コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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赤と青のワルツ 5

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 プライベートルームから出るとなんとなくホッとした。
 重厚さや華やかさは変わらないのだが客層がなんとなく若返ったような気がする。なによりおじさん達にくっついてわからないフランス語を聞いていなくて済む。それだけでもありがたい。
 ジョーはネクタイをわずかに緩め上着のボタンをひとつ外した。ちょっと行儀が悪いがジョーにはよく似合っていた。
 プライベートルームを出てすぐのホールにはスロットマシンが、その向こうにはルーレットとポーカーのホールがある。
 ラスベガスですいぶん貢いだので、ここで勝負をするつもりはなかった。
 ジョーは薄いブルーのカクテルを手にしながら、またも行儀悪くルーレット台を覗いていた。
「やあ」ふいに声を掛けられジョーは振り向いた。昼間に埠頭で会ったマルケスだった。「1人でなんとなく心細かったんだ。知ってる顔が見えて─」
「1人?」ふと辺りを見回した。「昼間に一緒にいた人達は?」
「彼らは別の所に遊びに行った。おれはまだグランカジノに入った事がないから。でも1人で来るのってあまりいないんだな。君は1人?」
「いや、養父オヤジのお供だが、退屈なので抜けて来た」
 と、プライベートルームを指差す。
「向こうのホール(プライベートルーム)は恐ろしそうで入りづらい」
 マルケスが笑う。ジョーより小柄だが黒髪に陽気な雰囲気がトーニを思い出させる。
 2人は自然に揃って歩きスロットマシンのホールへ入った。
「他のカジノなら小額で遊べるスロットもあるけど、ここではそうはいかないな」と、ポケットからジュトンを取り出し運だめしをする。「君はもう試してみた?」
「いや、ラスベガスで散々すっちまったから、ここではやらない」
「ラスベガス?君ってギャンブラー?」
 と、また笑う。
「そうかもな」
 ジョーもちょっと唇を歪めた。事件で世界中を飛び、ギャンブルのような一か八かの勝負をした事もある。そっちは今のところプラスなのか?マイナスならもうこの世にはいないか。
「あー、だめだなァ!」マイケルが声を上げた。「仕事前の運だめしをしたかったのに」
「ここへは仕事で来ているのか?」
「え、あ、うん」ちょっと口籠ったが、「大仕事さ、おれ達の─」
 ふとジョーの視線に気づき、
「ま、いいや。今は遊ぼう」
 と、またジュトンを投入した。ジョーも横に立ちクルクル回る絵柄を見ていた。本当はホテルに戻りたかったが鷲尾がまだいるので一応残っている。
 と、少し離れた所からガッシャン!という音が響いた。スロットマシンの音や人々のざわめきでホール内は色々な音がしているが、その音はまったく異質のものだ。ジョーもマルケスも音のした方に顔を向けた。だが直接には見えない。
 ガシャ、ガシャン!とまた響いた。女性の悲鳴が聞こえた。
 ジョーが向かう。マルケスもついて来た。と、1人の男がスロットマシンをコブシで叩いていた。手持ちを全部飲み込まれてしまったのだろうか。
「たまにいるよな、あーいう客」マルケスが呆れたように呟く。「でもグランカジノでお目にかかるとは思わなかった」
 そうこうしているうちに警備員が駆け付けてきた。が、男は身を翻し逃げ出した。真っ直ぐこちらに向かってくる。途中女性客を突き飛ばした。
「なんて事するんだ!」
 マルケスが男の進路に立ち塞がる。しかし勢いついている男は腕をブンッと振りマルケスを吹っ飛ばした。
 と、同時にジョーの体がスッと沈んだ。左足で男の足を横に払った。男はくうを飛び、その勢いでズーと床を滑って行った。
 パンッとスラックスを払いながら立ち上がるジョーの前を警備員が走って行き、床に伸びている男に取りついた。と
「どうした!」
「何かあったのか!」 
 プライベートルームから2、3人の男が走り出て来た。
「やべっ」
 男達はセルファンと部下の警官だ。別に悪い事をしたわけではないがなんとなく面倒になり、ジョーはそそくさとホールから逃げ出した。

 エントランスホールまで戻る。セルファン達はジョーより真っ先に警備員に目を向けたのでジョーには気が付かなかったようだ。追ってこないのでとりあえずホッと息をつく。と、
「な、なんで逃げるんだ?」
 息を切らしたマルケスがすぐ横にいた。
「別におれは─。って、なんであんたまで逃げるんだよ?」
「あれ?─そーだね」2人は思わず顔を見合わせた。どちらからともなくプッと吹き出す。「釣られてついて来ちゃったよ。後から来たの警察だって?君が逃げる事ないだろ」
「ん・・・、でも関わりたくないし・・」
 そのまま外へ出て石段を降りる。黒塗りの車が次々と到着しては主人を降ろしていく。忘れていたが怪我をしていた左足が少し痛んだ。
「あんたこそ逃げる事ないだろ。警察に見つかるとやばい、とか」
「まだやばくないけど・・・苦手なんだ」
 マルケスの言葉にジョーは首を傾げた。が、その時、“マルケス”と昼間見た彼の仲間が車の中から呼んだ。
「あ、もう集まる時間だ。じゃあな、またどこかで会えたらいいな」
 と、手を振り車の方へ走って行った。
「せわしない奴だな」
 ジョーは苦笑し車内に目を向ける。昼間のあの男はいなかった。

「誰だ、あの男は」隣に乗り込んできたマルケスに年上の男が訊いた。「目つき悪いな」
「昼間に港で会って今もカジノで─あれ、そういえば名前聞いてないや」
「仕事の前だぞ。あまりあちこちで顔を売るな」
「わかってるよ、ガリレー。グランカジノの中がどうなってるのか見たかったのさ。警官がいた。なんで来ていたんだろう」マルケスの言葉にガリレーと運転席の男は顔を見合わせた。「それとスロットで負けた。手持ちのジュトンをみんな摩っちまった」
「お前が?スロットマシンに?」2人が笑い出した。「さすがのコンピュータの天才もギャンブルマシンには弱いんだな」
「ま、強ければ今頃金持ちだ」
 ハハハ・・・と声を上げる2人にマルケスがチェッと舌を打った。が、もしかしたらさっきの警官達は今まで自分と一緒にいたあの不思議な色合いの青い瞳を持つ男を追っていたのかも、と思った。

 翌日、朝食を終えるとジョーはすぐさま地下駐車場に停めてあったプジョーで地上に乗り出した。
 今日は午前中に1回目の公式予選が行われるのだ。
 鷲尾やルイスと朝食を共にした時、今日は午後から鷲尾の部屋─つまりジョーの部屋でもあるのだが─で、支部長会議を行うという。ルイスも同席するのでその間彼の部屋で予選を見る事にし、午前のフリー走行は街中で見ようと思ったのだ。
 急に来たのでもうチケットは手に入らない。しかし観客席に入らなくてもホテルの屋上やもっと全体的に見たいのならどこか高い所へ上がればいい。山に囲まれたモナコはちょっと上がっただけでも港の周辺が見渡せる。
 コースが閉鎖になっていて一般車が通れないせいか街中は混んでいた。
 まず大公宮殿前広場に向かった。観光客とフリー走行見物の客でここも混んでいた。ちょっと距離があるが、ここからだとスタートグリップやピットのあるモナコ港が一望できた。
 フリー走行はもう始まっていた。アロンソはもちろんだがハミルトンがいい走りを見せていた。弱冠 22才の今年の大型新人だ。F1でのモナコGPはもちろん初めてだ。
 あのセナやM・シューマッハでさえ初戦のモナコを制する事はできなかった。だがもしかしてハミルトンは・・・と思わせるような走りだった。
 ジョーは車の運転には自信があるし、N2でも何度も上位に入っている。しかしF1レーサーの走りはそれとはまったく違う。カーレースの頂点、世界に20数名しかいないF1レーサーはやはり特別な存在なのだと思い知らさせる。

 コースを見降ろしていたジョーがふと顔を上げ遥か前方に目を向けた。泊っているホテルが見えた。その向こうはラルヴォット地区だ。そしてそのさらに向こうは・・・ここから20キロ東にイタリアの都市サンレモがあり、そしてジェノバ、ぐるりとリベリア海を回りあの長靴のような半島のイタリア─その付け根にあるフィレンツェ、長靴の先で蹴飛ばされたサッカーボールのようなシチリア島─。
 イタリアに行ったのはどのくらい前の事だったのか。そこで聞いた事、会った人々─今さらながら夢のようだ。
 と、何かを感じ振り返った。
 少し離れた所からこちらを睨んでいる防犯カメラが見えた。
 モナコはこの狭い国土になんと250台ものカメラが設置されているという。警察署にある集中管理センターで24時間監視されている。
 ちなみに警官は500人で、そのうち常時300人は街に出て警備に当たっている。人口100人に1人の警官という割合だ。
 また一般住宅でも出入り口に私設のカメラを設置している所が多い。昼はもちろんだが、宝石で身を飾ったセレブが夜でも安心して出歩ける理由はここにある。
 が、そんな完璧なセキュリティの国も警察署の建物はおとぎの国の小さなお姫様が住んでいるような可愛いデザインなのがおもしろい。
 
 9時と10時と2回のフリー走行が終わった。見物人が散って行く。F1マシンは午後からの公式予選に備えピットに入れられた。ジョーもホテルに戻る。
 昼食をホテル屋上のレストラン、ル・ピストゥーで鷲尾と約束していた。この店は眼下に広がる真っ青な海を見ながら食事ができる人気の店だ。
 食べ物に拘りのないジョーだが、ここのスズキのプロヴァンス風はうまいと思った。実は昨夜もここで同じものを食べたのだ。
 鷲尾はジョーと同じ料理を、ルイスは鶏のローストだった。
 海のそばだが風は弱く、ただ暑かった。テーブルを覆う大きなパラソルを通してもそれは感じられた。今回は鷲尾がまとめてサインをした。
 会議も公式予選も午後1時からだ。ジョーはルイスから彼の部屋のキーを受け取った。
 ルイスが使っているフェアモント・ツインはあのヘアピンカーブが正面に位置しているがそこだけで、コース全体を見る事はできない。全体を見るなら午前中のようにホテルから出なければならないのだが、ジョーは会議が終わるまではホテルにいようと思った。
 鷲尾とルイスの部屋はカテゴリこそ違うが同じ5階にある。鷲尾の部屋が海の方を向いているとしたらルイスの部屋は左を向いている形だ。走れば30秒と掛からないだろう。万一何かあってもすぐ駆け付ける事ができる。
 もっとも支部長達にはルイスのような秘書兼護衛が付いているのだからジョーの手を借りるまでもないだろうが。

「ヘェ、けっこう広いじゃん」
 ツインルームに入りジョーが言った。モナコの四つ星ホテルの部屋は大方が他より広くとられている。スイートとは比べられないがそれでも充分な広さだ。
 ジョーはルームサービスでボルドーのシャブリとチーズや生ハムの盛り合わせを注文すると、テラスからヘアピンカーブを抜けて行くF1マシンを楽しんだ。昨日自分が通った道を今は0,01秒を争いF1マシンが駆走する。
 ワインは舐める程度にしていたのにジョーは興奮していた。その気分のまま日本の神宮寺に電話を掛けた。
「よお、神宮寺。今、目の前をF1がすっ飛んでるぜ」
『省略しすぎだぞ、ジョー』苦笑いする神宮寺の声が響く。『モナコにいるのか?』
「ああ、F1とシャブリとチーズで天国にいる。そっちは何してるんだ?」
『洸や一平と新宿で夕食中だ』
 そういえばざわめきが聞こえる。日本とモナコの時差は8時間。ちょっと遅い夕食だ。と、ほ~ら、やっぱりモナコGPじゃ~ん!という洸の声が聞こえた。なんでわかったんだろう?
『で、長官との話は済んだのか?』
「うん・・。実は長官とモナコに来ているんだ。支部長会議だってさ。─いや、今回はおれは関係ない。遊ばせてもらってる」
 ちょっと黙ってしまった神宮寺にジョーが言い添える。
『そうか・・・。あ、土産はフランスワインな。その辺りなら日本ではあまり知られてないがバンドンやパレットがいいな。もちろんオテル・ド・パリのワインセラーにあるというシャトー・ペトリュスでもいいぞ』
「ジョーダン!おれを破産させる気か?それにお前の所には今月だけで20本はワインを持って行ったぜ。いったいどんだけ飲めば─」
 突然左手のスピードマスターがピーと鳴った。とっさに右手の携帯電話を放り出し通信をオンにする。
『ジョー!』ルイスだ。『5階のエレベータホールで長官が─!』
 その先は聞かずジョーは部屋を走り出た。放り出された電話からは神宮寺の声が響いていたが構っていられない。
 カテゴリーの間のエレベータホールまでは10秒で着いた。何人かの男達が床に膝をついていた。その真ん中に鷲尾が横たわっていた。
「鷲尾さん!」
「ジョー!」駆け寄ろうとするジョーにルイスが、「長官は大丈夫です。犯人を追ってください!トレーサーが付いています!そこの階段から下へ─。スペインのフランコとベルギーのゲーリングが追っています!」
 その命令にジョーは一瞬鋭い目をルイスに向けた。が、結局従った。鷲尾もきっと同じ事を言うだろうと思ったからだ。
 ルイスの指差した階段を駆け下りながらスピードマスターのトレーサーをオンにした。誰かが犯人にくっつけたのだろう。赤い点がわずかに動いている。
 しかしスピードマスターにホテルの館内図までは入っていないので、この点はジョーに対してどの方向に対象者がいるとしか示していない。とにかくその赤い点に少しでも近づくように走る。
 途中何人もの客が無遠慮に走り抜けるジョーに非難の目を向けて来た。なかには、“またか”と言う者もいた。自分の前にも誰かが走って行ったのだ。スペインかベルギーか、それとも犯人か─。
「くそォ、どこへ行った」
 犯人の風貌を聞いていない。男か女かさえもわからない。だがジョーには必ず犯人を見分けられる自自信と経験がある。と、
「ジョー!」護衛官のフランコだ。ゲーリングもいる。「奴は地下に下りたらしい」
「地下?」ジョーがスピードマスターの画面を見る。動いていない。「正面から出たって事は?」
「おれがそっちから回ってきたが遇わなかった」
 ゲーリングが言った。
「よし、下りてみよう」
 ドアには〝STAFF─ONLY〝と書かれていたが鍵は開いていた。どうやらここの地下はクリーニングや家具の補修をするメンテナンスルームになっているらしい。と、ホテルの従業員が、入って来た男達を見て、“うわっ”と悲鳴を上げた。
「おれ達はここへ入って来た奴を捜している。誰か来なかったか」
「さっき銃を持った男が1人・・・」1番年配らしい男がオズオズと答えた。「我々はわけもわからずこっちに逃げて─。その男は奥のドアを壊して外へ─」
「ここか!」
 ジョーがドアに取り付き開けようとした。従業員が、“だめです!”叫んだ。
 バンッ!とドアが開いた。とたんにすさまじい轟音に包まれた。聞き覚えのあるエンジン音がジョーに向かってきて彼を包み去って行った。
「こ、ここは・・」
 ドアの外はモナコGPコースのトンネルの前だった。
 このメンテナンスルームはあのローズヘヤピンカーブを曲がってトンネルに入る場所に面しているのだ。そのためF1マシン独特の迫力あるエンジン音をボディソニックで味わえる。
 ただ危険なのでレース中はドアに鍵が掛かっているのだが。
「そいつはここから出てどっちへ行ったんだ」ジョーの問いに従業員は首を振る。トレーサーは、わずかに動く点を表示していたが突然その点が速く動き始めた。「車か!」
 だとしたら地下駐車場か。
 ジョーがコースと建物の間のわずかな隙間を走る。もしGPの関係者に見つかったら予選が中止されてしまうかもしれない。
 だが走ったのはほんの5、6秒ですぐ駐車場に飛び込む事ができた。間一髪で自分の後ろをF1マシンが走り抜けた。
 ジョーは自分のした事に恐怖を感じたがとりあえず後回しにした。置いてあるプジョーをコードレス・キーで開けて乗り込んだ。
 フランコもゲーリングも追ってこない。もちろん待っているつもりはない。ジョーはプジョーで地上に乗り出した。
 交通規制がされているのでグルリと回る。おそらく犯人の車も同じコースをとっただろう。
 赤い点は西に向かっている。GPのために一部通行止めや一方通行になっている。人出も多く警官もあちこちに立っている。
 犯人の車はわからないが、ホテルの外へ出たおかげでGPSからデータを受けたスピードマスターの画面に道路地図が表示された。赤い点は大きな通りを西に向かって行く。ジョーがまだ通った事のない道だ。このまま港に行くのだろうか。いやそれではかえって逃げ切れない。港はそれこそ人と車と警官で溢れているのだ。
 そう思っているうちに赤い点が少し北上し始めた。こっちには何が─。
「モンテカルロ駅か」
 そこから地下鉄で逃げようというのか。
 案の定、点の動くが遅くなった。車から降りたのだろう。ジョーも駅の東側にプジョーを停め駅に飛び込むと下りのエスカレータに乗った。
 まだ新しい駅でシンプルなのにゴージャスな雰囲気が感じられる。だがジョーにはそれを観賞する余裕はない。
 車から降りた事により犯人の方向が分かり難くなってしまった。
 とにかく少しでも犯人のいる方へ近寄るしかない、と思ったとたん画面の点が消えた。トレーサーの不具合かそれとも気がつかれ壊されたのか。
「くそォ!」ジョーが駅の壁を拳(こぶし)で叩いた。グキッと骨が鳴った。が、「鷲尾さん」
 そうだ、彼はどうしただろう。ルイスは大丈夫だと言っていたが─。
 鷲尾の万一に事があったら、おれは・・・。
 ジョーはすぐさま身を翻し、上りのエスカレータを駆け上がった。



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