コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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赤と青のワルツ 6

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「ジョー!どうしたんだ、ジョー!」
 行きつけの小さなレストランに神宮寺の声が響く。
「ジョーがどうかしたのか?」
 コーヒーカップ片手に一平が訊いた。
「いや、ジョーではなく鷲尾さんらしい。とにかくおれJBに戻るよ。騒いですみません、マスター」
 どうしたの?と声を掛けて来た気のいいマスターに謝り、神宮寺が店から出て行った。
「おれ達も戻ろうか」
「そうだね」
 一平と洸も立ち上がった。
 
 その頃ジョーは一路ホテルに向けてプジョーを走らせていた。公式予選はまだ続いているので相変わらず道は混んでいるし人通りも多い。だがジョーは制限速度ギリギリですっ飛ばしていた。
 実はさっきからスピードマスターでルイスを呼んでいるがなぜか繋がらない。
「くそォ、なんで出ないんだよ」ステアリングを切った。「まさか鷲尾さんに─ルイス!」
『すみません、ジョー。ちょっとバタバタしてまして、─で、犯人は?』
「トレーサーが切れて逃げられた。それより鷲尾さんは?どこの病院だ?」
『呼んだかね?』
「・・・鷲尾さん・・?」
 スピードマスターから聞こえた鷲尾の声にジョーは目をパチクリさせた。と、ホテルの白い建物が見えて来た。

「ジュータンに蹴つまずいて転んだ!?」目の前でにこやかに笑う鷲尾にジョーは思わず声を上げた。「相手は銃を撃ったのにそれに当たらず、つまずいてコケたという事ですかっ」
「当たった方が良かったような言い方だね。私が撃たれたと思ったのかい?」
「あの状況を見ればそう思いますよ。なんだってそんなシーンでコケるんですか」
「そうポンポン言うな。私もそろそろ年だしなァ・・」
「パリジェンヌをナンパしようって人がナニ言ってンです」いつからそういう話になったんだ?「相手は1人なんですよ。そのくらい避けてください。ニブっちゃいましたか」
「やめなさい、ジョー」ルイスが口を出した。「長官はわざと動かなかったんですよ」
「──」
 ああ、そうか。
 あの時、会議が終わり各自の部屋に戻る支部長達を鷲尾とルイスがエレベータホールまで送って行ったのだ。そこを狙われた。ターゲットは間違いなく鷲尾長官だ。
 彼は屈強な7人の男達に囲まれていたが、その時ホールには他にも宿泊客がエレベータを待っていた。鷲尾が動けば銃口も動く。無関係な人達を巻き添えにしてしまう。
「だからって・・床にコケなくても・・・」
「コケたものは仕方がない。ま、いつも私に心配を掛けているのだからたまには反対というのも─」
「わ・・鷲尾さん・・・」
 ジョーが鷲尾の前のテーブルに片手を着いた。パサッと髪が顔に掛かる。
「どうした?」
「・・気が抜けたら・・酔いが回って・・」
「飲酒運転かね?それはまずい─」
「・・・でも・・・良かった、無事で・・」
 ジョーの呟きに、鷲尾は口を閉じた。自分と体格もほとんど変わらない目の前の男を見つめる目がふと和む。手を伸ばし、いつのもように髪をクシャクシャと掻き回した。ジョーが顔を上げ鷲尾を見る。
「すまなかったね。これからはもう少し気をつけよう」
「・・・・・」
 ジョーは薄っすらと微笑む。ブルーグレイの瞳がちょっと揺れていた。
 仕事ならどんな辛い状況にも立ち向かっていく覚悟はある。またそうしてきた。だけどこういうのはいやだ。もうあんな想いをしたくない。あんな─
「──!」
 突然、ジョーの目の前がブレた。白い四角い部屋が見えた。長い廊下、暗い部屋、そして─、
「!」
 いきなり体を起こしその勢いで後ろのソファにドンッと腰が落ちた。瞳がくうを凝視する。目の前にいるのは─ダレ・・?
「どうしたんだ、ジョージ」鷲尾が隣に腰を下ろした。ルイスも一歩近づく。「顔が青いよ。気分でも悪くなったか?心配掛け過ぎたようだな」
「い、いえ・・・大丈夫です」自分の腕に掛けられた鷲尾の手をソッと擦り抜ける。「やっぱり酒が残っているみたいだ。風に当たってきます」
 ベランダへ出た。鷲尾は怪訝そうにジョーを見たが何も言わなかった。
 ベランダの柵に両腕を乗せ真っ青な海を見渡した。日差しはまだ強いが風が心地よい。日本を発つ時に短く切った髪がバラバラに伸びて来た。フワッと風が跳ね上げた。
 紺碧のコートダジュールの海、タオルミーナのような。体を浸したら染まってしまうかもしれない。だがそれもいいかも。そしてその青さと一体になれば・・・。
「ジョージ!」
 突然後ろから大きな腕がジョーの胸にまわされた。ギュッと力を入れ締め付ける。ジョーはとっさに振り払おうとして─やめた。腕の主が鷲尾だったからだ。
「き、君はどこへ行くつもりだ。ここからどこへ─」
「・・・・・」
 ジョーが訝しげに鷲尾を見る。おれが、どうしたって?
「いやすまん、ジョージ」体にまわしている腕を解いてくれた。「君がここから海へ飛び込んでしまうのではないかと・・・そう見えたので・・」
「まさか」ジョーはニッと口元を歪める。「こんな所から飛び込んだら痛いですよ。どうせならもっとラクに飛び込みます」
 そしてふと海に目をやり、
「・・おれが眠りたいのはこの海じゃないし・・」
 え?と目を向ける鷲尾にジョーはもう一度薄っすらと口元を歪めた。

 その後、犯人がモンテカルロ駅周辺で不明になった事や風貌、体つきなどをモナコ署に伝えておいたルイスの元に容疑者逮捕の知らせは届かなかった。

「よかった、じゃあ長官は無事なんだね」
「ああ、ちょっとつまずいて転んだだけで怪我はないそうだ」
 カタタタ・・と軽快な音を立て、キーボードの上に指を走らせながら神宮寺が言った。モニタに映っているのは世界各地からのネットニュースのようだ。
「なのにジョーの奴、とんでもない声出して驚かして」
「で、神宮寺はなに見てるんだ?」
 モニタを覗き一平が訊いた。
「ちょっと気になってね。長官を狙ったのかそれとも単なる物盗りか」
「そんな事ネットに出ているの?」
 と、これは洸。そんなわけないだろ~と、一平に叩かれた。
「直接  じゃなくても何か間接的な出来事でもないかと思って─。でもこれといってないんだよな」
 神宮寺は手を止めスッと息をついた。時計を見ると日付が変わっていた。

「ジョーですか?はい、すぐ開けますね」ルイスは自分が使っているツインルームのドアを開けた。そこに立っているのは確かにジョーだった。「どうしました?荷物を詰めましたか?」
「訊きたい事があるんだ」
 ルイスが何かを言う前にジョーは部屋に入り込んだ。パタンと後ろ手にドアを閉め、しばしその場からルイスを見つめる。ルイスもソファを勧める事も忘れ、まるでヘビに睨まれたカエルのようにその場に立ち竦んだ。
 ルイスは細身だが身長はジョーと変わらない。金髪の一見やさしげな風貌で話し方も穏やかな紳士だ。
 しかし国際秘密警察最高司令長官の秘書兼護衛を務めているだけあってその戦闘能力は計りしれない。Sメンバーになってもおかしくない逸材だ。
 そのルイスがジョーの前では手はもちろん口も動かせないでいる。相手がSメンバーで長官の息子同様の人物というだけではない。
 この男の持つ圧倒的な存在感と何者をも恐れない強い心と実行する強い意志が全身から溢れ、それを真正面から受けているルイスの意志でさえ押さえ込まれる。─が、
(昼間見た男と同一人物だろうか・・)
 わかりきっている事なのにそう思ってしまう。
 鷲尾の身を案じ、無事だったとわかった時のこの男は確かに20才ハタチソコソコの年相応の貌をしていた。
 だが今はどうだ。
 年より大人びて見えるとはいえ、自分より10才以上年下の男の迫力にルイスはこれからの行動さえ考える事ができない。と
「昼間の出来事は行きずりの強盗とかいうんじゃない。明らかに長官を狙ったものだ」はい、とルイスがやっと頷く。「パリを出る前、おれは鷲尾さんに今度のモナコ行きで何かやばい事はないか、と訊いたら、ない事もない、と言っていた。それがこれか?パリにいた時からわかっていたのか?」
 相手が無言でいるより話をしてくれた方がラクだ。ルイスはだんだん緊張を解いて行く。
「答えろ。やばい事があるのなら今のうちに」人に命令するのに慣れている。先天的なものかもしれない。なにせこの男の一族はイタリアの─、「ルイス!」
 ジョーの低めだが響く声にルイスが我れに返った。目の前に立つ男に再び意識を向けホォと息をついた。そしてテーブルに置いてあるノートパソコンを立ち上げしばらくカタカタとキーを叩いていた。と、モニタをジョーに向けた。
「長官がモナコに出発する2日前に本部にコンピュータ経由で届いたメールです」モニタを覗いたジョーが顔をしかめた。フランス語で書かれている。「今回のモナコ会議の一番の目的は、このモナコに国際警察の支部を置くかどうかの話し合いです。世界でも1、2を争うセキュリティの国、ICPOの事務所もありますが支部の設置はモナコ側からの希望です」
「で、この手紙はなんだ?」
「簡単に言えば脅迫状です。モナコに支部など作ったら爆破してやる。モナコには来るな─。よくある話で、相手が名乗ってないのでどこの国のどんな組織かはわかりませんが」
「本部のコンピュータはこんな危ない内容のメールを通すのか」
「コンピュータには手紙の内容が脅迫状かデートのお誘いかなんてわかりませんよ。ウィルスが付いていなければ大方は通します。あまりセキュリティを強くすると第3者からの情報や告発も入らなくなります。最終的に判断するのは人間ですから」
「そんなメールが来ていたのに鷲尾さんはモナコに来た。あんたも止めなかったというわけだ」
「わけわからない奴らに脅されたら、その仕事を放棄しますか、ジョー?」
「・・・・・」
 訊くまでも、答えるまでもない事だ。ジョーは左腕を押さえだがフッと笑みを浮かべる。
「プライベートは終わりだ。これからおれも長官達の護衛に付く。彼らには会議に集中してもらう。もう2度と危ない目には遭わせない。指令は受けていないが・・いいか?」
「もちろんですよ、ジョー」
 やはりこの男にとって鷲尾は本部の長官─上司というだけではないのだ。ジョーは何があっても鷲尾を最優先に守るだろう。そして鷲尾もまた、ジョーに何かあったらその地位を投げ捨てても守ろうとするだろう。
 だがそれはなんとしてでも防ぎたい。鷲尾には長官の地位にいてほしい。
 部屋に戻ろうとするジョーに、
「迎えは1時間後です。荷物の整理を急いでください」
 と言った。

 それは小さな異変だった。
 国内の道路に設置されている監視カメラの1台がほんの一瞬だがその映像が止まったのだ。
 集中管理センターでモニタを見ていた係員が、おや?と思ったが、モニタはすぐにまたスムーズに流れる車の映像を映し出した。

 鷲尾を襲った犯人が脅迫状を送りつけて来た奴かはわからないが、奴らはどうにかして長官達の宿泊先やスケジュールを把握したようだ。
 このホテルに滞在したままだとまた襲ってくるかもしれない。他の宿泊客にも危険が及ぶ。
 そこで長官達はモナコ・ヴィル地区にある警察本署そばの関連施設に移る事になった。
 ここは宿泊施設もあるので不自由な事はない。ただ部屋数は少ないので長官や支部長は秘書や護衛官と同室になった。ジョーだけ一人だ。
 しかしここにいる限りとりあえず安心だろう。本署とは10メートルと離れていないし、この施設に勤める者もみな警察関係者だ。
 9人の男達は襲撃のあったその日の夕方にはこの宿泊施設に入った。

「高台にあるので眺めはいいですね」
 ルイスが言った。
 実用的なツインルームには今鷲尾を始めるルイス、ジョーがいる。
 3人は部屋の中をひと通り調べひと息ついていた。モナコ警察の施設を疑うわけではないがこれも彼らの習慣だ。もちろん他の部屋でも行われているだろう。
 ジョーもルイスと並んでベランダから眼下を見下ろした。何十隻というヨットが繋がれている港が見えた。
 ここはモナコ港とはヴィル地区を挟んで反対側のフォンヴィエイユ港になる。ホテルのリヴィエラ・スイートのベランダからは地中海はもちろん遠くイタリアの沿岸線も望む事ができたが、ここからは見えない。
 と、ノックが聞こえた。ルイスが鷲尾に寄りジョーがドアに向かった。
「失礼します」
 セルフォンだった。
 ドアが開かれたとたん青く鋭い瞳に射られ一瞬動きを止めたが、鷲尾の姿を目にするとそのまま入って来た。
「長官を襲ったと思われる者から犯行声明が入っています。本署までいらしてください」
 3人はセルフォンと廊下に出た。そこには支部長達が待っていた。
 本署までは10メートルと離れていないが、一回外に出なければならない。出口には3人の警官が待っていた。長官達を囲むように本署まで案内する。
「あまり物々しいとかえって目立つな」
 スペイン・マドリード支部長のフェルナンドが苦笑した。
 鷲尾達が案内されたのは日本で言えば捜査課だろうか─その一角のコンピュータコーナーだった。
 セルフォンの指示で部下がキーを叩く。声明文書がモニタに映った。
 それによると昼間事件を起こしたのはウーノ・ジェノバと名乗るグループで、その要求はモナコ公国内にいるすべての外国籍を持つ者の国外退去、だという。
 これは当然鷲尾達も入るのだろうが、モナコの3万2千人の人口のうち正式にモナコ人と呼べるのは約6千人にすぎず、つまり80パーセントはフランスやイタリア籍を持つ外国人なのだ。そんな要求は言語道断だ。それも明日のモナコGPが終わるまで全員退去しろ、というのだからとんでもない話だ。
 だが要求が通らないのなら、国内に仕掛けた爆弾が時間を追って次々と爆発するというのだが─。
「これは我々の命や国際警察の支部云々という問題ではなく、国家に対するテロ行為だな」鷲尾の言葉に全員が頷く。「このような要求を呑むわけにはいかんが」
「もちろんです」セルフォンが強く頷く。「今、ほとんどの警官を出動させ国内を見回らせています。怪しい人物、物などを見つけ出すために監視カメラもフル作動しています」
 このコーナーの隣の部屋が集中管理センターだった。
 国内に設置されているカメラは約250台。全部同時のモニタリングは無理だが、壁一面に並んでいる50台あまりのモニタが時間により切り替わり、国内の要所要所を映している。
 今は一番観光客が多い時期だ。安全の国モナコで爆弾テロなど許してしまえば大きなイメージダウンになる。観光国モナコには死活問題だ。
「これだけの監視下で爆発物など仕掛けられるでしょうか」
「可能性はあるぜ」ジョーが言った。「一般家庭の中までモニタしてないだろ。空き家にでも仕掛けられたら発見が遅れる。まさか本当に仕掛けられてるかどうか確かめたいから爆発させてみろ、とも言えないしな」
 その言葉にセルフォンは眉をしかめたがすぐさま部下に空き家もよく調べるよう指示を出した。と、そこへ、“副署長!”と部下の1人が飛び込んで来た。
「フォンヴィエイユのルイ2世スタジアム近くの空き店舗で何かが爆発したようです」
「なんだって」
「爆発って、まさか─」
 すぐに原因を確かめるようセルフォンが指示し、報告に来た部下が取って返って行った。
 ジョーは自分も同行したいと思ったが今鷲尾から離れるのは不安だ。
 ふと鷲尾と目が合う。ニッコリと頷いた。
 やはりジョーに護衛は似合わない。動いてこそジョーだ。鷲尾が一番よくわかっている。
「・・・・・」
 一瞬迷ったがその隣で頷くルイスを見て、はい、と返事をした。ルイスもいるしここは警察署の中だ。もしここが危険だとしたらモナコに安全な所はない。
 ジョーは現場に向かう警官達とは別に、借りたままのプジョーで行く事にした。


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Comment

淳 says... "覚書き"
モナコやGPをゆっくり楽しむ間もなく、仕事に戻るジョー。
ちょっと可愛そうだけど、それでこそジョーなのだと思う。書きやすいし(こんな書き手を持ってお気の毒なジョー・・)

があわいこさんから教えていただいた方法で「ルビ」を振ってみた。
このテンプレの文字サイズのままでは漢字とルビの間が少し開いてしまうのだが、淳は14PXに直しているので、そのサイズにするとピタッと合ってくれた。
成功v-218
2011.06.20 14:26 | URL | #vDtZmC8A [edit]
があわいこ says... "おみごと"
>そのサイズにするとピタッと合ってくれた
すごい!
それは知らなかった

本番(?)に強いのはこちらのジョーと同じね♪
2011.06.21 16:43 | URL | #/5lgbLzc [edit]
淳 says... "わいこさん"
いらっしゃいませ~。

14pxに直したのがよかったのかどうかはわかりませんが、あまり間はあいていないで しょ?

実はANNEXもそうなんです。
テンプレ設定の文字サイズでは、やはり間があいてしまうけど、こちらも14pxに直しているのでピタッとくっついてくれましたv-221
ま・・偶然の産物ということでして・・・。

>本番(?)に強い
そーなの。
舞台も、練習より本番の方がやりやすかったわ。
2011.06.21 18:22 | URL | #bCm9No1s [edit]

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