コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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大地と海のプレリュード 1

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「あち?っ」ギラギラと容赦なく照りつける太陽を見上げ、ジョーが今日何度目かの台詞を吐いた。「ニューヨークも暑かったけど、ここの暑さは段違いだな。太陽に集中攻撃されてるようだ」
 ジョーはフロントチャックをスーと下げてその下のアンダーウェアを引っ張り出しパタパタと風を叩いた。 スポーツ用のアンダーで発汗吸湿が優れているが、暑がりのジョーにはその効力も発揮されていない。
「フロリダだからな。暑いのはあたりまえだ」同じジャンプスーツを着ているのに汗ひとつかいていない神宮寺が言った。「だらしないな。?心頭を滅却すれば火もまた涼し?、だ」
「しんとー?」ジョーがチロリと瞳を動かす。「確かに頭(とー)は涼しそうだな」
「暑い所に来るのがわかっていたんだから、この?長いの?を切ってくればよかったんだ」
「これでもけっこう切ったんだぜ」
 そう言い襟足から髪を掻き上げた。
 確かに以前に比べればかなり短くなっている。しかし神宮寺から見ればまだまだうっとおしく見えるのだろう。だがあまり短くするとクセのある分かえって収拾がつかなくなるのだ。それでなくても洗いっぱなしで放っておくので、長さがある分面倒がない。
「ま、いいや。早く仕事を終わらせて遊ぼーぜ」
 海面に反射する光がジョーの髪に輝いた。

「なんでダブルJなのさっ!」食堂に洸の声が響き渡った。「Sメンバーはもう1組いるのに、なんでダブルJがデイトナに行くのさ!」
「だって君達は昨日マレーシアから帰ってきたばかりじゃないか」食後のコーヒータイムを洸の大声に襲われ、ちょっと不機嫌気味に神宮寺が言った。「それに君達は、“もうニューヨークなんか行きたくないっ”って言ってなかったっけ?」
「・・・・・」以前パリで遊ぶ暇もなくニューヨークに飛ばされて─そんな事を言ったような気がするが─「ニューヨークはどうでもいいんだ。問題はデイトナさ!」
「そうか」今まで黙っていたジョーが口を開いた。「デイトナというばバイクレースのメッカだ」
「そう!デイトナ500はもう終わっちゃったけど、今回のSメンバーテストではそのデイトナ国際スピードウェイを使ってテストするんだろ。あのコースを走れるんだぜ!」
「だけどデイトナはネクステルカップ・ストック・カーレースでも有名だ。それなら当然おれが─」
「車でもバイクでもあのコースを走れるならどっちでもいいよ?!」
 わめく洸に、神宮寺とジョーは呆れてため息をついた。
 洸の言う?Sメンバーテスト?というのは、以前日本で行われるはずが事件に巻き込まれ中止になってしまったニューヨーク支部の2人に対してのSメンバーになるためのテストの事だ。そのための準備期間の教官と当日の試験管は現Sメンバーが行う。
 あの時は神宮寺と本部のSメンバーであるレニールが担当したが、今回レニールは事件を抱えていて担当できないという。そこで神宮寺のコンビであるジョーが選ばれたのだ。
 先程森から指令を受け、明日にはニューヨークへ出発する。2人は候補生のアレンとニックとニューヨーク支部でまず筆記試験や射撃などの実技、そしてその後デイトナへ移動して飛行テストと車の運転技術のテストを行う予定だ。
「でもわざわざニューヨークから離れたデイトナまで行って運転のテストなんてするのさ」
「アメリカ国内ではどうしても飛行機や車を使う事が多いからニューヨーク支部ではその技術もテストに入れているらしい。かなり乱暴なテストらしいから一般道は使えないので毎回どこかのサーキットを借りて・・・今回はたまたまデイトナだったんだ」
「洸、おれ達は遊びに行くんじゃねーぜ。大事なテストのために行くんだからな」
「だけどテストが終わったら遊ぶんだろ・・・コースで・・・」
「???」ジョーの表情がすべてを暴露する。あまりガラでもない事は言わない方がよさそうだ。「とにかくもう指令を受けちまったんだ。あちらさんもおれと神宮寺をご指名だしよ。デイトナの砂でも土産に持ってきてやるから諦めろ」
「甲子園じゃないんだよ?!」
 本当は?ご指名?なのは神宮寺だけだったのだが─。そうとは知らない洸がわめいた。

 その翌日、彼らは成田空港からジョン・F・ケネディ国際空港に飛んだ。
 飛行機を使ったテロが増え、機内持ち込みの基準が厳しくなった。特に液体は1本100CC以下にまとめ、透明の袋に入れての持ち込みとなった。したがって今までのようにペットボトルでの持ち込みはできなくなったが安全が第一なので仕方がない。
 その不自由分の代わりというわけではないだろうが、ビジネスシートが多少広くなったとジョーが喜んでいた。
 身長はもちろんだが肩幅の広い彼は今までのビジネスシートでも少々窮屈そうだったのだ。それでも彼より体の大きな外国人が利用する国際線なんだから、もう少し広くしてほしい、とブツブツ言っていた。
「文句もいいがテストの手順や基準はちゃんと読んでおいてくれよ」
 神宮寺が言った。
「おれはドライビングテクニックだけ見ればいーんだろ。後はお前に任せるよ」
「あのな・・・」苦笑まじりにため息をつく神宮寺だが、ジョーが同行すると決まった時からたぶんこうなるだろうと予想がついていた。「せめて射撃も見てくれ」
「お、忘れてた」ジョーには珍しい事だ。洸の事もありデイトナが気になっているのか。「レースじゃないけどデイトナで走れるかと思うとワクワクするぜ。おれ、それだけでいい」
「サーキット見学に行くわけじゃないんだけどな」
 と言う神宮寺だが、実は彼もカリブ海上空を飛ぶのをとても楽しみにしている。ジョーに言うと、“おれと同じじゃねーか”と、ますますつけ上がりそうなので黙っているのだ。
 バッグに入っているカリブ海のガイドブックはとても見せられない。

 現地時間の午前10時5分、2人はJFK国際空港に降り立った。スーツケースなどの大きな荷物は別便でホテルに送ってあるので2人は小さなバッグ1つでターミナル1(ワン)の到着ロビーに出た。
「Dispatcher station(正規のタクシー乗り場)は、あっちだっけ」
 ジョーがタクシー乗り場に向かおうとするが
「いや、アレンが迎えに来てくれるはずだ」
 が、辺りを見回してもアレンの姿は見えない。
 他にもキョロキョロと見回している旅行者が何人かいる。そんな人達に、“Taxi?”と近づいて来るのは間違いなく白タクだ。だが彼らは2人の所には来なかった。
「コーヒー飲みてェな」
 機内では食事や飲み物はあまり摂らなかったせいか、降りたとたんコーヒーがほしくなった。
 マイペースのジョーがその場から離れようとした。が、彼が向かおうとしていた方が騒がしい。“Stop!thief!”という声も聞こえ、女性用のバッグを抱えた男が走ってくる。
 ジョーがイヤそうにその男を見て、どうする?と神宮寺に目を向けてきた。と、神宮寺が被害者らしい女性の方へアゴをしゃくった。
「お、美人」
 ジョーが男の進路に立ち塞がった。男は内ポケットからナイフを出し、振り回しながらジョーに向かってくる。突き出されたナイフを持つ手をヒョイと掴み、足を掛けその場にひっくり返した。
 ポーンと空中に飛んだバッグが、差し出されたジョーの手の上に落ちてきた。
「後は頼むぜ、神宮寺。おれはこいつをあの美人に返してくるからな。今夜は別行動になるかもな」
「あ、ジョー」足元にひっくり返って何がなんだかわからない表情の男と残された神宮寺が声を掛けたが、極上の笑みを浮かべジョーは行ってしまった。「ま・・・いいけど・・・」
「Mister zinguzi」呼ばれて神宮寺が振り返る。「着いたとたん、ひと仕事か?」
「アレン」
 神宮寺は自分より2回り程大きなアレンの陽気に笑う顔を見た。その時になってやっと空港警察が到着し神宮寺に礼を言い男を連れて行く。
「久しぶり、会えてうれしいよ、アレン。2回目になるけどよろしく」
「こちらこそお手柔らかに」握手を交わした。「えと・・、1人だったっけ?」
「いや、もう1人、あそこに」
 神宮寺の指差す方にアレンが目を向けてギョッとした。
 アッシュブロンドというにはくすんでいる髪と青く鋭い眼をした男が1人、こちらに向かってくる。波照間での事故の後、アレンはずっと病院にいたのでジョーとは顔を合わせていない。
「まいったぜ。あのバッグは美人の物じゃなくて、そのそばにいたばー様のだってよ。美人はばー様の代わりに声を上げただけだった」
 ジロリとアレンを見ながらジョーがグチる。
「あのバッグは若い娘(こ)が持つ物じゃないさ。それくらいわからなかったのか?」
「・・・お前、わかっていておれを行かせたのか」
「ばー様も女性だ。男たるもの、女性には親切にしないとな」
「だったらお前が行け!」
 ジョーの右手が神宮寺の胸倉に伸びた。その手をあっさりと受け止めてジョーの体をクルッとアレンに向けた。
「こいつがジョージ・アサクラ。おれの相棒だ」
「放せ!」
「ア、アレン・フォードです」陽気なアレンの顔が引きつる。「よろしく、ミスター・アサクラ」
「ミスターはやめろ。ジョーでいい」
 ようやく神宮寺の手を振り払う。
 乱れたベージュのサマーブレザを直しアレンに目を向けてくる。
 なんて深い瞳の色だろう。この眼で見られたらなんでも言う事を聞いてしまいそうだ。魅力的だが危険な瞳─。
「車か?」
「え・・」ハッと我れに返った。「そうだが」
 それだけ訊くとジョーはクルッと踵を返し、ターミナル1の目の前にあるパーキングに向かって歩き出した。
「すまない、アレン。奴は人見知りするんだ」神宮寺がアレンの肩に手を置き2人も歩き出した。「あれでも笑うとけっこう可愛いんだけどな」
「・・・・・」まさか、と思ったが口には出さなかった。「彼の名前は聞いていたけどあんなに若いとは思わなかった」
 それは目の前の男(神宮寺)にも言えるのだが。
「あの・・・彼も教官?」
「ああ、主に射撃とドライビングテクニックを見るだろうな」
 ニコニコして言う神宮寺だが、この笑顔ももしかして怖いかも、とアレンは思った。

「さすがはアメリカだ。まだこんなでかいのが走ってるんだもんな」
 ステアリングを握りジョーが上機嫌で言った。バックミラーに映るその笑顔を後席の神宮寺とアレンが苦笑して見ている。
 パーキングで待っていたのは1960年代のフォードマスタング289だった。アメリカを代表する大型車の1つだ。
 見たとたんジョーがアレンからキーを取り上げた。いそいそとドライビングシートに着く。
 アレンが何か言おうとしたが、“好きなようにさせてやってくれ”と言う神宮寺の言葉に肩をすくめ─しかし助手席に座るのもなんとなく気が進まず─で、後部席に潜り込んだ。
 JFK空港のあるクイーンズ地区ジャマイカ・ベイからニューヨーク支部のあるマンハッタンまでは車で約1時間。2人は何度かニューヨーク支部に来ているので道はよく知っている。ジョーはクイーンズ地区を抜けミッドタウントンネルを通るコースをとった。
 朝夕の渋滞はひどいが昼近い今は比較的空いている。
 運転技術より運転時の防御が重要視されるニューヨークには、日本にはない?YIELD(優先権を譲れ)?という標識がある。
 これはスピードを落とし他の車の走行を優先させるもので、これを目にするたびに、“いやだね”とジョーが呟いている。が、もちろんルールを犯すような事はしないが。
 そんなジョーにアレンは少し好感を持ったようだ。
 初めは取っつき難いが案外子どもなのかも。それが証拠にマンハッタン内に多い一方通行に出くわすたびにバックミラーをチラリと見てアレンの指示を受けたがっている。アレンが教えると、そんな事は知っているというようにステアリングを回すのだ。要するに弱みを見せるのがいやなのだろう。
 やがて右側に巨大な緑の公園が見えてきた。マンハッタン島の中心部を占める南北約4キロ、東西800メートルのセントラルパークだ。
 ニューヨーク支部はこの巨大な公園とハドソン川サイドのリバーサイドパークに挟まれたアッパー・ウエストサイド地区にある。
 セントラルパークを背にして建つ支部はなんとなくJBビルに似ていた。もっともこちらの方が古く重厚な建物だ。
 ジョーはアレンの指示通り地下駐車場にマスタングを入れた。
「アレン、ドライビングテストはこの車でやろうぜ」
 降りるのも名残惜しそうにジョーが言う。
「それは無理だ。これはユーイング支部長の車なんでね」
 チェーとふくれるジョーと神宮寺を支部長室に案内する。
 次に7階の捜査課─アレンの所属エリアだ─に案内し、これからのスケジュールを確認した。もう1人の候補生のニックは捜査で出ているそうだ。
「明日は犯罪学などの講義、明後日は実技の訓練、そしてその翌日はデイトナでのドライビングテクニックテスト─これでいいかね」マーク捜査課長が言った。「リックは早ければ今夜にはここに戻れるが、捜査次第では明日になるかもしれない。ひとつよろしく頼みます」
「こちらこそ」
 神宮寺とジョーが立ち上がりマークと握手を交わした。
「あ、今夜はあなた方の歓迎会をやるとアレンが言っていたが。後で彼が迎えに来るそうだ」
「歓迎会、ですか?」神宮寺とジョーが顔を見合わせた。「ここへは2、3回来てるし今さら歓迎会というのも・・・。それに明日がありますし」
「なあに、皆理由をつけて飲みたいだけなんだ。ちょっと出てやってくれないか?ただし0時までには店を出るように言ってあるけど」
「はあ・・・」
 2人が頷く。
「お前はあまり飲むなよ」
 神宮寺に釘を刺され、ウルセーとジョーが毒づいた。二日酔いの頭で講義なんかされたらアレン達がいい迷惑だ。が、どっちにしろ講義は自分一人の仕事になるんだろうな、と神宮寺は思った。


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Comment

淳 says... "覚書き"
ニューヨーク編(デイトナ編か?)見切り発車!
おそらく今までで1番の見切り発車。2、3日で詰まりそう。
が、3日間で20ページとまあまあ・・・と思っていたら、デイトナってストックカーレースでも有名だったとは!
てっきりバイクしか頭になくて。しまった~~!って感じ。
ジョーの台詞をちょっと書き直したり・・・。

実はすぐにデイトナに行くはずだったのだが、ちょっとおもしろいキャラが出て来たし、せっかくマンハッタンにいるのだからなにかひとつやらかそうか、と─しばらくニューヨークにいる事にした。
このキャラはこの後の話にも時々出てくるようになる。
2011.01.07 16:40 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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