コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

毒を食らわば富士山で 3

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 テントの窓から漏れる一筋の光に一平は目を覚ました。上半身を起こし思いっきり口を開けて寝袋から出た。おそらく6時頃だろう。
 昨夜あれから寝たのが4時頃だから正味2時間程しか寝ていない事になる。しかし不思議とそんな気がしないのだ。
 目はパッチリ気分爽やか─おそらく山の澄みきった空気と最高の眺めのせいだろう。
 一平は首にタオルと引っ掛けてテントの外に出た。と、先客がいた。神宮寺だ。
「やあ、一平。おはよう」
「おはよう、ミスター。早いね」
「なぜか早く目が覚めちゃってね。とうとう起きちゃったよ。で、ジョーと洸は?」
「テントの中、よく寝てるよ。ひゃあ、冷てェ!」
 川の中に手を突っ込み一平は飛び上がった。
「あそこに湯があるからそれ使えよ。さっき沸かしたばかりでまだ熱いはずだ」
「ありがたいっ」一平は早速ヤカンに飛び付いた。顔を洗い彼はふと神宮寺を見た。神宮寺はなにやら1人で暴れている。「それ、空手?」
「合気道だよ。これは四方投げといって基本技の1つなんだ」そう言うと彼は架空の相手の手を取り投げ飛ばした。「どうだ、一平。いっちょう揉んでやろーか」
「えっ!い、いいよ。まだ死にたくないし・・・。それにおれにはこいつがある」
 一平は構え、神宮寺の前に拳を突き出した。
 一平のボクシングの腕はかなり有名である。それらしいものはジョーも得意であるが、正式にやった一平には敵わないであろう。
「そういえばずい分やってなかたっけ。やりたいなァ。ミスター、付き合ってくれる?」
「えっ!い、いいよ、まだ死にたくないし・・・。それより、ほら、もっといい相手が来た」
「ジョー!」
 あくびをしながらテントから出てくるジョーの姿を見つけ一平は思わず大声を上げ、ついでに彼の胸にストレートを食らわした。ジョーは再びテントの中にすっ飛んだ。
「な、なにしやがるんだ、このやろう!」
 ジョーが真っ赤になって飛び出して来た。
「油断大敵!これがハジキの弾じゃなかった事に感謝しな!」そのとたん一平がすっ飛んだ。ジョーのストレートが決まったのだ。「やるなァ。相変わらずいいパンチ」
「売られたケンカは買うのがおれの主義でね。さあ、こい!」
「ケンカを売って相手に買わせ、それを受けるのがおれの趣味でね」
 2人はさっそくボクシングごっこを始めた。もちろん本気ではない事は言うまでもない。2人共このキャンプが終わるまでは少なくとも死にたくはないはずだ。
「な・・なあに・・・。何かあったの・・」
「洸」神宮寺が振り向くと、そこには頭を叩きながらまだ眠そうな洸が立っていた。「別に何も─。それより頭どうかしたのか?」
「こっちが訊きたいよ。ジョーも起きたからそろそろ起きようかな~って思っていたら急にジョーが飛んできてぼくの上に落ち、なんにも言わないでまた飛び出していくんだもん。痛かったよォ。ジョーの巨体!」
「そりゃ災難だったな。あっ、洸。顔を洗うならお湯があるぜ」
「いーのいーの。ぼくはこの綺麗な小川さんの水で─。こーいう所に来た時ぐらい文化的生活はやめてだな、もう少し自然を─あれ?」
「どーした。やっぱり冷たくてやだろう」
「そうじゃないよ。この川の水・・変だな・・・。綺麗だったのに・・・」
「え?」
 洸の言葉に神宮寺も小川を覗き込んだ。と、どうだろう。昨日まで、いや、先程まで澄みきっていた川の水が今は黄色に変色している。おまけに泳いでいる小魚まで口をパクパクさせ、やがて水面にその腹を見せてしまう。昨日とは打って変わって恐ろしい光景である。
「ジョー、一平、ちょっと来てみろ」
「なにさ。もう少しで勝負が─」
「いいから行こう、一平」神宮寺の声色に気づいたジョーは一平を引っ張って2人の踞んでいる所まで来ると小川を覗いた。「こ、こりゃいったい・・」
「なんでこんな色をしているんだ。さっきまで綺麗だったのに・・」
「よせ、一平!」ジョーが、小川に手を入れようとする一平に向かって怒鳴った。「何が原因かわからないんだ。無闇に手を出すんじゃねえぜ」
「ここら辺は工場なんてないし、山岳造成計画も聞いた事がない。いやできないはずだ。ここは国立公園なんだからな」
「じゃあ、自然現象か?」
「まっさかあ!川の水が急に黄色くなったり綺麗になったりするなんて聞いた事ないよ。もしそうだとしたら、ずうっと前にわかっているはずだぜ」
「洸にしちゃいい答えだ。しかし・・とするとこれはいったい・・・」
「あっ!」
 ジョーの言葉に脹れていた洸が突然大声を上げて水面を指差した。3人はあわてて水面に目を向け思わず声を上げた。
 なんとあんなに黄色かった小川の水がだんだんと薄くなり、5分も経たないうちに元の綺麗な水に戻ってしまったのだ。
「・・・・・」
 4人はしばらくの間無言で水面を見つめていた。
「さ、錯覚だったのかな・・」しばらくして一平が呟いた。「今、見たのは・・・」
「いや、錯覚じゃねえ。見ろ」ジョーが低く言う。「魚は死んだままだ。錯覚なんかじゃねえ。綺麗な水が黄色くなりまた元に戻ったのもすべて本当だ」
「確かに・・・自然の現象ではなさそうだ。─ん?」
「なんだ」
「こんな物が・・ほら、川の中に」神宮寺は思い切って水の中に手を入れ川底の石に挟まっているものを拾い上げた。それは小さなビンだった。「割れて中味がない」
「別に普通のビンじゃない」
「いや、何か書いてある」一平が神宮寺の手からビンを受け取った。「え・・と・・、ビーピーエイチ、プラスエス・・なんだ、こりゃ」
「BPH+S・・・。なんか化学式みたいだね」
「高校で習ったやつか?」
 ジョーが訊いた。
「ううん、ぼく科学好きだったけど・・こんなの知らないなァ」
「おれも科学部にいたけど、こんな式は見た事ない」
「ね、もしかしたらさっきの現象はこの中の何かのためなのでは・・」
「今日は冴えてるじゃねえか、洸。珍しく」
 ジョーの言葉に洸は再び脹れた。
「なるほど・・」
 神宮寺は頷き他の3人の顔を代わる代わる見回した。皆、Sメンバーとしてのカンが心の中で騒いでいるのがよくわかる。
 せっかく遊びに来たのに面倒な事に巻き込まれたくないと思う彼らだが、こればかりは抑えきれない。
「宿命だな・・こりゃ・・」
 ジョーが呟いた。
「そういう事だ」神宮寺が立ち上がった。「もしこのビンの中に入っていた何かが原因だとしたら、こいつの流れて来た方・・・川上に行ってみれば何かわかるかもしれない」
「よおし、行ってみよう」続いて一平が立った。「このままじゃ気になって遊べないもんな」
「一平にしてはいい事言うなぁ、珍しく」
「それはもうアキたの!行くぜ」
 ジョーの言葉に洸はまたまた脹れた。
 こうして4人は朝食も忘れ、小川の異変の原因を突き止めるためキャンプ場から離れた川上へと足を進めて行った。

 小川の川上の方はまだ人があまり入った事がないらしく、緩やかなキャンプ場周辺とは打って変わって険しく、細い道の上にまで木々が覆い被さって数メートル先も見えない有様だった。
 だが4人はこれが本当の富士山─山というものではないだろうかと思った。と、キャンプ場で騒いでいた自分達がちょっぴり恥ずかしくなってきた。
 いくらめったに遊べない自分達であろうが、ただ作られた環境の中だけで満足してしまうのはやはり都会っ子の哀しさであろう。
 そんな事を思いながら4人は前進を続けた。と、小川の幅が少し広くなりちょっとした平地に出た。4人はホッと良くをつくと立ち止った。
「ふう、助かった。きついコースだぜ」珍しくもジョーがぼやいている。「テントを出たのが6時半頃だから、かれこれ40分は登っている事になるな」
「その割にはあまり進んでないよ。ほら、おれ達のテントがまだ見える」一平が指差す方を見ると、なるほど眼下の木々の間から黄色い物がチラチラ見える。「川上も別になんともないようだな、ミスター。水は綺麗だし」
「ああ・・」神宮寺は水の中に手を入れると小さく頷いた。「思いすごしかなァ・・。確かに何かあるような気がしたんだが」
「それじゃ、あるんだろうさ」ジョーがあっさり言った。「おれはコンビを信じるよ」
「いや、信じる信じないじゃなくて、つまり─」
「ねえ!ちょっと来て!」洸のけたたましい声が響く。3人は大きな木の下に立っている洸に走り寄った。「この葉っぱ見て」
 見るとそれは木の根元に落ちていたモミジの葉であった。そしてその葉は妙な黄色をしているのだ。
「紅葉かな」
「まさか、もう春だよ。それにこんな変な色・・・」
「神宮寺、こいつもあの小川の変色に関係あるのかな」
「さあ・・。しかし調べてみるだけの値打ちはありそうだな」
 神宮寺の言葉に3人は頷き、その木や他の木、草を調べ始めた。
 が、黄色い葉はその木1本だけで他の木は別になんともない。となるとあの木だけに何かが作用したとしか考えられない。
 それはもしかしたら小川の底から拾ったあのビンの中味なのかもしれない。
(もしかしたらおれ達はなんでもない事に夢中になっているのでは・・)綺麗な水に再び目をやり神宮寺は思った。(ひとつ何か異変があるとすぐ事件と結び付けてしまう・・。Sメンバーの悲しい宿命かな)

「わっ!」
 突然、くうに消えるような声がし神宮寺は振り向いた。
「一平!おーい、一平!」洸が地面に向かって怒鳴っている。とうとうおかしくなったのかとよく見ると、そこには穴が開いていた。「大丈夫か、一平!」
「お~、いてえ」神宮寺もジョーも穴の中を覗き込んだ。深さ20メートルはあるようだ。「おれは大丈夫だよ。それより・・」
「こりゃとても登れそうにないな」
「蔦か何かあればいいんだが─」ジョーは辺りを見回した。が、それらしくものは見当たらない。彼は息をついた。「テントまで行けばロープがあるが」
「よし、ぼく行ってくる!」
 そう言うと洸は来た道を勢いよく戻り始めた。
「洸の足でも30分は優に掛かるな」
「ああ、ドジなコンビを持って可愛そうに─。一平!あと30分はそこにいろってよ!」
「ジョー!」穴の中の一平が叫んだ。「おかしいんだ!」
「おれがか!!」
「ち、違うよ、この穴の底さ!土の下が金属なんだよ!」
「ええっ?」神宮寺とジョーが同時に声を上げた。「金属だって!」
「ああ。ステンレスみたいなんだ!」
「穴の底がステンレス・・・だとしたら人工の・・」
「・・・神宮寺・・・」低く呟くようなジョーの声に神宮寺は振り向いた。「気がつかねえか・・。どうも誰かに見られているような・・」
 神宮寺は辺りを見回した。だが人影はない。ここにいるのは彼ら2人だけだ。
「・・・いやな予感がする」
「・・・・・」
 神宮寺は立ち上がり再び辺りを見回した。と、2人から10メートル程離れた大木の幹の中央がかすかに光った。
「危ない!」神宮寺がジョーを突き飛ばした。と、今まで2人がいた所に小さな穴が開いた。「レ、レーザー光線・・・」
「後ろだ、神宮寺!」
 ジョーが叫んだ。見ると大木の何本かから銃口のような物が突き出ている。もちろんさっきの木からもだ。
 銃口のひとつがジョーに向かって光を飛ばした。が、間一髪ジョーはそれを避け転がった。
「こりゃ大変な所に飛び込んじまったようだな!」
「まさか富士山の山奥にこんな物があるなんて─うっ!」
「神宮寺!」
「大丈夫、掠っただけだ。よし、ジョー、同士射ちさせよう。右から行くぞ!」
「おう!」
 ジョーは左、神宮寺は右に分かれ、2人は向かい合って銃口を向けている木の下に立った。
 銃口が相手を狙う。
「今だ!」
 2人は同時にその場から飛び退いた。
 レーザーが走る。その光は向かい合っている相手の根元を貫き、2本の大木は音を立てて倒れた。
「あと2機か」
「今度はバラバラだ。今の作戦は使えない。それより銃口を見ろ。あれは─」
「とと!」2人の間を赤い光が裂いた。「危ねえじゃねぇか、くそっ!」
「銃口のレンズだ。突起している。小石ひとつで突き破れそうだぞ」
「よし!任せたぜ、神宮寺!」
 ジョーが走り出した。銃口が彼を追う。
 神宮寺は足元から適当な小石を2、3個拾った。銃口が止まった。狙いが定まったのだ。
「それ!」オーバースローの神宮寺の手から小石が離れ、突起を突き破り内部に飛び込んだ。「もういっちょう!」
 もう1機も同じだ。
 やがて銃口から煙が出て2機共爆発してしまった。破片が地面にバラバラ落ちて行く。
「やったぜ!」
 ジョーが声を上げた。
 さすがは中学時代ピッチャーだった神宮寺だ。弟を亡くしてから野球はキッパリとやめてしまったがその腕はまだ衰えてはいない。
「JBやめて野球の選手になったらどうだ。阪神か、はたまたヤクルトか─」
「よせやい。それよりなんでこんな所にレーザー光線なんか・・・」
「さあね。宝物でも埋まってるんじゃねえのか」
「真面目に考えろ。ステンレスの落とし穴といい木に見せかけたレーザー銃といい─」
「ただ事じゃないって言いたいんだろ。わかってるよ。ああ、頭が痛いや」
「ほんとに痛い・・・」
 2人はまるで申し合わせたように口を閉ざし、しばらくその場に突っ立っていた。が、やがて今の言葉は単なる受け渡し・・・・ではない事に気がついた。
 始めはかすかに感じていたそのものが次第に2人の頭いっぱいに響き渡ってきたのだ。
「あ・・あたま・・」ジョーが頭に手をやり膝をついた。「いったい・・どうしたんだ・・」
「な・・なにかがあたまのなかで・・」続いて神宮寺が蹲る。「なにか・・ちょうおんぱのような・・・どこからか・・・」
「くそォ・・やっぱりなにかある・・このへんは・・・う、ううっ!」
「うわっ!」
 頭の中で何かが破裂した。2人はスーと気が遠くなっていった。

「ミスター!どこー!ジョー!一平!皆どこだよお!」
 さっきから何十回となく声を張り上げているのだが、3人の姿はどこにも見当たらない。
「おかしいな。せっかくロープ持ってきたのに。おまけに景気づけのお酒も─。ミスターにジョー、それに穴の中の一平もいなくなっちゃうなんて・・・。ひょっとしてぼくはかくれんぼの鬼にされたのでは・・・」
 洸はふと前を見た。何か機械の部品もような物があちこちに落ちている。おまけに普通では折れないような大木が根元から倒れている。
 洸はその部品のひとつを摘まみ上げた。
「人工ルビーだ。ここで何かあったのか」
 洸は立ち上がり再び辺りを見回した。と、草が妙に乱れている。洸のカンが騒ぎ出した。
 彼はルビーを握りしめ、躊躇う事なく乱れた草が続く細い道を進み始めた。



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Comment

淳 says... "覚書き"
彼らの行く所、必ずナニかある!
ダレのせいかは問わないが・・・。

「いやな予感がする」
って、始めはジョーの台詞だったんだな。
いつのまに神宮寺に移ったんだう。

2011.11.07 15:59 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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