コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

絆 4

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(こんな奴ら、片付けるのは簡単だが)
 銃は持ってこなかったが相手のを奪えばいい。いや素手でも充分だ。
 しかし奴らの他に仲間がいる。人質達を見張っているのだろう。
 ジョーは目の前を行く、大きな背中にピタリと標準を合わせた。リーダーは負傷しているという。今はこいつがその代わりか?
 ふと横を見ると鷲尾も同じ考えのように目を向けていた。
 国際秘密警察の長官とSメンバーにターゲットにされた男は、だが悠々と歩いて行く。
 
 やがて彼らは大きな山小屋の前に出た。入ってすぐは居間を兼ねた広いホールになっている。もちろん幸子達の姿はない。
 ジョーが何か言おうとするのを制し、
「ここに妻と息子達がいるのか?」あくまでも心配する父親の顔で鷲尾が言った。「私達は約束を守ったんだ。早く皆を解放して村に帰してくれ」
「悪いな。ちーと事情が変わっちまって・・」大柄の男が本当にすまなそうに言った。「おれ達はこれから二手に分かれる。車も2台あるし、あんたらは歩いて帰ってくれ。しかし女性2人は連れて行く」
「なんだとっ!」ジョーが叫んだ。「マ─、なんで女性だけ!」
「もちろん人質だ。ここから離れたら解放する。後の連中は連れて帰ってくれ」
「冗談じゃねえ!そんな事信用できるか!」“ジョージ!”と鷲尾が制したが、「どうしてもと言うならおれが人質になる。だから他の皆は返してくれ」
「バカ言うな。若い元気な男を人質にしてどうするんだ」
 が、ジョーの必死な様子に何を思ったのか、
「もっともお前が元気に動けないというなら別だが」ジョーが怪訝な目を向ける。「たとえば両腕が使えない、とか─」
「!」
 男の視線の先を見てジョーが息を呑んだ。暖炉用なのか数本の薪の入ったバスケットが見える。そこには1本の鉈が入っていた。
「・・・・・」
 ジョーはゆっくりと男に視線を戻した。男も後の2人もニヤニヤと顔を歪めている。本当にやるわけはないと思っているのだろう。だが、
「・・本当に・・後の皆を解放してくれるのか・・」
「──」ニヤニヤが止み男達が顔を強張らせた。「─お前にその勇気があるなら」
「ジョージ!やめなさい!」
 鷲尾がジョーに組みついたが跳ね飛ばされてしまった。
「すみません。おれはどうしてもママ達を・・・あなたの元に・・」
 ジョーはレンガ造りの暖炉に左腕を押し当てた。大きく鉈を振りかぶり左腕目掛けて打ち下ろした。
「ジョージ!」
 鷲尾の声と共にガラ空きになっているわき腹に激しい衝撃を受けた。刃先がガツッ!とレンガにぶつかる。声も出せずジョーは転倒した。
「く・・うう」
 わき腹を押さえ床で体を丸めた。ショックが強すぎて気絶する事もできない。息が詰まり思わず仰向けになった目に鷲尾の姿が映った。
「何をするんだ、バカ者!」すさまじい形相の鷲尾が言った。「こ、こんな事をして幸子や健が喜ぶと思っているのか!」
「・・・だけど・・、おれは彼らを助けたい・・」
「思い上がるな!こんな事をして助けてもらって、彼らに一生君を片腕にしたのは自分達だという枷を負わせる気か!」
「!」ジョーが驚いて目を見開く。唇が震えた、「そ、そんなつもりは・・」
「彼らは─幸子や健はもちろん他の人達も、一生その想いを抱いて生きて行くんだ。何年も何十年も─。私もその1人だ」鷲尾が膝をつきジョーの両手をガツッと掴んだ。「それでもお前はこんなバカげた事をすると言うのか!」
「──」
 ガクガクと鷲尾に揺す振られジョーは放心したように体の力を抜いた。床に預けた体を動かす事もできなかった。
 ああ、まただ・・・。またおれは、自分の事しか考えていなくて・・・鷲尾を悲しませた・・。シニョーレの好意を利用してここへ来て・・。おれは・・。
「う・・・」
 ジョーの顔が歪み、その頬に一筋の涙が流れた。
「幸子や健と同様に君も私の大切な家族だという事がまだわからないのか・・・」
 鷲尾の震える両手がジョーの腕を通して体全体に広がる。
 わかっている。わかっているからこそ、おれは・・。

「若い奴は無茶をするなァ」
 自分が言い出した事などおくびにも出さず大柄の男が言った。
 鷲尾がキッと男に目を向けた。それは今まで不安な表情を顔面に張り付けた父親の顔ではなく、国際警察の長官の貌だ。
 男が口を閉じた。と、
「ジーン、外の様子が変だ」若い男が言った。「人がたくさんいて取り囲まれてる」
「なんだと」ジーンと呼ばれた大柄の男が窓から外を見る。人影は捕らえられなかったが何やら異様な雰囲気を感じ取ったらしい。「お前ら、まさか─」
 ジーンが、ようやく上半身を起こしたジョーとその横に立つ鷲尾を睨めつけた。
 黒髪の男がプラスチックのケースを持ってきた。中には小型の銃が7、8丁入っていた。
 ジョーの瞳が光る。と、ジーンが鷲尾の腕を掴んで自分と一緒に窓際に立たせた。外からは鷲尾の姿しか見えないだろう。
「お前達の後を追ってきたのか。バカな奴らだ。バド」
 若い男がニヤッと笑い、ホールの隅から黒く細長い物が入ったケースを持ってきた。鷲尾もジョーもひと目見てその正体がわかった。
「人がいるとしたら村の人だ。山仕事で入っている─」
「この時期はこんな奥まで入っては来ないよ」鷲尾に動くなと命じ、ジーンが細長い─爆弾を手にした。「おれ達を甘く見るととんでもない事になると教えてやる」
「やめろ!」
 窓から爆弾を投げつけようとするジーンに、ジョーが飛び掛かった。が、銃声と共にジョーの体が横に飛ばされた。“ジョージ!”と鷲尾が叫んだ。
「動くな!デニス、室内で銃は使うな!」
「ジョージ・・」
 鷲尾は床に倒れたままのジョーに目を向けた。しかし彼が見たところ、悪くてわずかに掠った程度に見えた。なのにジョーは伏したままだ。
 と、こちらの不穏さを感じたのかそれまで身を隠していたミュゼや部下達が現われた。スピーカーで投降を呼びかけて来た。まだ早い、と鷲尾が歯ぎしりする。
「抑さえられるものなら抑さえてみろ!人質を見張っている仲間に連絡してやるぞ!」
 やはりこの3人の他に何人かの仲間がいるようだ。この山小屋のどこかに閉じ込められ見張られている。だからヘタに手を出せなかったのだが。
 と、突然ジーンが爆弾をミュゼ達に投げつけた。バラバラと逃げる彼らの真ん中に落ち爆発した。だがミュゼ達は警察のメンツを賭け、その場に踏み止まる。
「引いてくれ!そのまま帰ってくれ!」
 外に向かって鷲尾が叫んだ。だが警察は銃やライフルを取り出しこちらに向かってくる。強引に抑えるつもりだ。
 ジーンやバドが次の爆弾の用意をしている。と、
「ジョージ」
 隙を見たジョーがスッと体を起こしプラスチックケースの中から銃を掴み出した。窓辺に走り寄り、進んで来る警官に向けて発砲した。
「ジョージ!」
 鷲尾が止めようとしたが─、見るとジョーは警官の手にしている銃だけを狙い、撃ち落としている。たちまち何人かが素手になった。
「そのまま村に帰れ!あんたらに動かれると人質が危険になる!」
 銃を構えたままジョーが叫んだ。それがジョーだとわかったのかミュゼの動きが一瞬止まる。
 と、ジーンが爆弾を振りかぶった。ジョーが体当たりする。爆弾は窓のすぐ外側に落ちて爆発した。が、壁を少し壊しただけで済んだ。
「くそォ!」ジーンが、銃を持つジョーの右腕を捻った。ぐっ、とジョーが呻く。その頭に銃を突きつけ半分壊れた窓際に立たせた。「二度と近づいてみろ!こいつも人質も皆すっ飛ぶぞ!」
 銃口でジョーのこめかみを突いた。デニスも鷲尾をつれて2人のそばに立った。
 ミュゼ達は引き上げるしかなかった。

「弾丸は服を掠っただけだし右腕も大丈夫だな」鷲尾がホッと息をついた。「あの状況では仕方ないが、ずいぶんと無茶をするものだ」
 眉をひそめる鷲尾にジョーは肩をすくめた。
 結局2人はあのまま拘束くされ山小屋の一室に閉じ込められた。もっとも幸子達を取り戻すまでは帰るつもりはなかったので願ったりの状況だ。
「それにしても、ミュゼはとんだ勇み足をしてくれた。私達がここに入って心配になったのだろうか」
 ジョーはともかく鷲尾は地位のある身だ。ミュゼ達の気持もわかるが。
 と、ドアの鍵がガシャンと解かれゆっくりと開いた。ジーンだ。
「若いの─ジョーとかいったな。出て来い。ママと弟に会わせてやるよ」
「・・・・・」
 なぜ自分だけ?とジョーが鷲尾を見た。と、鷲尾が頷く。会うチャンスがあるのなら彼らの無事を確認したい。自分達が来ている事で、彼らを必ず救出すると伝えたい。
 ジョーはゆっくりと立ち上がりジーンと共に廊下に出た。
 2階に上がり奥まった一室の前に出る。他のドアとは離れているので大きな部屋だとわかる。
「動くなよ。部屋の中には人質とおれ達の仲間がいる。ヘタな事をすれば─」
 ギリッと歯を鳴らしたがとりあえず頷いた。
 ドアがゆっくり開かれた。
 室内はソファやイスがいくつか置かれた広い部屋だ。そこに固まるように6人の男女と子どもがいた。
(ママ、健─)
 ジョーの眼がすぐに2人を捉える。ソファに座り、しかし元気そうに見える。
 2人もふいに現れたジョーに驚きの眼を向けた。幸子の口が〝ジョー〝と形取る。健も笑顔になった。 だが2人はジョーに声を掛ける事はしなかった。
 鷲尾が来ている事は知っていた。だがジョーが一緒だとは聞いていない。彼がどんな立場でここにいるのかわからないうちは迂闊に声を掛けられない。
 実際にはジョーは幸子達の〝家族〝として奴らに知られているが、幸子に事情はわからない。
 母親が何も言わないからか幼い健も黙って、しかしその目はしっかりとジョーを捉えていた。
 そんな2人の思いを受けジョーがかすかに、しかし力強く頷いた。と、バタンとドアが閉められた。
 ジョーはとっさにドアに取りついたがジーンがその腕を引っ張り、ついてこい、とアゴをしゃくった。相手がジーンだけなら簡単だ。しかし室内には銃を持った金髪の男がいたのも見ている。
 ジョーはもう一度ドアに目を向けジーンの後についた。
「お前、銃の扱いに慣れているが国家警察か?」ジーンが使っている部屋なのか、そこに入るとさっそく訊いて来た。「それとも〝反対〝の事を─」
「国家警察ではないが特殊部隊にいた。すぐクビになったが」
 ジーンに何も言われていないがソファに腰を下ろす。そのふてぶてしさに、なるほど、と納得された。
「お前とあの東洋人の一家は、どう見ても親子とは思えんが」
「・・・・・」アサクラ姓を名乗っているものの、ジョーに東洋人らしい外見はない。当然の疑問だ。「・・おれの親が死んだ後、彼らが育ててくれた。親も同然だ」
「つまり〝恩〝があるというわけだ」
 ジーンがニヤッと口元を歪め、ジョーが舌を打った。だからなんだ。何が言いたいんだ─。と、
「おれ達のリーダーはマークというんだが前の仕事で負傷して、今は奴の弟が付き添ってこの3つ向こうの部屋にいる。このリーダーが堅物でよ。人質を取ったら、そんなやり方はするな、と怒りやがった」いきなり内情(?)を話し始めたジーンにジョーは怪訝な目を向けた。「おれはマークと別れてバドやデニスと別行動を取るつもりだったが、マークはこの組織の偉いさんの息子でな。色々面倒なんだ」
「・・・おれは弁護士でも占い師でもないぜ。あんたの相談にはのれねーよ」
「ところがそうでもないんだな。なぜなら今夜マークは、逃げようとしたお前に撃たれて死ぬんだ」
「なんだとっ」
「上に色々報告されると困るんだよ。かと言っておれが直接手を出すのもマズい」
「おれだってマズいぜ」
 ジョーが立ち上がった。が、ジーンに押され再びソファに戻る。
「ママと弟と家に帰りたいだろ?他の人質だって家族が待っている。生きて帰りたいだろう」
「き、貴様─」
 ジョーがジーンの胸倉を掴んだ。と、その喉元に銃口が押しあてられる。
「弾丸は1発だ。マークの弟は何とかしろ。おっと、おれに向けるなよ。人質が危なくなるぜ」
「そんな事・・できねえ・・」
「やるんだ。人質全員の命がこの1発にかかっている。いや、お前にだ」
「・・・・・」
 ジョーの手に銃が握らされた。こいつ(ジーン)を撃ってやろうかと思ったが、万一の事を考えるとヘタに動けない。
 幸子と健を抑えられているせいか、いつものように早い判断と多少の強引さ無謀さで押し切る事ができない。それどころか、幸子達を助けるためならこんな奴らの1人や2人どうなろうと─。
「う・・・」
「どうした?」急に左腕を押さえ呻くジョーに、ジーンは一瞬目を向けたが、「さあ、早く行け。お前が戻って来ないとパパも心配するぞ」
 ジーンの言葉に押されるようにジョーが立ち上がった。青ざめた顔の─しかし足取りはしっかりしていた。
 振り返らずそのまま廊下に出てジーンの言っていた3つ向こうの部屋の前に立った。確かに人のいる気配がする。
 もしここでおれがマークを撃たなかったらジーンは人質達に危害を加えるだろうか。いや、人質が大事なのは奴らとて同じ事。短気な行動には出まい。しかし─。
「──」
 背中にジーンの無言の圧力を感じた。こんな奴らがどうなろうとおれの知った事ではない。おれは幸子達を無事取り戻したいだけだ。
 ジョーは決心した。

 ジョーが出て行ってからすでに10分が経っていた。ジーンは息を殺してその時を待つ。そして─
「!」
 銃声が聞こえた。続いてもう1発─。
 ジーンは部屋を飛び出しマーク達の部屋へと急ぐ。ドアを開けると隅のベッドに俯せになっているマークと、その体に取りつき兄の名を呼んでいる弟ヘンリーの姿が─。そして少し離れた床には左腕から血を流し座り込んでいるジョーの姿が目に入った。
「ヘンリー」
「ジーン!こいつが兄キを、マークを撃ち殺しやがった!」
 ヘンリーが叫ぶ。
 銃声を聞きつけデニスやバドもやって来た。ジーンがジョーに寄る。ヘンリーに撃たれたらしい。命に別条はなさそうだ。
「ジーン、そいつを閉じ込めておいてくれ。おれが始末をつける。皆手を出すんじゃないぞ!」ヘンリーが再びマークに取りすがり、「これでお前ら自由に行動出来るようになっただろう!おれは兄キと一緒にいる。皆出て行け!」
 ヘンリーの剣幕にジーンはジョーを連れて部屋を出た。そしてデニスとバドに夜が明けたら出発するから、と言った。
 その間ジョーは一言もしゃべらなかった。ジーンはジョーを彼が元いた部屋に連れて行った。
「ジョージ!」ジーンに放り込まれ、床に倒れたジョーに鷲尾が駆け寄る。「撃たれたのか。いったい何があった。─さっきの銃声はなんだっ」
「あんたの息子は逃げるためにおれ達のリーダーを撃ち殺したのさ」
「なんだと?そんなバカな事を─」ジョーに目を向けた。だがジョーは顔を上げようとも鷲尾を見ようともしない。「どうした、ジョージ。なぜ黙っている」
「でも怒らないでくれ、パパさん。奴は人質を助ける交換条件としておれの言う事を聞いてくれたんだ。感謝するぜ」
「ま、まさか─」鷲尾はジョーのアゴを掴み強引にその顔を自分に向けさせた。ジョーも逆らわなかったが目は閉じたままだ。「奴の言っている事は本当なのか。幸子達を助けるために本当にそんな事をしたのか」
「・・・・・」
 唇を噛みしめジョーが薄っすらと目を開けた。鷲尾を見つめ、そかしすぐに目を閉じ彼の手から逃れようと顔を背けた。
「ジョージ!」鷲尾がジョーの頬を打った。勢いでジョーが床に倒れた。それを見たジーンが笑いながらドアを閉めた。「な、なんて事を・・。それが本当なら私はもう君を庇えなくなる・・。なんて事をしてくれたんだ・・」
「・・・・・」
 なんの事かわからずジョーは怪訝な目を鷲尾に向けた。だが鷲尾の様子にすぐには何も言う事はできなかった。



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