コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

大地と海のプレリュード 3

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 翌日、ニューヨーク支部の一室でSメンバー候補生のアレンとリックに対して犯罪学や国際警察法のおさらいが神宮寺を中心に行われた。
 名目は講義となっているが神宮寺はその形はとらず、ジョーを含めた4人で質疑応答を繰り返しながら進めて行った。
 時々、“へー、そうだっけ?”と、のたまうジョーに閉口したもののアレンもリックも文句を言う事なく午前中は終えた。
 午後からはジョーが銃についての話をしたもののアレンもリックもその知識は豊富なのですぐ終わってしまい、後の時間はSメンバーとして担当した事件の話となった。
 ジョーの話し方はていねいではないしうまくもないが、実体験だけに臨場感だけはたっぷりある。ディアブロでミサイルの制御盤に突っ込んだ話が一番受けていた。
 次の日は射撃を見るためにトライベッカ地区まで移動した。
 ニューヨーク支部は国際警察の中でも設立は古く、JBの2倍近くのメンバーを擁しているが敷地面積はJBビルより狭い。そのため一部の訓練場─射撃場とスポーツジム等は支部から10キロ程南下したここトライベッカ地区に置かれているのだ。
 今でこそアーティストに好まれ、流行のレストランが散らばるトライベッカだが、元は工業地帯であったため強固な倉庫が多くそのひとつを改装して射撃訓練場にしている。
 今回もマスタング─ジョーが気に入ったと知ったユーイングが貸してくれたようだ─の運転席にアレン、その横にリック、そして後部席には神宮寺とジョーを乗せキャナル通りを右折しブロードウェイに入る。
「この1つ向こうの通りがリトルイタリアで、その南側がチャイナタウンだ」ここら辺りには来た事がないという2人のためにアレンが説明してくれた。ジョーはふと窓から外を見たがここからでは見えない。「中華料理が食べたいなら後で案内するよ」
 バックミラーの中で神宮寺は頷いたが、ジョーは見えないその方に顔を向けたままだ。
「そういえばジョーはイタリア系?あと北欧の血も混じってるよね?」
「いや・・、ドイツだ」なぜか、ちょっと言いにくそうだ。「よくイタリア人に間違われる。なんでだろう」
 色の薄い髪も青い瞳もイタリア人には少なく、どちらかといえば北欧かそれこそドイツ辺りに多いのに。おまけにイタリア男特有の女性に親切、というのもない。
「おれのじいさんもドイツだぜ」リックが言った。「アメリカは人種の坩堝だって言われるけど、何代か遡れば皆一緒になるような気がする」
「それいいな」
 ジョーが薄っすらと微笑んだ。
 こういう時の彼の心内は神宮寺にはよくわからなかった。それはきっと自分が日本人で、日本で生まれて日本で暮らしているからだろうと思う。親ももちろん日本にいる。
 故郷に帰る地を持たないジョーとはその想いは違う。
 やがて車はかなり大きな倉庫の横の駐車場に入った。倉庫といっても日本のソレとは違い重厚な─銀行のようなガッチリした建物だ。
 1階はスポーツジムになっていて2階に射撃場がある。最新の訓練機を揃えるJBとは違いかなり古いが、広さは倍くらいある。
 しかし今ここにいるのは彼ら4人だけだ。それぞれにイヤプロテクタと愛銃を取り出す。アレンもリックもコルトガバメントだった。
 1レーン間を開け2人が立射から入る。それをジョーが見つめる。
 アレンもリックも現役の警察官だ。今さら銃の扱い方を教える必要はない。ジョーも人に教えるなんて難しい事はできないし、彼の射撃スタイルは独特で教科書通りではないので手本にはならない。ただ2、3アドバイスするだけだ。
 だがそれで見違えるほど良くなる事もある。ガバメントがこんなに軽く感じたのは初めてだとアドバイスを受けたリックが言った。
 その様子を神宮寺が見て所定の用紙に書き込んでいく。
 Sメンバーのテストはそれを見る現役のSメンバーの所見が大きく反映されるが、最終的に決めるのは鷲尾を始めとした本部の上層部だ。彼らにわかるように細かく記入しなければならない。
「少し遊んでいーか?」
 ひと通り訓練が終わり集計に入るとジョーが動体射撃訓練用のターゲットを動かした。10個のターゲットが右から左へと流れる。その反対方向から走りながらターゲットを撃ち抜く訓練だ。
 もちろん本人が止まったまま、流れるターゲットを狙ってもいいがジョーには簡単すぎた。
 イヤプロテクタを外した3人の耳に10発の銃声が響く。ジョーの動きが止まった。アレンとリックがおお、と声を上げた。
 弾丸は全部ど真ん中ではなかったが、ターゲットの指定範囲内に見事に着弾していた。
 ジョーがウッズマンからマガジンを抜く。呼吸ひとつ乱れていなかった。
 再びターゲットを動かし今度は並行移動しながら連射した。やはりこちらの方が命中率がよさそうだ。
 元々はスポーツ射撃用に設計されたウッズマン・マッチターゲットは、長時間使用しても射手を疲れさせないように作られている。移動射撃を得意とするジョーにはまさしくピッタリの銃だ。もしかしたらこれを特注した父もそして鷲尾も、やはり動きながらの射撃が得意だったのでは、と思った。その点はワルサーP38コマーシャルとも共通する。
「さすが、日本支部一の射撃の名手といわれているジョージ・アサクラだな」
「えー、国際警察一じゃねーの?」
 シャキン!とマガジンを入れ替えジョーが笑った。
「さっきまではそうだったけど、今は君のアドバイスでうまくなったおれさ」
 と、リックがウインクして見せた。Sメンバー候補生だけあって大した自信だ。
「チェッ、もう教えねーぞ」
 ジョーは再びイヤプロテクタをつけた。リック達のテストの一環で来ている事を忘れてしまったように自分が射撃を楽しんでいる。
 だが神宮寺は何も言わなかった。
 手本にはならないがジョーの射撃スタイルは美しい。心持ちアゴを上げ、上半身を少し捻る立射スタイルが特にそうだ。右手のみでウッズマンを持ち、目の高さに合わせる。長い指がトリガーに掛かり─次の瞬間、ターゲットの真ん中をぶち抜いている。
 アレンもリックもしばしその姿に見とれた。気がついたジョーが2人に目を向けニッと笑った。神宮寺の言うとおり、こーいう時はちょっと可愛いかも、とアレンが思った。が、
「2人共、さっさとやらねえとテスト落ちるぜ」
 に、やっぱりこいつは子どもだ。でも可愛くない!と改めて思った。

「用意はできたか?グレン」
 恰幅の良い茶色の髪の男がドアの所から声をかけた。
「はい、ミスター」
 グレンは振り返り雇い主を見る。テッドの父親で本来の依頼者であるハワード・ヒルトンだ。ある大企業のトップだが裏の顔もあるらしい。
「テッドのお守りをさせて悪かったな。しかし明後日からが本番だ。頼むよ」
「はい」
 グレンは、部屋に入らずそのまま行ってしまったハワードに頭を下げ、またスーツケースに荷物を詰め始めた。
 彼らは明後日から2、3日ニューヨークを離れるのだ。
「ジョインにもう1度会ってスカウトしたかったが」
?ジョイン?はあの時の偽名で本名は知らないが、?ジョー?と呼ばれている事は知っている。だがなぜか彼は?ジョイン?と呼んだままだった。

「帰りはおれが運転するぜ。もう道は覚えたし」
 そう言いジョーはアレンから車のキーを受け取った。
 ジョーは1度通れば大方の道を覚えてしまう。ここからニューヨーク支部までなら楽勝だ。
 スポーツタイプのセリカやカウンタックも好きだが、1960年代の無骨な大型車も魅力的だ。四角いフォルムが今でも颯爽と走る姿はなぜかジョーのような若い者の心を捉える。
 彼は運転席に着きその隣にはいつものように神宮寺が座った。
 時間は3時を回ったばかりだがアレンとリックにこれ以上するアドバイスはなく、また明日は一番の飛行機で神宮寺とジョーがデイトナに先行するので少し早目の終了となった。
 ジョーはしばしエンジンを吹かして楽しみ、やがて倉庫街から車を乗り出した。
「しかしデイトナのサーキットなんてよく借りられたな。国際コースだぜ」
「デイトナは曜日によって色々なレースが行われているけど、明日から1週間はコースの一部改装でレースは行われないんだ。そこを国際警察が目をつけたのさ」
「なるほど」バックミラーに映るリックを見て神宮寺が言った。「改装中だからオーヴァルコースやピットの見学ツアーもないし、来る人もいないだろうからちょうどいいというわけか」
「改装中のコース、ねえ・・・」ふ?ん、とジョーの口元が歪んだ。目には怪しい光が灯る。こいつ、ロクでもない事を考えているな、と隣に座る神宮寺は思った。「31度バンクは使えるといいな」
「・・・・・」
 ボソッと呟くジョーの言葉に後席の2人は思わず黙り込んだ。と
『チーム6(シックス)、ライアン達の車はトライベッカ方面に向かっている。トヨタ車のガイアでナンバーは─』
「は?」
「ニューヨーク支部の通信?」
 前席の2人が備え付けの通信機を見る。
「ライアンは2日前までおれが追っていた奴だ」リックが言った。「どこから降って湧いて来たんだっ」
「この赤い点がそうか」
 ナビの画面には地図上を移動する赤い点が映っている。追われているガイアだ。マスタングより2通り向こうを南下している。
「どうする?」と、ジョーが神宮寺を見る。目元に笑みを見せ、口元もいたずらっ子のように大きく曲げている。神宮寺が肩をすくめた。「よしっ!」
 ジョーが右折しようとしたが
「ジョー!そこは一方通行だ!」後席からアレンの声が飛ぶ。「次の通りから入れ!」
「チェッ、ここがマンハッタンだという事を忘れていたぜっ」
 狭い土地に人や建物などニューヨークの主要物が集まっているここマンハッタンは、主要道路はもちろん細い道路でも一方通行になっている所が多い。今、目の前の画面に出ている地図も矢印だらけだ。車での追跡には向かない土地なのだ。
 ジョーはナビを見ながら少し遠回りをしてガイアが走る同じ通りに出た。と、モニタの赤い点の後ろに青い点が映った。どうやらこのマスタングらしい。登録されている捜査車両が表示されるとアレンが言った。今のところ青い点は1つだけだ。
「あれかな」
 ジョーが前方の白いガイアに目を向ける。ナンバーもさっき言っていたのと同じだ。と、ガイアが左折した。マスタングも続く。と、次の十字路でまた左折し─その後も何回かの左折、右折を繰り返した。
「えと・・・どこだ、ここ?」
 同じ所をグルグル回っているようで、さすがのジョーも位置がわからなくなった。
「リトルイタリーの中だ」
 見ろ、と神宮寺が指差す。イタリア国旗のように3色にペイントされたビルが見えた。この時になってやっとニューヨーク支部の車がモニタ内に入ってきた。トヨタのブレイドだ。日本車は燃費がよく小回りが利くので支部でもその所有割合が多い。
 ガイアの後ろに2、3台の車を挟みマスタング、ブレイドと続く。
「ジョー、奴の前へ出ろ。ブレイドと挟み撃ちにしよう」
「ラジャ!」
 ジョーがスピードを上げ前の車を追い抜きにかかった。後ろのブレイドはマスタングが支部の車─もっともユーイングチーフの車なのだが─だとわかっているので、その動きを見ればこちらの意図を察してくれるだろう。
 後になって気が付いたのだが、不思議とこの時4人は誰一人として仲間に連絡をとろうとは思わなかった。目の前のガイアに集中していたのか、それとも自分達だけで捕まえてやると競っていたのか─が、ブレイドはマスタングの意図に気が付き、自分達もマスタングの後ろに続き一般車を抜いていく。
 とうとうマスタングがガイアの後ろについた。と、ガイアが左折しようとした。
「させるか!」
 ジョーは図体の割には細いマスタングのステアリングを繰り、ガイアの左側に車体を突っ込ませ左折を防いだ。そのままガイアを擦り抜け前に出た。その際どこか接触したのかマスタングがガツン!と震えた。ユーイングが知ったら怖いな・・・と後席の2人は思った。
 ジョーはブレイドがガイアの後ろにつくのを待って、ブレーキを踏もうとした。─と、
「おっ!?」
「ガイアめ!一通(いっつう)に入ったぞ!」
 見るとガイアが一方通行の標識を無視して左折した。
 幸い道幅は車2台分はあるが、対向してきた車が驚いて急ブレーキを踏んだ。止まり切れない後続車がガシャガシャとぶつかり道を塞いだ。ブレイドがそのまま通り過ぎる。
「ジョー、2つ向こうの道はフリーだ。左折できる。ブレイドに続け」
 リックがマスタングの横を走り抜けるブレイドを指差す。そのブレイドの後席でサントスが手を振っていた。前方を指差し、なぜか投げキッスをよこす。助手席の神宮寺が目をパチクリしている。
「あンのやろ?、おれの前を走りやがって?」あっという間にマスタングの前についたブレイドのリアを睨んでジョーが唸る。「絶対追い越してやるっ」
「相手が違うぞ、ジョー」
 呆れたように神宮寺が言った。
「るせェ、アメ車の底力見せてやる!」
 ブレイドに続きマスタングが左折した。なんか日米反対じゃないのか?と神宮寺は思った。が、ジョーの意気込みとは裏腹に4000CCを誇るマスタングだが、今までにたくさん走り過ぎたのか、それともこんな荒っぽい運転は久しぶりなのかその四角いボディがガタピシと悲鳴を上げている。
 だがジョーはアクセルを緩めない。と、目の前のブレイドが急ブレーキを掛け止まった。
「うっ!」
 スピードが出ていた。ブレーキを踏んでも間に合わない。ジョーはステアリングを右に思いっきり切り、すぐさま左に戻した。マスタングが?逆くの字?でブレイドを避ける。
「こ、これってまさか?おれ達?のテストじゃねーだろうな」
「そんな事をしたら後で怖いぜ」ふと後ろを向き、「ジョー、ブレイドとガイアが停まっている」
「チッ!」
 ジョーがバックでブレイドが停まっている所まで戻した。が、ジョー達が車から降りた時にはもう両車内に人影はなかった。
「な、なんだ、ここ・・」
 目の前の建物を見上げ呟く。
 マスタングはガイアを追って、結局トライベッカ地区に戻ってきてしまった。ここは射撃場のある倉庫とは離れているようだ。
 彼らの目の前には砂埃が風に舞いカースト・アイアンビルが錆つき塗装も剥がれた無残な建物が2、3棟見えた。開発されたとはいえ一歩通りを外れるとまだまだこのような荒れた建物が多く残っているのだ。追う者と追われる者達はこの廃墟ビルに入り込んだのだろうか。
「どーする、神宮寺」
 ジョーが神宮寺を見た。
 通信を受けここまで来てしまったが、これは本来の自分達の仕事ではない。すでに担当チームであるサントス達が追っている。容疑者達の顔も知らないのに追うのは危険だ。
 だがその時、バーン!と銃声が響いた。続いてもう一発─。
「やっぱ行くぜ」
「しかしおれ達は指令を受けていない。命令はSメンバーテストの教官だ」
「ここまで来てそんな事言っていられるか。命令違反はSメンバーの特権だ」
 そう言いジョーはウッズアンを内ポケットに廃墟ビルへと走り込んだ。
「今、ジョーが言った事は忘れてくれ。あれは奴一人の見解だ」
「ジングージ、おれも行く」リックが言った。「ライアン達はずーとおれ達が追っていたんだ。おれはテストのために抜けて代わりにサントスが入ったけど。でもできるならおれの手で─」
「わかった。どっちにしろジョー1人でやるわけにはいかない。車のキーを持って行っちまったし」
 神宮寺はマスタングのボディをコンと叩いてアレンやリックと共にジョーの後を追った。


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Comment

淳 says... "覚書き"
今までマンハッタンに興味はなかったので、今回初めて資料本などで道や施設などを細かく見た。
しかしこんなに一方通行が多いとは思わなかった。

トライベッカ地区にある射撃場はこの辺り・・と決めて、さて好きなカーチェイスに入ろうかとしたら・・・え?ここは右折出来ない?げっ!こっちは左折できない!わっ、どこからどう車を寄せて行けばいいんだ!?とパニクった。
自分が楽しむために書いている話なのだから、そう現実に忠実にする事はないと思ったが、いや、楽しんでいるからこそこれも〝楽しみ〝にしたいのだ、と思い直し(Sか、淳は)横に道路地図を置いて追いかけっこに入った。
ここまで来たら現実的に書いてやるーー!

・・・まあ、話自体はあまり現実的ではないのだが。
2011.01.19 14:30 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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