コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

光と影のラプソディ 6

20061019014535.jpg 

(静かだな・・・)
 ジョーは30分程かけてゆっくりと別荘内を一周した。
 今は明け方の4時半。さすがに起きている者はいない。シーンとした館内に時々聞こえるのは回廊のすぐそばまで押し寄せている人工湖の波の音だけだ。
 同じ〝ラスベガス〝という名が付いているものの、ここレイク・ラスベガスは怖い程静かでゆったりした時間が流れる高級リゾート地なのだ。
 特にこの南側の丘陵地帯は〝超〝が付く高級別荘地で知られている。その建物も大きいし、湖に面している別荘には必ずと言っていいほどボートハーバーやヨットハーバーがある。
(もう30分もすれば誰か起きてくるかもな)
 チラッと見ただけだが使用人がかなりいた。朝の早い仕事なら─と、前方で影が動いた。ゆっくりとこちらに向かってくる。大柄の─男のようだ。手には何か黒くて細長い物を持っている。
(まさか・・・)
 ジョーは身を固くしてその場に立ち尽くした。
 あれで・・・あの銃で、〝おれ達〝を撃つつもりなのか。

 ─波の音がする─
 違う、あれは夢だ。両親はとうにいない


 ─男が近づく。父が2人の前に立つ─
 違う、夢だ。

 ─銃声が響いた─
 違う!夢だ!


「ジョー」
 近づいて来た影が口を開いた。引きつった貌のジョーが男に目を向ける。
 それはジミ・マーキンスだった。


「まだ起きていたのかい?」マーキンスも驚いたようだ。彼の部屋はこの近くなのだろうか。「ああ、見回りをしてくれていたんだね。さっきはレビーに会ったが」
「──」
 だがジョーは答えられなかった。これは現実なのか、それともあの夢の中なのだろうか。もし夢の中なら─次に彼がする事はわかっている。が、
「どうにも眠れなくてね」息をつきボソッとマーキンスが言った。「いつ息子から連絡が来てもいいように、ずーと持っているのだが」
 彼が手にしている黒い物は携帯電話だった。
「・・・・・」
 よかった、これは現実だ。おれは確かにここにいる─。
 そう確信したジョーがフッと体の力を抜いた。彼の様子はマーキンスはわからなかったようだ。
「君もフィレンツェに住んでいるのかい?」
「いえ─日本です」
「日本?」ちょっと意外な目をしたが、「ニンジャとゲイシャの国だね」
 と、言った。
 外国人のイメージは未だそうなのか、と思う。ジョーはどちらも見た事はないが。
「そうだ、君によく似た男に会ったという話をしたね。思い出したよ。もう20年・・21年前の事だが、ドイツのハンブルクのうちの支社で会った・・・いや、見かけたと言うべきかな」
「その頃ミスター・マーキンスはハンブルクに住んでいたんですか?」
「いや・・それがね・・」ちょっと気まずげな表情になる。「そこの支店長がちょっと悪い事に手を出してね。ハンブルク市警が支社に捜査に入るというので私もハンブルク入りしてね。確かその市警の中にいたような・・・」
 その頃ジョーは赤ん坊だったかヘタすれば生まれていなかった。でもハンブルクなら父がSメンバーになってからの事だ。だが市警というのは・・・。
「私は捜査に口を出す事はできないからただ見ていただけだが、その男はとても大きくて堂々としていて・・・だがなにかわからないが市警の人間ではなかったような気がする。1人だけ異質というか雰囲気が違っていた」
 市警と国際警察のタッグだったらしい。
 それにしても関といいマーキンスといい、どうしてジョーの知らない父の姿を知っているのだろう。
 もちろん彼は父の仕事中の姿を見た事がない。ジョーが覚えているのは居間の大きな一人掛けのソファに座り本を読んでいる姿と、裏庭の小屋で一緒にルアーを作ったり木を削って何かを作っている姿だけだ。あとは自分を軽々と持ち上げた大きな手と広い肩と─。
 だがそれも無理はない。ジュゼッペはジョーが3才の時にパリ本部の副長官に赴任し、その後6年弱を単身パリで暮らしていたのだ。
 休日も何もないような仕事だ。休暇でハンブルクに戻るのは1ヶ月のうち1、2日だった。
 なぜ自分と母をパリに呼ばなかったのか、その理由をもう聞く事はできない。
 眇められた目をマーキンスから外しジョーが湖面を見つめる。そろそろ太陽が顔を出す頃だ。
「ウィリーは無事だろうか・・・」
 ポツリと言うマーキンスにジョーは再び視線を戻した。あの華やかなパーティから丸1日しか経っていないのに十(トウ)も年を取ったように見えた。大人とはいえ、やはり息子が心配なのだろう。ましてやウィリーは跡取りの一人息子だ。
「大丈夫、きっと無事です」確信のない事を口にしないジョーがマーキンスを慰めるように言った。「おれがウィリーを助け出してやりますよ」
 キッパリと言うジョーに、だがマーキンスが力なく微笑む。
 彼はジョーの正体を知らない。確かにボディガードとしては頼りになるかもしれないがウィリーを助け出せるとは思えない。なのに─
「いい眼をしているね」真っ直ぐに向けてくるジョーの瞳を、マーキンスもまたしっかりと捕らえた。「グランディーテのブルーグレイ・アイだ。嫡流でなくてもその瞳に強い意志と力を感じる。何か大きな事を成し遂げる眼だ」
「──」
 ジョーが驚いたようにマーキンスを見た。その灰色がかった青い瞳に、今昇ってきたばかりの太陽の光が輝いた。


「よう、神宮寺君、1人か?ジョーはどうした?元気か?」
「いきなり、ジョーですか?」後ろ手にドアを閉め神宮寺が苦笑する。「たまにはぼくの心配もしてくださいよ。ジョーはマーキンスの警備でレイク・ラスベガスに残りました」
「いやあ・・・。冗談とはいえジョーの奴に、〝形見の品〝を貰っちまったからな。なんか気になって・・・」そういえばそんなやり取りがあったな。確か安物のライターと封の切られたたばこが1箱─。「どうせ貰うなら高価な物がいいからな」
「そっちですか─」ナハハ・・・と神宮寺が笑う。「ところで立花は?」
「市警に行ってるが、呼び戻すか?」
「いえ、いいです。─しかし確認してから来るんだったな」
 神宮寺はイタリアに帰るマルティーノをマッカラン国際空港まで送り、その帰りにMGMの関達の部屋を訪ねたのだ。市警の捜査状況などを聞きたかったのだが。
「奴ら何か吐きましたか?」
「いーや、だンまりを決め込んでいるようだ。さすがはニューヨークのテロリストだな。市警のごっついのが脅そうとすかそうとビクともしないそうだ。根性入ってるぞ」
「褒められましても・・・。こちらにも何の連絡もないし。手詰まりですね」
「それはそうと、マルティーノが帰国するのにジョーではなく君が送って行ったのか?」
「ジョーはマーキンスに気に入られましてね、放さないんですよ。あいつ、変わった人物にモテますよね。今朝も夜明けまで2人で話をしていたそうで─」
「2人で?夜明けのコーヒーを?」誰もそんな事(コーヒー)は言っていない。「マーキンスという人物はそんなに変った人間なのか?」
「いえ、変わっているんじゃないな・・・。クセが強いというかアクがあるというか・・・」ふと目の前の男を見た。そーいえばここにも1人・・・。「で、でもそーいうのは魅力的な事で─
「・・・マーキンスはそんなに魅力的か」
 じと目の関に神宮寺が言い淀む。と、リンクが鳴った。
『戻れ、神宮寺!』もちろん相手はジョーだ。『奴らから連絡が入った!』
「そうかっ、すぐ戻る」
 と、神宮寺の左手がガツンと掴まれた。
「ジョー!今度はおれとコーヒーを飲むんだぞ!」
『は?コーヒー??』
「なんでもない、ジョー。放してください、関さん!」
 手を振り払った。が
『お楽しみのところ悪いが関も連れてきてくれ』
「えっ、しかし関さんは─」最初の言葉が気になったが今は突っ込んでもいられない。「おれ達ならともかく、日本の警察が関わっているのがバレたらまずいぜ」
『その時はその時だ。責任は関が取るさ』勝手なジョーの言い分に、“お~、取ってやるさ~!”と関がわめく。『とにかく急いで戻れ』
 一方的に切れた。神宮寺が小さくため息をついた。


 別荘の広い居間には主人のマーキンスを始め秘書が2人、ボディガードのレビとモーガン、そしてジョーと神宮寺、関が顔を揃えていた。
 ジョーは関を自分達の同業者だと説明した。うそではない。が、マーキンス達は当然、関もボディガードサービスだと思っただろう。もちろんそれを正す事はしない。
 と、秘書の1人─金髪のダナーが皆の前のテーブルに一通の手紙を置いた。今朝早く届けられたものだという。内容は、“息子の安否が知りたかったらバッグに一千万ドルを詰め、湖の中央で待て。ただしマーキンス1人でだ”と書いてあった。
 つまりウィリーの身代金をマーキンスが持ってこい、という事だ。
 マーキンスはすぐさま一千万ドルと湖に出るためンボートを用意させた。当然ジョーやレビー達が止めた。
 身代金目当てだとしてもこれはおかしい。なんで周りに何もない湖の上に金を持ってこさせるのか。その答えは1つ。奴らの目的は身代金ではなくマーキンスの命だ。1人湖の中央に出れば必ず狙われる。ジョー達は確信した。が
「だが私は行くぞ。私が行かない事でウィリーに何かあったらどうするっ」
 危険だし、おそらく奴らはウィリーを連れてくる事はしないだろう。しかしマーキンスは自分の意見を引っ込めない。
「ミスター・マーキンスがそう言うと思って、身代わりを用意した」
 ジョーがクッと親指を向けた。
「関さん・・?」指の先にいたのは新顔の関だ。「だから連れて来いと」
「この2人、なんとなく雰囲気は似てるだろ?ま、関は金ねーけど」
 一言多い。
 2人は年齢も違うし体格もマーキンスの方が大きい。しかし雰囲気はよく似ていた。遠くから、“あれはマーキンスだ”と思って見れば一時(いっとき)ならば騙せるかもしれない。
「ボートに座っていれば身長は誤魔化せる。少なくとも素人が行くよりいい」と、関に目を向けた。もちろんだ、と関が頷く。「これがおれの提案です。ミスター・マーキンス」
「・・・マーキンスでいいよ、皆もだ」小さくため息をつく。だがジョーの提案に従う腹を決めたようだ。「危険ですがやってくれますか、セキ」
 と、関が頷く。神宮寺は乗り気ではないようだが、ふと、
「マーキンス、ここにスキューバダイビングの器材はありますか?」
「まさか、神宮寺─」
「ボディガードが護衛に付くのはあたりまえだ。水中から依頼主を護るよ」
「そうか、湖に潜るんだな」モーガンが言った。「おれもダイビングは得意だ。バディを組もう」
 ジョーが何か言う前に2人は決めてしまう。相手がどんな手でくるかわからないのだから水中も危険だ。だがやるしかない。出発まであと1時間だ。
「よし、モーガンとジングーは器材の準備だ。おれはボートを見てくる。ジョーはマーキンスに付いてセキの用意をしてやれ」
 リーダーのレビーが指示する。
「おれがマーキンスに似てるって?」関がジョーに囁いた。「これでおれも君とコーヒーが飲めるわけだ」
「・・・?」
 なんでそんなにコーヒーを飲みたがるんだ?新しい病気か?
 だが今はそれに関わっているひまはない。関をマーキンスに仕立てなけらばならない。


「あんたがモーターボートの操舵ができてよかったぜ」ボート上の関に金の入ったバッグを手渡しジョーが言った。その後ろにはレビーがいる。マーキンスは出てきてはいない。「気を付けてな」
「任せておけ。奴らをとっ捕まえてウィリーの居所を吐かせてやる」
「無理するな、年なんだし─。あ、帽子を取るなよ。いい服着てても金がねえって貌(ツラ)でバレるぜ」
 やかましいやっ!と、関が毒づきボートのエンジンを掛けた。5、6人乗りの大型キャビンタイプだ。今から1時間だけ各ホテルや別荘の住人に湖の中央に行かないよう頼んである。
「口も開くな」
 目の前をゆっくりと出て行くボートに向かってジョーが言った。


 その頃、マーキンス家のボートハーバーから少し離れた所にウェットスーツに身を固めた神宮寺とモーガンがいた。
 マーキンスの所にはモーガンの体型に合うスーツはあったが神宮寺のサイズはなく、急遽ホテルのダイビングショップからレンタルされた。
 2人は急いで器材のセッティングを行い、特にレギュレーターの点検は念入りに行われた。
 自分の物ではないので少々使いづらいが今は仕方ない。ダイビングコンピューターも1個しか用意できなかったので、つい数日前まで潜っていたというモーガンが持った。
 もちろんこの人工湖に潜るのは初めてだ。深度は海ほどではないが塩分がないため泳ぎづらそうだ。
 2人は関の乗るボートが出発したのを見るとゆっくりと水中に入って行った。
 思ったより透き通った水だった。

 
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Comment

淳 says... "覚書き"
レイク・ラスベガスの資料がない。モニュメントバレーの資料も。

新しいラスベガスの本に少し載っているかもと見てみたら、なんとベラッジオのベラッジオホールは別館、つまり本館とプールを挟んだ反対側に建っていた!
ここからでは本館が邪魔して噴水が見られない!
淳は上階のイメージで書いたのだが。→5

うう、もっと早く知りたかった。

もっとも〝上階〝というのは話の都合上、勝手に設定したんだけど。
2011.04.25 15:48 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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