コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

大地と海のプレリュード 9

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 デッキに降りたジョーはとりあえずすぐそばのガラス張りの建物へと潜り込んだ。
 室内はカジノになっていた。スロットやルーレット台が置かれている。リゾート船なのにそこで遊ぶ者はいない。音楽さえ流れておらずシンとしている。
 第一セスナであれだけハデな事をしたのに誰も─船員さえも様子を見に来ないのはおかしい。 やはり彼らには動けない理由があるようだ。
 しばらく様子を見たが何の異変もないので動き出した。横の階段を下りて行く。
 ジョーは無線室に向かっていた。連絡をくれた者がそこにいるのはわかっている。だがなぜその人物だけ拘束されずにいたのだろう。犯人のスキを見て逃げ出したのか、もしくは無線室に立て籠もっているか─。
 今、自分がいるのは6階の踊り場だ。無線室はブリッジと同じ階にある。
 相変わらず人影はない。もし犯人が5人くらいというのが本当なら、この船の大きさでは彼らの手に余るだろう。人質全員をどこかに閉じ込めておいたとしても、5人でこの船全体を網羅するのは無理だ。そこに入り込んだ1人の人間を見つけ出すのも時間が掛かるだろう。そう考えジョーは1人潜入したのだ。
 と、長い廊下の先から何人かがこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。とっさにすぐそばの部屋へ入り込む。客室だったがキーは掛かっていなかった。
 ドアの隙間から走り去る者達を覗いた。3人の男だった。少し先で3方に分かれた。どう見ても優雅に船の旅を楽しんでいるようには見えない。奴らがシージャックの一味か。
 だがジョーは違和感を感じていた。
 金品を奪うためのシージャックとは思えない。何かの要求を突き付けるためか。それともテロ行為に及ぶためか─。
 しかしどれにしろ今目の前を走って行った男達はそのための特殊訓練を受けた者達には見えなかった。3人共40を2、3過ぎている元気なおじさん達だ。
(とにかく今は無線室へ)
 違和感を抱えたままジョーは廊下に出て船首の方に進む。
 セスナから見た時、ブリッジはスポーツデッキの1階下の階にあった。
 案の定?STAFF ONLY?と書かれたドアがあった。ノブを回すとキーは掛かっていなかった。 やはり長い廊下だが今までのような華やかな雰囲気はない。突き当たりがブリッジで─。
(ここだ)
?RADIO SHACK?と書かれたドアに耳を付け中の様子を窺う。キーは掛かっていた。
「誰かいるか」コンコンと小さく叩く。人の気配を感じた。「おれはあんたのエマージェンシーを聞いてやってきた。味方だ。あんたはここのスタッフか?」
 ゆっくりと優しく言う。すぐには信じてもらえないだろう。仕方がないが時間がもったいない。
「信じてくれ。君達を助けたい」
「─ジョイン?」室内から男の声がした。「その声はまさか・・ジョイン?」
「え─」ジョーが言葉を詰まらせた。おれを?ジョイン?と呼ぶのは─。「ライト・・か?」
「ジョイン」ドアが開いた。グレンの相棒、ダークブロンドのライトだ。「驚いたな、こんな所で会うなんて─。あ、入って」
 ライトがジョーの腕を引っ張った。室内に人の気配を感じジョーが緊張する。
「大丈夫、彼もボディガードサービスだ。おれとは別のチームだが」今度は男に向かって、「彼はジョイン。信用できる男だ」
「キーツ・エマーソン」
 ジョーは名前だけを告げる黒髪の男の握手を受けた。
「さっきも言ったけど、おれはエマージェンシーを聞いて来た。発信したのは?」おれだ、とキーツが言った。「いったい何があった─」
 ふいにジョーの言葉が切れた。何かを思いついたようにライトを見る。
「あんたがこの船にいるって事は・・・この船の借主は・・・」
「そう、ハワード・ヒルトンだ」頷きライトが答えた。「ミスター・ハワードの60回目の誕生日パーティにカリブ海クルーズを計画し、取引先のトップを招待して2泊の予定で出航したんだ。シージャックされたのは昨日の昼頃だった。おれとキーツはたまたま交替でミスターのそばを離れていたんだ。無線で知らせようと思ったがコードが切られていて、さっき直ったところだ」
「犯人が5人というのは確かか?乗客や船のスタッフはどこだ」
「おれ達が確認したのが5人だ。だがまだいるかもしれない。招待客はメインホールに閉じ込められている。こちらに危害が及ぶ事はなさそうだが問題はミスターだ」
「ライト」
 ジョーにペラペラとしゃべるライトにキーツが声を掛けた。
「大丈夫だよ。彼は協力してくれる」なっ、とウインクを寄こした。ジョーが頷く。ハワードが?死の商人?だとしても今は被害者だ。見捨てるわけにはいかない。「奴らはミスターだけ皆と離しメインラインジに一緒にいるらしい。グレンやキーツの相棒も一緒だ」
「奴らの狙いはハワードか。で、そいつらの目的や正体はわかるか?」
「わからない。だけどヘンなんだ。奴らのリーダーはおそらく何か・・たとえば警察のような組織的な訓練を受けた奴だと思う。でも後の男達は違う。素人みたいだ」
「・・・・・」
 ライトもジョーと同じ違和感を持っているようだ。奴らはシージャックや過激なテロを専門に行うチームではないという事か。そういえばシージャックした船をいつまでも沿岸辺りにウロつかせているのも素人っぽい。
「ところで船員は?1人も見なかったが」
「航海士と機関士だけ残して、後は救命ボートで下船させられた。奴らの1人が船を動かしている」
 つまりどこへ行くのも自由という事だ。航路なんてわからないだろう。あまり好き勝手に進まれると後から来る神宮寺達がこの船を捕捉できなくなる。?手?は少ないが行動を起こした方が良い。
「この船は今外洋に向かっている。早いとこ奴らを押さえよう。?手?はあるか?」
 ジョーの問いにライトがS&Wモデル457を、キーツがやはりS&Wチーフズ・スペシャルを出した。どちらも携帯に便利なコンパクトモデルだ。
 日本で一緒に仕事をした時、ライトは銃を持っていなかった。日本の法律に則ったのだろう。しかしここはアメリカ。ボディガードどころか一般人でさえ銃を手にする事ができる。
「ところで無線機は使えるのか?」
 と、キーツが肩をすくめ切れたコードを指差す。どうやら応急処置の、1回限りの通信だったようだ。
 仕方なくジョーはスピードマスターの通信をオンにした。が、かすかにガガ・・・とノイズが聞こえるだけで神宮寺のリンクを捕らえる事ができない。繋がるかどうかわからないがトレーサーに切り替えた。
 ジョーの仕事を知っているライトは平然としていたが、キーツは“なんだそれは?”という目でジョーを見ている。?事?が終わったら、ちーと締めとかないといけないな、と思った。
「行こう」
 廊下に出てチラッとブリッジの方へ目を向けた。
 人数がいれば同時に押さえたいところだがボディガードとはいってもジョーのような専門家ではない。ライトは以前はFBIにいたというがやはり神宮寺や洸達とは違う。ブリッジにいる犯人は1人らしいが、だからといってこちらも1人で行かせるのは不安だ。
「ジョイン、おれがブリッジを押さえる」ライトが言った。「実は君が来る前にキーツと話してたんだ。おれがラウンジでキーツがブリッジと。でも君が加わったからおれはラウンジに回った方がいいだろう」
 だが・・・と言い淀むジョーに、
「おれは元FBIの強行班にいたんだ。ブリッジを押さえている奴は1人だし大丈夫。任せてくれ」
「わかった。犯人を押さえたらすぐに進路修正をしてくれ。これ以上本土から離れたくない」うん、とライトが頷く。「行くぞ、キーツ」
 ジョーが先に走り出す。キーツはチラッとライトに目を向けたが彼が頷くのを見るとジョーの後についた。

 メインラウンジは3階の船首にある。ドアが閉まっているので音は聞こえない。
 2人は大きなドアの左右に張り付いた。と、突然中から銃声と、“うわっ!”という悲鳴が聞こえた。
「エド!?」
 いきなりキーツがドアを開け中に飛び込んだ。再び銃声が響く。
「キーツ!」
 ジョーも飛び込む。が、すぐにこちらに銃口を向けている男の姿を捕らえ横に跳んだ。
 広いラウンジはイスが一方に寄せられていて遮る物は何もなかった。真ん中のダンスフロアに彼らはいた。イスに腰掛けたハワードの横に後ろ手にされているグレン、その前に立つ大きな男、その周りに2、3人の男が─。
 そしてジョーのすぐ横では、倒れている金髪の男にキーツが取りついていた。彼の相棒なのだろうか。肩を撃たれて意識がない。
「ボディガード・サービスが遅いお出ましだな」
 大きな男が言った。日に焼けた肌に黒い髪、手には大型の拳銃が握られている。その目がジョーに向けられた。
「お前、セスナから飛び降りた奴か。何者だ。警察か?」だがジョーは答えなかった。男の向こうではグレンが目を見開いてジョーを見ている。「名前と所属は?」
 男の言い方にジョーは、こいつもしかして警官?と思ったが─。
 ふいに銃声と共にジョーのすぐ横を弾丸(たま)が飛んで行った。ジョーは一瞬目を眇めたがそれ以上動かなかった。フンと男が鼻を鳴らす。
「まあいい。動くなよ。今度は当てるぜ」
 ツッと銃口をハワードに向けた。と、小柄な男がジョーに近づきその手からウッズマンを取り上げた。そのまま自分の内ポケットに突っ込む。キーツも銃を奪われ倒れている相棒から引き離された。
「すぐに済むからおとなしくしていてくれ」そう言いジョーとキーツを後ろ手に縛ると隅のイスに押し付けた。「おれはあんたの息子のように無差別に殺るような事はしない。この前の爆発事故で何人殺した」
「テッドが爆発させたわけではない」ハワードが言う。「あれは学校に持って行った─」
「だが売ったのはあんたの息子だ。なのに証拠不充分で捕まらないっ。何件同じような事故を起こしていると思う!あんたの息子も同罪だ!」
(テッドって、あの・・・)
 サントスが言っていた事をジョーは思い出した。ではあの男は─。
「テッドにもあんたにも同じ思いを味あわせてやるよ」と、男の胸ポケットのトランシーバーが鳴った。「うん、わかった─。連れてきてくれ」
 トランシーバーを切り男がハワードに目を向けた。ハワードの表情が強張る。
 やがてドアが開き幾人かの男達が入ってきた。─と
「テッド!」
「サントス!」
 ハワードと男が同時に声を上げた。男達の先頭は小柄なテッドと巨漢のサントスだった。
「ど、どうして・・サントス・・・」
「テッドの件はおれ達の担当だったよな、ディーノ」サントスが男─ディーノに哀しそうな目を向けた。「なんとかしたいと思うよ。だが・・・これはだめだ」
「だがな、サントス。ESUやSWATにいたのでは奴は押さえられない。だからおれは」
「被害に遭った親達と組んでこんな事をしたのか。自分の息子の敵を討つために」
 サントスの言葉にディーノは唇を噛みしめ彼を見返す。と、サントスの目が動いた。ジョーを捕らえる。ちょっと口元を歪め、そして自分の周りを固めている男達を睨んだ。皆サントスの気迫にビクビクしている。
 彼らが被害者の親か?素人のはずだ。問題はサントスの知人のあのディーノという男か。
 ジョーはなるべく体を動かなさいようにしながら後ろ手にされている縄を解いでいく。
「こちらとしてもあっさりテッドを渡すわけにはいかない」
「だから付いて来たのか」銃口がサントスに向いた。「そんな奴を庇うために」
「違う。おれはテッドよりあんたの方が─」
 突然頭上からボンッ!と爆発音が聞こえた。皆とっさに上を向く。
 サントスが動いた。テッドをジョーの方へ突き飛ばし自分はディーノに飛びついた。銃を持つ右手を掴み、2人共その場にドンッと倒れた。
「サントス!」
 ジョーはテッドを受け止めイスに押し付けると、横に立っていた男を蹴り上げ上着を引っ張った。内ポケットの自分の銃を取り返す。
 フロアではサントスとディーノが揉み合い、やはり縄抜けに成功したグレンとキーツが他の男達を相手にしていた。とても銃は使えない。だがディーノ以外はジョー達の相手ではなかった。が、あわてた1人の男が小型のショットガンを持ち出し、辺り構わずトリガーを引いた。
「うわっ!」
 右の肩を掠りジョーが転倒した。だが銃弾を浴びたのは彼だけではない。グレンも、とっさに庇われたハワードもサントスやディーノまでも─。
「やめろ!」
 ジョーがショットガンを撃つ男の後ろから飛び掛かった。首に腕を回し仰向けに重なって倒れた。上を向いた銃口から散った弾丸が豪華な天井を走る。シャンデリアが割れた。
 ジョーは男を気絶させようと首を絞めるが、パニックになっている男の指はなかなかトリガーから離れない。と、ドスドスと地鳴りがして男の手からショットガンがすっ飛ばされた。サントスが蹴ったのだ。
「大丈夫か、ジョー」
 やっとおとなしくなった男を転がし、サントスがジョーを引っ張り上げる。
「おれよりあんたの方がひでえぜ」サントスの太い腕を見て、「レアのボンレスハムみたいだ」
「ハムから血が出るかっ」そう言い放ちすぐにディーノの所に戻った。「しっかりしろ!今の爆発はなんだ!」
「奴らを同じ目に遭わせて・・やる・・・。船内に爆弾を・・」
「なんだと!なんて事を─どこに仕掛けたんだ!あ、こらっ、しっかりしろ!」
「気を失っただけだ」ジョーがサントスの横に跪く。「だがこのままじゃ時間の問題だぜ」
 ディーノは全身にショットガンを受け、サントスも左腕に被弾したらしく血が流れている。
「ディーノはESU時代のチームメイトだ。彼の方が十(トオ)も上だがESUでは同僚だった。それが 1年前、彼の息子が爆弾事故で死んで・・・その半年後に彼はESUをやめて─」
「そうか・・。前におれに話したテッドの件か」ああ、とサントスが頷く。「経過は後で聞くよ。今は爆弾を処理する方が先だ。─グレン、無事か!」
「ああ、おれもミスターもキーツも掠り傷だ」グレンが答えた。「ライトはどうした?」
「まさか、さっきの爆発はブリッジで─。ここを頼むぞサントス!」
 ジョーが走り出そうとした。が、ガクンと膝をつく。見ると右足の太ももの真ん中辺りに1発食らっていた。
「くそォ、こんな時に─うわっ!」突然、ジョーの体が空(くう)に持ち上がった。サントスが抱き上げたのだ。「放せ!大丈夫だ!」
「この方が速いぞ。それに君に何かあったらミスター・ジングージに合わせる顔がない」
「降ろせ、サントス!自分で歩ける!」暴れるジョーに、サントスは仕方なく彼を床に立たせた。「お前は奴らの傷の具合を診て、爆弾の場所を訊き出せ。グレン、キーツ、手伝ってやれ」
 そう言い放ちラウンジを走り出た。グレンとキーツがサントスに顔を向ける。
「元気なぼうやだな」
 ジングージは苦労してるだろうな、とサントスが息をついた。


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