コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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絆 1

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 「鷲尾さんから聞いたよ。洸がうまくやったんだって」
 ベッドの上だが上半身を起こせるようになり、ジョーが言った。彼の目の前のテーブルにはプライベートのパソコンが置かれている。鷲尾に頼んで病院に持ってきてもらったのだ。
『ああ、見事だったぜ。今回はおれも一平も手を出せず、ずっと見ていた』モニタに映っているのは日本にいる神宮寺だ。ネット回線によるテレビ電話である。『後で時間を聞いたらチェッカーフラッグが振られるほんの1、2秒前だったらしい』
「奴ら、時間だけは守ったんだな・・・」
『それでお前は地中海に沈んだんだって?タオルミーナはやめてこっちにするのか?』
「バカ言ってンじゃねーよ。─あ、でもこっちの方が毎年モナコGP見られていいかも」
『セナもいそうだしな。豪華メンバーだな』
 ハハハ・・と笑う2人へ、
「ジョージ!」突然声が飛びジョーが驚いて顔を上げる。ドアの所に立っていたのは鷲尾だった。「まったくお前は少し元気になるとまた─」
「ストップ、鷲尾さん。今、神宮寺に事件の事を聞いていただけ─あっ、このやろう!逃げたな!」
 敵前逃亡(?)した神宮寺がモニタから消えていた。

 手術が無事終わり、個室に移されたジョーが目覚めたのは翌朝だった。
 薬のせいか、傷を負った右のわき腹に痛みは感じなかったがその代わり体を起こす事もできなかった。
 と、知らせを聞いた鷲尾がまずやってきた。ジョーはそこで改めて事件の終始を聞いたのだ。
 ウーノ・ジェノバのアジトにいた男達は確保したが、マルケスとトニーニョの2人だけは未だもって見つかっていない。おそらくもうすでにモナコ国外に出ているだろう、と。
「そうですか」ため息混じりにジョーが言った。「それじゃあ、もう捕まらないだろうな」
「逃亡がわかって3分で国境封鎖を完了したが、脱出しようと思えば出られるしなあ」
 鷲尾の言葉に頷き、でもちょっとホッとしている自分に気がついた。
「ねえ、鷲尾さん。ウッズマンの事だけど・・」
「うん・・」鷲尾はちょっと辛そうな顔を見せたが、「あの銃は世界初のSメンバー誕生を記念して私とお揃いで作ったものだ。もちろん実戦用だが、アサクラはいつもはワルサーを使っていた。しかしあの時ワルサーはオーバーホール中でね。で、ウッズマンを使用したわけだが─」
 それまでに2、3回しか使用していなかったウッズマンだが、アサクラの手に合わせて作られたものなので違和感はなかった。だがあの時アサクラが撃った2発目の弾がファーの手に当たる前にジョーの左腕を掠ったのだ。
「冬だったからね、君も厚物を着ていたので傷も残らない程度のものだった。だがアサクラはひどく後悔していた。その時、2度とウッズマンは使わないと決めたようだが・・・。私もしばらくはそれに気がつかなかった。彼がワルサーを愛用しているのは知っていたし・・・。だがそれ以来、私はアサクラがウッズマンを握っているのを見た事がない」
「なんか・・親父らしいな」クスッとジョーが口元を歪めた。「頑固で融通が利かなそうだもんなあ。一回“ダメだ”と言われたらずーとダメで・・。でもママには甘かったな」
「君にそっくりだな」
「それって反対じゃないンですか」あ、そうか、と鷲尾が笑った。「だけどそのウッズマンが回り回っておれの所に来るなんて・・・」
 薬が切れて来たのか左腕が痛んだ。ジョーは目を閉じ左腕を掴みその痛みを押さえ込むようにじっと体を丸めた。
「大丈夫か、ジョージ。医師を呼ぼう」
「いえ、いいんです。・・これ・・違うから・・」
 え?と鷲尾がジョーを見た。と、
「ジョージ」
「ジョー」
 ロレンツォとトーニが入って来た。が、ジョーの様子に一瞬足を止めた。
「どうしたんだ。傷が痛むのか?」ロレンツォの問いにジョーは首を振った。と、「お前はいつもあんな事をしているのか。死んでいても不思議ではない。どうなんだ、ワシオ」
「シニョーレ」ジョーが顔を上げロレンツォに目をやる。「あれがおれの仕事です」
「そうだよ。じいさまだって知っているじゃないか。それでもジョーが選んだ道だからって─」
「お前は黙ってろ」ロレンツォがトーニを睨み再び鷲尾に目を向けた。「ジョージが危ない事をしている時、ワシオはどこにいた?見ていただけか?」
「シニョーレ!鷲尾さんには鷲尾さんの役目が─」
 うっ、とわき腹を押さえる。
「ジョージ、静かにしていなさい」鷲尾が言った。「私は責められても当然なんだよ」
「この仕事を続けているのはおれの意志だ。鷲尾さんのせいじゃない─」
「ジョージ・・」
 鷲尾は、わき腹の痛みに耐えているジョーの肩を抱いた。その2人をロレンツォが射るような目で見つめている。
 自分と鷲尾が争えばジョーは鷲尾につくだろう。それが8年間親子同様に暮らし、今なお彼を守っている鷲尾とジョーの切れる事のない絆だ。ロレンツォには手を出す事ができない。
 と、その時回診の医師と看護師が少し開いていたドアをノックした。が、ジョーの様子を目にすると鷲尾でさえ聞き取れない早口のフランス語で何か言い、3人は廊下に追い出されてしまった。

 男3人突っ立ったままバツが悪そうに互いを見る。と、激高したのを恥じたのかロレンツォがかすかに鷲尾に頭を下げた。が
「トリノの近くに別荘がある。ジョージはしばらくそこで預かります。よろしいですね」と言った。鷲尾が何か言おうとしたが、「私はあんな危険な事をもう彼にやらせたくない」
 そのまま鷲尾に背を向け行ってしまった。
「すみません、シニョーレ・ワシオ。じい様もわかっているんです。ジョーがイタリアには来ない事も、仕事を辞めない事も・・。ただ、目の前であんなシーンを見せられて、今はちょっと・・・」
 ボートが爆発した時、ロレンツォはジョーが巻き込まれたと思った。が、実際はジョーは寸前で海に逃れている。ただ飛んできたボートの残骸にやられ出血がひどかった。
 トーニ達によってクルーザーに引き上げられた・・・血に塗れたジョーの姿がロレンツォにはよほどショックだったらしい。ジョーが、後から到着した水上警察の手に渡るのをただ茫然と見ているだけだった。マルティーノはロレンツォが倒れてしまうのでは、と思ったそうだ。
「いいんですよ、トーニ」
 ああ、あの時と同じだ。クロードの事件の後、ジョーを1人日本に置いておけなくてフランスに連れて行ってしまった。今のロレンツォの気持ちはあの時の自分と同じ・・・。
「すべての責任は私にある」
 そんな事はない、とトーニは思ったが何も言わずペコリと頭を下げロレンツォの後を追った。

 そしてその知らせが入ったのはこの日の夕方の事だった。

 グレース王妃病院のあるモネゲッティ地区は、あのルイ2世スタジアムがある地区を見下ろす高台にある。
 西へ200メートルも行けばもうフランスとの国境だ。近くの熱帯公園からはモナコ全体を見渡す事ができる。
 ちょっと調子が良くなると動き出してしまうのがジョーの悪い所だ。傷の具合も昨日とは比べものにならないくらい良い。まだ少し引きつる痛みはあるが、このくらいなら彼の思う〝痛い〝のうちには入らない。
「レモン味のペリエとガスなしのエビアン。それとピッツア・マルナーラ」
「Danke、トーニ。病院の食事ってスープだけなんだぜ」グチるジョーだが、手術の翌日からガツガツと食事をを平らげる患者もあまりいない。「あれ?もう1つ頼んでいた物は─」
「ワインはさすがにダメだよ」
 意外とお固いトーニにジョーはチェッと舌を打ち、が、今はこれでいいかとピッツアをひと欠片口に入れた。
 考えてみたら昨日食事をした記憶がない。
 さっきまで空腹を感じなかったのに早めの夕食に出されたスープを飲んだとたん、ものすごい空腹感が襲ってきた。と、ちょうどそこへ来たトーニに泣きついたというわけだ。
「怪我人のくせによく食べるなあ」次々と消えて行くピッツアにトーニが呆れたように言った。「だけど、これならもう大丈夫だな。おれ、これから1人でイタリアに戻るんだ」
「え?」ピッツアから口を離しトーニを見る。「1人?なんで?シニョーレ達は?」
「ラベンナの工場でちょっとトラブルがあってね。本当は昨日のうちに行くはずだったんだけど」
「あ・・。すまない、おれのせいで・・」
「大丈夫さ。おれでも足りるくらいの小さなトラブルだ。じい様とマルティーノはここに残るよ」
「どうして?おれならもう大丈夫だぜ。ここから出ればそのまま日本に帰るつもりだし」
「うん・・・」トーニはちょっと口籠ったが、「もう行かなきゃ。元気でな、ジョー」
 トーニが右手を出したのでジョーはあわててナプキンで指先を拭い握手を交わした。
「それから、ジョー。じい様が何を言っても君がいやならはっきり断るんだぜ。君は君が考えたとおりにすればいい。それが君の最大の魅力なんだから」
「・・どういう事だ?」
 だがトーニはジョーの問いには答えず彼の肩をポンッと叩くと病室を出て行った。
 1人残されたジョーは、トーニの言った事を考えたが元よりわかるわけがなかった。
「ま、いーや。そのうちわかるだろう」
 と、まだ皿の上に残っているピッツアを口に入れた、そしてペリエを手にベッドを抜け出し、大きく開放的な窓に寄った。
 この病室は上階にあるので窓からはコートダジュールの海がよく見えた。
 トーニによるとモナコGPが終わり港の船も観光客もかなり少なくなったそうだ。もし予定通り進んでいたら、ジョーや鷲尾も今日フランスへ帰るはずだった。
 ジョーはボトルに口をつけ一気に呷った。と
「また起きてるんですか」ルイスだ。「昼間、長官に叱られたばかりでしょ?」
「ずっと寝てるとかえって体が痛くなるんだ」
 と、ジョーの目がルイスの手に流れた。
「パンドゥカンパーニュに生ハムとトマトとレタスを挟んだサンドイッチですが」
「もちろん食う」
 さっそく受け取りパクつく。とても昨夜手術を受けた人間とは思えない。
「よく食べますね、怪我人なのに」
 ルイスも呆れと感心半分で言う。
「だから食うんだよ。早く日本に帰りたいし」ペリエで喉に流し込んだ。「で、鷲尾さんは?昼間、顔を見たっきりだけど」
 生ハムを引っ張り出し口に放り込む。
「ええ・・。支部長会議の続きを本署で。中断されましたからね」
「ふうん・・」レタスの間から青い瞳がルイスを見据える。「ルイス、おれに何か隠してねえ?」
「い、いえ、別に─」
 が、ジョーは疑わしそうにルイスに目を向けたままだ。
 レタス越しのブルーグレイの瞳というのもまた変わった色合いだ、と思ったが口にすると恐ろしい事になりそうなのでやめた。
 ジョーがパンドゥカンパーニュの最後のひと欠片を口に押し込む。ゆっくりと咀嚼しながらジッとルイスを見つめる。
 せっかく差し入れしたのになんで怖い思いをしなければならないんだ、とルイスは帰ろうかと思った。と、
「長官」
「もういっぱいかね」ピッツアの箱とサンドイッチの包みを見て鷲尾が言った。「モナコ署のそばにおいしそうなサブレを売っている店があってね」
 と、包みを差し出した。
「・・どんだけ・・・・うんですか、おれ・・」一応受け取り苦笑いした。が、「あ、うまそう」
 さっそく1枚引っ張り出して口に入れた。それを見て安心したように鷲尾が微笑む。
「こっちにお座り、ジョージ」鷲尾はソファにジョーを座らせ自分も向かい側に腰を下ろした。「私は今からフランスに戻る。君はここで傷を治してから日本に帰るといい」
「・・何かあったんですか」真っ直ぐに自分を見るジョーに、鷲尾は一瞬固まってしまった。「ルイスも鷲尾さんもおれに何か隠している。そうでしょ?」
「いや、私達は─」一応そう言うがジョーを誤魔化すのは無理だと最初からわかっていた。ルイスと顔を見合わせるが、「実はさっきソーから連絡があって、幸子と健のグループが昨日山に入ったっきりまだ戻らないそうだ」
「え?山?どういう事だ?」
 ソーからの知らせによると、学校のキャンプに参加した2人がブルゴーニュ地方のヴェズレーという小さな村近くのキャンプ場に着いたのが金曜日の昼過ぎ。総勢50人程が参加し、各10人のグループに分かれている。
 ヴェズレーは小さな村だがサント・マドレーヌパジリカという立派な聖堂があり、そこを見学してからキャンプ場に入った。そして昨日の日曜日、午後から各グループごとに山地に入っての散策となったのだが、集合時間が過ぎても幸子達のグループトロワが帰らないという。
 山地といっても一部樹木の深い所もあるがほとんどは見通しも良く危険な個所はない。幸い暖かい季節だが10名のうち5人は子どもで3人が女性だ。
 暗くなる前にキャンプリーダーが地元の警察に連絡して捜索が始まったが、1日以上経つ今でも見つかっていない。

「一度パリの本部に入って、状況を見てヴェズレーに行こうと思う」
「鷲尾さん、おれも行きます。おれはここから直接現地に─」
「だめだ、ジョージ。医師の話ではあと2日は安静にしていなければならない。言えば必ず付いて来ると思って君には知らせずに行きたかったのだが」
「連れて行ってもらわなくても、おれ1人で行かれます」
 スッと立ち上がりロッカーを開けた。そこには宿泊施設から持って来てもらった彼の荷物が入れてある。
「いかんぞ、ジョージ。今度はだめだ。それにシニョーレが君をトリノに連れて行くつもりで─」
「トリノ?シニョーレが?」
 ジョーの手が止まったところへノックがした。


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Comment

淳 says... "覚書き"
なんとな~くストーリーが出来ていたので書き始める。以前ちょっと考えていて書かなかった健のキャンプ編。ジョーはフランスへ。

でもソーから小学生(健)がキャンプに行かれる所(できれば山)があまりなくて・・・資料少なっ!と思ってたら、BSでフランスのF2(テレビ局)やってて、今年は北の方が寒く皆コートダジュールの方へバカンスに行っている、とか。
反対方向だわね。

一カ月ぶりの再開(更新)
3・11の震災後、「絆」という言葉をよく耳にするようになった。
なんだか早く更新しなさい、と言われているようで・・・。

もちろんこの話は震災とは無関係だが、ここで出たこの題名に色々と考えてみた。
2011.09.05 12:18 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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