コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

赤と青のワルツ 3

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「兄さん、モナコから帰ったらまたここへ戻ってきて」
 ルーテシアを降り健が言った。
「いや、たぶん日本に帰ると思う。仕事があるんだ」
「じゃあ、ぼくが日本へ遊びに行くね。日本のディズニーランドにも行ってみたい」
「早めに連絡してくれよ。休みを取っておくからな」
 ジョーは健の髪を─自分に対して鷲尾がするように─クシャクシャと掻きまわした。
「落ち着かなくてごめんなさいね」幸子がジョーの頬にキスをして言った。「また帰ってきてね」
「うん─。いってらっしゃい」
 ジョーはルーテシアに寄り掛かったまま学校の門を入って行く2人に手を振った。
 そういえば昔まだ日本の学校に行っていた時、一泊だったがキャンプ行事があった。ジョーは行くのがいやで3日前から食事も摂らず部屋からも出ずに抵抗して─そのせいか前日に高熱を出し結局キャンプは欠席になった事があった。今考えると赤面ものだ。
「かわいくねーガキだったな」
 ジョーは2人が見えなくなるとルーテシアに乗り込み鷲尾の家に戻った。
 家の中はシーンとしている。鷲尾はモナコに行く前の仕事を片付けるため迎えの車でもう本部へと出勤した。ジョーとはソーに近いオルリー空港で待ち合わせる事になっている。
 昨夜、森に連絡を入れ鷲尾とモナコに行くと伝えてあるが正直なところ彼はまだ少し迷っていた。モナコは初めてなので行ってみたい。GPも見たいしカジノもある。鷲尾は遊んでいいと言ったのだが─。
 何かがジョーの胸に引っ掛かっている。それは昨日見た夢か、それとも鷲尾の態度なのか・・・。訊きたい事は訊いたのだからもう日本に帰っても─。
(訊きたい事?)
 ジョーはふと思いついた。そうだ、鷲尾がいたんだ。彼の方が榊原よりはジョーに近い所にいたのだから、あの夜の彼の病院での事をよく知っているだろう。彼に訊けばすべてはっきりする。切れている記憶を繋げられる。なぜそれに気がつかなかったのか。
(だけど・・・)
 所々穴の開いている記憶を埋めたいと思う気持ちは変わらない。なのに自分は何を臆くしているのだ? 何も覚えていないのに感じるこの不安と恐怖感はいったい・・・。
 と、居間の時計が8時半の鐘を鳴らした。ジョーがハッと顔を上げる。ここからオルリーまではアントニーを経由して1時間もかからない。
 だがジョーは決心が変わらないうちに行動を起こした。

「やっぱり来ましたね、ジョージ」通路左側の窓側の席にジョーを追いやりルイスがクスクス笑う。「長官がGPの話をしたので来ると思っていましたが」
 そーいうイミのクスクスだったのか、とジョーがルイスを睨む。
「車が好きなんですね。ディアブロでも目の前にぶら下げたらすぐ誘拐できますね」
 その言葉にジョーと隣に座る鷲尾はドキッとしたが、
「あんたの言うとおりだ、ルイス。だからもう黙ってくれ」
 と不機嫌そうに言った。
 はい、と快諾するとルイスは通路を挟んだ右側の席に着いた。だがムスッとしているジョーを見ると少し困ったような顔を向けてくる。それを見てもう少しこのままでいてやろう、とジョーは思った。
 オルリー空港を飛び立ったエールフランスの国内線は一路南フランスのニース・コートダジュール国際空港に向かう。1時間30分のフライトだ。
 国内線の飛行機のほとんどが左右に2つしか席のない小型機だ。座席の大きさはジャンボ機と同じなのになんとなく小さく見えるから不思議だ。
 特に大柄の鷲尾とジョーが並ぶと余計に狭く見える。しかし2人を左側にしたのには理由(わけ)がある。
 コートダジュールに近づくと、眼下にその名の通りの紺碧の「海と天使の湾」と呼ばれるニースの海岸線との見事なコントラストが楽しめるのだ。
 ジョーは一瞬タオルミーナの海を思い出したが、こちらの方が華やかだ。
 
 モナコはニースから車で30分程の所にある。
 ガイドブックではフランスと一緒に編集されている事が多いが、モナコ公国は国連に加盟する主権君主制の独立国だ。
 バチカン市国に続いて世界で2番目に小さな国だが、EUでも有数のリゾート地で美しく優雅な大人のための極上の地である。
 またイベント天国でもあり今回のF1GPはもちろん花火や舞踏会、バレエにオペラといつ来ても何かしらイベントが行われている。
 もちろんカジノやスパもお勧めだ。
 ニース空港のロビーを出た3人を出迎えたのはモナコ警察の副所長達だった。今回の会議がモナコで行われる理由は、ここモナコに国際警察の支部を設ける話が持ち上がっているからだ。
 高級リゾート地であり犯罪件数も多くないモナコだがかえってそれが目隠しとなり、ここ数年大きな事件はないものの犯罪組織の密かな潜伏地になりつつある、という噂がある。
 モナコの危機管理システムは世界一といわれているが、この先の事を踏まえ国際警察の支部の設置を考えたようだが─。

 3人を乗せた車はモナコまでずっと海沿いの道を走ってくれたので、彼らは美しいコートダジュールの海を充分堪能した。
 やがて車はモナコ公国に入りモンテカルロ地区に建つホテル・フェアモント・モンテカルロの正面に着いた。
 モナコで最大の規模を誇るホテルで海に面しているので眺望がすばらしい。またホテルの正面にはF1のコースともなっているヘアピンカーブがありジョーを喜ばせた。
 ちなみにモナコGPはフリー走行や予選、決勝と3日間に渡って行われるが、木、土、日のみで金曜はコースとなる公道は一般に開放される。
 今日は金曜日なので目の前の道は一般車が走っていた。
 副署長は3人をフロントまで案内し午後にお迎えに来ますと言い帰って行った。ルイスがフロントでチェックインを行う。
「ジョージ、部屋は長官か私と一緒になりますが」
 ルイスが言った。
 モナコ側は鷲尾のためにこのホテルに2室取ってくれた。1つは海に面したリヴィエラ・スイート。  もう1室はF1のコースであるヘアピンカーブが見下ろせるツイン・ルームだ。
 この時期は1年前にはもう予約でいっぱいになってしまう。部屋の追加は無理だ。
「どっちでもいいけど」ちなみに鷲尾はリヴィエラ・スイートだ。「じゃあ寝るのはこっちで、レースの時はルイスの部屋に行くよ」
 ポーターが3人の荷物をカートに乗せている。
「ルイス、頼みがあるんだけど」はい?とルイス。「車、借りてくれないかな。国際免許持ってるだろ?」
 ルイスは首を傾げたがすぐに思いついた。
 アメリカもそうだが、ここモナコもレンタカーを借りられるのは23才以上─ー部の車種は25才以上と決められている。鋭い瞳と圧倒的な存在感を発している目の前の男が、実はまだ20才(はたち)ソコソコだと気がついた。
「ですがモナコは坂が多いので、市内を回るなら公衆エレベータやプチトランの方が便利ですよ」
 モナコは皇居の2倍程度という小さな国だが坂道が多く、見所もあちこち散らばっているので観光客の多くはバスか斜面に設置されているエレベータ、もしくは観光スポットを30分で回ってくれるプチトラン─アズール・エクスプレスを利用する。
「モナコGPのコースを走りたいんだ。今日は開放日だろ。土日は走れないから」
「ああ、そうですね」
 ルイスが頷きコンシェルジュにレンタカーの手配を頼もうとしたが、
「ちょっと待ってくれ、ルイス」鷲尾が止めた。「ジョージ、タキシードはあるか?」
「そんなもの、持ってません」
「夕食の後にセルフォン副署長がカジノに案内してくれるそうだ」
「警察つきのカジノですか?」言ってしまってから、あ、自分達もかと思った。「スーツを用意しろと言われたからソーに置いてあったのを持って来たけど。そんなもの着なきゃカジノに行けないのなら、おれホテルのカジノでいいや」
 ホテルによっては館内にカジノがある。ちなみにこのホテルにも併設されているが観光客用というより地元のギャンブル好きが集まるようだ。もちろんドレスコードはない。
 しかし副署長が自ら案内するというのだからTシャツやジーンズで入れる所ではないだろう。
「ま、子どもだから普通のスーツで充分だろう」
 自分で振っておいてシラッと言う鷲尾に苦笑し、ルイスがコンシェルジュに向かう。ジョーが追ってきた。
「オートマじゃなくミッションだぜ。大型車じゃなくて小回りの利く、できればカブリオレにもなって」
「注文が多いですよ。自分でやりますか?」できないから頼んでいるのだ。「手配が出来たら呼びますから、とりあえず長官と部屋に上がってください。あなたは仕事じゃないけどこれくらいの事してください」
〝これくらい〝というのは長官の護衛だろう。本当はルイスの仕事だ。
「チェッ、やっぱり使われるんだな。来なきゃよかった」
「いいじゃないですか、一応プライベートだし。その間にちょっと手伝うという事で」
「プライベートだから余計にヤなんだ!」
 と言い、それでも鷲尾の後を追って行った。

 エレベータで7階に上がり案内されたリヴィエラ・スイートは海に面した開放感のある明るい部屋だ。青と白を基調にしたインテリアは高級ホテルだがリゾート地らしい。
「スーツってこれですよ。おれがソーにいた時ママが買ってくれたけど一度も着なかったなァ」と、深い紺碧のスーツ一式を取り出しクローゼットに吊るした。「鷲尾さん、タキシード着るんですか?」
「なんだ、その顔は」ニヤニヤと笑うジョーを鷲尾が睨む。「私は大人だからな。君のようなわけにはいかない」
 相変わらず幸子は〝ママ〝で、自分は〝鷲尾さん〝か。
「ラスベガスに持って行った服をそのままモナコへってわけにはいかないし。ママに感謝だな」
 バッグから服を引っ張り出しクローゼットに放り込んでいく。そのほとんどが幸子の選んだもので、ジョ ーが日本に帰る時にソーに置いて行ったものだ。ちなみにラスベガスに持って行った服のうち無事だったものはソーに置いて来た。
 と、室内の電話が鳴った。ルイスからで、車の手配ができたという。
「カジノに行く時間がわかったらメールしてください」
 とだけ言い部屋を出て行った。
 どうやら副署長との会談や夕食に同席するつもりはないようだ。
 ま、ここは世界屈指の安全な国モナコだ。危ない奴がいるとしたらそれは彼かな、と鷲尾は一人苦笑いしていた。

「本部の連中はプジョーが好きだな」
 目の前の車を見てジョーが言った。
「急だったのでこのタイプしかありませんでした。でもいい車ですよ、プジョー207CC。本部の407よりはおとなしいですが」
 レンタサービスがホテルの地下駐車場まで運んでくれたモンテペロ・ブルーの車体はモナコの海の色だ。
「ほら、このスイッチを引き上げるとハードトップクーペからカブリオレになるし」
 ルイスがセンターコンソールに手を伸ばしリトラクラブル・メタルハーフのスイッチを引っ張る。と、 ルーフが動き25秒でカブリオレタイプになった。ジョーがヘェと声を上げる。
「バックソナーも付いているし小回りが利くので狭いモナココースを走るにはピッタリですよ。ただ─」
「ただ?─なんだ」
「オートマなんです」
 ニッコリと笑って言うルイスをジョーは睨みつけた。そういえばこのタイプのプジョーはほとんどが オートマだった。確か本部のもそうだっけ。
「季節によってはこのホテルでもフェラーリのレンタルを行っているそうですが、今はやっていないようで─。残念です」
「なぐさめてるのか?それともおれを怒らせたいのか?」
「Sメンバーを怒らせるなんてとんでもない」
 どうぞ、とドアを開けてくれたのでジョーは乗ってしまった。シートフィッテングは悪くない。ステアリンググリップもまあまあか。
「事故らないでくださいよ。私の名義だし、モナコ警察にあなたの身柄を引き取りに行くのはご免です」
「誰に言ってるんだ」
 ジョーがスッとルイスを見上げた。ルイスはギクッと口を閉じる。本人にそのつもりはないかもしれないが、この口調と鋭い瞳は相手に彼が思っている以上の威圧感を与える。本来味方であるはずのルイスでさえジョーの怖さを再確認した。が、
「手間かけて悪かったな。鷲尾さんを頼む」
 ニッときつく微笑みプジョーは駐車場の出口に向かった。
「あの男を抱える日本支部は大したものだ」
 ルイスが感心と同情のため息をついた。



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Comment

淳 says... "覚書き"
いよいよモナコ入り!
いままではF1でしか興味がなかったが、参考本を読むとなんとも魅力的な地ではありませんか!
ジョーに堪能させてあげよう。

新聞に出ていたが、ジョーが借りたプジョー209って発売されたばかりの車種なの!?
とうに409が出てるから209はその前のモデルだと思っていた。

・・・新車ってレンタルしてるのか?

2011.06.12 17:47 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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