コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

光と影のラプソディ 1


「な、なんだよ、ここ!?」
 目の前の光景にジョーは思わず声を上げた。
 マッカラン国際空港に降りタクシーでラスベガス・ブルーバード─通称ストリップと呼ばれる大通りに出たとたん、巨大なピラミッドとスフィンクスが出迎えてくれた。さらにいくつもの塔の建つ城の前を通り、宿泊先のホテルの前にはこれまた巨大な金色のライオン像が鎮座ましまし、通りを挟んだ向かい側のホテルには自由の女神とジェットコースターが空(くう)をのたうっていた。
「ラスベガスって・・・いつから遊園地になったんだ・・・」
「いつからって─」横に立つ神宮寺が言った。「エンターティメント・ホテルは前からあるぜ」
「ラスベガスって言ったら、金と酒と女と悪党と─」
「・・・いつの映画を見たんだ?」
 神宮寺がため息をついた。ジョーは立花からよく昔の映画やドラマのDVDを借りて見ている。その中にそんなシーンがあったのだろう。
 確かにラスベガスを世界一の歓楽街へと導いたニューヨークのマフィア、バグジーの時代にはそんな事もあったかもしれないが、今やラスベガスは立派に世界一のテーマパーク都市だ。家族連れが安心して遊べる街なのだ。
「まあそうクサるな、ぼうや。ベガスと言えばやはりカジノだろう」
「そう、カジノだ!」ジョーの表情が明るくなった。「やっぱりカジノだよな。おれやっとカジノに入れる年になったし─って、なんであんたも降りるんだっ!!」
「同じホテルなんだから仕方ないだろ」ジョーの後ろでガハガハと大口開けて笑うサントスが2人を見降ろす。「そうか、カジノは21才からだからな、ぼうやは初めてか。今まで大人の時間はおとなしくネンネしていたってわけだ」
「──」
 ネンネはしていないが半分は当たっているので何も言えない。
「おれは何度もカジノに行っている。まっ、任せておけ」バンッ!とジョーの背中を叩き、また大口で笑った。「もちろんミスター・ジングージはていねいにエスコートするぜ」
「・・エスコートはカンベンしてくれ」
 苦笑する神宮寺の腕を取りサントスがMGMグランドと書かれた巨大ホテルに入っていく。
 ラスベガスのホテルの中でも最大級を誇るだけあり、客室数やカジノフロア、ロビー、プールなどどれをとってみてもアメリカンサイズのものばかりだ。広いロビーではあのサントスさえ小さく見える。
「チェ・・・」
 目の前を行く凸凹コンビを見てジョーが舌を打った。他のホテルに移ろうかと思ったが面倒だ。日本に帰りたいがこの休暇はJBからの〝命令〝だ。何かある。
 仕方なくジョーは2人の後に続いた。

 デイトナでSメンバー適正テストの最中にシージャック事件に巻き込まれたダブルJは、解決後州警察への報告を済ませその日の夜遅くまでかかってテスト結果の詳細をまとめた書類を書き上げると、ニューヨーク支部に戻るバートン達に託しその後昼近くまでベッドに潜り込んだまま眠り続けた。
 右肩と右足をショットガンの弾丸が掠ったジョーは無理矢理医者に連れて行かれ少々不機嫌だったが、たっぷり寝たせいか目が覚める頃にはすっかり機嫌を戻していた。
 2人は夕方の便で帰国するつもりで準備をしていたが、そこへサントスがニューヨーク支部を経由して届けられたJBからの指令書を持ってきた。ひとあし先にニューヨークへ戻るバートンから預かったという。デイトナに着いたらすぐ神宮寺達に届けるつもりだったバートンだが、シージャックという出来事に神宮寺やジョーが関わっていたためうっかり今日まで渡せなかったようだ。
「また指令か?」ジョーが眉をひそめる。「ここからどこかへ飛べって事か?」
「そうらしいな」指令書をひと通り読み神宮寺が頷いた。「ラスベガスへ行けって」
「ラスベガス?」一瞬キョトンとした顔をしたジョーだが、次第にその顔に笑みが広がっていった。「やったぜ。おれカジノに行ってみたかったんだ。休暇じゃねえのか?」
「いや、詳細は追って知らせるって」神宮寺がちょっとイヤそうな顔をした。こういう時はロクな事がないのは今までの体験でわかっている。しかし逆らうわけにもいかない。「やれやれ・・」
 ため息をつきながらも神宮寺がエアチケットをネット予約した。
 こうして2人はデイトナビーチ国際空港からいったんロサンゼルス国際空港に飛び、そこから2時間かけてラスベガスのマッカラン国際空港に着いたのは翌日の9時を回っていた。
「見ろよ、神宮寺。スロットマシンがあるぜ」空港ロビーに降り立ったジョーが、そこに並ぶ何台ものスロットマシンを見つけた。「さすがラスベガスだな。ワクワクするぜ」
「ワクワクでもドキドキでもいいが、これ以上借金増やすなよ」
「っるせーや」
 ジョーがそっぽを向いた。その時
「借金のある奴はベガスに来ちゃいけねーぜ、ジョー」
「げっ!?サントス!?」ジョーの後ろに大口開けているサントスがいた。「なんであんたがここにいるんだ!」
「有給休暇をどう使おうとおれの勝手だ。ヘイ、ミスター・ジングージ、ベガスは?え、初めて?そーかそーか。じゃあおれが案内してやるよ。まずはチェックインしてから遊ぼーぜ」
 と、やんわりと神宮寺の肩に手を置きタクシー乗り場に向かう。
 1人残されたジョーはしばらく唸っていたが、カジノを目の前にして帰るのもシャクなのでなんとか我慢した。
 ところがサントスは宿泊するホテルまで2人と一緒だった。もっとも予約を入れたのは別々なので、2人はグランドタワーのバンガロースイートだがサントスはウエストウイングのシングルルームだ。
「部屋にネットサービスがあるのは助かるな」
 荷をほどくより先に神宮寺はノートパソコンをネットに繋げた。さすがにリンクやスピードマスターでの大陸間通信は無理だ。JBからの連絡は急ぎではない限りこのノートパソコンに入る。そこを経由して2人の通信機からアクセスできる。
 と、さっそくサントスから室内電話が来た。早めの昼食にいい所に連れて行くという。ホテル横のモノレール乗り場で待っているよう言われた。
「特にお前が喜ぶそうだ、ジョー」
「どーかねっ。サントスがおれにサービスするはずないし」
 キングサイズのベッドに体を放り出した。室内はシンプルだがベッドやソファ、バスも大きいのでジョーには嬉しい。このままウトウトしたくなったが、神宮寺が外出の準備をしているのを見ると強い意志で体を起こした。
 指令の詳細を受けるまでなるべく互いの所在をはっきりしておいた方がいいし、それ以上にサントスが神宮寺に余計な事を言わないか気になる。だから、“なんだ、やっぱカジノより食い気か”と笑われた時は蹴っ飛ばしてやろうかと思ったが。

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 サントスの言っていたモノレール乗り場はホテルとフロア続きになっていた。ここ南ストリップのMGMグランドと北ストリップのサハラホテルとを15分で結んでいた。車窓からは片方5車線の広いストリップ(通り)と立ち並ぶ巨大なホテルが見えた。
 サハラホテルというのはストリップから少し離れた中規模のホテルだが、モノレールの駅を降りたらすぐ目の前にコースが見えアバランチやハマー、コルベットが並んでいた。どうやら試乗コースのようで10ドルで試乗し放題だという。そう広くはないがハマーH2などがあるせいか砂利で坂道も作られている。
「まさかおれにここで遊んでろ、と言うんじゃねえだろうな」
 ジョーがサントスを睨んだ。
「それでもいいけど、まっ君にとってはそれこそ遊園地だな」
 白い歯を光らせ、“こっちだ”とホテルの建物に向かう。と、今度は空中で一回転しているローラーコースターが目に入った。
「・・・おい」ジョーのじと目がサントスに向けられる。「こっちか?」
「その向こうだよ」
 サントスが指差す建物に目をやると何台かの車が置いてあり─
「Nascar?」
「Cafe」
 ジョーと神宮寺が巨大な看板の字を半分づつ読んだ。
「ナスカーのテーマレストランだ」
 店の入り口前にはナンバー付きのストック・カーが置かれていた。広い店内にも何台ものマシンがディスプレイされている。ネクスタルカップの9mの優勝カップやスチールレプリカも展示され、さながらナスカーの博物館だ。
「すげえな」
 ネクスタルカップレースで実際に優勝したナスカーの前にジョーが立つ。口元に笑みを刷き目が柔らかい光を帯びる。ふと上を見るとカージラスと呼ばれる巨大なストック・カーが吊るされていた。その下─つまり1階は3Dシアターで、レースを体験できるラスベガスサンバースピードウェイというスポーツカフェになっている。
 普通のテーブル席は2階で、真ん中の吹き抜けを見降ろすとさっきのカージラスを上から見る形になる。グッズやウェアも売っていて車好きなら1日いても飽きないかもしれない。
 レストランはバーガーやポークチョップなどのアメリカンカジュアル料理だ。
 神宮寺もジョーもチーズとトマトのたっぷり入ったサンダーロールバーガーにしたが、主役はもちろん脇役(ポテト)も大きいうえに量が多い。
 2人がちょっと持て余すのを、大きなポークチョップを注文したサントスが片付けてくれた。
「デイトナでアレンから君が車好きだと聞いてな。ここを思い出したんだ」
「ん・・・」
 コーヒーを飲みながら1階を見降ろしていたジョーだが、入ってきた時とは違ってだんだん表情が曇っていった。目はナスカーに向けているが実際には見ていないようだ。
「どうした?ナスカーは嫌いだったか?」
「そうじゃないさ」ジョーがサントスに目を向けた。やはり先程までの光は消えていたが、「あんたがおれのためにこんな所に案内してくれるなんて、何かあると思ったが─大丈夫のようだな」
「あるぞ~、下心。日本のことわざとやらに、“ショウを落とすにはまずウマを落とせ”って言うんだろ。〝ショウ〝はジングージ。ジョーは〝ウマ〝だ」
 ガハハ・・・と笑うサントスに、ウマ?と首を傾げるジョー。そして、“そーいう事は〝ショ〝?の前では言わないぞ”と神宮寺が苦笑した。
 1階に下り出口に向かう時、ジョーは〝2〝と番号の入った青と白の車をチラッと見た。その顔に笑みはなく何かを考え辛そうに見える。が、すぐに前を向き2人の後を追った。

「さて、次はどこに案内しようかね」
 サントスが頭の中にあるガイドブックを吟味している。
 ラスベガスというとやはり最初にカジノが思い起こされるが、このエンターテイメント都市にはカジノ以外にも様々な見所がある。
 各ホテルが企画する有料無料のショー、それこそミュージカルからレビュー、マジックやものまねなど客を飽きさせない。その他にも大規模な室内遊園地やナイトスポット、レストランにショッピングモールまで─この狭い範囲の中で何日も遊べるのだ。
「おれ、カジノに行きたい。ここのカジノは1日中遊べるんだろ」
「カジノならMGMが1番でかいが─いいのかい、ジングージ?」
 いつの間にかエスコートの対象がジョーになってしまっている事に気づかずサントスが訊いた。神宮寺が頷く。本当はカジノよりJBからの連絡が気になるのだが、時々部屋のノートパソコンにアクセスしているが指令はまだない。
「よし、それじゃあMGMに戻ろう」ホテル裏側のモノレールまで戻るのは面倒と、サントスはすぐ前のTAXI STANDに向かった。「後ろに3人は窮屈だからよ」
 と、助手席に乗り込んできたサントスを運転手はちょっといやそうに見たが結局何も言わず車を出した。
「あれ、ホテルの前が遊園地になってるぜ。うわ、こっちは滝か?山もある」車窓に現れるホテルはどれもこれも個性的だ。「あれって日本の五重塔か?エッフェル塔もあるぞ」
 よし、と携帯電話を取り出し写真を撮り洸にメールで送った。受信拒否は解けたらしい。
「まるっきりのお上りさんだぜ、ジョー」
 隣で神宮寺が笑っている。その笑顔をバックミラーで見たサントスがウヒヒ・・と笑い、運転手を気味悪がせている。
 やがてタクシーはニューフォーコーナーの、ホテル・ニューヨークニューヨークの前に停まった。歩道橋を渡り向かい側のMGMの黄金のライオンの前に下りる。そこはもうカジノの入り口だ。
 一般に〝カジノ〝と聞くと皆着飾って優雅にゲームをするシーンを思い浮かべるが、ここラスベガスのカジノは至ってカジュアルだ。一部のハイローラーやVIP室、バカラのテーブル以外ではTシャツにハーフパンツでもOKという気軽さだ。
 だが21才未満はカジノ禁止で立ち止って見るだけでもだめな所もある。だからジョーは今回が初めてのカジノとなるが、彼よりは実年齢より若く見られがちな日本人の神宮寺の方が心配だ。
 3人は本物のライオンがいるガラスの檻の前を通り両替カウンターで現金をチップと換えた。
「ギラギラした巨大なゲーセンだな」
 MGMのカジノはラスベガス一広い。カジノ内にはカフェはもちろんバーやダンスフロア、シアターまである。
「手始めはスロットマシンかな」
 ジョーはマシンを1台1台見て回った。ひと言にスロットといってもそのマシンによって種類が違う。ジョーは高額配当が望めるメガバックスを選んだようだ。
「こいつが当たれば借金なんてあっという間に─」
「それ以上増やすなよ、借金」
 後ろから神宮寺にささやかれ、うるせー!と睨みつけた。
「ミスター・ジングージ、ルーレットなんてどうだい」
 ちょうどゲームが終了して席が2つ空いた。着席するとプレイに参加すると判断させる。
 最低賭け金を確かめてサントスが赤のアウトサイド(2倍)にチップを置いた。ディーラーのくせを見るため神宮寺も黒のアウトサイドに置く。
 ディーラーがボールを投げ入れた。カラカラ・・・と音が響く。
“No more bet”とディーラーが言いボールがスポットに入った。黒の22だ。ディーラーが配当を渡していく。
「う~、今度はコラム(3倍)だ」
 サントスは赤の12の上より少しずらしてチップを置いた。縦一列の数字12個に賭けたのだ。だが神宮寺はまだチップを置かなかった。ディーラーがボールを投げ入れた。と、シックス・ウェイ(6倍)にチップを置く。
 回転が止まった。赤の25だ。
「残念だったな、ジングージ。一列ずれていた」
 2人の目の前でチップがディーラーの元に掻き集められた。神宮寺が肩をすくめた。


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Comment

淳 says... "覚書き"
前作もそうだが今回のラスベガス編もけっこう見切り発車。ストーリーはできているようないないような・・・。
ただ今までのように“ネタ~”とガツガツしなかった。一応ストーリーがあるから?
でも今までのように初日はあまり進まず、その時になって調べ物をしたりと時間が取られた。

しかしネットがあってほんと便利。一応本も手元に置いてあるがどうしても限度があるし情報が古い。
もっともネットも知りたい事全部が載っているわけではないが。

ちなみに文中のエンターティメントホテルの説明を
・ 強大なピラミットとスフィンクス → ルクソール
・ いくつのも塔の建つ城 → エクスカリバー
・ 巨大な金色のライオン像 → MGMグランド
・ 自由の女神とジェットコースター → ニューヨーク・ニューヨーク
・ 「ホテルの前が遊園地に」 → サーカス・サーカス
・ 「滝か、山もある」 → ミラージュ
・ 「日本の五重塔か」 → インペリアルパレス
・ 「エッフェル塔も」 → パリス

                                
               2007年現在の資料より

はたしてジョーは借金を清算できるのでしょうか。(そーいう話ではありません)
2011.03.03 15:12 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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