、ジョーが飛び退いた。ウッズマンを彼に向ける。
「なんだ!?何をする!?」
 ハインツがとっさに両手を上げた。
「内ポケットにある物をゆっくり出せ」ジョーの声が響く。「出せ!」
 ハインツが固まってしまったので神宮寺が彼の上着の内側に手を入れた。出て来てのはスタンガンだった。
「ご、護身用です」ハインツが怯える目をジョーに向け、神宮寺を見た。彼はちょっと考えてからスタンガンをハインツに返した。「あ、ありがとう。持ってるだけでも心強い」
「とにかくここから出ましょう」
 神宮寺がドアから廊下を窺った。が、3人がホールに出たとたん前方から銃撃を浴びた。
 神宮寺がハインツを引き左に、ジョーが右に飛び退いた。柱に身を隠し応戦する。相手は5、6人か。全員が日本人のようだ。と、そのうちの1人がジョーに向かって何かを投げた。
「ジョー!」
 神宮寺の声と共にジョーがバック転でそれを避ける。神宮寺はとっさにハインツに覆い被さった。
 ボンッ!と空気が跳ねた。階段の手すりの陰に隠れたジョーの頭上を爆風が飛んでくる。天井がバラバラと落ちてきた。
「くそォ!」
 薄っすらと埃の舞う中、ジョーはウッズマンを両手に握り男達に向かって発砲した。1人が腕を、また1人が肩を押さえる。が、残った男達がバンバンとやたら連射してくる。弾はなぜかジョーに集中していた。
「数撃ちゃ当たるってもんじゃねえぜ」
 自分の頭上を、体の横を弾丸が飛ぶ中ジョーは1発1発正確に弾丸を送り出していく。そこにマグナムの轟音が加わった。
 ジョーの使用する22LR弾の約7倍の初活力を持つ44マグナム弾だ。命中した時のダメージが違う。だから神宮寺は相手の体には当てないように腕や足を掠るようにしている。それだけでも大したパワーだが─。
 と、男達がバラバラと逃げ出した。正面ドアから出て行く。
「諦めたかな」
 そんなわけがなかった。
 突然、建物全体にズ・・・と振動が走った。何度も体験しているこれは─。
「伏せろ!」
 神宮寺が叫んだ。
 轟音が響き、伏せた体の上を瓦礫と爆風が飛びまわっているのがわかる。3人の体の上にも落ちてきた。だが幸い爆発は大きな物ではなかった。
「大丈夫ですか、ハインツ博士」“大丈夫”という答えを聞き、「無事か、ジョー」
「あたりまえだ。これも博士が作った爆弾か?」ハインツが申し訳なさそうに頷いた。と、前方から再び奴らが撃ってきた。「チェッ!しつこい奴らだぜ」
「ジョー、今の爆発で建物に穴が開いた。そこから出られるぞ」
 神宮寺の言う方を見ると、人一人通れるくらいの隙間が壁に開いていた。おそらく建物の横の部分に当たるのだろう。明るい光が差し込んでいた。
「ここはおれが押さえる。博士を連れて逃げろ」
「残るならおれが残る。これはおれの得意分野だ」
「今回はだめだ。万一の時その足では逃げ切れない」
 神宮寺の言葉にジョーは口を閉じた。つま先や撃たれた銃創がかなり辛いのを気が付かれていたのだ。
「おれなら大丈夫だ。とにかくプラドまで戻れ」頭上を弾丸が走る。「行けっ」
「─わかった」
 ジョーはハインツの腕を引き隙間へと走った。とたんに弾丸が集中する。神宮寺のマグナムがそれを黙らせていく。
 外へ出る時、ジョーはチラッと後ろを見た。が、すぐにハインツを押し出し自分も外へ出る。男達がこっちに回ってくる前に木々の中に走り込んだ。
 つま先も右足の銃創も再び出血しているのがわかった。だが構っているひまはない。
「あの人は大丈夫でしょうか」
 ジョーに引っ張られながらハインツが言った。
「あいつは大丈夫さ。とにかくおれ達の車がある所まで行こう。山道を行くが頑張ってくれ」
 はい、とハインツが頷く。

 山地を抜け元の登山コースに戻り、来た道を引き返す。下りなので行きよりはペースが早い。しかしその分足に負担が掛かりジョーの体力を消耗させた。
 しかし鍛え抜かれたその体と、神宮寺を置いて来てしまったという後悔と、しかし自分はこのまま先に進まなければならないという心の葛藤が彼に緊張感と活力をもたらしていた。
 このような時、人間の体は大量のアドレナリンを作り出す。それにより気分が高揚し多少の痛みなら感じ難くなる。
 今まさにその状態に彼はあった。
 途中擦れ違う登山者が、外国人のどう見ても山歩きを楽しんでいるようには見えない2人に不審な目を向けてきた。が、どう見えても構わない。今は少しでも早く移動しなければならない。こんな所でモタモタしていて万一追手に追いつかれたら─ヘタすればこの人達も巻き添えになるだろう。
 だが後ろには神宮寺がいる。大丈夫だ─。ジョーは強く思う。
 通常50分は掛かるこのコースを2人は30分で降りてきた。プラドのあるカムイワッカの駐車場まで後少しだ。
「あっ!」
 疲労からかハインツが足を滑らせ道を踏み外した。草と石だらけの坂をズーと滑って行く。ジョーは身を翻らせ、やはり尻で滑って後を追った。
「木を掴め!」
 ジョーの声にハインツの手が伸び途中の木に引っ掛かった。ジョーが追いつき、腕1本で木にぶら下がっているハインツの体を引っ張り上げた。彼はジョーと同じような体格だ。掠っただけだが銃創を受けた左肩がギシッと痛んだ。
「大丈夫か」
「すまない。足がもつれて・・」
「車までもう少しだ」ジョーはハインツの体を押し上げた。「上がれるか?」
 ああ、とハインツが登り始めた。
 バラバラと石がすぐ下につくジョーの頭や顔に落ちてくる。時々足を滑らせたハインツがジョーの顔を蹴りそうになるが、なんとか登山コースに戻った。
 居合わせた人達が、“大丈夫ですか?”と声を掛けてくれるのに頷いて、だがすぐにその場を後にした。
 その時ジョーは後ろを振り返ったが神宮寺が追いついてくる気配はなかった。
 やがて2人は入山届けの置いてある登山口まで戻った。
 その目と鼻の先に鉄筋製のかなり大きなトラス橋が見えた。知床大橋だ。そこは車で行ける。深い谷に掛かっているのでそこからの眺めは素晴らしいだろう。橋の先は林道になっているが荒廃して危険な状態なのでゲートが設けられ一般車両の通行を禁止している。その手前にカムイワッカの駐車場があるのだ。
 登り始めた時よりも車両は増えていた。が、人の姿はなかった。ジョー達のように新噴火口辺りまで行って戻ってくる人は少ないのだろう。ほとんどの人は1日掛かりのコースなのだ。
 ジョーはベージュメタリックに輝くプラドを確認し、ホッと息をついた。
「車はどこですか?」ハインツが訊いたのでプラドを指差す。と、彼はニッコリと頬笑み、「Danke、Es ist schlecht(御苦労さま、悪いね)」
「え?」振り返ろうとし、突然わき腹に激しいショックを受けた。思わず地面に膝をつく。「ス、スタン・・ガ・・」
 動かない体の、顔だけ上げて彼はその衝撃の正体を知った。
「お前は─」
 再び目の前でバチッ!と火花が散った。転倒する。
 スタンガンは放電部を相手に接触させる事で一時的に体の制御が利かなくなり歩行困難にさせるものだ。気を失う事はめったにない。
 ジョーは地面からハインツを睨み上げた。ハインツの足が動きジョーの腹に入った。
  意識が跳んだ。

「神宮寺!」パジェロの運転席から立花が呼んだ。神宮寺が後部席に転がり込む。「君の言った通りだ。あの男がジョーを乗せて橋の先の林道に入って行ったぞ」
「やっぱりそうか」
 神宮寺の呟きと共にパジェロは知床大橋へと続く未舗装の道へと入っていく。ザザ・・と砂埃が舞う先には通行止めのゲートが見える─はずだった。
 だがその一部、ちょうど車が1台通れるくらいの幅が開いていた。爆発物で壊したらしい。パジェロが乗り入れる。が、道が細いうえに大きな石がゴロゴロしていた。走行条件はかなり厳しい。
 しかしジョーを乗せたプラドは入って行ったのだ。行くしかない。
「で、ハインツという男の事はわかったか」
「まだだ。JBからベルリンに調査を依頼してるけど」助手席の高浜が振り返った。「だが君が山小屋で押さえた男達の所属組織はわかった。今、樋口達が調べているからそのハインツやバックの組織もすぐに割れるさ。と、同時にジョーを狙う目的も」
「・・・・・」
 それはわかっている。が、細かい説明は彼らにはしていない。知っているのは森だけだ。だが高浜の言うとおりハインツはともかくバックの組織までそう簡単に判明するとは思っていない。
 もし神宮寺の考えているとおりだとしたら、だが─。


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