コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

封印されし記憶 8

  「なんだって。ジョーと引き換えにテロリスト達を解放しろ?」ここ森チーフの部屋で、モニタに映る鷲尾を見て神宮寺が言った「なに言ってるんだ、奴ら」
  『まったくだ』鷲尾が答える『そんな要求を呑めるわけがない』
  「・・クロードはそんな事、よく知ってると思うんですけどね」森が呟く。
  『他にも仲間がいるのだろう』一瞬顔をしかめて、鷲尾が言う『確保したテロリスト供はすでにランスの刑務所だ。解放などできない。これまで通りクロード・シモンを始めとする密輸グループの居場所、ならびに確保に努めてくれ』
  「はい」
  『私の息子は人質にはならない、という事を教えてやる』
 怒りを抑えた鷲尾の口調に全員が頷いた。

 ジョーは3日前と変わる事なくベッドに手錠で拘束されていた。
 ベッドの上に座る事はできるが、それ以上動きのはむずかしい。手錠に当たっている手首の皮は擦り切れ血が滲んでいる。銃創を負っている肩は痛みを感じなくなっていた。
 ジョーはベッドに横になり目を瞑ったまま動かない。しかし決して諦めているわけではない。それどころか、彼はここから脱出するチャンスを狙っていた。
 実は、手錠はベルトに仕込んである針金を使えばすぐ開ける事ができる。動かずにいるのも体力を温存するためと、まわりの気配を探るためだ。
 3日間過ごしてここに出入りしているのはクロードやセシル、ニコス以外に7人ほどだとわかった。常時全員がいるわけではない。人数が少なくなる時が必ずあるはずだ。スキを見て手錠を外し、セシルを人質にすれば─。と、ドアが開き誰かが入ってきた。クロードだ。彼はだめだ。とても逃げられない。それに今日は人数が多いようだ。
  「ジョージ」クロードが口元を歪める「ごはんを食べないと大きくなれないよ」
  「な─」
 横になったまま、クロードを睨み上げる。3日も拘束されているとは思えない強い目の輝きだ。真っ直ぐにクロードを射止める。
  「せめて水だけでも」
 クロードが水差しから水をコップに注ぎ、ジョーに差し出す。ジョーは体を起こしコップを持ったクロードの手をバシッと跳ねた。コップはすっ跳び壁に当たる。が、手を振った反動で、ジョー自身も倒れ込む。肩で息をしている。
  「・・弱っていても、アサクラはアサクラだな・・・」
  「・・・・・」
 苦笑して呟くクロードを、再び横になったまま見上げる。
  「毒も自白剤も精力剤も入っていないよ」
  「─訊きたい事がある」前から思っていた事だ。脱出する前に彼の口から直接聞きたい「阿佐谷の家のセキュリティを漏らしたのは、あんたか」
 そのとたん、クロードの表情が一変した。さっきまでのにこやかな表情が驚きと怒り、悲しみを顔面に貼り付ける。全身を震わせゆっくりとジョーに体を向けた。その圧倒感にジョーは息を呑み、思わず体を後ろに引いた。
  「君もか!」
 勢い付きクロードが向かってくる。ジョーは動けない。
 シャツの胸倉を掴まれ持ち上げられた。クロードの大きな手が振り上がり、ジョーの左頬に炸裂した。勢いあまってジョーはベッドに叩きつけられた。口の中を切ったのか、いやな味がする。
  「君も私を疑うのか!」クロードは再びジョーの胸倉を掴むと、両手でベッドに押しつけた「わ、私が・・アサクラさんを・・う、売ったと・・」
 力任せに締め付けてくる。右手1本ではとても抵抗できない。
 喉元を抑え込まれ息が詰まった。目の前のクロードの顔は真っ赤に歪み、目に殺気を灯している。
  「ク・・う・・・」
 目がかすみ頭が痛む。酸素を求めジョーの喉がヒュッと鳴った。その音にクロードは思わず手を離した。
 求めていた酸素が一気にジョーの喉に流れ込む。むせてセキが出た。胸が痛い。体を丸めてセキを抑え込む。意識が遠のきかけたが必死に呼び戻した。
 クロードはそんなジョーをただ呆然と見ていた。自分の両手を見て、再びジョーに視線を戻す。
 喉を押さえ荒く息を付くジョーを見て途惑ったように表情を動かしたが、やがて小さく息をつくと水差しの水を一口飲んだ。さらにもう一口含むと、横を向いているジョーの肩を押し仰向けにさせた。ジョーは目を瞑ったまま苦しそうに唇を噛みしめている。片手で口元を挟んで強引に口を開けた。
  「クロード・・やめ─!」
 唇が塞がれ何かが流し込まれた。それはそのまま喉を滑り落ちていく。熱くなっていた喉を一瞬冷やしてくれた。が、そんな事を感じる前にジョーは体をひねり、クロードの横っ腹を蹴り飛ばしていた。
 クロードはすっ飛び、ジョーは再び激しいセキに襲われた。
 ふとクロードを見ると、彼は脇腹を押さえ顔をしかめながらも立ち上がった。こちらを向いてニヤリと笑う。
  「やはり・・アサクラさんの息子だな」以前の穏やかな目になる「私でいやなら今度はセシルに頼むといい。彼女はきっとやさしく飲ませてくれるよ」
 いつもの軽口を叩き、力なく微笑む。
 ジョーがJBにいる事を知っている彼は、いつか自分のやっている事がジョーの耳に入るだろうと覚悟していた。だがセキュリティの件までジョーに知られるとは思っていなかったのかもしれない。ましてや、また疑われる事になろうとは・・・。
 ジョーはクロードを疑っているというより、ただ本当の事が聞きたかっただけなのだが。
  「ジョージ、無理をするな。チャンスは必ずくる」
  「!」ジョーは驚いてクロードを見た。
 彼はゆっくりとドアに向かっていく。ジョーは無言で見送った。
 もう1度問い詰める気力は、もはやなかった。

 この3日間のうちに、地図に付いていたマル印は全部調べた。その結果、1ヶ所だがヒットした。そこには密輸された外国の大型拳銃や手榴弾など200点あまりが隠し置かれていた。
 そこにいたのは下っ端らしく、日本語も日本の地理もわからないので、いくつかあるだろう隠れ家の場所を説明させる事はできなかった。
 またそれと並行して、ICPOやパリ本部からの情報を元に港に入るいくつかの船をマークして、そのうちの2隻からライフルや弾丸などを押収する事ができた。どうやらこのグループのリーダーはハンス・シュナイダーというドイツ人らしい。おそらく日本のどこかに潜伏しているのだろう。指名手配にかける。
 しかしクロード・シモンはもちろん、ジョーの行方も杳としてわからないままだった。

 どこか遠くから声がする。ボソボソと途切れ途切れに聞こえてくる。
  『─ここにある─移した─ヨコー船で─』
  「!」ゆっくりと浮上していた意識が、急速に上がってきた。
  『今夜遅くか─朝方までには─』ドイツ語だ。クロードではない。
  (奴らここから動くつもりだ)
 そういえば今日は朝からバタバタしていた。
 時計を取り上げられてしまったのではっきりした時刻はわからないが、おそらく夜の6時は過ぎてはいまい。
  (こりゃあ、のんびり寝ているわけにもいかなくなったぜ)
 ジョーは自由に動かせる右手でベルトに仕込んである針金を引き抜いた。

  「とにかく1度マカオにでも出よう」ハンス・シュナイダーだ。銀色の髪をした、背の高い男だ「このまま日本にいても商売はできない。場を改めよう」
  「・・そうだな」クロードが答える。横のニコスも仲間のアンリも頷いた。
 JBによる一斉捜査により、彼らは自由に身動きができなくなっていた。そこで一度日本を離れた方がよいと判断したのだ。
  「で、あのボウヤなんだが─」
 ハンスが口元を歪めた。クロードが彼に目を向ける。と、その時、何かが割れる音と女の悲鳴が聞こえてきた。男達は驚いて声のした方へ走る。それはジョーのいる部屋から聞こえてきたのだ。
 ドアを開けると、手錠を外したジョーがセシルを後ろから押さえて立っていた。
  「ジョージ」男達が声をあげる「何しやがるんだ、こいつ!」
  「動くな!」ジョーが威圧をかける。自分の息子のような年の男に圧倒され、男達は口を閉じた  「よし、部屋の中に入れ。入口を空けるんだ」
 ジョーはセシルに割った食器の破片を突きつけ男達を威した。
  「ジョージ」クロードだ「セシルに手を出すなと言ったはずだが」
  「─」
  ジョーはクロードを睨む。灰色がかった青い瞳がクロードを黙らせた。
  「若い子に後ろから抱き締められるのも悪くないわ」ニッコリと笑ってセシルが言った「でも、できれば向かい合って抱いてもらいたいけど」
 セシルはジョーの方に体を向けようとした。ジョーは驚いて、一瞬男達から気が逸れた。
  「うっ!」
 銃声が響き、手にしていた食器の破片は見事に飛ばされた。セシルが離れる。続く銃声がジョーの腕を掠った。
  「人生経験もちゃんとしておいた方がいい」銃を構え、ハンスが言った「特に女はわからない」
 そばのセシルがフンッと鼻を鳴らした。
  「く・・くそォ・・」掠った右手を抑え、ジョーは一歩下がった。
  「ちょうどいい。ここで死んでもらおう」
  「えっ」クロードが声を上げた「し、しかしハンス」
  「君の言う通りこの男は人質にはならない。友人達(テロリスト)の解放は拒否され、日本に荷揚げした商品は次々と没収されている。それに我々はもうすぐ日本を去る。もうこの男は必要ない」
 ハンスはゆっくりとジョーに狙いをつける。この近さでは逃げるのはむずかしい。 ジョーはハンスを睨んだままわずかに身を屈めた。
 銃声が響く。目の前のハンスからではなく─。
  「クロード!」
 ジョーを含めた男達が叫んだ。クロードの持つ銃からは白い煙が流れている。ハンスは右腕を押さえて唸っている。
  「逃げろ、ジョージ!」
 一瞬ポカンと動きを止めていた男達が我に返るより前に、クロードが叫んだ。何かを抛ってよこす。ジョーがとっさに受け取ると、それは彼のオメガ・スピードマスターだった。
 彼はそれを握ってドアに向かって走った。
 アンリが付いてくるのを回し蹴りで倒す。肉弾戦になるとジョーは強い。大きくしなやかな肉体を充分に利用して、力強い蹴りやパンチを繰り出す。
 部屋を飛び出すと薄暗い廊下になっていた。出口がどちらかわからないが、とにかく走る。背後から男達の怒鳴る声や銃声が聞こえてくる。クロードの事が気になったが通信機を使えば神宮寺と連絡が取れる。その時間がほしかった。
 幸い広い家屋ではなかったので、ジョーはすぐ屋外に出た。─が
  「!」彼は足を止めた。暗い。夜中でもないのに辺りは真っ暗だった。が、よく見ると、暗いのは高く聳え立つ樹木のせいだった。どこかの山の中なのだろうか。生い茂る木々が、ジョーの行く手を遮っているように見えた。
 ─昔、同じような事があった。明るい屋内から外へ走り出た。庭の木々がまるでジョーに覆いかぶさるように揺れていた。後ろから足音が聞こえる。自分を追ってくる音だ─。
 ジョーな思わず外に飛び出すと闇雲に走った。追ってくる足音から逃れたかった。それは今なのか。それとも昔なのか・・。
  「うわっ!」
 足もとが崩れ、彼は20mほどズーと滑り落ちた。尻から着地し唸った。しかしそれが幸いした。彼の姿は木々に埋もれて追手の目から隠してくれた。 

  「なんて事だ。まさかクロードが裏切るとは」ハンスはイラつき、男達に指示をする「ボウヤの事はもういい。それより早く荷物を運び出すんだ!」
 奥の部屋に隠してある商品を全部移し替えなければならない。
 ハンスは床に倒れているクロードを見ると舌打ちした。

 どれくらいそうしていたのか・・・おそらく10分と経っていないだろう。土や草の匂いにジョーは目を開けた。右手にはジョーの時計、スピードマスターが握られている。
 ジョーはかすかな月明かりで通信モードにセットする。神宮寺のコールナンバーを打ち込み発信した。日本国内だったらどこでも届くはずだ。 
   『ジョーか?神宮寺だ』10秒と経たないうちに返事がきた『今どこにいる』
  「わからない・・山の中みたいだ」
  『山の中?よしトレーサーモードに切り替えろ。すぐサーチしてやる』
  「それより神宮寺、やってもらいたい事がある」頭がボウとし話すのが辛い。でもこれだけは伝えなくては「今夜遅くか明け方に出港届を出している船を押さえろ。“ヨコ”という字のつく港からだ。おれが今いる所から近いかもしれない」
  『手がかりはそれだけか?なんにせよ、お前の居場所を確かめないと無理だ』
  「奴らが逃げる!その船で出国するつもりだ」
  『わかった。やってみる』返事がない『ジョー?どうしたんだ?』
  「─わりィ・・・。気が抜けた・・・」
  『気絶していたも構わないが、発信だけは続けてくれ』
 また声が聞こえなくなった。しかしトレーサーモードは生きているので、居場所を捜しあてる事はできるだろう。
 神宮寺はポルシェのPCナビにジョーのスピードマスターのコードを入力した。
 神宮寺の要請でJBが動き出す。
 情報課は関東の各港の管理事務所へ出入港のデータ提出を求めた。通信課は神宮寺の車のPCナビを介してジョーの居場所のサーチに入った。
 出動に備え機動捜査隊のメンバーが集合し、森チーフからの指令を待っていた。
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Comment

淳 says... "覚書き"
書きたいと思うとわずかな時間でも書く。
ただ一気に書きたいところはじっと溜めているが。

2巻のラストはどこへ持って行くか迷う。
港もいいが「チョッパー」(昭和篇)と同じになってしまうような・・・。
色々迷ったがやはり港になる。
そのままストレートに。
2011.01.10 18:01 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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