コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Posted by  朝倉 淳   2 comments   0 trackback

封印されし記憶 完

  上甲板に出ると、いくつかの倉口から黒い煙が噴き上がっていた。火の手はまだ見えない。が、キナ臭いのでどこかで燃えているかもしれない。 
  「せ、船倉って、どこから行くんだ」
 ジョーが途惑い立ち止まる。客船ではないので綺麗な階段などは見当たらない。と、足元がかすかに震えた。続いて小さな爆発が起こった。
 「うわっ!」
 目を覆い膝をつく。そのままうずくまろうとして、ふと動きが止まる。
 散った光の中に、一瞬だがクロードの顔が見えた。それも若い時の顔が─。
 (な・・なんだ・・・)
 うずくまりたい気持ちを必死に押しのけ立ち上がる。目の前に小さな炎が見えた。甲板を焦がしているが大した火力ではない。
 (今のは・・なんだ・・)
 「ジョー!」
 「神宮寺」振り向くと、船室から出てきた神宮寺が立っていた。
 「船倉はこの下と、もう一ヶ所船首にもあるはずだ。間は機関室で遮られているから、行き来はできない。クロードがどっちにいるかわからないから二手に分かれよう」
 「お前は降りてくれ。ここはおれ一人でやる」
 「状況を見ろ!お前一人でまわっているうちにクロードは黒焦げになるぞ!」
 「だ、だけど・・」ジョーは目を瞑り、首を振る「もう誰も巻き添えにはしたくない」
 「ジョー・・」誰の事を言っているんだ?西崎の事か?しかし・・「なに言ってるんだ。これがおれ達の仕事じゃないか」
 神宮寺の言葉にジョーはハッと顔を上げた。
 「とにかく話はあとだ。今はクロードを」
 神宮寺が、隙間から煙を噴き出している倉口のフタを持ち上げ中を覗く。一瞬煙がバーと噴き上がったがすぐに薄くなった。
 「よし、これなら大して燃えてないだろう。ジョー、この梯子の下が第一船倉、その下にもう一倉あるはずだ」ジョーも中を覗く。暗いが荷物が置いてあるのが見える「おれは船首の船倉に向かう。いいな!」
 「わかった」
 ジョーが頷き、倉口から梯子を使って倉内に降りた。神宮寺はすぐさま船首に向かって走りだした。
 倉床まで5mくらいだろうか。火の手は見えないがキナ臭い。
 「クロード!いるのか!」
 呼びながら走る。積み重ねてある荷物の影も覗く。しかしクロードはいない。
 「くそォ。もう一倉下か」
 ジョーは倉口のフタを持ち上げようと力を入れた。左肩が悲鳴を上げている。それでもなんとか開ける事ができた。
 第二船倉内はさらに暗い。床底がはっきりわからないが、とにかく梯子で降りる。キナ臭さが増した。
 「ク、クロード!」
 呼んでセキ込んだ。肺に直接煙を送り込まれているように痛む。空気がうまく口に入ってこない。
 「クロード!いるなら返事しろ!」さらに奥へと進む─と「クロード!」
 「ジ・・ジョージか・・」壁にもたれて腰を降ろしているクロードを見つける「よかった・・無事で・・」
 「あんたこそ、よく殺(や)られなかったな」
 「私は奴らの金庫番でね・・。キーワードがわからなければ、奴らは1ユーロだって受け取る事はできない・・」息が荒い「しかし、セシルを盾に取られては・・・」
 「彼女は保護した。大丈夫だ。それよりクロード、早くここから出ないと」
 ジョーはクロードの体に手をまわし立たせようとした。しかし185cmのジョーよりクロードの方がわずかだが大きい。おまけに自力で立って歩くのはむずかしそうだ。
 満身創痍のジョーに、クロードを抱え上げるのは無理だ。
 「だめだ・・私は・・・。ジョージ、早く逃げろ」
 「そーいうわけにはいかないんだよ」ジョーはクロードの腕を自分の右肩にまわし担ぐ「あんたを助けて帰らないと、セシルになにされるかわからない」
 「・・あの娘(こ)はいい子だ・・」ふとクロードの顔が和む。
 「クロード!ニヤついてないで歩けよ!」
 無理だった。クロードが足を前についたとたんバランスを崩し、2人とも床に倒れ込んだ。
 「ニヤつくエネルギーを足にまわせ!」
 「女性を想いニヤつくのは、男の醍醐味だ」
 「状況わかってンのか、このオヤジ」ジョーが毒づく。ふと梯子を見上げた。誰かが下りてくる 「神宮寺!?」
 「無事か」神宮寺が降り立つ「船首に眉村さんが人をまわしてくれたんだ。上で江川達がロープを探してる。引っ張り上げるしかないだろう」
 ちょっと気遣わしげにクロードを見る。確かに大柄のクロードをおぶって梯子を登るのは無理だろう。
 「き、君は・・あの時ジョージと一緒にいた・・。そ、そうか・・君も・・」
 「しゃべるなクロード。少しでも休んで─」
 ふと、背中に温かいものを感じた。背後は壁なのだが・・・。と、ズッと船が身震いし、次の瞬間爆発が起こった。
 「うわあっ!」爆風で三人ともすっ飛ばされた。床に落ち転がる。
 「じ・・神宮寺・・」ジョーは自分の横に倒れた神宮寺に近寄る。左半分の服がボロボロになり、腕や胸からは血が滲んでいた「お、おい、神宮寺」
 「大丈夫・・ちょっと焦げたが・・」声はしっかりしている「それよりジョー。見ろ」
 「あ・・・」神宮寺の指さす方を見ると、今まであった壁がなくなり何やら多くの機会が置かれている空間が広がっていた「機関室、か・・」
 「機関室との隔壁がやられたんだ。火が広がっていると面倒な事になる」左腕を押さえながら立ち上がろうとする「クロード、こっちへ─」
 クロードは機関室に一番近い所にいた。神宮寺の呼びかけに顔を上げてこちらを見る。その彼越しに、火の手が上がった。
 「い、いけない。ジョー、クロードを」しかしジョは答えない。一点を見たまま動かない「ジョー!」
 「ク・・クロ・・」ジョーは見た。炎に照らされたクロードの顔を「あの夜・・庭にいたのは・・」
 クロードだ。若いクロードが庭にいた。家屋を焼く炎に照らされ、真っ赤な顔をした─。
 ─目の前を赤い光が散った─リマインダーが一気に頂点に達した。行き場所がなく溢れ出る。あの夜の記憶が甦り繋がった。
 目が覚めてからカルディに追われ庭に出て気を失うまで・・いや違う。そのあと、もう一度目を開けた。
 顔を上げると木々の間から燃えている家が見えた。とっさに立ち上がろうとしたが玄関前で動く人影を見た。あれは・・クロード・・?クロードだ。助けに来てくれたんだ。両親の事を伝えなければ─。
 しかしなぜかジョーは立ち上がらず、それどころかクロードから身を隠した。木々の間からクロードを窺う。
 彼は屋内に入ろうかどうしようか迷っている様子だったが、火の手が強くなってくると諦めて、逃げるようにその場を去った。ジョーには気がつかなかった。
 彼は再び気を失った─。
 3日後、目覚めた彼の脳裏には、あの夜見たクロードの姿だけがスッポリと抜けていた─。
 「やっぱりあんたが・・あんたが関わっていたのか・・」ジョーが一歩一歩踏みしめるようにクロードに近づく。突然走りだしクロードの胸倉を掴んだ「信じたかったのに!あんただけは信じたかったのに!」
 激しく揺さぶる。クロードは抵抗もせず、されるがままに身を任せている。ジョーの怒りを想いを悲しみをその身に受け止めるように。
 「やめろジョー!そんな事している場合じゃ─!」神宮寺が止めに入った時、その後方で爆発が起きた「船尾隔壁が─!」
 「!」
 クロードがジョーの腕を引っぱり胸に抱き込んだ。髪に口づけし耳元でささやく。ジョーは驚いて顔を上げようとした。
 隔壁を破られ勢いよく水が流れ込み三人の飲み込んでいく。


 この夜の出来事は、警察による密輸グループの一斉検挙が成功したとしてしばらくの間世間を沸かせた。
 しかし、そのすぐあとに起きた大物株主によるインサイダー取引が問題になり、世間の関心も次第にそちらに移って行った。


 「クロードは死んだよ」鷲尾が静かに言った。
 目を覚ますと鷲尾と榊原がいた。榊原はジョーの様子を一通り診るとそのまま病室を出て行った。そして鷲尾が静かに言ったのだ。
 あの時、船尾隔壁が爆発で壊され流れ込んできた水は、実は船内に設置されている船尾水槽内の水だった。だから勢いはよかったものの量としては少なく、船倉と機関室を満たす事にはならなかった。
 それでも爆風を受けキズを追っていた3人の動きを止めるには充分だった。水の流れに足を取られ次々と倒されていく。
 もし樋口達が下りてくるのがあと1分遅かったら・・・眉村が救出隊を出してくれなかったら・・・3人はそのまま水の底に沈んでいたかもしれない。
 「・・・・・」
 鷲尾のその言葉をどこか別の世界の事のように聞きながら、ジョーは押し寄せてきた冷たい水の感触を思い出していた。クロードに触れている部分だけは暖かかった。
 「実は、クロードが亡くなる前、私は彼に会っているんだ」ジョーが鷲尾に意識を向けた「彼は君に会いたがっていたが、君はまだ意識が戻らなかったし・・。そこで私の会いたいと、話をして君に伝えてほしいと─」
 鷲尾の話は続く。

         ×      ×      ×      ×      ×

 「・・久しぶりです、ワシオさん」荒い息の下でクロードが言った「手間をお掛けしてすみません」
 「10年ぶりだ」鷲尾はイスに掛けながら言った「あまり変わってないな」
 「そうですか?」クロードが嬉しそうに微笑む「あなたは貫禄がつきましたね。さすがはパリ本部の長官だ」
 2人は顔を見合わせかすかに笑う。
 「今回の事は本当にすみませんでした・・。私が六本木でジョージに声を掛けなければ・・・」
 「クロード、あまり話さない方が─」
 「時間がないんです。私はまだジョージの質問に答えていない」クロードは鷲尾から視線を外した「アサクラ邸のセキュリティフロッピーの事です」
 当時クロードは管理課に所属していて、建物のセキュリティ管理を担当する一人だった。代々木にあったJBビルはもちろん、JBが所有する建物や家屋も担当範囲だ。
 ある日彼は、フロッピーの記録内容の一部に誤りがあるのに気が付いた。家で直そうとフリッピーを持ち出した。もちろん違反行為だ。
 しかしその時の彼はあまり深く考えなかった。
 JBを出て帰宅する前に行きつけの店で夕食を摂り、たまたま一緒になった顔見知り2、3人と酒を飲んでから高円寺のマンションに帰った。と、カバンの中からポーチがひとつ消えていた。
 そこにはたばことライターと小銭入れ、そして例のフロッピーが入っていた。
 「いつ、どこでなくしたのか・・あるいは盗まれたのかわからなかった。もちろん、そのフロッピーがその後誰かの手に渡り悪用されたのか・・いや、価値がないと捨てられたのかさえも・・・私には確認するすべもなかった。システムの解除は不可能だと思ったが、それでも何度かアサクラ邸に様子を見に行った。あの夜も」クロードの呼吸が小刻みになる「12年前のあの夜、私が着いた時にはもう火の手が上がっていた。やっぱりそうか、と思うと恐ろしくなって逃げ出して─」
「クロード、しっかりしろ」鷲尾がナースコールを押した「君の口から直接ジョージに話してくれ。あの子のためにもそうしてほしい」
 しかしクロードはかすかに首を振ったように見えた。そして長い息をついた。

         ×      ×      ×      ×      ×

 「それから2時間後だったよ、彼が逝ったのは。最後は君に謝っていたそうだ」
 「・・・・・」
 鷲尾の顔から眼を逸らした。
 クロードの言った事がうそだとは思っていない。しかしジョーにはその言葉の真意を確かめる事はできない。
 そして、なぜクロードを見たという記憶だけが彼の意識から消えていたのか、なぜ思う出せなかったのか─。
 もしかしたらあの夜、幼いジョーはクロードも犯人の仲間だと思ってしまったのかもしれない─。だがそれすら今のジョーにはわからない。
 隔壁の爆発から身を挺して守ってくれたクロード。あの時彼はなんと言った?
 “Ich liebe kleiner Gerge”─愛しているよ、小さなジョージ─。
 冗談じゃない。おれはもう子どもじゃない。あんたの言う“小さなジョージ”じゃないんだ。知りたい事はいっぱいあったのに。話してほしい事も・・・。ちゃんと説明してくれれば、理解できる年なんだぜ。たとえどんな事を聞こうとも・・・。
 “知って苦しむなら、知らない方がいい事だってある”
 誰かが言っていたっけ。まったくその通りだ。知った事による苦しみは大した事はない。しかしそれを確かめる事ができない。事実なのかあるいは─。
 もしうそだったら、ジョーはもっとも信頼したいと思っていた人の─その人自身への信頼まで失ってしまう。
 「でも・・彼の言う通りなんだろうな、きっと・・」
 かすかに頷く。そう納得するしか今はない。心も体も疲れ果てていた。
 「もうお休み。明日になれば神宮寺君達とも会える」
 「神宮寺」ふと気がついた「神宮寺は?中根達はどうなった?」
 「大丈夫。皆、救出されたよ。神宮寺君だけは火傷の範囲が広かったから入院しているが、もうずい分前に気が付いて元気だそうだ」
 「・・そうか」
 ジョーがホッと息を付く。と、涙が浮かんできた。鷲尾に見られないように下を向く。が、肩が震え全身に広がっていく。声が漏れないように手の甲で口を押さえ込むがだめだった。
 「・・おれは、コンビの命まで危険に晒して・・」
 「ジョージ・・」
 「・・もう・・いやだ・・」
 さらに固く自分を押し潰す。
 鷲尾が彼の髪に触れやさしく撫でてくれたが、ジョーは顔を上げる事はできなかった。


 事件の夜から3日が経過した。
 その間JBは、森チーフをはじめほとんどの人間が事件の後始末に追われていた。
 横須賀新港の囮の船で確保した12人と、翌日、海上保安庁の協力のもと海上で確保したクルーザーに乗っていた8人は、アメリカのニューヨーク支部に送られる事になった。彼らは日本に密入国した例のテロリストのグループと陰で繋がっているらしい。そのテロリストを追っているのがニューヨーク支部なのでそちらに委ねる事に決まった。その中にはセシルも含まれている。彼女だけにクロードの死が伝えられた。
 『ジョージにお礼を─。私が出てきたら2人でクロードの話をしましょう』
 寂しく笑って言ったという。
 爆発炎上した貨物船は幸いな事に沈没まではしなかった。もし沈んでいたら被害はもっと増えていただろう。とは言うものの、船に突入した捜査課のメンバーのほどんどが爆発と炎で火傷を負った。
 しかし大方の者は病院で手当てを受け、そのままJBに復帰している。
 一番重症なのは神宮寺だったが、彼もあと2、3日で退院できるという。
 そしてやはり最後まで船倉に残り神宮寺共々爆風を浴びたジョーだが、クロードのおかげで軽症で済んでいる。こちらも1、2日で退院できるだろうと榊原から報告が入っている。
 森が安堵の息をつき、JBはまたいつもの日々に戻っていく。


 「な、なんですって・・・」受話器を握りしめ森の声が震えた「今・・なんて言いました・・」
 『ジョージをパリに連れて帰る』鷲尾の固い声が響く『3日後に帰国する。その時、ジョージも一緒にフランスへ─』
 「そ、それはどういう事ですか。ジョーからはなんの届けも出ていません。ジョーはJBのメンバーです。勝手な事をされては─」
 『森君』鷲尾の声が森を遮る『わかってほしい・・・。これ以上、あの子にこの仕事は無理だ』
 「・・・・・」森が絶句する。
 気持の半分では鷲尾の言う事がわかる。しかしあとの半分は─。
 「彼は・・ジョーはなんと言っているんですか」静かに言う「私はJBの責任者として、彼の意志を確かめる責任が─」
 「もちろん同意している─そうだね、ジョージ?』
 その時森は、ジョーが鷲尾のそばにいる事に気がついた。しかしこれは普通の電話なので、ジョーがどう答えたのかわからなかった。
 「・・ジョーを電話口に出してくれませんか」抵抗する「私は彼の口から直接聞きたい。いや聞かなければ─」
 『森君・・』
 「ジョーをJBに入れた責任があなたにあるというなら、彼をSメンバーに任命し危険な仕事に送り出して来たのは私です。それが重荷だったのか、辛かったのか─!そ、それが彼の─」
 『・・もう・・・いいのだよ』鷲尾が静かに言った『細かい手続きは後日になるだろう。彼の物はしばらくそのままにしておいてくれ』
 「長官!」
 『ジョージは日本でよい上司や仲間と共に過ごす事ができた。親としてとても感謝している』
 「鷲尾さん!」
 『見送りはいらない。皆に・・神宮寺君によろしく伝えてくれ』電話が切れた。
 「・・・・・・」
 森は長い時間その場に立ち竦んでいた。


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                                               完


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Comment

淳 says... "覚書き"
2巻完成。ノートが埋まるのか心配したが埋まってしまった・・・。
ダブルJ再開早々にジョーをやめさせるのか?ちょっとなぁ・・と思いながらも、そちらの方向に進んでしまった。

この夜のW杯の試合会場はハンブルクでした。オイ・・・
2011.01.10 18:09 | URL | #vDtZmC8A [edit]
says... "管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2012.02.29 16:24 | | # [edit]

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