コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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赤と青のワルツ 9

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「確認してきました。やはりジョーが使っていたプジョーに間違いありません」ドアを開けるなりルイスが言った。「今朝、爆発現場近くの路上に放置されていたそうです」
「ジョージが現場に向かって4時間・・。なんの連絡もなくスピードマスターも繋がらない」
「何か手掛かりを掴んで追っているのかもしれませんが・・・。実は1つ気になる話がありまして」
 放置自動車の件は警察からレンタカー・サービス、そして契約者であるルイスの元に連絡があった。
  ルイスが確認に出かけ、担当区の警察で爆発現場で男に助けられた2人の観光客の話を聞いた。だがその男は仲間が連れて行ったという─。
「だとしたらそれはジョージではないね」
 鷲尾の目がチラリとテレビに向けられた。GPコースを今はGP2のマシンが走っている。観客席も コースの周りも人で溢れていた。
「助けられた2人も、ただブロンドのような髪の男だったとしか覚えていなくて」
 が、ルイスはその男はジョーではないかと思っていた。爆発現場でとっさに他人を庇えるのはやはり訓練を積んでいないとなかなかできない事だ。
 だとしたら、仲間というのは・・・。
「ジョージはウーノ・ジェノバの懐に飛び込んでいるのかもしれない」
 鷲尾も同じ思いだった。

「どうだ、洸?」神宮寺が洸のデスクに注文のサンドイッチを置いた。「入れたか?」
「だめだ。モナコ警察のコンピュータには頻繁にアクセスしてくるから入口はすぐわかるんだけど、そこから先へが潜り込めない」夕食代わりのサンドイッチを1つ手に取る。「これをプログラミングした奴は天才か紙一重だな」
「お前と同類か」
 一平がちゃかした。
「ぼくは天才の方!─って、なにこれ!?」
 口に入れたが飲み込めず、洸がわめく。
「サバのみそ煮強化計画バージョン3・サンドイッチ編だそうだ」ケロリと神宮寺が言う。「君が試食に来れないからって、杉本さんに持たされた」
「いつからぼくは試食係になったのさ!─スペシャル・テイスティング・メンバー!なンちゃって─って!そんなひまない!」とりあえず口の中のサバのみそ煮サンドを飲み込む。「・・うまいかも・・」
 もう1つ、と洸は皿に手を伸ばした。

 フォーメーションラップが終わりP・Pのアロンソから順に各車スタートグリップに並んで行く。
 ペース・カーがコースから外れた。5つのグリーンランプが順番に点灯し─消えた。
 22台のマシンが一斉に動き出す。きれいなスタートだ。
 先頭のアロンソが難なくサント・デウォト・コーナーを抜けて行く。その後には同じマクラーレンのハミルトンがピタリと着けている。
 モナコGPの幕が切って落とされた。

 ちょうどその頃、モナコ警察署にはウーノ・ジェノバから新しい声明が届いていた。
 要求は前書と一緒、リミットは1位のマシンがチェッカーフラッグを受けると同時にモナコのあちこちで炎の花が咲くとあった。
 すでにスタートしているので残り時間は1時間半もない。もちろんそんな要求を呑むわけにはいかない。
 署長はわずかな署員を残し街中の警備、爆発物の発見に全力を上げるよう指示を出した。
 その中には鷲尾とルイスを抜かした3ヶ国の支部長や秘書も混っている。鷲尾は自分も出たかったがさすがに止められてしまった。仕方なく署内での連絡係を申し出た。
 ローラー作戦でいくつかの不審物は見つかった。しかしこれが全部なのかはわからない。
(ジョージはどうしたのだろう)
 連絡はとれなくなってからすでに6時間が経つ。彼の携帯はルイスが持っているし、スピードマスターはノイズがひどくて繋がらない。すでにモナコ国外に出たのか。それとも高い建物か山に囲まれた所にいるのか。
 心配だがジョーの上司でもある鷲尾は部下を信じて待つのも仕事のうちだ。と、手元のジョーの携帯が鳴った。
「ジョージか!今どこにいる!」
 鷲尾が声を上げたが、
『神宮寺です。え・・と・・』ジョーの携帯にかけたのに、“ジョージ”と呼ばれて戸惑った。『もしかしてジョーの奴、あれから戻ってないんですか?』
「そうなんだ。連絡も取れなくて─。で、どうしたね?」
『あ、ウーノ・ジェノバのコンピュータに入れました。洸のお手柄です』♪おれは~洸だ~♪と、ひと山いくらの歌声が聞こえた。『ですが相手のデータを分析するためにはもう少し掛かるそうです。読めれば奴らのアジトやカメラを何に使うのかわかるでしょう』
「よくやってくれた。爆弾の在り処もわかるといいのだが」
『やってみます』
 自信に溢れた洸の声が心地よく鷲尾の耳に響いた。

「レースも中盤だな。ハミルトンがなかなか頑張っているよ」
 10台のノートパソコンに映し出されているレースの様子を見ながらトニーニョが言った。室内には他にマルケス、ジョー、そして銃を持つ2人の男がいた。
「他のF1レースよりモナコは走行距離が短いし、これだと予定より早くフィニッシュになるかもしれないな」
 つまり奴らの言うタイムリミットも早くなるという事だ。
「あんたらの要求は外国人のモナコ出国だろ」ジョーはイスに座っているが拘束はされていなかった。「レースが終わったとたんにドカンじゃ、観客の出国が間に合わないぜ」
「モナコ政府がこっちの要求を呑むとは思ってないよ」ニヤリとトニーニョが言う。「むしろ爆発で観光客が巻き添えを食う方がモナコ政府の無能さ無責任さを世界にアピールできる」
 やはりそっちか、とジョーは思った。と、マルケスがトニーニョを睨んでいた。仲は良いがこの意見には賛成できないようだ。
 10台のノーパソはGPコース上の監視カメラの映像を映し出しているようで、モニタの中を次々と F1マシンがすっ飛んでいく。ホテル下のあのトンネルの映像もあった。
 だが1台だけあるデスクトップのモニタにはコースは映っておらず、モナコ港の出入り口にある防波堤の先端がずっと映っている。人影はなく、時々船が出入りするだけだ。これもカメラの映像なんだろうか。
 ジョーがおとなしくここにいるのは、カメラを制御しているこのパソコンを壊すためだ。今までは別室に閉じ込められていたが先程レースを見せるためかこの部屋に連れて来られた。チャンスだ。と
「おかしいな」そのデスクトップの前に座るマルケスが呟いた。「誰かがこっちのコンピュータに入り込もうとしているようだ。カメラからのデータがうまく取り込めない」
「モナコ署の奴か?」トニーニョの問いに、う~んと首を傾げた。「こいつは予定時間を少し早めた方がよさそうだな」
 立ち上がりパソコンの前に行く。指がキーボードに伸びた。
「やめろ!」
 ジョーが立ち上がりトニーニョに掴み掛かる。銃を持った2人の男がジョーに銃口を向けた。とっさに蹴り上げる。トニーニョが内ポケットから小型の銃を取り出した。
「おとなしくしてろ!ターニ!」
「犬じゃねえ!」
 トニーニョの撃った弾丸を横っ跳びで避け、再び掴み掛かる。
「ターニ!」マルケスだ。「パソコンを壊したらその時点で仕掛けてある爆弾が爆発するっ。たとえ  それが不発だったとしても、港に仕掛けられた爆弾が自動的に作動するんだ」
 デスクトップのモニタを指差す。
「この左右の防波堤に1つづつ爆弾が仕掛けられているんだ。双方は電磁波で繋がっていて、そこを船が通ってある時間中断されると爆発する。小型のボートくらいなら通れるけど、今港に停まっているようなクルーザーが通ったら─」
「な、なんだって」
 ジョーの気が一瞬マルケスに移った。そこをトニーニョは見逃さない。銃の尻で首筋を打たれ思わずよろけた。そこを2人の男に押さえられた。
 こんな奴らを蹴散らかすのは簡単だがジョーは爆弾の処理の方法に迷っていた。
「しゃべりすぎだ、マルケス」トニーニョが睨む。「これでこの男を解放できなくなった」
 と、ジョーに銃口を向ける。
 ジョーは自分を左右で押さえている男達を見て、それからその向こうの窓に目を走らせた。
 この部屋はジョーが閉じ込められていた部屋と同じ並びにある。彼のいた部屋の窓は小さく外を見る事しかできなかったが、この大きさだったら─。
「トニーニョ!」マルケスが叫んだ。「カメラが1台乗っ取られた!」
「なに!?」
 トニーニョが振り返った。ジョーが動く。左右の男達の腕を掴み自分の前で鉢合わせにしてやった.。
 男達が床に倒れると同時にジョーが窓に向かって跳んだ。
「まて!」
 トニーニョがトリガーを引く。何発か食らったようだが両手で頭を庇いそのまま窓ガラスに突っ込んだ。
 ガッシャーン!とガラスの割れる音と破片が辺りに散った。
 トニーニョが窓に取りつく。4階のこの部屋の下はかなり広い草地になっている。そこに転がったジョーはすぐに立ち上がり走り出した。
「あいつ、ターニよりすげえな・・」
「どうする、トニーニョ。レースのフィニッシュまでまだ20分はあるよ」
「奴が知らせても20分で全部のカメラを処分するのは無理だ。予告通りチェッカーフラッグが振られるのと同時にスイッチを入れてやる」
 トニーニョがパソコンの前に立った。

 草地に降りて走り出したのはいいがすぐに体が言う事を利かなくなった。それでも奴らが追ってくると面倒なので、見通しの良いこの場所からゴチャゴチャした街中まちなかに入る。
 背の高い建物は追っ手から彼の姿を隠してくれるが、ジョー自身の目も塞いでしまう。今、自分がどこにいるのかわからなかった。 胸のはだけた・・・・シャツ姿でウエストに銃のグリップが見えるこの男を誰かが警察に通報するかもしれない。
 しかしその方が都合が良い。が、それより今は─。
「ルイス、応答してくれ」細い路地に入り込みジョーがスピードマスターをオンにした。「鷲尾さん、ルイス─」
 ストンと腰が落ちた。体が痛むがそれがどこなのかわからない。と
『ジョー、ですか?』ルイスの通信機に繋がった。『どうしたんです。連絡もなく─』
「その話は後だ。奴らは監視カメラを使って街中に仕掛けた爆弾を爆破させる」なんですって!?とルイスが声を上げた。「パソコンから・・カメラに指令が入ると・・」
『─どうしました?やられたんですか?今どこです?』
「わ・・わからねえ・・・。だけどマシンがストレートを突っ走る音が聞こえる・・」GPコースに近いのかもしれない。「それよりカメラから誘発電波が飛ばないようにしないと・・」
『実はJBのアキラがウーノ・ジェノバのコンピュータに侵入しました。今そのデータを調べています。君の言った事を伝えれば何か打つ手を見つけてくれるでしょう』
「洸が・・」以前、洸はコンピュータからコンピュータに入り込んで事件を解決に導いた事がある。今回も彼に任せればなんとかなる。「・・そうか」
『ジョー!しっかりしなさい!』
 ダラリと下がった左手からルイスの声が響く。
『君のいる所はすぐにわかる。近くの警察署から人をやりますからそこを動かないで』だがジョーからの返事はない。『聞いていますか!ジョー!』
「・・・聞いてるぜ・・」
 呟いたがおそらくルイスには聞こえていないだろう。
 小刻みな呼吸が続く。ビルの壁に背を預けたままジョーは目を閉じた。

「じい様、今本社から電話があってラベンナの工場の件でちょっと面倒な事になっているらしいですよ」デッキからGPコースを望むロレンツォにトーニが言った。「戻りましょう」
「あとラスト10周だろう。これからおもしろくなる。あの若いのハミルトンが1位の車にどれだけ迫れるか、だな」と、ワイングラス片手にロレンツォは動かない。「それになんでもかんでも私達が出て行ったのでは各部所の若手が育たない。そうだろ、マルティーノ」
「はい」
 ちょっと申しわけなさそうにトーニを見てマルティーノが答える。
「仕方がないなァ・・。ウォルテ!」トーニが操舵手を呼んだ。「じい様の許可が出たらすぐに港を出るから準備しておいてくれ」
“Si!”とウォルテが答えた。

「えー、カメラで爆弾を!」
「そんな事できるのか」
 ルイスからの電話に洸や一平、神宮寺も思わず声を上げた。
「お前よりあっちが天才じゃん。洸」
「くそ~、あっちのパソコンの中を引っ掻き回してダウンさせてやる」洸がポキポキと指を鳴した。「パソコンを壊すわけじゃないから誘爆はしないだろう」
 目はモニタに向けたまま洸の指がすごい速さでキーを叩く。こうなったら神宮寺も一平も手を出せない。ただただ洸の指を、次々と変わって行くモニタの画面を見ているだけだ。
 ルイスが言うには、奴らはGPのゴールのチェッカーフラッグが振られると同時に爆弾を爆発させるつもりだという。それまでに間に合えばいいが─。
 テレビのレース中継を見ながら神宮寺は祈った。

 ちょうどその頃、日本より遥か離れたモナコの地ではマルケスがパニックになっていた。
「なんで次々にデータが出て行くんだよ!」
 別のテレビではアロンソとハミルトンが1位を争っている。
 マルケスはどこからか攻撃を仕掛けてくるのを必死で打ち消そうとキーを叩いた。が、侵入者の方がわずかに上手うわてだった。
「こんままじゃ10台ともダウンしちまう!カメラへ電波を出す様コマンドを送れなくなる!もうすぐフィニッシュなのに!」
「仕方がない。パソコンを壊せ!制御先がなくなれば爆発する!」
「いやだ!こんな奴に負けたくない!」
 爆発させるだけなら簡単だ。だがマルケスはこの不意の侵入者に力ではなく頭脳で勝ちたかった。
「そんな事言ってる場合か!どけ!」
 トニーニョがマルケスを床に突き飛ばした。並ぶノートパソコンに銃口を向けトリガーに指を掛ける─

「洸!最終ラップに入ったぞ!」
 一平が叫んだ。3位のマッサを遥かに引き離し、優勝争いはアロンソとハミルトンの一騎打ちになった。
 M・シューマッハに引導を渡した若き王者アロンソに新人ハミルトンが迫る。ハミルトンの追い上げはすさまじく、狭いモナコのコースでなければとうに追い越されていただろう。
 2車は連なったまま最終コーナーを抜け、ゴールに続くストレートをチェッカーフラッグ目指して疾走する。
「洸!」
「シャットダウン!」
 洸の指がエンターキーをぶっ叩いた。と、今までモニタを埋め尽くしていた数字やアルファベットが一瞬止まり─画面が真っ黒になった。
 洸も一平も神宮寺も、その様子を電話で聞きながらレース中継を見ていたルイスや鷲尾もピタリと動きを止めた。
 その目だけがチェッカーフラッグを受けた赤いマシンを捉えていた。

「なんで爆発しないんだ!」
 煙を上げている10台のパソコンを見ながらトニーニョが叫んだ。
 テレビは優勝者を讃える歓声とアロンソの笑顔をアップで映し出していた。どこからも爆発音はもちろん煙も上がらず画面はただただGPの熱狂だけを伝えていた。


           8 へ      ⇔      完 ヘ
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