コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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大地と海のプレリュード 8

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 翌日は珍しく朝から雲が広がっていた。午後には晴れるというので飛行テストに問題はないだろう。
 神宮寺とジョーは今、デイトナサーキットのピットロードにいた。コースではアレンがボルボを、リックがゴルフに乗り3周目に入ったところだ。2人共いい走りをしている。
「あれならおれがベンツスポーツで逃げても大丈夫なんじゃねーの?」やはりキャロルは遠慮したいようだ
。「だいたい700CCに満たない車で実際逃げようとは思わないぜ。無理がある」
 なっ、そうだろ。絶対無理だ、現実的じゃない、と力説するジョーに
「わかったよ。だがスポーツはだめだ。せめてあれにしろ」と、新たに持ち込まれたベンツCLR240を指指
す。オーソドックスなセダンタイプだ。「残念だな。キャロルに乗った勇姿を洸にメールしてやりたかったが」 
 るせー!とジョーが睨む。
 ボルボとゴルフが2人の前に停まった。
「ではこれから逃走車両の追跡テストを行う。まずはリック、凶悪犯はジョー」
「遠慮なく逃げるからな。ぶつけてでも止めろよ」
「Yes sir!」
 昨夜、ついジョーを子ども扱いしてしまったリックだが、今は試験官に対しての礼を尽くしている。
 彼は今
降りたばかりのゴルフにまた乗り込む。シートベルトを締めた。
「オートマか。やりづらいンだよな」
 と、ブツブツ言っているジョーだが、神宮寺がキャロルに目を向けるとあわてて乗り込んだ。パワーモード
が付いていたのでオンにしようとしたがやめた。
 バックミラーでリックの様子を確認してピットロードからコースに出た。
 ジョーが参戦するレースは国内のものに限られる。当然左回りだ。だがここは左ハンドルの右回りコー
スだ。レースだったら走り難いのかな、と思う。が、今はとにかく逃げるだけだ。
 第1ターンでフロントミラーにリックのゴルフが映った。かなりのスピードで追ってくる。小さなコーナーが
ないのでステアリングを持ち替える必要がなく、安心してスピードが出せる。
 ジョーは31度バンクを思いっきり高く昇りその勢いのまま次のストレートに突っ込んだ。
 コーナーリングの善し悪しでスピードに差が出るのはサーキット走行の常識だ。レーサーのジョーにはあ
たりまえの走りなのだが、当然リックは追いつけない。
「ジョー、レースじゃないんだからもう少し普通に走れ」神宮寺がマイクに向かって言った。“ラジャ!”と返
事が来たものの走り方はそう変わらなかった。「・・・しようがないな」
 目の前を喜んで疾走していくベンツに神宮寺はため息をついた。が、リックはもちろん諦めない。ストレ
ートではしっかりベンツを捕まえている。が、やはりコーナーのテクニックではジョーに敵わない。
 と、いきなりジョーが内部コースに入って行った。今日はここは使わないはずなのだが。
「オーバルじゃおれに追いつくのは無理だ!ここで差を縮めろ!」
 内側のコースはアルファベットのYが大きく手を広げたような形をしている。オーバルコースのようなスピ
ードは出せない。
 無線でジョーの声を聞いているはずだ。追手のリックは当然ついてくる。
 緩いスプーンカーブを2ヶ所抜けオーバルコースに戻る。リックの車はすぐ後ろについていた。ジョーが
少しペースダウンしたのだ。
 ゴルフがベンツに並んだ。サイドインサイドのまま第2ターンを回る。続くストレートでゴルフが寄せてきた
。ジョーが相手なので遠慮せずぶつけてくる気だ。
「させるかよ!」
 アクセルを踏み込みベンツがゴルフから離れて行く。が、少し行った所で突然ベンツがスピードダウンし
始め─やがて止まった。その後方10メートル程の所にゴルフが止まる。
 ジョーの事だ。何をするかわからないし、実際このような時は安易に近づいてはいけない。もちろん追跡
対象者が車外に出たらすぐ取り押さえなければならないが。
「ジョーの奴、なにを─あっ!」
 リックが声を上げた。止まっていたベンツがキキ・・・とタイヤを鳴らしながらバックしてきたのだ。
 こちらもすぐにギアをバックに入れ後進した。と、目の前まで迫ってきていたベンツがだんだん遠ざかっ
ていく。
「くそォ!やられた!」
 リックはすぐさまゴルフを発進させベンツの後を追った。本当にぶつけても止めてやろうと思った。ジョー
の走りがリックに火をつけ、彼のベンツに追いつこうとしている。
 31度バンクの手前でゴルフはベンツの左側に入った。だが高く回ろうとするベンツに釣られ、自身も大
きくバンクに入ってしまった。ステアリングがとられ前輪が右に流れた。
「あっ!」
 勢いがつき、ゴルフのフロントがベンツの横腹を突いた。
「くそォ!」
 チラッとゴルフに目をやり、ジョーが舌を打った。
 ベンツのリアがバンクを上がり、上部のコンクリートの塀にぶつかった。そこで跳ね返され、車体がスピ
ンしながらバンクを降りて行く。
 だがジョーはブレーキを踏まなかった。この傾斜でブレーキを掛ければ車がどのような形で止まるかわ
からない。ヘタするとゴルフを巻き込んでしまう。
 ジョーはステアリングを小刻みに動かし横転するのを防いだ。その神業のようなソーイングを、残念なが
ら目にする者はいない。
 一瞬、片輪になりステアリングを固定した。そしてベンツがバンクを降り切った所でブレーキを掛けた。
「ジョー!」先に止まったリックが走ってきた。「大丈夫かっ」
 ベンツから下りて来たジョーに声を掛けた。そのリックにジョーが無言でウッズマンを向けた。
「ジ、ジョー?」
「忘れたのか。おれは今、凶悪犯だぜ」
 あっ、とリックが声を上げた。
「死んでるぜ、あんた」ニヤッと口元を歪めウッズマンを下ろした。「まっ、おれを止めたから生かしといて
やるけど」
「やりすぎだ、ジョー」神宮寺とアレンが来ていた。「バックでバンクに入った時にはゾッとしたぞ」
「おれもだ」ジョーが肩をすくめ、「今度はお前に任せるよ」
 と、神宮寺の肩を叩いた。
 ずるいぜ?そんなの?、とリックが声を上げた。

 広く華やかな空間をハワード・ヒルトンは上機嫌で歩いていた。
 周りからは“Happy Birthday”の声が掛かる。ハワードはニコニコと手を上げ答える。その前後には屈強
な男達がついていた。そして会場のあちこちでも鋭い目つきの男達が一定の間隔を開け立っている。
 その一方の壁のそばにグレンとライトの姿があった。
 初めライトは少し離れて立っていたのだが、若く優しげな風貌の彼はパーティの客と間違えられダンスに
誘われる。ボディガードが踊っているわけにもいかないのでガッシリとしたひと目で?ソレ?とわかるグレンにくっついている事にした。
 そのグレンは先程から何人かの男をマークしていた。もちろん招待客なのだがハワードに向ける目が時
々とても鋭く激しくなる。
 もっとも裏の顔を持つハワードだ。仕事上だけではなく恨みを買う事も多いだろう。このままただ睨みつ
けているだけならよいのだが─。
 グレンはひとつ息をつき大きな窓から見える青い海に目を向けた。


「ショートフィールド・テイクオフOK、スティーブ・ターンOK、レベルオフOK─なんだよ、おれよりうまいじゃん」
 右席でバインダーに挟んだ書類に書き入れながらジョーが言った。
「おれ、8つの頃からセスナ動かしてるからな」左席についているリックが言った。「実家はミネソタで牧場
をしている。飛べないとどこへも行けなかったんだ。車の運転より先に覚えた」
「なるほど。小細工は利かないってわけか」は?と訊き返すリックを無視して、「これじゃあつまんねえから
海面スレスレの背面飛行なんてやってみる?」
「・・・それ、本当にテスト科目に入っているのか?」
 ナハハ・・・と笑うジョーに、絶対入ってないな、と確信した。
 午前中かかっていた雲はなく、またフロリダの太陽が戻ってきている。イカロスだったら翼のロウが溶け
て墜落してしまっただろう。
「なあ、ジョー」
 ん?と若いくせにやたらと存在感のある男が顔を向けて来た。
「昨日、どうしてSメンバーになりたいか訊いただろ?そしておれは大きな事件を扱いたいからと答えた。
だけどもう1つ理由がある。いや、これが1番の理由かな」緩やかなコーディネード・ターンに持って行った。「4年くらい前におれ1回君に会ってるんだ。日本支部で」
「え?」
 ジョーが目を見開き、まじまじとリックを見た。
「やっぱり覚えてないか。君がまだ狙撃部にいた頃だ。チーフの護衛でJBに行って、通りかかった射撃場
で君は他のメンバーから射撃のレクチャーを受けていた。こんな子どもがなぜと思ったが、その時案内してくれた人が、“彼はアマチュアの全日本チャンピオンだ”と言っていたので、じゃあちょっと腕を見てやろうと思っておれと動体射撃の勝負をした」
 ジョーが首を傾げた。覚えていないようだ。
「結果は見事おれの負け。撃ち終わっても君はしゃべらず、またレクチャーを受けに戻って行って─。あと
で君が17才で入隊したばかりだと聞いて驚いたんだが」
「悪い。覚えてない」ジョーがあまり悪いとは思っていないだろう言い方をした。バインダーの上の書類を替
える。「おれに勝った奴だったら覚えているかもしれないが1人もいなかった」
「そうそう、そんな生意気そうな子どもだったよ」リックが苦笑した。機はナビゲーションどおり水平飛行に
入っている。「それから2年後に君がSメンバーになったと聞いて、おれもSメンバーを意識するようになったんだ。アメリカの最初のSメンバーはおれだ、と」
「・・・・・」
 どう答えていいのかジョーにはわからなかった。
 狙撃部での2年間はほとんど毎日射撃場にいた。何十人もの人間と射撃訓練もした。その中にリックも
いたのだろう。
 だがそれよりリックがSメンバーを目指したのは自分が切っ掛けになったようでいやだった。だから、
「エンジンフェイラー!(エンジン停止)」
 と いきなりスロットルをアイドル回転へと戻してやった。
「う、うわっ!何を急に─!」
「トラブルはいつ起こるかわからないんだぜ!」
「だからって今やるか!?」
 海上なので不時着地点を選択する事はできないが、とりあえずスパイラル・ターンで高度処理を行った。
500フィートまで降り、イグザミナー(試験官)のOKが出た。
「これも合格か。つまンねえの」
「おれに何をさせたいんだ」
 リックがジョーを睨みつけたがジョーは知らんぷりを決め込んだ。なんでおれの試験官は彼なんだ、と今
さら嘆く。
 徐々に高度を上げて行き、ふと眼下に豪華なクルーズ船が見えた。
「フロリダクルーズかな。いいなァ、あんな船で1ヶ月くらいのんびり過ごしたいね。Sメンバーになったら長
期休暇は無理かな」と、ヘンだな、と隣のジョーが呟いた。「おれが?」
「違うよ、あの船だ。ここは航路ではないはずだが」
 公の空路や航路になるべく掛からない場所を選んだとジョアンが言っていた。眼下の船はどう見ても2万
トンクラスのクルーズ船だ。個人の所有にしては大きすぎる。
 と、突然2人のヘッドセットに通信が入った。コールなしのエマージェンシーだ。
「5000フィートで待機だ」ジョーが指示を出し通信に集中する。が、相手は声をひそめているようでよく聞
こえない。「シージャック?」
 ジョーが呟き、やはりそう聞こえたリックがジョーと目を合わせた。その後も、“犯人は5人くらい”“人質
は50人”と伝え─そして切れた。
「一方的に入って一方的に切れる・・・あまりいい状況じゃねえみたいだな」
「あの船かな」リックが船の上空からセスナを遠ざける。もし該当船だとしたら余計な刺激は与えない方が
いい。「どうする?」
 ん?、としばらく唸っていたジョーだがデイトナビーチ空港の管制塔を通して船名の照会を頼んだ。と、そ
の船はやはりカリブ海クルーズツアーの船で、現在はある人物が借り切りカリブ海を航行しているはずだという。そういえば新聞でそんな記事を読んだな、と思った。
「一応沿岸警備隊に知らせて─」
「待て!」ジョーが声を上げた。リックの言葉が聞こえたのか船は急に転針し東へ─沖へと向かい始めた
。「レーダーエリア、ギリギリの所を追跡だ」
 一般のセスナ152にはレーダー装備はないが、この機は特別にオプションされていた。
 船をレンジギリギリに捕まえ追跡する。相手のスピードは速くはないが、どんどん沖に向かっていく。2万
トンクラスの豪華客船も洋上ではまるで1本の針のように見える。
「このまま外洋に出られると面倒だな」
 燃料計をチラッと見てジョーが呟いた。あまり沖に出てしまうとこのセスナ自体が陸まで引き返せなくなる
。あと100キロも飛べば帰りの燃料はギリギリだ。
「仕方がない。リック、船に接近しろ。おれが降りる」ええっ!?とリックが声を上げたが、「早くしろ!」
 と言われ仕方なく船の上空へと向かう。と、ジョーがバインダーの書類に何か書いた。
「テスト項目を1つ増やすぜ」ジョーがちょっといたずらっ子の目で笑った。「さっき見たら船尾デッキにプー
ルがあった。そのサイドにビーチマットが重ねてある。おれはあそこに降りる。その上へ降下しておれが降りたらすぐに上空へ持って行け。失速するなよ」
「え、え?」
 言っている事がよくわからない。何が降りるって?デッキにセスナを降ろすのは無理だ。
「それからニューヨーク支部に連絡してくれ。あとは彼らが必要に応じて海上保安部隊に連絡してくれるだ
ろう。それと神宮寺にも」
 そう言いながらシートベルトを外しウッズマンを内ポケットに押し込む。ホルダは持ってきていない。弾丸
(たま)も装填分の10+1だけだ。
「おい、ジョー。いったいどうやってデッキに降りるつもり─」
「降下開始!ギリギリのところで右スティーブターン、その後上昇!」
 ジョーの命令にリックが反射的に操縦桿を倒した。
 今の彼の言葉でジョーがやろうとしている事がわかった。だがそれはお互いに取ってあまりに危険だ。し
かし機はもう降下に入っている。
 チャンスは1回しかない。やるしかなかった。
 フロントキャノピーにデッキが広がる。ジョーがドアの手動レバーを引き一気に押し開けた。空気が流れ
込み機が不安定にガタガタと音を立てている。傾きが45度以上になった。
 そのまま横滑りするかと思った次の瞬間、ジョーが空(くう)に跳んだ。ドアがバタン!と閉まる。失速しそ
うな機体を騙し騙しなんとか上昇へと持って行く。
「ジョー」
 ひと息つきデッキに目をやると積み重ねられたビーチマットの上でジョーがもがいていた。足元が柔らか
すぎてなかなか立てないようだ。が、やがて大きな体と長い脚を翻しストンとデッキに降りた。
「な、なんて奴だ・・・」
 リックは唸りジョーの命令通りマイクロフォンを手に取った。



         7 へ      ⇔


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Comment

淳 says... "覚書き"
デイトナのデイトナコースの資料がない!
どういう作りのコースなのか知りたいのに。
HPも英語でおまけに細かくてわかりづらいし。日本のようにコース説明もない。ネットで散々探したのだが。

それでもコース用語は英語でもだいたいわかるが、せめて31度バンクがどこにあるか知りたい
2011.02.24 16:04 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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