コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

光と影のラプソディ 7

AH-64D.jpg 

 一方ジョーはマーキンス家にもう一艘あるモーターボートの操縦席に着いていた。関が乗って行った屋根のあるキャビンタイプのものではなくランナバウトで荷物運びに使っているようだ。
 レビーはマーキンスに付いている。本来彼らの仕事はボディガードだ。マーキンス─もしかしたらウィリーも含まれるかもしれないが─を護る事こそ第一で、ジョー達のように捜査や犯人を逮捕したりしない。依頼人の身を護る事こそが最優先される。
 なのに今回モーガンが関に付いてくれたのはたまたまダイビングが得意だった事と、あのパーティでダブルJに助けられた借りを返したいと思ったからだ。なにせもう1人、わけのわからないガードサービスの男(関)が増えたし、ここでしっかりと自分達をアピールしておきたかった。が、どんな理由だろうと協力してくれるのは助かる。神宮寺を1人でやるわけにはいかなかったのだ。
 遠ざかる関のボートを目で追い、ジョーはふと空を見上げた。手続きが間に合えばセスナかヘリで立花が来るはずだ。だが機影はまだ見えない。
 と、関が湖の中央に着きエンジンを切った。
 この中央辺りには他に船はないが岸近くにはかなりの船が出ている。ほとんどがフィッシングボートだ。中には大型のプレジャーボートもある。あの中に奴らの仲間がいるのだろうか。
 本当は全船を湖から追い出したいが、さすがにそれはできなかった。

 ジョーはスピードマスターを見た。間もなく指定された時刻になる。
「さーて、どこから出てくるのかね」
 双眼鏡で見回すがおかしな動きをする船はなく、関に近づく者もない。神宮寺達はどの辺りにいるのか、ジョーには見えなかった。
 と、遥か北西からバラバラ・・・とブレード音をばら撒き大きなヘリコプターが現われた。立花のヘリが間に合ったのだ。─いや、
「・・アパッチ?」アメリカ軍が使用する攻撃用ヘリに似ていた。真っ直ぐにこちらに、人工湖に近づいて来る。「まさか─」
 ジョーがボートのエンジンを掛けた。リモコンレバーを前進に突っ込む。水面が左右に分かれ高速で湖の中央に向かった。

 関ももちろんそのヘリは視認していた。ヘリは関の上空でホバリングに入った。 
「でっかいなァ。なんか、アメリカ!って感じのヘリコプターだな」
 などと感心していた。
 と、ヘリのドアが開きホイストが降ろされてきた。先端がカギ型になっている。そこにバッグを引っ掛けろという事か。
「なんか雑だなあ。落としたらどーすんだ」
 と思ったが元より逆らうわけにもいかない。関はなるべく上を向かないようにバッグの持ち手をカギ型に引っ掛けた。と、ホイストが上昇していく。
 さー、どうすんだ、と思っていると、
「湖に飛び込め!」
 ドドド・・・と迫りくる小型ボートとジョーの声が聞こえた。
 ヘリのドアが閉まりクルッと方向を変え機首を関に向けた。ババ・・・と光が散った。30ミリチェインガンだ。
 関はとっさに床に伏せた。屋根に弾丸の道が走った。
「くそォ!」
 ジョーは最高速度でプレジャーボートに突っ込み、その側面に乗り上げるように小型ボートを滑らせ大きく空(くう)に飛ばせた。
 ジョーの小型ボートがヘリのガンから床に伏している関の盾となった。小型ボートがゆっくりと回転しその船底にヘリのガンがヒットした。
 一回転したボートがプレジャーボートを飛び越え水中に頭から突っ込んで行く。
「ジョー!」
 関が起き上がりそのまま湖に飛び込んだ。関の少し下をボートがゆっくりと沈んでいく。
 ジョーはボートから放り出された時の着水のショックからか気を失って水中に浮いていた。
 枯葉色の髪が、水中を透ける光を浴びてキラキラ輝いて見えたがゆっくり観賞してもいられない。
 関がジョーの腕を掴んだ。水中でなければ体の大きなジョーを支えられなかっただろう。しかし頭上にあのヘリがいる限り水面に顔を出す事はできない。
 と、2つの影が現われた。真っ直ぐに関に向かってくる。神宮寺とモーガンだ。
 神宮寺がジョーの頬を叩いた。ガボッと息が吐かれジョーが目を開けた。オクトパスをジョーの口に押し込んだ。関はモーガンの予備呼吸装置を借りた。
 4人はゆっくりと岸に向かって泳ぎ始めた。

「なんでボートで飛ぼうなんて考えるのかねっ、君はっ」
「いてっ!傷を叩きながら怒るなよ。関」マーキンスの使用人が貼ってくれるバンソウコウ目掛けてパンパン叩く関にジョーが閉口している。「まさかアパッチを持ち出すとは思わなかったな。やはり目当ては金ではなく彼の命か・・・」
「ジャッキーチェンの映画みたいだった。ボディガードの範疇じゃない」そう言うモーガンにレビーが肩をすくめてみせた。「まるで特殊部隊だ」
「危険な作戦に付き合わせて悪かったよ」
 ジョーが2人に言った。
 あの後─関とジョーが水中に沈むと同時に上空には立花がチャーターしたヘリが到着していた。攻撃用ヘリではないが金を手に入れたアパッチを引き返させるには充分だった。30キロ程追跡したが結局逃がしてしまった。
「マーキンスは?」
「それが・・・隣の部屋で警察に怒られているよ。なんでこの事を市警に知らせなかったのかって」
 関の言葉に一瞬キョトンとしたジョーだが・・・そういえば奴らからの連絡や身代金受け渡しの事は警察に伝えていなかった。自分達が警察なのだから市警にも、とは思いつかなかった。
「ま、それはマーキンスに任せるさ。それとジョー、一応礼を言っておく」え?とジョーが関を見た。「君がボートで庇ってくれなければ、おれはハチの巣だった。ありがとう」
「って言うか・・・、計画を持ち掛けたのはおれだし・・」
「せめてもの感謝の気持ちを、水中で気を失っていた君に人工呼吸でお返ししようとしたのに神宮寺君が邪魔をして─」
「・・・そーいう関係?」
 レビーが訊いた。
「違う!」
「ジングーが嫉妬して─」
「それも違う!」
「ジョー」
 ふいにドアが開き神宮寺が顔を覗かせた。皆一斉に固まる。
「傷の手当てが済んだら来てくれ。市警が事情を聞きたいと─」今度は神宮寺が固まった。室内の男達がじーと自分を見ている。「─どうしたんだ?」
「な、なんでもないぜ、神宮寺。すぐ行くよ」立ち上がりジョーが彼を廊下に押し出す。と、振り向いて、「ロクでもねえ事言ってるとボートで突っ込むからな。よく覚えておけ」
 バタン!と音をたててドアを閉めた。
「・・・前途多難だね。セキ」
 レビーのなぐさめに、うんと関が頷いた。

 夕食後、神宮寺のノートパソコンに立花から連絡が入った。ネット回線を使ったテレビ電話だ。結局関は別荘に腰を降ろしてしまったのでMGMには立花1人が残っている。
『ドウラというサントスの知人からの情報だが─』
 サントスは休暇でラスベガスに来ていた。しかしJBがダブルJのバックアップをニューヨーク支部に依頼し、ちょうどサントスが彼らと行動を共にしている事がわかったので1日遅れでサントスにも正式の指令が下りたのだ。コンビを組むバートンも合流している。
 サントスはドウラを利用し、あちこちから情報を集めている。それによるとベラッジオに残ったマーキンスの部下が2、3日前に見たTEのメンバーとは別のメンバーと何かの取引をしたらしい。スーツケース1つだったので銃か薬か・・・。
 しかし不思議な事にブツを渡したのはマーキンス側だけだった。TEは何も渡していない。
「裏工作かな」ジョーが言った。「表でハデな事をして裏からも金をせしめているのか?」
「だったら全部裏からせしめればいいじゃないか」関だ。「あんなハデな事をして人目を引いても奴らにはなんのメリットもない。確かに金は手に入ったが─」
「いや、ひとつだけメリットがある」神宮寺が言った。「マーキンスに見せる事だ」
「見せる?」
『マーキンスに?』
「なにを?」
 口々に3人が問う。しかし神宮寺は答えずじっと考えている。自分の言葉にまだ全面的に確信が持てないようだ。
『それからウィリーの行方はまだわからない』
「ずっと考えているよな、神宮寺」ジョーはモニタを見つめる神宮寺の横顔に眼をやる。ピンと張り詰めた端整なその貌をジョーは好きだが、「何に引っ掛かっているんだ」
「わからない。でも─」スッと立ち上がった。「マーキンスに訊いてみよう」
「え?おい─」
 パソコンをそのままに神宮寺が部屋を出て行った。ジョーも後を追う。関とモニタの中の立花がポカンとその姿を見送った。

「マーキンス」ドアをノックした。「ジングーとジョーです」
「ちょっと待ってくれ」室内から返事があり、すぐに“どうぞ”とマーキンスがドアを開けた。「すまないね、電話をしていたので」
 ウィリーの事があり本社のあるロサンゼルスに戻れないマーキンスは時々電話で本社に指示を出していた。
「なにか飲むかね?」
「ミスター・マーキンス。あなたはご自分が命を狙われている理由をご存じですね」
「神宮寺」
 ジョーとマーキンスが同時に声を上げた。
「何を急に─。君達はいったい─」
「おれ達はある調査機関の人間です。本当は正体を明かしてはいけないのですが・・・今回は人命が掛かっているので」
 チラッとあとから来た関に目をやる。
「調査機関?警察か?それとも企業の信用調査か保険会社の─」
「申しわけありませんが、それはお答えできません」
「君もか?」マーキンスがジョーに目を向ける。「グランディーテの遠縁だというのは嘘か?」
「それは本当です」返事に戸惑っているジョーの代わりに神宮寺が答えた。「ですがマルティーノは我々の仕事はガードサービスだと思っています。この事はどうぞ内聞に」
 そして一歩前に出た。
「あなたはテロリストTEをご存じですね。彼らとはどのような関係ですか?何を要求されています?」
 マーキンスは恐ろしいものを見るような目を神宮寺に向けた。手が徐々にデスクの引き出しの方へ伸びて行く。ジョーが動こうとした─が、神宮寺が目で止める。そして再びマーキンスに視線を戻した。
「我々はTEのアジトを知りたい。あなたはウィリーを取り戻したい。お互い協力し合えると思いますが」
「・・・・・」
 マーキンスは神宮寺の言葉の信憑性を計り兼ねているようだ。だが、黒いのに透き通るような彼の瞳と落ちついたその態度は本物だと確信したのだろう。息をつくと力が抜けたようにストンとイスに体を落とした。
「なぜ・・・そう思った・・?」
「身代金を取るにしても命を狙うにしても奴らのやり方があまりにも雑です。パーティではあなたを狙ったのに連れ去ったのはウィリーだった。ボート上の〝マーキンス〝を襲った時も、もし本気ならあのくらいでは済みませんよ。あのヘリにはロケット弾やミサイル装備もありましたし」
「じ、神宮寺君・・」
 青い顔の関が呟く。
「まあ、人間相手にそこまでするかどうかわかりませんが、でもその方が確実です」
「そうしておれごと吹っ飛ばすな」
 顔色ひとつ変えず恐ろしい事を言う相棒に同意するようにジョーが口を添える。役割分担か、と関は思った。
「そしてあなたもだ。大事な一人息子が攫われたのにあなたは落ちついている。それはウィリーが生きている事を知っているからではありませんか?いつ、知ったんです?」
「・・・身代金受け渡しの時だ・・・。残った私の所にファーから連絡があった・・・」
「ファー!?知っているのか!?」
 関が叫んだ。
「私の幼なじみだ。移民の子といじめられていたが私とは気が合った」
 マーキンスが話し始めた─。

 大会社の社長の息子だったジミー(マーキンス)だがファーとは気が合いよく遊んだ。しかし2人の進む道は途中で別れた。
 ジミーは父の後を継ぎ、ファーは仕事を探してロサンゼルスを離れた。
 そんな2人が再会したのは30年ほど前だ。
 昔から血の気が多かったファーはマーキンスの会社のために闇の部分を引き受けてくれた。かなり危ない事に手を出し、しかしそのおかげで会社は大きくなった。
 やがてファーはマーキンスと別れ自分の組織を持った。それがTEだ。
 ファーは昔の事をネタにマーキンスを脅し、彼の会社の飛行機や船で外国に武器を運んだり乗員に仲間を紛れ込ませ、あちこちでテロ行為を繰り返した。だが、
「世の中の、テロリストに対しての眼が以前より厳しくなり、私はファーに協力する事を拒んだ。そんな時会社で大きなミスがあって、なんとかもみ消したがそれをコームソンというニューヨークマフィアに知られてしまい2、3回金を渡したんだが」
 それを知ったファーはマーキンスがコームソンに鞍替えをしたと思ったらしい。まずい事にコームソンとTEは犬猿の仲だった。
 ファーはマーキンスに再び協力する事を迫り、拒否されると実力行使に出て来たというわけだ。
「ウィリーを攫い私を脅し言う事を利かせようとしている。私はウィリーを失いたくない・・・」
「親としては当然だが・・」関が唸る。「テロリストに協力するのは今までもそしてこれからもあんたの会社やウィリーのためにはならない」
「・・・わかっている」
 しかし事が事だけに警察に相談するわけにもいかない。金持ちの、大企業の社長なのにこれだけはどうにもならない。
「それで奴らの次の要求はなんですか?」
「次の?」ジョーが訊いた。「今までにもあったのか?」
「立花が言っていただろ。マーキンスの部下がTEの奴らに何か渡したって。金ですか?」
「・・・ヘロインだ」何もかも見透かしている男の前でマーキンスがうなだれる。「別の組織からTEに渡した。運び役、というわけだ。そして次は・・・、急に大量の銃が必要になったらしく明日うちのセスナで運んでほしいと・・・。今、電話があって・・・」
「そのセスナは今どこに?どこまで運ぶんです?」
「マッカラン空港の一角に駐機している。目的地はその時になってから言うそうだ」
「あなたは奴らのアジトを知っていますか?」いや・・・とマーキンスが首を振る。「よし、そのセスナにはおれが乗ろう。うまくいけばアジトを掴めるかもしれない」
「それはダメだ、神宮寺」なに?とジョーに顔を向けるが、「お前、今日スキューバーダイビングをやったじゃないか。それで明日セスナで飛ぶのか?」
「─あ」
「え?どういう事だ?」
 関が訊いた。
「減圧症の対策で潜ったあと空へ上がるのは時間を空けなくちゃいけないんだ」
「だが18時間は空く計算になる。それにセスナの高度はそう高くない。大丈夫だ」
「それは一般の規定だろ?おれ達の決まりを忘れたのか?丸1日だ」
「・・・・・」
 神宮寺は唇を閉じた。もっと簡単な規則を忘れるくせになんでこんなややこしい事は覚えているんだ?とジョーを睨む。
「だからおれが飛ぶよ」
「え、だがジョー。お前だって潜っただろう。高圧空気を吸ったはずだ」
「おれはお前より短時間だったし深度も問題ない。規定外だ」
「・・・・・」
 だからどうしてそんなややこしい事ばかり覚えているんだよっ。
 確かに神宮寺の潜水時間は長かったし、思ったより透き通っていた水に姿が映らないようにモーガンの持つダイビングコンピュータを頼りに深度を下げていた。
「だけど─」
「うるせェな、もう決めたんだ。いいな、マーキンス」
 ジョーに真っ向から睨まれては頷くしかない。だがマーキンスはジョーの瞳を見て、やってくれるかもしれない、と思った。


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