コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

赤と青のワルツ 8

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 難しい事はルイスに任せてジョーはプジョーを走らせていた。
 やみくもに走り回っても手掛かりが掴めるわけではないが、偽物の映像を見ているよりはマシだ。
 今日は午前にGP2の決勝が、午後2時からはF1モナコGPの決勝が行われる。P・Pポールポジションはアロンソ、以下ハミルトン、マッサと続く。
 この分ではGP観戦は無理だなと思った。と、スピードマスターが鳴った。
『ジョー、ウーノ・ジェノバから爆弾予告です』ルイスだ。「ラ・コンダミーヌ地区のモナコ・オートモビルクラブ近くです。時間は今から30分後』
「くそォ、なんだってそんな所に」
 モナコ・オートモビルはGPコースのスタート地点の近くにあり、GPの観戦チケットを取り扱っている店だ。今はまだ開店していないと思うがコースの近くなので観光客はいるだろう。
「すぐ向かう。監視カメラはどうなった?」
『点検中です。だけど署員は街中の警戒に当たっているので人数がいなくて』
 警官は全部で500人。この中にはカメラ担当も含まれている。確かに人数的にはきつい。
「いっその事、カメラを切っちまえばいいんだ。惑わされなくて済む」
『もう試しました。しかし切れないそうです。どこかで電源もコントロールされているようで』
「奴らカメラを乗っ取るつもりか」しかしなぜ?セキュリティの脆さを浮き彫りにしようというのか。「とにかくおれはオートモビル・クラブに向かう。そっちはなんとかしろ」
 ジョーはスイッチを切るとハデに車をUターンさせた。

「少し早く来すぎましたね、じい様。街はまだ朝食の時間ですよ」
「午前中にもレースがある。それも見るからいいんだ」いたずらっ子のような目で自分を見る孫にロレンツォがムスッと言った。「レースは何時からだ、マルティーノ」
「10時と14時からです、シニョーレ」
 ティポットからロレンツォのカップにコーヒーを注ぐのはトーニの片腕のマルティーノだ。その横では給仕が朝食の食器を片づけていた。
「まったくじい様の行動力にはいつも驚かされるよ。昨夜突然、“よし、モナコGPを見に行こう”って─。で、こんなに朝早くヴィットーリオ号でモナコ港入り」
 トーニがテーブルを離れ海に目をやる。ヴィットーリオ号のデッキを通る風が彼の髪を流した。
「別にお前を誘ってはいない。文句があるなら帰りなさい」
「冷たいなァ、じい様」
 トーニが満面笑みでロレンツォに向かう。お互い口は悪いがその実楽しんでいるのだ。
 少し前に日本でジョーが出場したレースを見てロレンツォは興味を持ったようだ。時々テレビで中継されるレースを見ているのをトーニは知っている。
「ジョーにも見せてあげたいね、F1」
 トーニが呟き、ロレンツォは船上よりモナコの街に目をやった。

 3時間後に行われるGP2の決勝レースのためコースは走行禁止になっていた。だがジョーはオートモビルクラグの場所を知っていたので少し迂回したものの、その建物の裏手に出る事ができた。
 さすがに朝7時では観光客は少ない。犯行予告があったのであちこちで警官が張っていて、なにげなく現場近くから観光客を立ち退かせている。もっとも〝裏手〝というだけでどこまでがその範囲に入るのかはっきりしないのだが。
 ジョーは車を路上に停めたままその裏手通りを歩いた。目が自然とマルケスとトニーニョの姿を捜している。と、
「トニーニョ・・」街角に設置されている監視カメラの下にその男はいた。もう1人─マルケスよりかなり年上の男と共に。「ここでなにをしている」
「お前こそなんでこんな所にいるんだ」
 ジョーはもちろんだがトニーニョも驚いている。連れの男が問うようにトニーニョを見たので彼は口早に何か言った。イタリア語だが聞き取れなかった。
 と、トニーニョが監視カメラをチラッと見てさらに目の前の建物に目を移した。1階に店舗が入っていて大きなショーウインドがある。しかしその中には何もディスプレイされていなかった。
(空き店舗?まさか!)
 ジョーがその店舗に向かおうとした時、キャッキャッという女の子の声が聞こえた。角を曲がってこちらに来る。カップルの観光客だ。
 監視カメラが光った。
 何かを考える前にジョーはその2人に飛び掛かり道路に押し倒した。
 ドカーン!と爆音が響き、続いてガシャガシャとガラスが降って来た。ジョーの下になった2人は驚いて声も出ない。カツカツと何人もの人間がこちらに向かってくる足音がした。
「この男を連れて行こう」
 トニーニョが言い、ジョーの腕を掴んで引っ張り上げた。

「ええ、今モナコ署のコンピュータには入れました。後はここを足掛かりにそのウーノ・ジェノバとかいう奴らのコンピュータに入れれば─」
 国際警察がハッカーの相談をしている。その神宮寺の横で洸がキーボードを叩いている。時々神宮寺がモニタに目を向ける。
『しかし奴らはカメラを押さえてどうするつもりなんだ?』電話の相手はルイスだ。『確かになければ不便だがそれだけです。こんな手間を掛ける理由がわかりません』
「おれにもわかりません。きっと何かに利用するためにカメラを押さえたんだと思います。カメラは見なければいいけど、そちらのコンピュータに奴らが自由に出入りできるのはまずいですね」
『とにかく頼みます。アキラの腕なら大丈夫でしょう。頼りにしています』
「うまくいったら次のフランスGPのチケット送ってね~」
 洸が割り込んだ。

「気がついたか」頭上からの声にジョーは目を開けた。だがなぜかボオッとしていてよく見えない。体が痛くて動かなかった。「無理しない方がいい。コケた時頭を打ったようだぜ」
 コケた?おれが?そんなドジを踏むなんて─。
「君、なんの仕事をしているんだ?鍛えられたいい体をしているけど全身傷だらけじゃないか」
「!」今度ははっきりと目が覚めた。ガバッと起き上がった。目の前にいるのはマルケスだった。「な・・なんで君が・・」
 口を開いてからハッと気がついた。上半身には何も着ていなかった。
 アメリカで受けた傷もその前の傷痕もマルケスの目に晒されている。。
 ジョーはベッドの横に置いてあったシャツを手に取った。ズタズタに裂けていた。これを着て街を歩けば間違いなく通報されるだろう。いや、それよりも─
「これかい?」マルケスが手にしている物─それはジョーのウッズマンだった。ジョーが手を伸ばす。が、マルケスがサッと避けた。「物騒だね。護身用にしてはでかすぎる」
「・・返してくれ。親父の形見だ」
「形見?カジノで一緒だったんじゃないの?」
「・・・・・」
 ジョーが口を閉じた。ブルーグレイの瞳で真っ直ぐにマルケスを見る。と、その目の必死さが伝わったのか、ちょっと考えてマルケスはウッズマンを返してくれた。
「でも弾丸は抜いちまったぜ」
 道理で軽いと思った。だが本体さえ戻ればいい。
「つ・・」とたんに体中の痛みが襲い掛かって来た。その原因をジョーは思い出した。「爆発現場にトニーニョがいた。彼はあそこで何をしていたんだ」
「君こそあんな時間にどうしてあそこにいたんだ?」
 さっきのトニーニョと同じ会話だ。と
「そいつから離れろ、マルケス!」ドアの所に銃を向けたトニーニョが立っていた。「そいつは国際警察だ!」
 え?と声を上げるマルケスとは反対にジョーは息を呑む。
「今、カメラの映像を見て確認した。そいつはホテルからアンディを車で追い掛けた奴だ」
「チッ─」
 本署に保管してあったあのトンネルのシーンにジョーも襲撃者も映っていなかった。奴らがデータを書き替えたとしたら、当然元の映像にあるジョーを見ているはずだ。
 と、ジョーが動いた。
 マルケスの首に左腕を回しその頭にウッズマンを押し付ける。だがウッズマンに弾丸は入っていないとトニーニョは知っているのだろう。悠々とジョーに銃口を向けて行く。
「─フン」ジョーは軽く頭を振り息をつくとウッズマンをズボンのウエストに押し込んだ。マルケスの首から腕を放す。「好きにしろ」
「さすが、いい度胸だ」トニーニョがわずかに銃口を外した。「いいものを見せてやろう。ついて来い」
 と、廊下に出かけて、
「あ、これでも着てろ。男に裸でいられても嬉しくないからな」と、灰色のシャツを放った。「少しきついかもしれないが、それが1番でかい」
 確かにジョーには少し小さかった。胸のボタンが上3つはとまらない。が、何も着ていないよりはマシだ。

 ジョーはトニーニョの後に付き廊下に出た。ごく普通の住宅のようだ。
 トニーニョがドアを開けた。その部屋には10台程のノートパソコンと1台のデスクトップ型パソコンが置いてあった。ノーパソのモニタに映っているのはモナコの街中か。デスクトップのモニタには何も映っていない。
「これは・・まさか・・」
「そう、監視カメラの映像だ。警察の集中センターに行かずこっちに送られてくる。ちょっと手を入れてからセンターに送ってやるが」そんな事ができるのか?なんのために?「お前も国際警察なら我々の声明を知っているな。今日の午後4時にはGPの勝者が決まっているぞ」
「やはりお前達がウーノ・ジェノバ。街内まちなかに爆弾を仕掛けたというのは本当か?」
「もちろんさ。中心部の目ぼしい所にはセット済みだ。後はこのカメラでスイッチが入る」どういう事だ、とジョーが目を向けた。「爆弾はカメラの範囲内にセットされている。乗っ取ったカメラからセットされた電波を送り出せば爆発するというわけさ」
「な、なんだって!」ジョーが目を剥いた。「そんな事が・・。だからカメラを・・」
「ああ、みんなこのマルケスがプログラミングしたんだ。大したものだろ?」トニーニョの横でマルケスがニッと口元を歪めた。「もちろん街中(まちなか)の様子を見るのにも使ったがな。モナコは狭いといっても5、6人で押さえるにはやはり広い」
「お前達は隠れながら街や警察の動きを見張り、爆弾をぶっ放す事もできるというわけか。考えたな」
 ジョーがパソコンを見ながら呟く。システムはよくわからないが、こいつをぶっ壊せばなんとかなるかもしれない。ウッズマンに弾丸が入っていない事が悔しい。
「いいの?トニーニョ。彼にペラペラしゃべって。きっと警察に言うよ」
「言ってもらいたいんだ、こいつにな」ニヤッとジョーを見る。「お前はGPが終わる少し前に解放してやる。すぐに本署に戻ってこの事を話せ。お前の言う事なら奴らも信じるだろう」
「それまでいるつもりはない」
 ジョーがパソコンに向かって突進した。パソコンの前に立てばトニーニョも銃を撃てないと思ったのだ。─が、バラバラと出て来た男達に行く手を遮られた。
 腕や体を掴まれパソコンのそばから遠ざけようとする。もちろんこのくらいジョーの敵ではない。腕を取った男の腕を反対に捻じ曲げ、もう1人に蹴りを食らわせた。が
「これを見ろ!」
 トニーニョがデスクトップの大きなモニタを指差した。コースをマシンがゆっくりと走っている。午前に行われるGP2のフォーメーションラップだ。
「このスタート地点にも1つでかいのを仕掛けてある。おとなしくしていないと今すぐそいつを爆発させるぞ」
「く・・」
 ジョーが唇を噛んだ。が、掴んでいた男の腕を放す。両手をダラリと下げた。とたんに男達の拳や蹴りがジョーの胸や腹に入った。慣れてはいるが1つだけ─モニュメントバレーで深手を負った腰の部分に蹴りが入り、さすがに膝をついた。
「もういい、やめろ」トニーニョが言った。ジョーの横に膝をつく。「わかったろ?おとなしくしているんだ。ええと・・名前は?」
 そういえば名乗っていなかった。が、ジョーはトニーニョを見上げたまま答えなかった。
「まあいい、ターニと呼んでおこう。こいつを閉じ込めておけ」
 男が2人掛かりでジョーを立たせ、元いた部屋に放り込まれた。
「いつもあんな無茶をするのか?」なぜかマルケスが部屋に残っている。「だから体中傷だらけなんだな」
「ここにいると襲うぞ」
「そしたらトニーニョが黙っていないさ。それにしてもターニだなんて、ひどいなァ」クスクス笑うマルケスにジョーは怪訝な表情を向ける。「犬の名前さ。トニーニョが飼っている」
「マルケス・・・」ジョーが呆れたように言う。「自分達が何をしているのかわかっているのか?」
「もちろんさ。我々は我々の地を取り戻すんだ」今までにこやかだったマルケスの表情が豹変する。「大公宮のある所は元々ジェノバ人が築いた要塞の地だったんだ。それを─。モナコ人は英雄的行為による奪取なんて言ってるけど、要は占領じゃないか。その土地を本来の持ち主が返還を希望して何が悪い」
「だけどもう700年も前の事だぜ」
「君にだって故郷はあるだろ?その地が他人の物だとしたら?」
「他人の物でも君はいつでもその地を訪れる事ができるじゃないか」ジョーもハンブルクを訪れる事はできる。しかしそこに彼の居場所はない。「それに君達にはジェノバの街があるじゃないか。そこが君の故郷だろ?ここはもうモナコという別の国なんだ」
「・・・・・」マルケスが口をへの字に曲げて黙り込んだ。と、ドアの向こうから“マルケス”と声が掛かる。「とにかく今はおとなしくしてて。トニーニョはやると言ったら必ずやる」
「おれと同じだ」
 少し上目使いにマルケスを見てジョーが言った。


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Comment

淳 says... "覚書き"
ルビがふれるようになって嬉しいのだが、手順が増えて時々コンガラガる。

なので、「ルビ」というファイルを作りその中によく使うルビ(HTMLタグ)を予め収めておいて、それをコピペすればわかりやすいv-218
2011.07.04 12:03 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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