コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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光と影のラプソディ 8

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  翌朝、ジョーは1人小型セスナの操縦桿を握っていた。
 マッカラン空港の一角に停めてあったのはソカタ・トリニダードというワインレッドと白の美しい機体だった。
 ひと目見て神宮寺が固まり、恨めしそうにジョーを見た。彼が言うにはこの機はフランス製の高性能機で、中でもこのTB21はターボチャージャーを装備する最上級モデルだそうだ。その性能、スマートなフォルムから、〝フライング・フェラーリ〝というニックネームが付けられていると聞いたジョーは、“おれにぴったりじゃん”と言った。
 確かに、よく訓練で使用するセスナ152の2倍近い最大巡航速度を持つTB21だ。レース用に改造されたジョーのカウンタックも出そうと思えば一般乗用車の倍近くは出るだろう。
 だが神宮寺はそんな事で納得したくはない。ぜひ自分が操縦したい、が・・・、
 日頃、少しはJBの規則を覚えて守れ、とジョーに言っている手前、自分から規則を破るような事はできない。
 しかしまたとないチャンスなのに・・・。いやいや、だめだ・・・と1人葛藤していると、“お前、顔ヘンだぜ”とジョーに言われ、殴ってやろうかと密かに拳(こぶし)を震わせた。が、ひと呼吸置いて─
「ジョー、翼の下に発信機を付けておいた。スピードマスターがどこまで届くか・・・この大陸ではわからないからな」一応いつもの神宮寺の顔に戻っていた。「おれは関さんと車で追う。おれ達の目的はファーだ。それ以外は深追いするなよ」
「わかってるよ」
 ジョーが不満げに言うが神宮寺の心内はわかっている。
 JBからの指令はあくまでもファーの逮捕だ。ウィリーの事はラスベガス市警の仕事だ。
 しかしジョーも神宮寺もウィリーを助け出したいと思っている。もしどこかでウィリーを見かけたら、 ジョーはウィリー救出を優先させるかもしれない。
 そうならないように相棒としての神宮寺の役目は一言釘をさす事。もちろんジョーにも、言った自分にさえも効かないのはわかっているが。

 飛び立って5分経った頃、オープンにしておいた無線機にバレーと名乗る者から連絡が入った。向こうの指示通りだ。進路を東にとりグランドキャニオンを目指す様指示された。ラジャ、と答え北に向いていた機種を東に向けターンさせた。
 このセスナが良いものかどうかはジョーにはよくわからないが、装備品の充実度は高く様々な条件下でのフライトが可能になるだろう。オートパイロットをセットすればコントロールホイールから手を離していても安全にフライトできるのだ。
 もっとも神宮寺に言わせると、“邪道!”なのだそうだが─。

 やがて眼下にガイドブックでもお馴染みのグランドキャニオンの赤い岩肌が見えて来た。
 ロッキー山脈に降った雨が山肌を走りいくつもの流れと出逢いやがて大きな流れへと成長する。その流れが長い年月をかけて赤い大地を削り、この途方もない大峡谷を作り上げたのだ。
 インフォメーションセンターのあるサウス・リムの近くには空港がある。まさかそこへ降りるのか─。
 ジョーはとりあえずウェスト・リムからサウス・リムを抜けノース・リムへと向かう。この2つの地域では風景がまるっきり違うのだが─、
 と、眼下を黒いものがゆっくりと横切って行くのが見えた。
(コンドル─)
 まさしくそれはこの辺りに生息するカリフォルニアコンドルの雄々しい姿だった。
 普通は日没前によく現れるのだが、
(コンドルって黒いんだよな)
 ジョーは大きな翼を広げ悠々と滑空するその力強い姿を目で追った。
 何年か前までは22羽まで減り絶滅の危機にあったが、その後の保護活動が功を奏し200羽以上に回復した。
 そういえば京都の動物園にいるコンドルの名前が〝ジョウ〝だとネットニュースで見つけた洸がはしゃいでいた事があった。8才というその〝ジョウ君〝はその歳で1人(?)他の動物園から来たと聞いてジョーはなんとなく親近感を感じた。
(って、浸ってる場合じゃねえ。これからどうするんだ)
 と、ヘッドセットに連絡が入った。
『バレーだ。そっちの機体を確認した。そこから北へ進路をとれ』
「なんだって!?」ジョーがマイクに怒鳴る。「燃料切らして降とすつもりか!」
『そんなもったいない事はしない。いいから言うとおりにしろ』
 一方的に切れた。
「くそォ!」腹が立つが行くしかない。ジョーは機首を北へ向けた。「だったら最初から素直に北東って言えよっ」
 荒いその眼が再びコンドルを捉える。スーと断崖に向かって降りて行った。巣に帰るのだろうか。
「おれのコンドルは青いけど(ブルーコンドル)お前のような堂々とした走りをするんだぜ」
 やっぱりおれは空より地上を走る方がいーや、とグランドキャニオンとコンドルに別れを告げる。気が付いて神宮寺に進路変更の連絡を入れてやる。
『なんだと?』案の定不満の声だ。『ここら辺は道がないんだぜ。とんでもない遠回りだ』
「おれのせいじゃねーや」なんだか今日の神宮寺は機嫌が悪い。無理もないが・・・。「このグランドサークルを行くなら車は不便だぜ。山や谷は越えられねえしよ」
『こっちの方向とわかっていたら空にするんだったが…』今さら言っても仕方がない。『とにかく発信機を追う。お前はそのまま奴らの指示に従ってくれ』
「ラジャ─あ、神宮寺、おれさっきコンドルを見たぜ」ご同類か?に、まーねと答えて、「でっかい翼を広げて悠々と羽ばたいていくんだ。おれはここだ、ここはおれの空だと言っているようで」
 神宮寺と関がじっと聞いているのがわかる。
「それ見て思ったんだ。おれはやっぱり大地を走る方がいいなって」
『・・・飛んでる鳥を見て、どーしてそういう考えになるかな?』
『おれはこんな所走りたくない!』
 ハンドルを握っているらしい関がわめく。いったいどういう所を走っているんだろう。そういえばヘッドセット内のノイズがひどい。
「そう、走っている感覚がないんだよな。大地をドドド・・・って」
『飛んでいるんだからあたりまえだ。そんなに地上がいいなら今すぐ代われ!』
『そうだ、代わってくれ、ジョー!』
 神宮寺と関の叫びを耳にジョーはヘッドセットのスイッチを切った。

「あいつめ、また勝手に切りやがって」
 神宮寺が舌を鳴らした。
「ひどい道だなァ。こんな山道なのにガードレールもない。本当に国立公園なのか?」
 整備されている日本と違い、自然をそのまま残すアメリカの国立公園やそこに至る道路はかなりの悪路でもガードレールのない所がほとんどだ。たとえ落ちたら最後の崖っぷちの道でもそのままなのだ。自分の責任で走れという事だ。
「どうしたね?神宮寺君」
「いえ・・・、仕事中にジョーがあんな事を言うのは今まであまりなかったので・・・」
「おい、やめてくれよ、神宮寺君。おれはまだライターとたばこしか貰ってないんだから」
「・・・・・」関お得意の(?)冗談を聞き神宮寺はちょっと口元を緩めたが、「とにかく追える所まで追いましょう。空だと追跡しているのがすぐわかってしまうし。いざとなったらラスベガスにいる立花に飛んでもらいます」
 左手のリンクのスイッチを入れた。

 その後バレーから2回進路の修正が入った。出発前に頭に叩き込んだ地図に寄ると、この辺りはラスベガスから北東に400キロ程行ったゴブリンバレー州立公園上空だろう。もちろん空港などない。燃料はあと1時間ギリギリだ。
 と、バレーから着陸の指示が入った。
「って、どこに?」
 ジョーが眼下に目を凝らす。と、砂漠のような何もない地面の上に不自然な一本道が伸びていた。そこだけ石を退け踏み固めたようで滑走路に見えなくもないが、小型機相手でも明らかに短い。ヘタすればあちこちにニョキニョキ立っている岩と正面衝突だ。
「だが、やるっきゃねーな」
 ジョーはTB21をもう一度空へ上げて大きくターンした。後部席に積んでいる銃がガシャッと音をたてた。北側に大きな岩があるので南側から進入するしかない。
「・・・足りるかな」
 神宮寺だったらきっと難なく降ろすだろう。車だったらこんな心配をした事ないのに・・・。とにかく行くしかない。
 ジョーは南側からの進入コースに入った。が、少し降りるとまた上空へと上がった。滑走路はおそらく250メートルもないだろう。TB21の着陸距離は230m、この20mがジョーの腕をカバーしてくれるだろうか。
 おまけにここは正規の空港ではないのでタワーからの情報も滑走路上の航空標識もない。だが─。
 ジョーは再び南側から進入する。もうやり直しはしないと決めていた。
 ファインアプローチで滑走路はクリアに見える。ランウェイにアラインしフラップを離陸位置まで思いっきり下げてセットする。
 徐々に高度が下がり、やがてガタガタ・・・と振動が機体を襲う。大岩が目の前に迫っている。ブレーキをかけTB21は大岩の2、3メートル前で停止した。
「う~、危ね~」
 操縦桿を握る手が少し汗ばんでいる。が、なんとか降りた。すると、その大岩の向こうから男が3人現れた。ジョーはキャノピーを開け機外へ出た。と、
(ファー!)
 3人の男のうちの1人がファー─ファブリシオ・クロルだ。こんなに早く遇えるとは思っていなかった。
 ジョーはちょっと戸惑ったがパーティの時顔を合わせた連中はすべて市警に捕まっている。ファーはジョーの顔を知らないはずだ。
「バレーだ。ご苦労さん」ファーが言った。「セスナごといただくぜ。お前はここで迎えを─」
「まてよ。ウィリーはどこだ、無事なのか」なに?と男達が眉を立てる。「おれはウィリーの安否を確かめるように言われている。それがわかるまで荷物を渡すわけにはいかない」
「3人相手にやろうというのか」1人が銃を出した。ジョーに向ける。「え、ぼうや」
「あんた、ファーだろ」銃を持つ男は無視した。「マーキンスが言っていた通りの男だ」
「マーキンスが?お前におれの事を話したのか?」バレー─ファーが言った。「お前はいったい」
「あんたの後任者さ」
「後任?お前が?」ファーはジロジロとジョーを見回す。「ずいぶんとぼうやを雇ったものだ」
「ぼうやでもあんたより優秀なら文句はないだろうさ」
 バンッ!と銃声が響いた。ファーの後ろの男が撃ったのだ。
 弾はジョーの左腕をわずかに掠りTB21の機体に当たった。だがジョーは微動だにしない。ゆっくりと男に目を向ける。青い輝きに一瞬殺気が走る。
「ハハハ・・・」ファーが笑い出した。「生意気な坊やは好きだ。いいだろう、ウィリーの所に連れて行ってやるよ」
 ファー!とあとの2人が抗議の声を上げたが無視した。
「こいつ(TB21)に燃料を入れて弾の当った所を修理しろ」
 命令し自分は銃を確かめるのか機内に入った。
 ジョーは点検をするふりをして急いで機体の底に付けられている発信機を外しポケットに入れた。
 スイッチを切り発信が止まった事で神宮寺達が困るだろうと思ったが仕方がない。今これが見つかってはまずい。
 男が撃った弾は機体を貫通していないが機械類には当たらず穴を塞ぐ必要もなさそうだ。そう遠くまで飛ばないという事だろう。

「行くぞ」
 ファーが後部席に銃の入った箱と並んで座った。男のうちの1人が操縦席にもう1人がコ・パイに入ったのでジョーは銃を挟んだファーの隣に座った。
 エンジンが掛かる。TB21の離陸距離は290メートルだが男はスロットルを早めに上げる事でなんとか250メートルで浮かせる事ができた。
 機は大きくターンし南に向かう。
 グランドサークル上空を飛んでいるので眼下は峡谷あり砂漠や立ち並ぶ大岩、尖岩ありと豪快な風景が続く。と、
「ぼうや、いくつだ?」突然ファーが訊いた。「40過ぎって事は─ないよな」
「なんだそれ?」
 年齢よりいくつか上に見られるジョーだが、さすがに40と言われた事はない。
「いや、昔お前とよく似た男に会った事がある。と言っても話もしなかったが、印象の強い奴で─」
 父か!?とジョーは思った。ファーはマーキンスと行動を共にしていた。父を見かける事があってもおかしくない。
「1回きりだったが─お前の親父かもしれないな」
「じゃあ確かめるのは無理だ。親父はとうにいない」
「─そうか」
 それっきりファーは黙ってしまった。
 本当はジョーは彼の言う〝男〝についてもっと話を聞きたいと思った。しかしマーキンスはその男が警察関係だと知っていた。とすればファーも知っているだろう。その男が自分(ジョー)と関係があるような事は言えない。

 やがて眼下はゴツゴツした岩が少なくなり平原が広がり始めた。
 その赤茶けた大地に突如現れる巨大なビュート、そしてメサと呼ばれるテーブル形の台地が点在する。 西部劇などでよく見るアメリカを代表する風景として知られる地─モニュメント・バレーだ。国立公園ではないが、映画好きや未舗装道を走るドライブロード目当てに観光客も多い。
 TB21はやはり即席で作ったような赤土の滑走路に着陸した。
 降り立つとザーと赤い土が舞う。木など日を遮るものがないせいかジリジリと暑さが身を焦がす。こんな所にウィリーがいるのかと思っているとファーがジョーを促した。さっきジョーを撃った男と銃の入った箱を運ぶ。
 目の前の巨大な2つのメサを回り込むと、その後ろに建物が2つあった。銃は小さな建物に入れる。チラッと見たが他にも火薬や手榴弾などが置いてある。武器庫のようだ。
 ファーが大きな建物にジョーを案内した。そしてある部屋の前に止まり、“声を出すな”と言いドアに付いている小さな覗き窓のフタを上げた。
 ジョーが覗く。
 薄暗い小さな部屋だが隅のイスに座っているのは確かにウィリーだ。少し痩せたようだが縛られてはいない。
 ジョーはとっさにノブに手を伸ばした。その手をファーが掴み思いっきり殴られた。床に転がった体を引きづられてその部屋の前から離された。腕を掴み立たされると壁に押し付けられ、
「ウィリーの無事は確認できたぞ。これでいいな」
 他の男がロープでジョーを後ろ手に縛り始めた。
「なにをする!」
 暴れるが3人掛かりで押さえつけられた。
「度胸はいいがやはりぼうやだな。ここを知られて帰すわけないだろう」
 ニッとファーが笑う。そして、“どこかへ閉じ込めておけ”と男達に命令した。ウィリーとは少し離れた部屋に放り込まれた。
「へっ、ぼうやにはぼうやの知恵があるのさ」
 こうなる事は予想していたし大歓迎だ。
 奴らは自ら、懐に銃や爆弾以上のとんでもないものを抱え込んでしまった。

「ジョーからの連絡は?」
 ラスベガス市警に借りている一室を開けるなり神宮寺が言った。
「まだだ。スピードマスターは通じないし発信機も切れたままだ」
 立花が答えた。
「最後に話したのはおれ達がグランドキャニオンに向かっている時だった。だがジョーはその後、北へ進路をとったはずだ。もしグランドサークル内の谷底にでもいたらスピードマスターは無理だろうな」
 車で追っていた神宮寺達だが、急に発信機からの信号が途絶えスピードマスターも繋がらなくなりジョーの位置が掴めなくなったのは自分達も迂回して北へ向かい始めた頃だった。
 そしてその場で1時間程待ったがジョーからの連絡はなく、ラスベガスに引き返して来たのだ。
「発信機を切ったのがジョーだとしたら着陸した事になるが」
「TB21の無線にも応答がないからおそらく機外にいると思う」
「ジョーの事だから大丈夫だとは思うが・・・」
 さすがの関も冗談をいう気分ではないらしい。
「もちろん大丈夫ですよ。連絡があってすぐ飛べるようにセスナの点検をしてきます」
 関を安心させるように言って部屋を出て行った神宮寺だが、本当は自分に言い聞かせているのだろう。      
 関は手伝うため彼の後を追い、立花はまた無線の前に腰を下ろした。


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Comment

淳 says... "覚書き"
話を書く時は大まかな流れを決めて入れたい内容を忘れずに・・・あとはその時の勢いで書きすすめて行くが、時としてまったく考えてもいなかった内容を書いてしまう事がある。
今回はマーキンスとファーの過去の繋がりの話がそうだ。
流れで書いたこれが、次作でジョーに関わる大きなストーリーの一端になるとはこの時は思わなかった。

「プレリュード」「ラプソディ」そして次作は一応繋がっているので伏線を貼った形になるが、もちろん意図したものではない。

だが前に書いたものをあとでうまく使えた時はけっこう嬉しいし実際にはよくある事だ。
「お~、これって繋がるじゃん!淳って天才!」
などと自己満足に陥る事もよくある・・・。

ん?偶然の産物って・・・話作りに計画性がないってことか?


2011.05.09 16:10 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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