コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

大地と海のプレリュード 2

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 真ん中に低いステージのあるその小さな店は、ミッドタウンにある捜査課行きつけの店だ。
 貸し切りにしているわけではないのに、ドアを開けた客は店内を見回し─そして帰ってしまう。ま、屈強な男共が20数人ワイワイと飲んでいるのだから無理もないが。
「ザーツの下部組織はここニューヨークや隣のニュージャージーでも事件を起こしている」
 アレンと同じ捜査課のバートンが言った。彼の隣にはアレン、その向こうに神宮寺とジョーがいる。
 本来主役のはずの2人だが、実際は店の止まり木の隅に腰を下ろしている。
 フロアでは男達がワイワイ騒ぎ、しかし時々2人の所にご機嫌伺いに来る程度だ。それぞれの酒の飲み方を重視しているのだろう。日本のように無理矢理飲まされる事はない。 「ただ勝手にそう名乗ってる奴らもいるから、実態はよくわかっていないんだ」
「だが怖いのは」アレンが引き取る。「組織が大きくなりすぎて、上からの命令が下部まで正確に伝わらない事もある。下部が勝手に事件を引き起こす事もあるんだ」
「ザーツだってそう無闇にテロを起こしているわけではないだろう」カラカラと氷のいい音を響かせ神宮寺が言った。「それを見極めていかないと振り回されるだけだ」
「そんな奴ら、片っ端から潰してやるさ」ジョーだ。「甘くすると奴らますますつけ上がる」
「青い目のぼうやに賛成だな」太い声に振り返ると、そこには黒い髪と褐色の肌の2メートルはある大男が立っていた。「テロリストなんて皆まとめてぶっ潰せばいいのさ」
 なあぼうや、とジョーの肩に肘を乗せようとして─しかし見事に翻された。トトッと体が流れる。
「サントス、失礼だぜ。それに飲みすぎだ。君は明日リックと交替するんだろ」
「いーじゃねえか。日本のSメンバーの活躍はこのアメリカでも有名だ。どんな猛者かと思えば、こんな年端もいかないぼうや達とはね」
 言葉は悪いが決して2人をバカにしているのではない。むしろ感心と呆れているのだ。
 確かにアメリカ人から見ればジョーはともかく神宮寺はかなり若く見えるだろう。よく言われる事なので2人共黙って聞いていた。
 サントスと呼ばれた巨漢はジョーが相手をしてくれないので神宮寺に目を向けた。
「ミスター・ジングージ。あなたはアイキドーの名手だとアレンに聞いた。ひとつおれに教えてくれねーか?」
 と、ステージを指差す。
「あそこ、で?」
 やめろよ、サントス、とアレンが言うのを押さえ神宮寺が訊いた。
「ああ、きっと皆も見たいと思うぜ」決して神宮寺を潰してやろう、とか─そういう考えではなく、本当に相手をしてもらいたいようだ。ただ目つきがちょっと怪しいが─。「さ、ミスター」
 と、サントスが促す。
 神宮寺はちょっと困った顔をしたが結局サントスの後についた。
「あ?あ、大丈夫かな、ジングージ」アレンがジョーに言った。「サントスは1ヶ月前にESU(緊急活動部隊)からうちに入隊したんだ。体も態度もでかいし口も悪いが本来は気のいい奴なんだが」
「・・・・・」
 一部・・・なんかどこかで聞いた事のある台詞だ、とジョーは思った。
「ただすごい自信家で、自分がSメンバーテストを受けられないのが不満なんだ」
 どこにでも同じような奴がいるんだ、とジョーはコーラを一口飲んだ。ウイスキーをちょっと垂らしてあるが味は全くしない。
 神宮寺のいないうちにもう少し入れちまおうと、目の前のボトルに手を伸ばした。
「いい奴なんだが・・・ちょっと?あっち?の気があるんだよね・・・」ステージでは神宮寺とサントスが向かい合い、周りの男達がヤンヤと囃し立てている。「ジョー、ミスター・ジングージって、?あっち?の免疫ある?」
「ないっ」ジョーがグラスにウイスキーを垂らす。少しのつもりがドバドバ・・と入ってしまった。「そのサントスという奴のために救急車を呼んだ方がいいな」
「サントスがやられた、なんて通報したら1個小隊が来ちまうぜ」
「ミスターも強いだろうがサントスも強いぜ。アームレスリングのチャンピオンだ」バートンが言った。日本で言う腕相撲とは比べ物にならないハードな格闘技だ。「ヘタするとミスター捩じ伏せられて、そのままサントスの餌食・・・という事もありうるぞ」
「ふ?ん・・」
 ジョーがチラッとステージに目をやる。神宮寺はまだ立っていたがアレンとバートンが心配するのもわかる。日本では決して小柄ではない神宮寺だが、サントスの前ではまるで子どもだ。伸し掛かられたら最後、自力では脱出できないかもしれない。
 だがジョーは大して心配もしていない。
 背が高くガッチリタイプのジョーと比べると確かに神宮寺は細身で顔も東洋人らしい柔らかな印象を与える。だがその細身の体は全身鍛え抜かれた筋力で覆われ、その優しげな貌つきを甘く見てひどい目に遭った奴らを何人も知っているからだ。
 ちなみに素手で戦ったらジョーとて神宮寺には敵わない。
「たとえこの世から女が1人もいなくなっても、おれ、あいつだけは襲わねーぞ」
「おれもご免だ」
 すぐ後ろから声がした。
「早かったじゃねーか」
「?おイタ?しそうだったから、早めに伸ばしてきた」
 神宮寺が元の席に着いた。
 息ひとつ乱していない彼を見てアレンとバートンがステージを振り返る。その真ん中にサントスの巨大な体が大の字になっていた。あれほど騒いでいた男達がシーンとしている。
「5、6分で気がつくと思うけど」自分のグラスを取りクッと一口呷る。後の2人は神宮寺がどうやってサントスを倒したのか見そこなった事を残念に思った。と、「お前・・・なに飲んでるんだ」
「えっ」ジョーはあせった。そーいえばこいつは目の他に鼻も利いたっけ。先祖は絶対犬だな。「だってコーラだけじゃ味気ねえし・・」
「ウイスキー垂らしてやったじゃないか、2、3滴」
「おれは洸じゃねえ!」
 ガバッ!と一気にグラスを呷る。
「あ」
 今度は神宮寺があせった声を出した。グラスはカラになっていた。

「アイキドーっていうのは自分の力ではなく、相手の力を利用して倒すブドーなんだな」
 サントスがしきりと感心しながら並んで歩く神宮寺に話しかけている。
「ジュードーも確かそうだよね。小さい人が大きな人を倒せる」
 その神宮寺の向こう側を歩くバートンが言った。神宮寺はただニコニコと頷いている。
「ミスター、すっかりあの2人に気に入られちまったな」
 さらに後ろを歩くアレンが、横のジョーに言った。
 11時頃店を出たニューヨーク支部のメンバーのうちアレンとサントス、バートンの3人は神宮寺達がチェックインしているアメリカ自然史博物館近くのホテルと自宅の方向が同じなので、こうしてタラタラと歩いて帰る途中なのだ。
 神宮寺に伸されたサントスはすっかり彼が気に入ってしまったらしく、5分後に気がついてからずーと神宮寺にくっついていた。
 話してみると厳つい顔とは反対によく笑う気のいい男だった。しかし2メートルはあるサントスと、やはり体格の良いバートンに挟まれた神宮寺はまるで針のように見えた。
 だがその気になれば彼は10秒足らずで左右の男2人を倒せるだろう。
「おれの相棒だぜ」
 少々不機嫌気味にジョーが呟く。だが彼は相棒を取られて機嫌が悪いのではない。コークハイというよりはウイスキーの中にコーラが少し混ざっている代物を一気飲みして気分が悪いのだ。
「頭、痛ェよ、神宮寺!」
「─甘えるな」
「う・・・」
 相棒の冷たいお言葉にジョーの頭は別の意味でさらに痛くなった。
 5人の男達はコロンバン・アベニューを北へ向かう。地下鉄なら3駅くらいの距離を話をしながらけっこうな早さで進む。
 この通り近くにはソニー・シアターや有名なダコタ・アパートがあるが神宮寺もジョーも行った事はない。ニューヨークに来る時はいつも仕事絡みだからだ。
 ニューヨークは治安が悪いとよく言われるが、支部や2人の泊るホテルのあるこのアッパーウエストサイド地区は文化施設も多く比較的治安の良い地区だ。
 もっとも先頭を行くサントスを始め、皆ひと癖もふた癖もありそうなこの男達を襲おうなんて考える奴はたとえここが治安の悪い地区であってもいないだろう。おまけに1番小柄で優しい顔をした男が実は1番の強者だなんて誰も見抜けない。
 東洋の神秘だ、とサントスが尊敬と憧れ、そしてあとひとつ・・・?ナニ?かの感情を込め神宮寺を見る。
「さすがのサントスもミスターには容易に手は出せないわけだ」
 アレンがニヤついている。
「チェエ!ドイツでもアメリカでも、よくモテていいなァ!」
 ジョーの大声に神宮寺の背中がピクンと跳ねた。向こうを向いているのに、なぜか突き刺さるような視線を感じる。
 さすがにこれ以上はヤバいと思い、ジョーは口を閉じた。
「おれがSメンバーになったらコンビを組んでくれよな、ジングージ!」
 大声で言うサントスに、今ここにウッズマンを持っていない事をジョーは本当に残念に思った。と、そのサントスの動きが止まった。バートンも足を止める。神宮寺が怪訝そうにサントスを見上げた。
「テッド」サントスの呟きにバートンが頷いた。2人の目は前方からくる若者に向けられていた。「よお、テッド」
「!」
 ぼんやりと歩いていたのか、テッドと呼ばれた若者は驚いて顔を上げた。サントスを見たとたん思いっきりいやな顔をした。どうやら親しい友人というわけではなさそうだ。
「おれがESUからいなくなったからって、商売を広げるんじゃねーぞ。いつか必ずとっ捕まえてやるからな」凄むサントスの横をテッドが通り過ぎようとした。が、サントスが彼の腕を掴む。「聞いているのか!お前が売った爆弾のために何人の人間が命を落としたと思ってンだ!」
「あの男は?」
 神宮寺がバートンに訊いた。ジョーとアレンもバートンの元に来る。
「ミルクから爆弾までなんでも扱っている裏世界の小物さ。本来ならESUやおれ達国際警察が扱うほどの奴ではないんだが、あいつの親父が大物で─」
「手を離してください」
 突然、目の前に大きな影が現れた。そしてテッドの腕を掴んでいるサントスの右腕を掴みグッと引き離した。黒髪にとび色の目をしたその男は─。
「グレン・・」
 ジョーが呟いた。神宮寺も驚いた目を男に向けている。
「ジョイン?」男─グレンもまた、目を見開きジョーとその横に立つ神宮寺を見た。「アメリカに来ていたのか。いったいどうして─」
 と、言って口を閉じた。このメンバーを見れば2人が?仕事?で来米したのかわかったからだ。その隙にテッドは走って行ってしまった。
「テッド!」
「知り合いか?」
 神宮寺が訊いた。
「客だ。いや、正確に言えば客の息子だ」顔をしかめグレンが言った。「しょーがないバカ息子なんだが、親にとっては可愛いらしい。変な輩から守るよう言われている」
 ジロリとサントスを見る。
 グレンが神宮寺と顔見知りだとわかったサントスはそれ以上手を出そうとはしなかった。
「雇い主の息子をそんな風に言っていいのか?」
 ジョーが口元を歪めた。
「失言した。本当の事だが─」
「?おれ達?の事は失言してねーだろうな」
「誰にも言ってない。君達に睨まれたら仕事がしづらくなるからね」以前日本で会ったグレンは2人が国際警察だと知っている。もちろん硬く口止めされているが。「ゆっくり話をしたいが、バカ息子を追わなければ」
 また会いたいな、と手を上げグレンは行ってしまった。
「知ってる奴か?」
 顔をしかめたままサントスが訊いた。
「仕事中にちょっとね・・。ボディガードをしている。元はFBIだぜ」
「ふ?ん」また不機嫌な顔をしたが、「ま、奴はジョー狙いだから、いいか!」
 と、わけわかんない事を言って神宮寺にくっついた。そのサントスをジョーが思いっきり睨めつけた。


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Comment

淳 says... "覚書き"
サントスが以前所属していたESU(緊急活動部隊)はニューヨーク州固有の呼び方。
特殊部隊が人命救助も担当しているため、こう呼ばれる。
他の州ではSWAT。
こちらの方がわかりやすいかな。

う~ん・・しかし素手だろうとナンだろうと、神宮寺の方がジョーより怖いかも・・・。
2011.01.11 15:38 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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