コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

封印されし記憶 9

  「いっ、てえ!」
 突然、目が覚めた。目の前には神宮寺の顔があった。右腕を伊藤が掴んでいる。わけがわからない。
  「脱臼していたぞ」
 神宮寺が言った。伊藤が治してくれたようだ。
  「早かったな」キャラバンの後部座席で横になっていた体を起こす「ここはどこなんだ?例の船は見つかったのか?」
  「逗子だよ、神奈川県の。ここら辺は山の中だが、もう少し下れば住宅地だ。助けを求めれば警察に連絡してくれただろうさ。不審者としてな」
  「フンッ」ジョーはクサる。
 しかし神宮寺の言う通りかもしれない。服はドロだらけで体はキズだらけ、おまけに目つきは悪いときている。
  「ほっとけ。で、船は?」
  「この近くなら横浜港か横須賀港だ。データから横浜で2隻、横須賀で3隻該当する船が見つかった。1万トン前後の貨物船だ。横浜には捜査隊の1と2、おれと第3部隊はこのまま横須賀に向かう」
 キャラバンのモニタを見ながら話していた神宮寺が、ふとジョーを見る。
  「本当は、お前を病院に送ってやりたいんだが」
  「冗談じゃねえ、このまま引き下がれるか。第1、奴らの顔を知っているのはおれだけだ。それに─」ちょっと言葉を切る「クロードの事も心配だし」
  「仕方がない。解決するまで我慢しろ」神宮寺が左肩を叩く。
  「いてえな、ケガしてるんだぜーって、こっちもさっきから、イテェって!」
 ジョーに凄まれ、弾丸傷(たまきず)の手当をしてくれていた伊藤が思わず手を引っ込めた。
  「仲間を脅すな」
 神宮寺にはジョーのイラつきが伝わる。カミソリのように鋭くなっている。
 拘束されてよほどおもしろくなかったようだ。
  「服はおれので我慢しろ。包帯は取り換えたし─」ふとジョーの顔を見る「そのバンソウコウはなんだ?」
  「言うな、神宮寺!」再びジョーが凄む「あー、また頭にきた!」 
  「・・・いいけど」神宮寺が意味深にジョーを見る。と、
  「神宮寺、眉村さんから連絡が入った」別の車両で来ている高浜が、キャラバンを覗く「横浜の2隻は違ったようだ。これからすぐ横須賀に向かうので合流─」
 ジョーの顔に目をやって言葉が切れた。目が泳いでいる。 
  「・・・なんだ?」また凄む。くせになってしまったようだ。
  「いや・・その・・・」高浜もジョーに睨まれ口ごもる「・・いい思い、したのかな・・・と」
  「は?」
  「だから、バンソウコウに・・」
 ここから先はとても言えない。そんな表情の高浜を見て。ジョーは自分の頬の特大バンソウコウを引っ剥がした。
  「!」
 表面に真っ赤なキスマークが付いていた。セシルの唇を思い出す。彼女を押さえつけた時に付いたのか・・・。もちろん“いい思う”をした覚えはない。
  「神宮寺、てめえ!」振り返った「なんで言わねえんだ!」
  「言おうとしたらお前が止めたんじゃないか」シレッと神宮寺が言う。さらに「お前、本当に拘束されていたのか?─いてっ!やめろ、ジョー!」
 現場に行く前に修羅場と化したキャラバンから、高浜は逃げ出した。


  「どうしたんだ、2人共」
 眉村が神宮寺とジョーを見比べている。2人と第3部隊は、横須賀新港の手前で眉村達と合流した。
  「もう、一戦交えたのか」
  「なんでもありません」
 前髪がバラつき、頬には引っ掻きキズの神宮寺が答える。
  「なあに、ちょっとした誤解を解くために話し合っただけさ」
  「・・・・・」とても納得できないが、これ以上訊くのはやめる「見たまえ、あの3隻の貨物船だ」
 キャラバンの窓越しに指さす。
 ここから新港全体を見る事はできないが、幸い該当の3隻はなんとか見える。
  「港の管理事務所を通して、3隻に船内捜索の要請を行った。2隻は応じたが残る1隻は応答がないそうだ」
 1番端に停泊している船がそれだ。
  「夜中でも当直がいるはずだ。応答がないのはおかしい」
  「余計な荷物や人を積んでるから、応答できないんじゃねえか」
  「念のため第1部隊はあとの2隻を見張る。第2,3部隊と君達はあの船へ」
 「わかりました」
 神宮寺が答えると眉村は機動隊の指揮を執るために行ってしまった。
 「今回の指令は商品と人間の確保だ。余計な事するなよ」
 「チェッ、それ以上何するっていうんだよ、おれが」
 「それからジョー、これを」
 キャラバンのボックスから神宮寺が銃を取り出す。
 「!」ジョーのワルサーP38コマーシャルだ「こ、こいつは・・」
 「丈夫だな、なんともないよ。一応、分解整備はしておいたが」
 神宮寺がジョーの前に差し出す。ジョーは一瞬目を伏せた。体が震えてくるのがわかる。情けないがどうする事もできない。手を出す勇気もない。
 「ジョー」そんな彼の様子に、神宮寺は静かに言う「今、これを手にできないと、これから先─」
 「・・・・・」
 顔を上げ神宮寺を見る。手を出し、少し触れてからようやく手に取った。まだ震えている右手を左手で掴む。銃身の冷たさを感じた。
 「神宮寺、ジョー」高浜や樋口、中根、江川が走ってきた「君達と合流するようにと眉村さんが」
 と、高浜が持っている通信機がピッ!と鳴る。
 「合図だ。行くぞ」男達が頷く。
 ふとジョーに目をやると、彼はワルサーを見つめたまま合図にも気がつかないようだ。
 「ジョー、行くぞ」
 「あ、ああ」神宮寺に言われ我に返る。ワルサーを胸のホルスタに納めた。
 合図とともに上甲板に架けられた非常用の梯子を使い、ダブルJと2、3部隊が登り始めた。
 時間はまだ夜の8時頃だが、まわりは封鎖されているので一般人を巻き込む事はないだろう。なにせ商品が銃や弾丸だ。文字通り売るほどある。
 近くに停泊している船の乗組員達も、一時退避している。
 「どうやら、ばら積み船らしいな」樋口が言った。
 穀物や石炭など船倉に積み込んでいる。船員達が寝起きするのは上甲板より上だ。
 「入るぞ」樋口の合図で、20人の男達が前後左右から上部船室内に突入する─が、
 「うわっ!」中根が倒れた。足から血が出ている。
 「奴らだ」ジョーが唸る。
 中根を引っ張り自分の後ろに置く。が、撃ってきたのは2、3発だけだ。薄暗いせいで奴らの姿も確認できない。
 「大丈夫か?」
 「ああ、掠っただけだ」中根が強がりを言う。
 「上等だ」ジョーも口元を歪める。先ほどまでの途惑いは消えていた。
 船室部は3階になっていて思ったより広い。だが1つ1つの部屋は狭く、色々な物がゴチャゴチャ置いてあるので見通しが利かない。隠れるのには最高だが。
 「大人数じゃない方がいい」神宮寺が言う「樋口と江川はおれと左から、あとはジョーと右からまわってくれ」
 他の部隊のメンバーも最初の6、7人から3、4人の少人数に変更しているようだ。
 「行け!」
 3人づつに分かれ走る。強がりを言っていた中根も付いてくる。これなら大丈夫だろう。
 「神宮寺!」近くの部屋に飛び込んだ江川が叫んだ「これ見ろ」
 彼が指さしたのは大きな箱に入ったトカレフだ。50丁はあるだろうか。
 「やはりこの船か、しかし─」しばし口を噤む「これだけというのは・・・」
 「他の部屋にもあるんだろう。探そう」
 「うん・・・」神宮寺の目がスッと細くなる「・・いやな予感がする」
 樋口と江川が驚いて顔を見合わせる。神宮寺がこう言うとロクな事がない─。
 一方、右の通路をまわったジョー達もある部屋に飛び込んでいた。そこには、
 「セシル!?」ジョーが息を呑む。部屋の隅にセシルが倒れていた「セシル、しっかりしろ!」
 激しく揺さぶるが、目を覚ます様子はない。
 「生きてるよ」セシルの左手を取っていた高浜が言った「薬か何かで眠らされてるのかもしれない」
 「そうか」ジョーがホッと息をつく。奴らの仲間なのだがなぜか憎む気にはなれない「高浜、すまないがセシルを安全な場所までつれて出てくれねえか」
 「・・・彼女・・キスマークの─」
 「早く行け!夜の海で泳ぎたいのか!」
 ジョーの剣幕に、高浜はサッとセシルを抱き上げ部屋を飛び出した。と、どこか遠くで銃声がした。2人のいる船尾とは反対の方から聞こえたので、船首から突入した部隊だろう。
 「ジョー!」中根が叫ぶ。
 目の前を黒い影が過ぎった。とっさに伏せる。2人の頭上を弾丸(たま)が飛んで行った。
 「ヤロウ」
 ジョーが胸元に手をやる。が、ワルサーのグリップを握ったとたん、体が動かなくなった。そのまま固まる。弾丸が彼を掠っていく。
 「ジョー!どうした!」中根が懸命に援護している。
 射撃は得意だが、この暗い中2人分の援護は辛い。弾丸を入れ替えるひまもない。
 「う・・・」状況は把握している。
 ジョーは懸命にワルサーを抜こうとする。
 ―男がワルサーの銃口を父に向けている─母が自分の名前を叫ぶ─赤い光がまわり中で点滅している─
 「・・だ、だめだ・・・」
 「ジョー!中根!」
 神宮寺の声とともに後方から応戦が始まる。自分はジョーに飛びつき、床に伏せさせた。
 相手の人数がそう多くなかったのか、決着はすぐについた。5人の船員達が確保された。皆、腕や足を撃たれているが命に別条はないだろう。
 神宮寺は体を起こすと、ジョーの腕を引っ張って彼の体も起こす。いきなりジョーの頬をひっぱ叩いた。中根が息を呑む。
 「仲間の命を危険に晒すな!動けないなら、今すぐ降りろ!」
 「―」
 ジョーは叩かれた頬を押さえたまま、じっと下を向いている。唇を噛みしめ自分自身に対しての怒りで全身を震わせていた。
 「─行くぞ」
 神宮寺がジョーの肩をポンと叩いた。ジョーが顔を上げる。と、ズズズ・・という振動を感じ、続いて爆発音が響いた。足の下からだ。
 「な、なんだろう」
 樋口が辺りを見回す。と、彼の持っている通信機が鳴った。
 時計型の通信機を持っているのは4人のSメンバーだけで、捜査隊などは小型の通信機を所持している。もちろん常時ではなく現場に出る時だけだ。Sメンバーのとは波長が違うので直接の交信はできない。もしするのなら、波長などを調節しなければならない。
 『眉村だ。ジョーに代わってくれ』
 相手は陸上で全指揮を執っている眉村だ。彼はジョーのスピードマスターに直接連絡を入れる、という手間を省いた。よほど急ぎらしい。
 樋口はジョーに小型通信機を渡した。
 『女性は保護した。さっき気が付いて、何かすごい勢いでしゃべりたてているんだ。だがドイツ語らしく、我々にはわからない。クロードやジョージの名前が出てくる』
 「代わってくれ」眉村が通信機をセシルに渡したらしい。甲高い女の声が響いてくる「Cecil beruhigt sich und(セシル、落ちついて)」ゆっくりと話し始めた「何があった」
 『ジョージ!』セシルの声がさらに大きくなる。通信機を口元にくっつけているらしい『その船は囮よ!彼らは外洋クルーザーで沖に出たわ!』
 「なんだって!」つい、日本語で答えてしまう。またどこかで爆発音がした。
 『彼らは爆弾を仕掛けて行ったわ。いくつあるかわからない』
 「こ、これがそうか」船全体に不気味な震動が続く。
 『ジョージ!クロードを助けて!』
 「クロード?彼はどう─」
 『船の下の方に連れていかれたわ。たぶん閉じ込められていると思う』
 「せ、船倉に・・・」
 『ジョー!いったいなんだと言うんだ!』待ち切れず眉村が割り込んできた。
 彼もまわりにいる神宮寺も、ドイツ語で口早にしゃべる2人の会話の内容はわからないものの、その様子を見れば重要な話をしている事は察せられた。
 ジョーは眉村にセシルの言葉を伝えた。そして最後に彼女は信用できると断言した。
 こうなると眉村の決断は早い。すぐさま全員に下船命令を出し、JBを介して相模湾を航行している船舶の情報を求める。
 「おれはクロードを助ける」
 「待て、ジョー!」神宮寺が止めるのも聞かずジョーは駈け出した「人の話を聞かない奴だ。樋口、おれはジョーのあとを追う。皆は下船してくれ」
 「待て、神宮寺!」樋口が声をかける。しかし神宮寺はそのままジョーのあとを追った「人の話を聞かないコンビだ」
 「似てくるのかな・・・」江川がしみじみと言う。
 「うん・・・」樋口が頷く「と、のんびりしている場合じゃない。2人を追おう。こんな中、船倉に行くのは自殺行為だ」
 中根と江川が頷いた。
 
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