コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   2 comments   0 trackback

毒を食らわば富士山で 1

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「あっ、見て!富士山だ!富士山が見えてきた!」
 後席の窓から身を乗り出すようにして洸が叫んだ。その横で一平がやり・・を入れる。
「お前、日本に20年もいてそんなに富士山が珍しいのかい?」
「てやンでえ、見る時によって違うんだよ!」
 反論する洸をバックミラーで見て神宮寺は押し殺したように笑い出した。すぐムキになるところはまるで小学生だ。
「ぼく、なんだか歌でも歌いたくなってきたな~♪」
「いっ!」一平が変な声を上げた。だが洸は別に気にしない。コホンと喉の調子を確かめている。「あ、洸よ・・・何もこんな狭い車の中で歌わなくても、もう少し行けば─」
「狭くて悪かったなァ」ハンドルを握っているジョーが言った。「セリカXXダブルエックス─おれの新車にケチつけるなら、お前はこっから降りてダンプでも拾いな」
「や、やだな。おれは別にそんなつもりじゃ・・・あ、洸!」
ふ~じのしらゆきゃほ~おれ~
「な、なんだ!?」
 ジョーが声を上げた。一平は十字をきっている。
 そんな2人の事にまったく気に留めず、洸は〝ある種の美声〝を張り上げている。やがてそれはボーイソプラノまで達した。
「るせェ!ひと山いくらの声で歌うな!手元が狂う!」
 とうとう耐え切れなくなったジョーが大声を上げた。と、同時に新車セリカXXが左右に踊る。
「お、おい、ジョー」神宮寺だ。「中央高速で暴れるな。河口湖に落ちるぞ」
「落ちるか落ちねえか試してやろーか!カーダイビングなんておもしろいぜ!」
「・・・遠慮しとくよ」
 神宮寺がため息をついて引き下がった。と、後ろから洸の大声が響く。
「待ってろよ、フジヤマ!今行くからなァ!」
「・・富士山、逃げないように祈ろ・・」
 一平は再び十字をきった。
「ついでに湖に落ちないように祈っててくれ」神宮寺が小声で呟いた。「これから思いやられる・・。このメンバーでハイキングだなんて誰が考えついたのか・・」
「お前だろ、神宮寺」

 ジョーの言葉に神宮寺は思わず赤くなった。
 こうして車内で揉めている間、やがて車は河口湖ICを抜けスバルラインに入った。そしてその前にはまだ少し雪の残っている富士山がこれから来る4人の進入者に備えるようにそそり立っていた。

 富士山─標高3776メートルと日本一高い山である事は言うまでもない。
 3つのトンガリ頭を持つこの山も昔は空に届くばかりの前人未踏の山とされていたが、今では五合目まで車で行ける。スバルラインもそのひとつである。ラインで五合目まで行き、ここに車を置いて後は自分達の足で登るのだ。
 最近では富士山に登ろうという観光客も増えたので、いくつかのハイキングコースが作られている。このコースは家族連れなどにはまさにうってつけである。
 五合目の登山道から始まり、観光用に作られた雑木林の小道が続いている緩やかなコースである。が、子どもや女の子を連れた人ならこの小道でもいいだろうが、血気盛んな若者にはこのコースはあまりにもあたりまえすぎてつまらない。それがあの4人なら当然であろう。彼らは誰とも言うなくハイキングコースから外れた自然そのままの中に入っていった。
「何でもかんでも便利にしちまうのも考えものだな」
 一平が言った。
「ホントだよね。コース以外にもこんなにいい所があるのに」
 そう呟きながら洸は周りを見回した。
 まだ弱いが大きく輝く太陽を背に木々が青々と自由に枝を伸ばしている。そして風が吹くたびに彼らを囲んだ木々が踊り歌いだす。都会ではとても味わえない光景だ。4人の表情も自然にほころんでくる。
「見ろよ、でっかい鳥だぜ」ジョーが指差した。「なんていう鳥だろう」
「ガッチャマンかな?」
「お~い、ケーン!」
 洸の言葉にジョーがのったからたまらない。4人は大声で笑い出してしまった。
 こうなると彼らもごく普通の青年達である。お腹を抱えて笑い転げる彼らから生死を賭けた修羅場で銃をかまえる姿はとても想像できない。気分はもちろん服装まで仕事の時とは違う。
 神宮寺はグレイのカッターシャツの上にあずき色のベスト、そしてベージュのスラックス。
 ジョーは紺に赤い細かい線が走っているトレーナーにベルボトムのジーンズ。
 一平は赤いシャツに薄手のアフガニスタンチョッキ、そして誰よりもよく似合う黄緑色のスリム。
 ラスト洸はお気に入りの黄色のヨットパーカーに赤いパンタロン。誰が見ても都会から遊びに来た大学生ってところだ。
「それにしても洸は山にもヨットパーカーを着てくるんだなあ」
「やーだ、知らないの、ミスター。今、ヨットパーカーは一種のファッションでトレーナーやTシャツと変わらないんだよ。それが証拠に一平のチョッキだって本来なら冬の物なんだ。でも現在はなんでもフィーリングで着る時代だからね。真冬用のアフガニスタンチョッキも春頃着れる薄い物が作られているのさ」
「また始まったぜ。洸のお洋服講義」葉っぱをいじりながらジョーが言った。「よくそれだけ興味が行くもんだ」
「生まれや住んでいる所が所だからね。それより何作ってるの?」
「草笛だよ。確か子どもの頃親父が作ってくれたっけ」
「草笛かァ」神宮寺も手ごろな葉を1枚取った。「懐かしいなァ。これ得意だったんだぜ、おれ。確かこうすると─」
 一平も洸も2人につられ葉っぱをいじりだした。と、ピーといういい音がした。見ると神宮寺がきれいに丸めた葉を唇に挟んでいる。
「なっ、いい音だろ」
 彼は何回か吹いて見せた。すると、ズビビ・・という音も聞こえて来た。
「おかしいな・・」ジョーが頭を掻いた。「これでいいはずなのに・・」
 彼は再び葉を唇に挟んだ。が、出る音はズビビかブビィである。
「横に隙間がある。空気が漏れているんだよ」
「隙間から逃げ出すなんて卑怯な奴だ」
 ジョーの言葉に神宮寺は肩をすくめた。
「チェッ!うまく鳴らないや!」
 向こう側では洸が癇癪を起している。
「やり方が悪いんだよ。不器用だなァ」
「違うよ、育った時代が違うのさ。時代がねっ!」
「よー言うよ。3年しか違わないのに」
 神宮寺が肩をすくめたその時、小さいがきれいなメロディが流れて来た。
 彼らは思わずその方を見た。音の出所は一平だった。いや、一平が口に当てている細長い葉からだ。
 それは神宮寺のように丸めた物ではなく、1枚をそのまま使っている。曲はどうやらアメリカ民謡のようだ。
 広大な西部の牧場で育った一平にとって草笛は当然の遊び道具だったのだろう。そのメロディは草笛ならではの高い独特な響きを奏でている。3人は思わず耳を傾けた。
「さすがの神宮寺も今回は一平にお株を持って行かれたようだな」
「そのよーで。まっ、1回ぐらいいいさ」
 澄ます神宮寺にジョーは肩をすくめた。
 
 4人は騒ぎ横道に入り込み追っかけっこをしながらさらに奥へと入って行った。
「わあ!きれいな水!」洸がさっそく手ですくい喉に通した。「ん、うまい!」
「どれどれ」
 洸につられ後の3人も小川にそっと手を突っ込んだ。
「ん~、つめてェや」
「ほんとだ。アメリカを思い出すなァ」一平が口元を拭いながら言った。「牧場の北の方にこれよりも少し幅があるけどやっぱりきれいな川が流れていてね。アイフルと一緒にそこに浸かってよく水浴びしたっけ。なんせ子どもの事だろ。後も考えずずぶ濡れになって遊ぶんだ。だから翌日は必ずベッドの中さ。アイフルはケロッとしているのに」
「変だな・・。普通は反対だと思うけど・・。ナントカは風邪ひかないって・・・。わっ、魚だ!」
 そう大声を上げると洸は他の3人も濡らすように勢いよく小川の中に飛び込んだ。
「ガキだなァ、あいつ・・」
「お前とひとつしか違わンがね。─洸、こんな所で騒いでると置いてくぞ。日が暮れるまでに目的地に着かないとおれ達はここで野宿する事になるんだぜ」
「そう、その目的地だけどさァ」ピチャピチャと音を立て洸が川から上がって来た。「確かフリーキャンプ場だろ。あとどのくらい掛かるの?」
「ここら辺でちょうど半分の道のりのはずなんだが、確か・・」神宮寺はポケットから小型の地図と磁石のセットを出した。「そうだ。この小川のもう少し下手だよ」
「キャンプ場かあ。他で火が焚けないからしょーがないけどさァ」
「心配するな、一平。今はシーズンオフだ。来ているのはおれ達ぐらいだろうさ」
「それにしてもよ、テントから食糧品、炊事道具まで前日のうちにヘリで運んでおいたと知ったらそこの管理のおじさん驚くだろうなァ」
「そりゃあね・・。あ~、年よりは可愛そうだね~」
「るせェ、1年しか違わねえだろ」
「1年違えばだいぶ違うよ。ミスターみたいに3年違えば時代が違う」
「おれはまるで明治生まれみたいだな」
「いえ・・せめて大正・・・
 神宮寺のじと目で睨まれ洸が小声で言った。
「チェ、アホらし。先に行くぜ」
「まてよ、ジョー」
 一平もあせってジョーの後を追った。神宮寺と洸はしばらく無言で見つめ合っていたがやがて2人の後に続いた。

 その2人の男は日本人ではなかった。ちょっと見るとアメリカ人のようだがはっきりとはわからない。
 1人は金髪で57、8才ぐらい、もう1人は黒髪で30才前後のようだ。
 2人はキャンプ場と書かれている立て札からそう遠くない小川の淵に踞み、その冷たい水を大きなビーカーやフラスコに取っていた。そしてそこに、持ってきた小さなビンの中に入っている液体を2、3滴落とした。
 ずいぶん長い時間が経った。やがてそのビーカーの水は黄色くなりだし2人は思わず顔を見合わせた。
「これで第1段階は成功のようだ」金髪の男が言った。「後はこの液体の効き目と消却時間とがわかればいい」
「それにしてもここの水は不純物が入っていないので助かりますね。絶えず流れているせいもあるけど─。したがってここでしか混ぜ合わせられないという欠点もありますがね」
「ウム・・。ここのキャンプ場も今はシーズンオフだからいいが、もう少し経ったら─」その時川上の方から人の声が聞こえて来た。どうやらこちらに向かってくるようだ。「いかん、トニーズ」
「はい」
 2人は急いで周りの器具をカバンに押し込み、人影とは反対の方に姿を消した。
 が、その時トニーズと呼ばれた男のポケットから4センチぐらいの小さなビンが転がり小川に落ちたのに気付く者はいなかった。

「ほ~んとだ!だ~れもいないぜ!」一平が声を上げた。「春先とはいえこんな時にキャンプをしようなんて考えるのはおれ達ぐらいなもんなんだな」
「人がいなくて静かだし自然たっぷり。おまけにさっきの小川がすぐ横を流れてる」
 洸も一平に同意した。
 確かに他にはキャンプ者はいないし管理人の建物からはかなり離れている。これなら少々騒いでも文句を言われずに済みそうだ。
「この小川、もう少し深かったら水浴びができるのになァ」
「まったくだ。これならせいぜい手で魚を獲れるくらいだな」
「水浴びしようが溺れようがかまわねぇが、荷物解いてからにしてくれねえか」見るとジョーと神宮寺がその背中いっぱいにリュックを背負っている。管理場から持って来たのだ。「案の定あそこのおじさん驚いてたよ。どこのぼっちゃんかと思ってな」
「そりゃミスターならそう思うだろうな~」
 一平と洸が声を揃えて言った。
「じゃあなにか。このおれだと下男ぐらいにしか見えないとでも・・」
「下男?じょーだん!小作頭がいいとこ!」
「悪かったな!馬丁にお守り役!」
「お、お守り─」洸はカチンときた。「ご令嬢のお相手の子息と言ってもらいたいね」
「シソクに見えるか、タンソクめ」
「タン・・☆この足を見ろ!これで短足なら一平はもっと哀れだ!」
「なンでおれが出てくるんだよ」一平は思わず洸に詰め寄った。「これで短足なら世の男共は─」
「うるさーい!」突如ターザンの如き声が上がった。「ジョーも一平も洸も足の短さを気にするより先にテントを張ってくれ。これじゃ夜になっちまう」
「お~、よ~言った!」ジョーが神宮寺に近づいてきた。「それじゃ後で比べっこでもしようか。その時になって泣くなよ」
「泣くわけがない」
 口笛を吹く神宮寺を睨みながら3人はテントを広げ始めた。が、ひと口にテントを張ると言ってもけっこう大変な事なのである。
 4人はまずテントを広げるとペグで四隅を固定した。これをしっかりしておかないと綱を張った時いとも簡単に倒れてしまう。
 そして次に主張綱をバランスよく引っ張りながらテント内にポールを入れウォールを持ち上げるようにして立てる。これもうまくやらないとどちらかに傾いてしまうのだ。
「洸、もう少し引っ張って。ジョー、少し引き過ぎだぞ」
「2本一度に引っ張ってるんだぜ」
「文句を言うな。ほらポールを入れるぞ」そう言うと神宮寺は前後に静かにポールを入れ立てた。「これでよし。一平もう少し引いてくれ。洸、左に─わっ、わあっ!」
「危ないぞ、洸!」ジョーの声に洸はあわてて飛び退いた。と、紙一重にテントは左に倒れてしまった。「あ~あ」
「立てるのは大変だったけど、倒れるのの簡単な事・・・」
「なに言ってる、洸。お前がちゃんと引っ張ってないからだぞ」
「一平こそ引き過ぎなんだよ。だからぼくが引っ張られちゃったんだ」
「綱引きなら得意だぞ。馬に乗っているんだから!」
「ぼくだって小学校の運動会で綱引きはいつも1番前だったよ!」
「☆
 2人の言い争いに神宮寺とジョーは思わず額に手を当てた。
「なァ、神宮寺・・・おれ達やっぱり野宿かなァ・・・」
「冗談じゃないよ、テントがあるのに。さっ、もう一度やろう」
 そう言うと彼はペグを取った。ジョーもそれに習う。一平と洸も言うとおりにした。
 再び四隅を固定しポールを入れる。そして素早く主張綱と腰綱を固定しペグで地面に叩き込んだ。
 所要時間40分。今度はなんとかうまくいったようだ。後は雨が降った時のためにテントの周りに溝を掘るだけでいい。
 4人はホッと息をついた。



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Comment

淳 says... "覚書き"
「昭和編」です。

実は最初に用意していた話は台風の話だったので・・ちょっとタイミングが悪いので急遽別の話を用意した。
が、富士山の描写で一部現実と違うところがある。
実際富士山の五合目から上は雑木林などなく、木も少なく岩や石だらけだ。もちろんキャンプ場もない。
どうやら裾野の忍野村辺りのイメージで書かれたようだ。
アップする際に書き直そうかと思ったが、これも当時物だと思いこのままアップする。

まあ、「昭和編」ではよくある事で・・(・・おい)当時は内輪だけで楽しんでいたので詳しく調べないで書きたいように書いていたからだ。

自由でよかった・・・←それか!?

2011.10.26 12:18 | URL | #vDtZmC8A [edit]
says... "管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2011.10.27 15:29 | | # [edit]

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