コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

大地と海のプレリュード 6

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(なんであんな夢を見たんだろう)窓際のシートに着きジョーは思った。(彼らとあの碧い海に行った事なんてないのに・・・)
 昨夜の夢はジョーの子どもの頃の記憶ではない。彼が勝手に作ったシーンなのか、それとも記憶の底に無意識に沈めているものなのか。
「どうした?」隣に座る神宮寺が言った。「やはり痛むか?ニューヨークに残った方が─」
「やなこった。せっかくデイトナで走れるのに」
 昨夜あんなに腫れていた左肩だがホテルをチェックアウトする頃にはすっかり腫れも引き、少し痛みは残るものの動かすには支障はなくなった。
 神宮寺は、“おれの手当てのおかげだ”と言い、ジョーは、“一気飲みしたイタリアワインのおかげだ”と言った。
「それより夕べサントスが何かしなかったか?」
「サントス?何を?」神宮寺が怪訝な目を向けてくる。どうやら手は出さなかったようだ。「そういえばデイトナから直接日本へ帰るかもしれないと言ったら、お別れ会をしたいからぜひニューヨークへ戻ってきてくれって言われたよ。無邪気なものだな」
「・・・・・」
 何が無邪気なもんかあのやろう。任務が終わって気を抜いている相棒につけ入ろうという魂胆か。おれの相棒だ。ニューヨークになんか戻るもんか。が、今は─。
「・・勝った」
 ニンマリと頬を緩ませ呟くジョーを神宮寺が怪しげに見た。

 眼下に大西洋の青い海が広がる。
 JFK国際空港からデイトナビーチ国際空港まで3時間弱のフライトだった。この空港はデイトナ・インターナショナル・スピードウェイのすぐ裏手にあり、デイトナビーチの玄関口になっている。
 空港ロビーに下りるとモータースポーツの街らしくハーレーダビットソンの巨体がデンッとディスプレイされていた。洸にメールで送ってやろうとジョーが携帯電話で撮影して、“デイトナだ”とコメントをつけて発信した。
 来られなかった洸を少しは気にしているのか。いいとこあるな、と神宮寺は思った。
「Est-ce que c'est Jinguji et Asakura?(神宮寺君とアサクラ君ですか?)」2人の目の前に金髪の男が現れた。「初めまして、パリ本部のマルセです。よろしく」
「こちらこそ」
 2人はそれぞれ握手を交わす。
 30の半ばぐらいだろうか。金髪に薄い青色の瞳をしたなかなかの男前だ。本部の指令により2人より先にデイトナに入りサーキットやセスナの予約、準備、そして変更の作業を行ってくれた。今日からは2人がその作業を引き継ぐ。
「あの・・マルセって、もしかして・・・」
「ああ、本部副長官シュベール・マルセは私の長兄だ」
 どうりでそこかで見た事のある風貌だと思った。そのとたんジョーがホッと息をついた。初めて会う人間は苦手だ。だがあのシュベールの弟だと思うと少し安心できた。
「Therefore I call it Joan(だから私はジョアンと呼んでくれ)」
 フランス語が得意ではないというジョーに、英語は苦手だがと苦笑したジョアンだが、その発音はわかりやすい。
「あち?!」
 ロビーから外に出たとたんジョーが声を上げた。この時期だと昼間の最高温度は軽く30度を超える。太陽と海に近い分ニューヨークより暑く感じる。
「暑いが慣れるまでしばらくは半袖は避けた方がいい。一気に焼くと火ぶくれを起こすよ」
 さっそく上着を脱ぐジョーを見て言った。袖を捲くろうとしていたジョーの手が止まる。
 ジョアンは車のキーを取り出しハッチバックを開けた。フォード・エクスプローラーXLT、ファイブドアの4WDだ。この車もジョアンが手配し、これからの2人の足になる。
 ちなみにアメリカのレンタカー大手のほとんどで車をレンタルできるのは25才以上からと決められている。神宮寺もジョーもその条件を満たしていない。
 ジョーが運転したそうな顔をしたが、ジョアンからキーを取り上げる事はしなかった。
 ジョアンは明日の朝の飛行機でフランスに戻るというので空港そばの店で早めの昼食を摂り、また空港に戻って明日からのテストに使うセスナ152を見た。これは航空訓練用によく使われる2人乗りの機種で、波照間の時と同じものだった。
 整備士に紹介され機体と機内をサッと見る。明日は実際に乗っての点検となる。
「しかし国際空港の一角を借りるなんて、国際警察もやるなァ」
 ジョーの言うとおり大きくはないが一応国際空港だ。それだけ国際警察の存在は重く見られているのだろう。
「あの青い海の上を飛ぶのは気持ちがいいだろうな、神宮寺」うんうんと神宮寺も笑顔で頷く。「きっとお前が持っていたガイドブックのような綺麗な眺めだろうなァ」
「うん、きっとそう─って、お前なんでガイドブックの事知ってンだ!?」
「スーツケース、開いてたぜ」ジョーがニッと神宮寺を見る。「1番上にデンッと置いてあった。さすがに手にはしなかったが、しおりが挟んであるのはデイトナのページだろ?」
「・・・・・」
 当たっているので何も言えない。“お前もおれと同じじゃん。そーさ、そーだよな”と言われ蹴っ飛ばしてやろうかと思った。
 そんな2人をジョアンが不思議そうに見ている。

 次に3人は空港のすぐ西側にあるデイトナ・インターナショナル・スピードウェイに向かった。インディアナポリスと並ぶアメリカを代表するレーシング・サーキットだ。スーパースピードウェイと呼ばれるオーバルの一周2.5マイルのコースと、その内側も使った一周3.56マイルのロードコースを持ちバンク角は最低で18度、最高が31度と立つ事も難しいほどの角度を持っている。
 今年はもう24アット・デイトナもデイトナ500も終わってしまったが、レース以外にもレーシングカーのテストコースとしても使われているので運が良ければ見学できる。
 普段はトラムを使った見学ツアーがあるのだが、コース、観客席の一部改装が行われている今は完全に封鎖されていて入る事はできない。Sメンバーテストには打って付けだ。
 3人は本物のレーシングマシンが出迎える入口からパドックに向かった。歩いて15分掛かる広い敷地だ。
 その広い空間をジョーがゆっくりと見回す。車もなくエキゾートノートもエンジンオイルの焼けつく匂いもない不思議な眺めだ。ここでは過去に時速444キロを出したという記録が残っている。
「なるほど。こうして見るとちょっと怖いコースだな」ジョーが呟き、神宮寺とジョアンが彼に目を向けた。「コースがD型で難しいスプーンやヘアピンはないが、その分直線距離が長い。さらにコーナーもバンクを高くしてスピードを落とさずにカーブを通過できるように設計されている。まさにスピードの限界に挑むためのコースさ」
「君はカーレースに出てるんだって、ジョージ」なるほど、とコースを見回しジョアンが言った。「ディアブロを壊したのも長官のBMWを潰したのも聞いているよ」
「それ・・カーレースじゃねえぜ」
 眉をしかめるジョーにジョアンが笑った。
 やがて3人はパドックに着いた。テストに使うセダンタイプが2台、あと大型車やトラックが置かれている。
 ジョーはちょっとコースを走ってみたかったが、作業が遅れているのかコース上に工事車両が出ているので今日は無理のようだ。その代り明日1日たっぷり走ってやろうと思う。
「そーだ。ここも洸にメールして─」
 と、また写真を添付して洸の携帯に送信した。
「とりあえずホテルに入ろう。実はデイトナビーチから20キロぐらい離れた所にあるんだ」
 車に戻りながらジョアンが言った。
 デイトナビーチ周辺には大小合わせかなりの数のホテルが林立する。デイトナビーチ内だけでも6棟の大型ホテルがあるのだ。
 だがモータースポーツのメッカでもあるここデイトナは昼夜問わず車やバイクの出入りが激しい。夜通し走りたい者はいいが、休みたい者にはビーチそばのホテルはかなりうるさいのだ。もちろん防音はしているだろうが、ひどい時にはサイレンサーなしのハーレーが100台くらいドドド・・と走っているくらいの音が鳴り響くという。
 ジョーはそれでもいいなあと思ったが、神宮寺やましてテストを受けるアレンやリックには気の毒だ。
 ジョアンの用意したホテルはデイトナから南へ20キロ─ちょうどビーチとケネディ宇宙センターの中間くらいにある中規模のホテルだという。
「その前にビーチドライブを見せてあげよう」
 ジョアンの運転するエクスプローラーXLTがUSハイウェイ92を西に向かいそのまま川に架かる橋を渡ると、延々と36キロ続く白い砂浜沿いの道に出た。ここはアメリカでも数少ない、車が乗り入れる事のできるビーチで、ここを訪れる人の多くが一度はこのビーチドライブを楽しんでいる。
 日本の砂浜はほとんどが車の乗り入れを禁止しているので、ビーチパラソルの中で寝転がる人とそのそばを走る車のコントラストがちょっと珍しい風景だ。
「おー、車はもちろんだけどバイクも走ってるぞ」ジョーがはしゃいでいる。「そしてこっちは水着の美人か。よーし、これも洸に。一平には水着の美人だ」
 パシャパシャと連写して次々と送信していく。写真を撮りやすいようにジョアンが徐行してくれたが
「お、おい、ジョー。・・ちょっとやりすぎじゃあ・・・」
「なんでだよお!洸だってきっと喜んでるぜ。あれほど来たいって言ってたんだから─あれ?戻ってきたぞ?受信拒否だと?!あのやろう?!」携帯に怒鳴り再び送信ボタンを押してやる。こうなったらもういやがらせだ。「なんて恩知らずな奴だ。一平は“ありがと”って言ってきてるのに」
 神宮寺が肩をすくめ前席のジョアンがクックッと笑っている。と、
「ねえジョアン、おれもあれやりたい。ビーチをすっ飛ばしたい」
「ビーチドライブを?砂浜を走った事あるの?」
「ない。だからやりたい」
 後ろからねだる声を聞きジョアンがバックミラーでジョーを見た。ホリの深い男っぽい顔の眼だけが子どものようにキラキラとジョアンを見つめている。
「わかった」ジョアンはBeach Accese と書かれた標識から入りアクセス料金を払う。「だけどすっ飛ばすのはだめだよ。制限速度は10マイルと決まっているからね」
「ん?」ジョーはちょっと不満そうに唸ったが、とりあえず頷いた。「お前もやる?」
「いや、おれはいいよ。セスナで走って(?)いいっていうならやりたいけど」
「やってみろよ」
 ハハ・・と笑いジョーが運転席に着いた。ジョアンも笑ったが言ったら本当にやってしまいそうで気軽に口にできないと思い、移った助手席のシートベルトを締めた。
 多い時は何十台も車両が連なるが今日は少ない方らしい。
 エクスプローラーXLTのステアリングをジョーはいつもの左手を大きく回すスタイルではなく両手を並行に置く基本のハンドリングをとる。砂地を走るのは初めてなので珍しく慎重だ。
 ここの砂は硬く締まってはいるものの、砂である事に変わりはない。急発進や急ブレーキ、急ハンドルをきると車が砂に埋まってしまう事もある。
 ジョーはゆっくりスタートした。こういう時は静かに発進できるオートマは便利だ。だが4009CCを持つエンジンは少々不満そうだ。それはジョーも同様なのだが仕方がない。
 片側一車線で右側通行のビーチを10マイルで進んでいく。
 このビーチ内にはホテルはもちろんカフェもある。またビーチパラシルを広げたり水着で歩いている人もいる。
 初めはそれが気になったが走っているうちに目に入らなくなった。海の、こんな近くを走るのは初めてだ。太陽の日差しは強いが海風が気持ち良い。助手席のジョアンも後部席の神宮寺もしばし仕事を忘れた。
「サーキットもいいけど、こーいうのもいいな。神宮寺、おれのドライビングテクニックを撮って洸に送ってやれよ」まだ懲りないらしい。「お前のメールなら受け取るだろうぜ」
「デイトナのカーレースは元々この砂浜から始まっているんだ」ジョアンが言った。「サーキットよりこっちが先だ。その意味では今のこの走りが本当のデイトナ・カーレースかもしれない」
「もうちょっとスピード出せたらもっといいけどな?」
 アクセルを踏み込みたがる足を抑えるのは大変だ。
 前車とは少し離れているのでちょっとぐらいなら・・・と思ったその時、突然前を走る車のリアが流れガクンと下がった。ギュュ・・ンと音を立てタイヤが砂を跳ね上げる。水辺に寄り過ぎたのかタイヤが砂に取られ埋まってしまったのだ。ちょっとやそっとでは出られそうにない。
「くっ!」
 急ブレーキを避けジョーがステアリングを切った。XLTは砂にタイヤを取られる事なく前車の横をうまく擦り抜けた。だがわずかにリアが流れフロントが海の方へと向いた。
「うわっ!」
 目の前で海からの光が反射した。フロントが一瞬真っ白になった。
 ジョーの目の前で光が散った。こ、これはまさか以前と同じ─。反射的にブレーキを踏んでしまった。
 XLTは少しコースを外れて止まった。ジョーがステアリングに俯した。低い、苦痛を感じさせる声が彼の口から漏れる。
「ジョー!」神宮寺が気がつき、運転席と助手席の間に体を割り込ませた。「大丈夫だ。太陽の光が反射しただけだ。なんでもない」
「う・・・」
 ジョーの手がギクシャクと動き神宮寺の腕を掴んだ。小刻みに震えるその手を取ったがジョーは目を瞑ったまま顔を上げる事ができない。そのまま神宮寺の胸に頭を押しやる。いつもは頼りになる大きな体が今は何かに縋ろうとしている。
「こっちに移れ、ジョー。ジョアン、運転を代わってください」
 神宮寺がジョーを引っ張るように後部席に移した。あっけにとられていたジョアンが頷いて運転席に移る。幸い車は動いた。
「光が・・目の前で・・・」かすかにジョーの口が動いた。「・・あの時と同じように・・」
「うん・・。でもそれだけだ。あの時には戻らないよ」
 神宮寺がポンポンとジョーの膝を叩いてやった。と、彼は少し安心したのか顔を上げ青く光る海へ瞳を向けた。

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Comment

淳 says... "覚書き"
デイトナでの書き出しで始まったのに、半分に来てやっとデイトナへv-290

この話も結局(ノート)2冊になってしまった。それも1巻以上の見切り発車。

でも1巻もそうだったが考えているだけではなかなかストーリーが流れてくれない。
やはり書きながらでないとだめだわ。
2011.02.23 14:16 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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