コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

光と影のラプソディ 3

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「あち~」ジョーがベッドから飛び起きた。リモコンを取りエアコンを入れる。「夏でもないのになんで朝っぱらからこんなに暑いんだ」
 デイトナも暑かったがラスベガスも暑い。裸の上半身は汗まみれだ。とりあえずシャワーを浴びる。
 髪をタオルでガシガシしながら部屋に戻るとスピードマスターにメールが届いていた。洸からで、 MGMの 近くにハーレーダヴィットソン・カフェという店があるのでそこのグッズを買ってきて、という内容だった。
 読まなかった事にした。
 サッとカーテンを開けると眼下にストリップ(ブルーバード大通り)が見える。ベガスの街は夕べは眠らなかったのかと思った。と、電話が鳴った。フロントから来客の知らせだった。
「客?立花?」
 JBは連絡より先に立花を寄こしたのだろうか。ジョーは部屋に通す許可を与えた。ふと見回すと神宮寺がいない。そーいえばサントスとどこかへ行ったような・・・。お楽しみかな?ま、いいや、とスピードマスターで来客をリンクに伝えた。
 部屋のベルが鳴ったのでジョーがドアを開けた。
「立花」目の前に立つのはやはりチーム1の立花だった。だがその後ろには、「─関」
「やあ、ジョー、久しぶりだな」立花に続いて関も部屋に入る。「今回もよろしく頼む」
「・・・・・」
 よろしくと言われても、ジョーにはわけがわからないのだが。
「神宮寺は?」
 立花が訊いた。
「朝メシ食いに出てる。連絡したからもう戻るよ」と、そこへ神宮寺が戻ってきた。立花はともかく関を見るとちょっと驚いたようだ。「サントスはどうした?」
「バフェで別れた。これからはおれ達の仕事だ」
 いくら同じ国際警察とはいえ、指令を受けていない者を同席させるわけにはいかない。それはサントスもわかっている。
「そうか」ジョーがソファに腰を下ろした。「こんなに朝早く来るんなら夕べの酒はセーブしておけばよかったな」
 シャワーを浴びたのにまだ酒が抜けないらしい。神宮寺はケロッとしているが。
「ベガスの美人と一緒だったのか?」
 ニヤッと関が口元を歪めた。
「いーや。筋肉逞しいでかいアメリカ男とだ」チロと見ながら言ってやると関が絶句している。「もう  1人は細っこいのにやたら迫力のある奴でね。こいつが爆発するとまた大変で─」
「さ・・3人で・・・」
「・・・話を始めてくれ、立花」
 額に手をやり、げんなりしている神宮寺が言った。
「ん?うん」
 ポカンとジョー達の話を聞いていた立花がバッグから何枚もの書類や写真を出しテーブルに置く。その写真の1枚を指差した。
「この男はファブリシオ・クロル、通称ファー。ニューヨークのテロリストだ。国際手配されている。2日前まで日本にいたがその後ラスベガスに渡った事がわかった。要人の誘拐を計画しているという情報もある。その第一候補がこのジェミー・マーキンスだ」
 今度は60代の紳士の写真を指差す。
「マーキンス?」ジョーが呟いた。「大企業のトップか。ベラッジオに泊っているはずだが」
「知ってるのか、ジョー」
「直接は知らねえが、おれの知り合いがこのパーティに出席すると言っていた」
「そう、そのパーティでひと騒ぎ起こすという情報もある」立花が指令書を神宮寺に渡した。「今回の任務はファーを捕らえマーキンスの身を守る事だ」
「それでなんで関が出てくるんだ?」
「ファーは我々も追っていた。2年前の山荘を占拠、爆破した事件にも関わっている。2年振りに我々の目の前に現れたんだ。通常、容疑者が日本国外に出てしまうと我々はその渡航先の国かICPOに頼むしかない。だが今回は国際警察も一枚噛んでいるので同行が許された。なんとしても捕まえたい」
 ふうん、とジョーが頷いた。
「なんとかマーキンスのそばにいられるようにしたいのだが」
「そんなのマーキンスに護衛に入ると言えばいいじゃねえか。命狙われてンだし」
「それがそう簡単な話じゃないんだ、ジョー。マーキンスは裏でニューヨークマフィアと繋がっている。こちらの正体を明かしたくない。秘密裏に事を解決する事が今回1番の目的だ」
「ンな無茶な」ジョーはクサッたがこれはよくある事だ。「マーキンスが狙いっていうのは確かなのか?」
「マーキンスがベガスに入った後、ファーも入っている。マーキンスが資金提供しているニューヨークマフィアとファーのテロ組織とは犬猿の仲だ。可能性は大だ」それに・・・とちょっと言い淀んだが、「確かな情報ではないが、マーキンスがこのベガスで麻薬の取引をするという噂もあるんだ。それが本当だとしたら・・・やはりこちらの素性は知られたくない」
「ひとつだけ、手があるが・・・」
 え?と、全員が神宮寺を見た。が、彼はジョーに目を向けていた。
「・・・マルティーノ?」
 ジョーの呟きに神宮寺が頷く。
「さっき言っていた、マーキンスのパーティに出るジョーの知り合い?」
「彼と一緒なら、少なくともジョーはパーティに出る事ができる」
「・・・・・」
 ジョーが神宮寺に目を向ける。その瞳にはマルティーノを─いや、グランディーテを自分の仕事に巻き込みたくないという思いが見える。が、ジョーは携帯を取り出し親指でプッシュしていく。
「Cerchio Tino? È Joe。C'è una richiesta(マルティーノか。ジョーだ。頼みがある)」
 以前、マルティーノが日本に来た時に携帯の番号は聞いていた。
「電話では話せない。これから神宮寺とそっちに行ってもいいか」どうやらOKが取れたらしい。ジョーが電話を切った。「これでいいか」
「・・・うん」
 神宮寺がすまなそうに頷く。
 仕事上で民間人に協力を求める事はない。しかしマルティーノはジョーの知り合いという事もあり、また何しろパーティは今夜なのであまりのんびりもしていられないのだ。
「一応この事をチーフに知らせてくれ。行くぞ、ジョー」
「神宮寺君、おれも連れてってくれ」関が言った。「そのマルティーノとの話は君らに任せる。おれはロビーにいるから。ホテル内の様子を見ておきたいんだ」
「・・・・・」
 神宮寺はジョーを見た。彼はシャワーの後に着替えたばかりのTシャツを脱ぎ、新しいシャツに着替えていた。関の言葉は聞こえたはずだが何も言わない。
「どうぞ、関さん」
 神宮寺が代わりに答え3人は正面入り口近くにエレベータで下りた。ベラッジオまではタクシーで 10分くらいだろう。3人はホテル前のTAXI STANDに向かう。と
「ミスター、ジョー、お出かけか」フロントデスクの横にサントスがいた。カウンタの向こうの男性と話をしていたらしい。「よかったら今夜の分のチケットも取っておくけど」
「悪いな。あんたと遊ぶ時間がなくなった。他の男を探してくれ」
「そりゃ残念だ。用事が済んでおれを見かけたら声を掛けてくれよ」
 さーね、と目の前を行くジョー。続いて神宮寺を見送り─だがもう1人、真ん丸な目を自分にじーっと向けている日本人の男に気がついた。そのあまりの不躾な態度にサントスも彼を睨み返した。と、その中年の男も真っ直ぐに目を向けてくる。小さいのになかなかの態度の奴だ。が、男はすぐに2人の後を追いホテルの正面入り口から出て行ってしまった。
「ジョー」関が前を行くジョーの肩に手を掛け立ち止らせる。「個人の好みは仕方がないが、あの男はダメだ」
 は?とジョーが首を傾げた。
「何かとても危険な臭いがする。銃で10人20人撃ってるような、そんな感じだ。きっとやばい仕事をしているぞ」
「カンがいいな、関」とたんにジョーが笑い出した。「確かにあいつはやばい仕事をしているし、ニューヨークでバンバンぶっ放している。あんたの言うとおりだ」
「って─おい、ジョー」
 まだ笑いながら先を行くジョーを関が追いかける。その後ろにいる神宮寺はサントスの仕事を教えようかどうするか迷って─結局何も言わなかった。

「Io aspettai(お待ちしてました)」
 ロビーに入ったとたん天井に色とりどりの花が咲いていた。ベネチアングラスで作られた花のシャンデリアだ。
 ラスベガス1、2を争う豪華ホテル─ベラッジオは、カジノホテルとは思えないほどおちついた大人のムードを醸し出している。実際宿泊客以外の18才未満の子どもは入れず、宿泊客でも18才以上の大人と一緒でなければ館内に入れない。
「イタリア語は疲れる。英語にしてくれ」ジョーは出迎えてくれたマルティーノに言った。「わざわざロビーまで下りなくても、部屋で待っていてもよかったのに」
「29階から上はルームキーがないとエレベータが動かないんです」こちらです、と2人をエレベータに案内しようとして、「彼は、いいのですか?」
「え?」ジョーがマルティーノの視線の先を追う。離れた所で天井のシャンデリアを見上げている関がいた。ロビーに入ったとたん2人から離れたのだが。「気がついていたのか」
「日本人でしょ。それにあの目つきはただ者ではありません」
「確かに危ない奴だな」ジョーがクスリと口元を歪める。「奴はいい。それより」
 はい、とマルティーノが先に立って歩き出す。
 彼の部屋は32階のベラッジオ・スイートだった。豪華だなァ、と言うジョーに、招待されたのはシニョーレですから、とよく冷えたペリエを出してくれた。
「他に何を飲まれますか?」
 マルティーノがミニバーの前に立つ。
「何もいらない。座ってくれ」
 ジョーが促しマルティーノが2人の前に腰を下ろした。
 協力を求めるといっても事件の全容を話すわけにはいかない。
 ジョーは事前に神宮寺と相談したとおり、マーキンスが命を狙われているという情報が入った。たまたま〝ここ〝にいたおれ達が護衛方々犯人確保するよう命令された。しかし何もなかった時の事を考え、こちらの正体を明かさずパーティでの彼を護りたい─と少々強引な話をもっともらしく語った。だがジョーの仕事を知っているマルティーノは何も訊かず頷いてくれた。
「ジョーとジングージが入れればいいのですね?」2人が頷く。「わかりました。協力します」
「ありがとう、マルティーノ」
「手間を掛けて申し訳ありません」
「パーティは20時からです。新部門に参入した記念パーティで、まあ宣伝のようなものですが各界のトップが約1000人程集まる立食式のものです。中には私のように代理出席の者もいますが」
 マルティーノは館内パンフでパーティの会場となるベラッジオルームを見せてくれた。立食なら   1800人は対応できる広いフロアだ。
「タキシードではありませんがドレスコードです。用意はありますか?」
「アルマーニのスーツならあるが・・」
 タキシードはさすがにないが、いつどこに潜入してもいいように一応スーツは揃えている。2人の若さならこのくらいのスーツの方が自然だ。
「充分です」
 マルティーノも頷き、待ち合わせ場所などが話し合われた。

「神宮寺とジョーが会場に入れるだけでもラッキーだ」ベラッジオから帰ってきた神宮寺達の話を聞いて立花が言った。「アメリカ人って警察嫌いが多いし」
 命の危険性があると聞いたら日本人なら警察に保護を頼むだろう。だがボディガードシステムが一般化しているアメリカでは警察より自分達が契約しているボディガードサービスに頼むのが普通だ。特にハイソサエティのパーティでは会場内を警察がウロつくのをいやがる。国際警察でさえ強引に押し入る事はできないのだ。
「おれも入りたかったが・・・」
 関が不満顔で呟く。
 さすがのグランディーテ家も招待客でない者をそう何人も同行する事はできない。その代わりベラッジオルームと同じ階にあるモネルーム内の第3ルーム─これはモネルームに限らずベラッジオルームもだが、広い会場をいくつかの小部屋に分ける事ができるのだ─そのモネルームをグランディーテの名前で取ってもらい、関と立花はその部屋に待機となった。
「それだけでも助かるよ、関さん」
 立花の手元からシュッと湯気が立つ。
 ラスベガスのホテルの部屋にはほとんどと言っていいほどアイロンが常備されている。一部だがドレスコードの店があるからだ。
 手先の器用な立花は2人のワイシャツにアイロンをかけていた。神宮寺とジョーはファーを始めその仲間達の人相や特徴を頭に叩き込んでいる。
「チェ!ラスベガスに来てまでなんでこんなヤロウの顔を見てなきゃならないんだ。本当ならレビューでも見て、またカジノへ行って大儲けしているだろうに」
「儲けてないじゃないか」
 神宮寺の言葉に、うるせーやい!とジョーがたばこを唇に挟んだ。が、すぐに箱に戻しソファに放り投げた。
「ここは禁煙なのか?」
 関が訊いた。
「そうじゃないさ。吸っても大丈夫だぜ」だが立花は元々タバコは吸わないし関も禁煙中だ。「おれに気兼ねするな、神宮寺。実際吸ってるしな、おれ」
「うん」そういえば今日はまだたばこを手にしてはいない。神宮寺も決してスモーカーではないのだ。なければないで困らない。「だけど、お前はやめておけ」
 肺の手術をしてからジョーはほとんどたばこを吸わなくなった。神宮寺と同様元々あってもなくても困らないのだが今のような苦手な作業の時はつい手が出てしまう。
「そうするよ。だから覚えるのは任せた!」
 とっとと敵前逃亡にかかる。
 ワインクーラーに氷を詰めて冷やしておいたエビアンを1本手に取った。アイロンはあるのに冷蔵庫はないのだ。これもラスベガスのおもしろい所だ。
 ルームサービスで頼んだサンドイッチやポークチョップを摘まむ。と、室内の電話が鳴った。神宮寺がチラッとジョーを見る。彼は油で塗れた指先を舐め仕方なく受話器を取った。
「サントスか。今夜は遊べないぜ」関の両眉がギッ!と立った。立花がギョッと関を見る。「ドウラ? ああ─うん─ベラッジオへ?」
 全員がジョーに目を向けた。ジョーの表情も真剣だ。
「わかった。ありがとう」受話器を置いて3人の方へ振り向く。「ドウラという元アメリカンマフィアがサントスに知らせて来たそうだ。TEと呼ばれているテロ組織の男達が2、3日前からベガスに入っていたが、今夜全員がベラッジオに移動したそうだ」
「TEって・・・ファーの所属するテロ組織だ」立花が書類をガサガサさせてファーの仲間達の写真を1番上に出した。「こいつら以外にも仲間が来てるって事か?」
「いや、ベラッジオに移ったのはこいつらかもしれない。4、5人と言っていたし」
 ジョーはセーフティボックスに目を向けた。2人の銃が入っている。が、持って行くわけにはいかない。立花も関ももちろん素手だ。
「まっ、いーや。早いとこ行って確保しちまおうぜ」
 ジョーが食べかけのポークチョップを口に放り込んでエビアンで喉に流し込んだ。


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Comment

淳 says... "覚書き"
外国での話を書く時はできるだけその地を調べてから書く。
そしてその資料(本や切り抜き、写真など)を自分のまわりに広げて少しでもその地にいる気分に盛り上げるのだ。
その結果、うまくすっぽりと入れると本当にその地にいる気になるから不思議だ。
まるで自分に催眠術をかけているみたい。
が、覚めると・・・現実が待っている(あたりまえか)

そこからまた夢の世界に持って行くには、けっこうな体力(集中力)がいるのだ。
失敗して、続きはまた明日・・・なんて事もよくある。

2011.04.18 17:39 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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