コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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絆 3

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「そうか。行方不明者の中にユキコやケンがいるとは思わなかった」
「私も一度パリに入ったがすぐこっちに来る事ができて─。だが手掛かりは未だないそうだ」鷲尾が目の前に座る金髪の男に言った。「ホテルでここの事を聞いて何かわからないかと来てみたが、まさか君に会えるとは思わなかったよ、マーロン」
「ヴェズレーは死んだ妻の生れた村だ。やっと希望が叶ってここに就任できた。その妻と親しくしてくれたユキコの捜索に参加したいが─」
「いや、君は君の任務を─」
 と、その時、“署長”とマーロンの部下が呼んだ。
「「先程報告があった不審者を連行しました」
「例の奴か─。よし、ここに連れて来い」
 部下は一旦さがり1人の男を伴って来たが、
「ジョージ・・」目の前に現れた枯葉色の髪に灰色がかった青い瞳の青年を見て鷲尾が呟いた。「どうしてここに・・・。まさかヘリから飛び降りた不審な男というのは・・君かね?」
 その言葉に男─ジョーはニッと口元を歪める。鷲尾は頭を抱えたくなった。
「マーロン、すまない。これは息子のジョージだ」
「ジョージ?、って、まさかアサクラの?」そうだ、と鷲尾が頷く。「でかくなったなあ。髪の色が違うのでわからなかったが、よく見るとアサクラそっくりだ」
「ジョージ、彼はこの辺りを受け持つ警察の署長のデミアン・マーロン。4年前までパリ本部にいた。同僚だ」
 紹介されマーロンが右手を差し出す。
「ママ達の捜索をしているのですか?」
 ジョーも右手で握り返した。
「いや、それは別のチームでね。我々はこの地方に逃げ込んだ密輸団の捜索に来たんだ」
「密輸団?まさかそいつらがママ達を─」
「村のホテルが捜索チームの本部になっていてね。そこでマーロン達の事を聞いて私も来て見たのだが、今のところ双方を結びつける情報はない。そこでジョージ─」
「いやです」ジョーの瞳が光り鷲尾を睨み返す。「おれはママ達の捜索チームに入ります。今、休暇中ですから何をしようとおれの自由です」
「5日間の休暇はもう終わっているよ。それに君に拒否権はない」
「だったら北極でも南極にでも送ってください」ジョーが鷲尾に自分の想いをぶつけてくる。ひたむきな青い瞳がピタリと鷲尾に向けられる。「おれはこの前のソーの事件の時、健の捜索に入れなかった。鷲尾さんはおれに別の指令を出した。だが今回はいやだ。おれは個人として健達の捜索チームに入る」
 そう言い踵を返す。
「待ってくれ、ジョージ・アサクラ」
 マーロンが止めた。フルネームで呼ばれジョーが思わず振り返った。その彼にマーロンはレポート用紙に何かを書き差し出した。
「捜索隊の責任者はラスコー・ミュゼ。頑固な奴だ。これは私のサインの入った紹介状だ。君を捜索隊に編入してくれるように書いてある。持って行きなさい」
「・・・・・」
 ジョーは文面に目をやり─しかしフランス語で書かれているので内容が本当に彼の言ったとおりのものかわからなかった。
 だが真っ直ぐに自分に向けてくる瞳の誠実さにジョーはペコッと頭を下げて受け取ると、本部代わりの大テントを出て行った。
「彼を甘やかしてもらっては困るね、マーロン」
「だがこうなる事はわかっていたんだろ?ワシオ」その言葉に鷲尾が肩をすくめた。「しかしこの狭い地域に2つの出来事というのも、やはり気になるな・・」
「・・・・・」
 一瞬、不安気な目をマーロンに向け鷲尾は口元をキュッと結んだ。

 丘のふもとにあるエレガントなホテルの一角が捜索隊の本部と、駆け付けて来た家族の宿泊所になっていた。
 エコール・フランセス恒例のキャンプは原則として児童1人につき保護者1人─大抵は母親だが幸子達のグループのように2組の父子が参加しているのも今回は多かった。
 ジョーはホテルを訪れミュゼ警部にマーロン署長からの手紙を渡した。効果はてき面でジョーは捜索隊に迎え入れられた。
 だが国際警察といえど捜索を多く手掛けている彼らの中でジョーは素人だ。あまりアテにはされていないのはわかったが、それでもこの地に暗いジョーは情報が取れるだけでもありがたかった。
 それによるとこの2日間、捜索隊はこの地を5つに分けそれぞれ7、8人の捜索員を投入しているが、10人の手掛かりはないという。
 地元の人の話では確かに森の深い所もあるが2日間も迷って出られなくなるような所はないそうだ。
 という事は・・・。
(やはり何か人工的な力で・・)
 ジョーはもちろんだが、捜索員の心の中にはこの地で同時に発生しているもう1つの事件の事が常にある。
 ジョーは担当地区を他の7人の捜索員と回ったが幸子や健達の姿を見る事はできなかった。
 だが別の捜索班が行方不明になっていた男女1人づつと子ども2人を保護した事から〝事故〝は〝事件〝に変わって行った。
 奇しくも彼らの懸念が当たってしまったのだ。

「身代金として10万ユーロ、そして大型車両が1台─。これが奴らの要求です」
 目の前に集まる男達─行方不明者の捜索隊とマーロン率いる密輸団捜査隊の延べ70人程。その中には鷲尾とジョーの顔も見える─を見回しミュゼが言った。
 保護された4人はそれぞれ親子だった。彼らのグループが森を散策していると急に現われた5、6人の男達に拘束されたという。
 男達は乱暴なふるまいはしなかったものの、子どもだけでも解放してほしいという親達の願いは聞き入れられず、この2日程は森の中の大きな小屋で過ごしたという。そして今日の夕方、男達の正体と要求を持って4人が解放されたのだ。
「奴らはマーロン隊が追っている密輸団に間違いありません。リーダーはマーク・ソケット。だがこのリーダーは逃亡中に怪我を負ったようで、そのための車両要求かと思われます」
「それでその要求は─」
 捜索員の1人が訊いた。
「すでに国家警察に報告済みです。明朝には両方共揃うでしょう」
「ずいぶんと気前がいいな」不審気にジョーが呟く。「こーいうのは大抵渋るのに」
「向こうに残ったもう1組の父親が市議会議員でね」ジロリとミュゼがジョーを睨む。「そういう事だ」
 どうやら彼もあまり快く思ってはいないようだ。だが仕事と個人の感想は別だ。
「奴らは金と車とを解放した男性に持ってくるよう言っていたそうですが」
「それは無茶だ。おれが行きます」
 ジョーが言った。が、
「君ではだめだ」鷲尾だ。ジョーが睨むが、「細かい交渉をフランス語でできるか?」
 その言葉にジョーはグッと詰まってしまう。間に人質を挟んだ命のやりとりだ。あいさつだけでは済まない。
「だから私が行く。正真正銘の保護者だ」
「だ、だめだ、鷲尾さんは─」
 確かに保護者だが国際秘密警察の最高司令長官だ。
 ルイスはパリにいて今ここにいるのはジョーしかいない。鷲尾を1人でやるわけにはいかない─。
 だがジョーは次の言葉が継げなかった。
 幸子と健の事を心配しているジョー以上に鷲尾は心痛を受けているだろう。元は現場の第一線にいた鷲尾だ。自らが出たいと思うのは当然だ。
 だがもし彼に万一の事があったら・・・。
 しかしジョーの心配をよそに、すでに話が着いていたのか鷲尾はマーロンとミュゼとどんどん作戦を進めて行く。フランス語なのでジョーには半分くらいしか理解できない。が、
「ミュゼ警部、車をもう1台用意してください」なに?と3人がジョーに目を向ける。「人質を取り戻してここまで乗せてくる車が必要です。聞けば結構距離があるようだし」
「ジョージ」
「鷲尾さんが行くならおれも行きます。1人で行かせたらルイスに北極どころか宇宙に弾き飛ばされちまう。それでもだめだというのなら─」1人で勝手に行くまでだ。そう言っているジョーの眼に鷲尾がため息をついてミュゼに頭を下げた。「鷲尾さん」
「目の届く所にいてもらった方がいいからな、君の場合」
 こうなるだろうな、と半分諦めたような、しかしその眼は頼もしそうにジョーに向けられた。

 ホテルのシャワーを使い、ジョーは術後の自分の体を見た。
 わき腹の傷はピタリときれいに塞ぎ、化膿どめは必要なさそうだ。多少引きつる感覚はまだ残るものの、今までの動きからして今後も問題はないだろう。だが─。
 今日の午前中がそうだったように、時々体が動かなくなる。脱力感に襲われ、ぼおっとしてしまうのだ。
(疲れてるのかな。そんな気はしねえけど・・)
 考えてみればニューヨークに飛んでからこっち、1日ゆっくり休んだ事がない。何かしらトラブルに巻き込まれている。だが、疲れているだけなら一晩寝れば大丈夫だ。ジョーはそう思いたかった。と
「傷の具合はどうだ?」
 つい、ボクサーブリーフ1枚でシャワー室から出て来たジョーに鷲尾が声を掛けた。ジョーはハッとしたが今さら傷痕を隠しても仕方ないと思った。
「きれいにくっついていますよ」
 ジョーはわき腹を鷲尾に向けた。オリーブ色に焼けた肌に少し盛り上がったような傷跡が見える。よく見ると体中小さな傷でいっぱいだ。
 しかし厚い胸もギュッと締まった腹部もいかにも鍛えた若者の体だ。
 ジョーが鷲尾家を出て4年。何よりも健康を心配していたのだが自己管理はできているようなので安心した。
 と、ジョーがジムバッグから小さなケースを出す。カチッとフタをスライドさせ中の白い錠剤を2つ口に入れた。ふと鷲尾の視線に気がつき、
「化膿どめです。マルティーノに持たされて」
“ああ”と納得する鷲尾にジョーはホッと息をつき、そのケースをジムバッグの底の方に押し込んだ。

 フランス国家警察が用意してくれたのは2台共10人乗りの黒いワンボックスカーだった。 ミュゼは車に発信機を付ける事を提案したが鷲尾が拒否した。もちろん自分やジョーにもだ。万一の場合を考え銃も持っては行かれない。ジョーはウッズマンをマーロンに預けた。 彼はシルバーに光るその銃を見てちょっと驚いた顔をしたが、
「今回は人質になっている人達の救出が最優先だ。その後は我々が奴らを捕まえる。君はユキコ達を無事保護しなさい」
 マーロンの言葉にジョーは頷いた。元よりそのつもりだ。幸子達さえ取り返せれば、密輸団がどうなろうとジョーにはどうでもいい事だ。さらに、
「ワシオを頼むよ」
 少し表情を緩め言うマーロンにジョーも口元を緩め微笑んで見せた。自信がある時のアサクラの貌とよく似ている、とマーロンは思った。
 先車に鷲尾、後車にジョーが乗り指定された場所へと向かう。だが2人だけに任せているわけではない。
 2台の車が見えなくなるとミュゼの指示が飛ぶ。この地ではよく見かける小型のトラックや荷馬車が現われた。山仕事姿の男達もいる。延べ30人の男達が2人のバックアップに入った。

 マーロンが銀色に輝く銃をソッと握る。そして、
「ワシオとアサクラのコンビか。20年ぶりだな」
 その銃のグリップに〝JA〝の飾り文字を見つけ懐かしそうに呟いた。

「地図によるとこの辺りなのだが」
 鷲尾は車を停め、地図を手に車外に出た。ジョーも彼の横に走り寄る。森の中のちょっとした広場だ。この先はもう道がない、と
「鷲尾さん」ジョーが指差した。木々の間から3人の男が出て来た。「くそぉ、あいつらが」
 ジョーが近づこうと足を踏み出した。が、鷲尾がその腕を掴む。
「鷲尾さんっ」
「こっちから手を出してはいかん。落ち着きなさい」が、ジョーは自分の腕を掴んでいる鷲尾の手を引き離そうとする。「ジョージ、誰が人質になっていても冷静に対処しなければならない。幼かった君を盾にされたアサクラのように」
「──」
 ジョーの手が鷲尾から離れた。本当は彼こそ一刻も早く幸子や健を救出したいだろうに。 ジョーは自分の感情のままに動こうとした己を恥じた。もちろん鷲尾にもジョーの心内はよくわかる。人質になっているのが幸子達でなかったら、ジョーはいつものように仕事(・・)をこなすだろう。
 だがこの状況では若く気性の激しいジョーが自分を押さえるには大変な努力をしなければならない。が、主導権は奴らにある。
「It is not that man(あの男ではないな)」大柄の男が言った。「I did it how(どうしたんだ)」
(なんだ、英語じゃねえか)
 ジョーがギリッと歯を鳴らした。これなら自分1人でもよかった。
「彼は疲労が溜まっていて無理だ。私も保護者の1人だ」だが3人の男達は鷲尾の言葉を信じていないようだ。「私はワシオという。人質の中に東洋人の親子がいるだろう。名前を確認すればいい」
 と、男が携帯電話で仲間に連絡を取り始めた。しばらく黙り、また話をする。
「ケン・ワシオ、か」携帯をパタンと閉じた。「ぼうやの持ち物に名前が書いてあった」
 ピクリと鷲尾の眉が動く。だが横にいるジョーには鷲尾の体全体が震えているように感じた。
 怒りのオーラが彼(鷲尾)を包んでいる。
 その鼓動にジョーが連動する。密輸団なんかどうでもいい。なんでも、どこへでも持って行くがいい。幸子達さえ取り戻せれば─。
「で、その若いのは?なんで2台だ?」
「私の息子だ。車は1台は君達へ、もう1台は皆を乗せて帰るためだ」
「手回しのいい事で」
 大柄の男が笑った。その間に後の2人が2台の車の内外を調べている。トランクに入った現金も確認した。
「ついて来い」
 男が鷲尾とジョーに言い、先を歩いた。2人の後にトランクを持った若い男と小型の銃を向けている黒髪の男が続く。



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