コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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毒を食らわば富士山で 4

こびん 

 どこか遠くでゴオンという音がする─。
 いや、頭の中だ。頭の奥の方からなんともいえぬ振動が伝わってくる。
 神宮寺は目を開けると思わず頭を押さえた。振動は激しく、彼は漏れる唸り声を抑える事ができなかった。
 わずかに鎮まると彼はゆっくりと周りを見回した。するとここは10メートル四方くらいの小さな部屋で、自分はベッドの上にいる事がわかった。質素だが寝心地は悪くない。彼はベッドから出ようとした。
「ジョー」神宮寺はふと隣のベッドに寝ているジョーに気がついた。「ジョー、おい、ジョー」
「・・・ん」神宮寺に揺す振られジョーはゆっくり目を開けた。「じんぐ・・・いて!」
「大丈夫か、ジョー」
「あ・・ああ・・なんとかな・・・」
 ジョーは頭を押さえたままゆっくりと上半身を起こした。が、すぐにベッドヘッドにもたれ掛かってしまった。汗が額をぐっしょりと濡らし前髪が額に張り付いている。
「ちくしょう・・・まだクラクラしやがる・・」
「もう少し横になっていた方がいいぞ。ご老体は無理しちゃいかん」
「フン、そういうお前だって真っ青だぜ。ありゃいったいなんだ。それにここは・・・」
「さあな」神宮寺はもう一度部屋の中を見回した。ベッドが2つ、テーブルとイスが2脚・・・それしか置いていない殺風景な部屋だ。おまけに窓もない。「理由わけは知らんがこんな所におれ達を閉じ込めておくとは─」
「刑法第220条、逮捕及び監禁の罪ってやつだな」
「そーいう事。さっ、出ようぜ」
 言なげに神宮寺は呟き、バックルから針金を引き出すとピンッと伸ばした。そしてドアの前に踞みしばらくガチャガチャやっていた。
「開いたぜ」針金を出してから1分も経っていない。特別な細工をしていないドアであれば針金  1本あればなんの事はない。「歩けるか、ジョー」
「バカにするな。足を前後にすりゃいいんだろ」
「前後というより、片方づつ前に出さなきゃ進まないぜ」
「フン、なんとでも─」
 ジョーはそっぽを向いたとたん不意に自分の体が沈んで行くのを感じた。目の前が真っ暗だ。 さっき頭に受けた衝撃が再び戻って来た。
「ジョー!」神宮寺は驚いて駆け寄った。「どうした、大丈夫か」
「・・どうしたのかな・・頭が・・まだ・・・」
「無理するな。せっかくベッドを貸してくれたんだ。しばらく休んでろ」
「しかし・・・あっ!」
 ジョーは叫んで再び頭を押さえた。
「なにやってるんだ。おとなしくしてろ」
「一平は、一平はどうしたんだ!」
「そ、そうか」彼も気がつき大声を上げた。「いつもお前と2人だから忘れてたよ。一平、それに洸も、あそこにそのままだ。いや、もしかしたらおれ達のようにこの中に─」
 神宮寺は腕を組みしばらく歩き回っていたが、
「ジョー、おれは一平もこの中のどこかにいると思うんだ。だから─」
「わかってるよ、行ってこい。おれは1人で大丈夫だ」
「・・本当に?」
 神宮寺はジョーを見た。ジョーもしっかりと頷く。
「おれも行きたいが・・今は無理らしい。かえって足手まといになるだろう」
「そうか・・・。じゃあ一平とここがどこなのかを探ってくる。これは置いてくよ」
「Dank、じゃあな」
 ジョーは神宮寺の放った針金を受け取ると軽く手を振った。
「ああ」
 神宮寺も指を立て部屋を出た。
 正直のところ、ジョーからあんな事を言うのは初めてなので少々戸惑ってしまった。だが今は彼を信じるしかない。
 神宮寺はそんな事を思いながらまず右に曲がってみた。長く続いた廊下だった。
 彼は一歩一歩慎重に進んで行った。どこからも何の音も聞こえてこない。恐ろしい程静まりかえっている。
 時々何か強い薬品の臭いがしている。いや、この中全体がそんな臭いに包まれているようだ。
「一平はどこに行ったんだろう・・」
 神宮寺は時計のリューズの上にある小さなツマミを軽く押した。デジタルが消え四象限のトレーサーパネルに早変わりした。と、第一象限に赤い点が点滅している。
「一平のや奴、いい心掛けだ」
 神宮寺は思わず口元を歪めた。
 このトレーサーの色はSメンバー4人がそれぞれ持っている時計によって色が違う。
 神宮寺は明るいオレンジ、ジョーは青、一平は赤、洸は黄色である。
「これによるともう少し先だな・・というより・・・この壁の中??」
 神宮寺は立ち止って壁を見回した。と、小さなスイッチのような物がある。彼は思い切ってそれを押してみた。と、目の前の壁がズーと上に上がって行く。その中は空間だった。そして─、
「一平!」
「ミスター!」その空間の中に一平がいた。「ど、どうしてそんな所から・・」
「そんな所からって、お前こそどうして壁の中にいるんだ」
「カベ!?」一平は驚いてその空間から出た。「こ、ここはいったい・・・」
「何かの建物の中だ」
 そう答えると神宮寺は今までの事を簡単に説明した。
「それでジョーは?」
「向こうの部屋にいる。ちょっときつかったようだ。それよりお前は─」
「それが、穴に落ちたろ。そのうち上の方で何か騒がしくなり─つまりミスターの言うレーザー銃の音か─その後、急に頭が痛くなって気を失ってしまい気がついたら真っ暗になっていたんだ。周りの土の壁は変わらないのにまるで上にフタをされたように・・・。とにかくコールカラーを発信したら急に横の壁が開いて─。後はご存じのとおり」
「フウン・・・」神宮寺は白い廊下に面した落とし穴の底のステンレスに目をやった。「どうやらこの落とし穴を作ったのはここにいる人間らしいな」
「い、いったなんのために」
「それをこれから調べるのさ」
 神宮寺はさらに進み一平はあわててその後に続いた。

「ジョー!一平!どこ行っちゃったのかな、ほんとに・・・。ミスター!」
 洸は3人がいなくなった所よりさらに川上に進んでいた。
 乱れた草は相変わらず続いている。しかしこの時になって洸はこの草の乱れは最近のものではなく、すいぶん前からのものだという事に気がついたのだ。どのくらい前の物かはわからないが、それでいてつい2、30分前にも何かがここを通った形跡がある。
「これ以上登るのはちょっときついな。でも誰がこんな所まで・・・」
 洸はシャツの前ボタンを2、3個外した。体は汗でぐっしょりだ。
 彼は顔を洗おうと川のそばによった。川下では小川でもここまでくればけっこう大きな流れの早い川になっている。しかし水は相変わらず透き通っていて綺麗だ。
 洸は水の中に手を突っ込んだ。
「うひゃあ!つめてえ!」洸はシャツを脱いで水に浸しギュッと搾った。「ちょっと冷たいがそれがまた気持ちい─ん?」
 ふと川の向こう側を見ると小さな洞穴があった。しかしその穴の入口の周りは明らかに金属である。
「戦争時代の防空壕・・・にしてはおかしいな・・・。よし」
 洸は足をのばし川を渡り入口の所に立った。
「土や草でカモフラージュしてるけど、こりゃ確かに金属だ」洸は中を覗いた。真っ暗で何も見えない。「よおし、こうなったら」
 彼は思い切って足を踏み入れてみた。と、地面がグラグラする。壁に手をついたが土が崩れ落ちた。ふいに逆さまになった。
「うわー!」
 洸は強く背中を打ち、それっきり何もわからなくなってしまった。

「何かの研究所のような雰囲気だな」一平が呟いた。「中心部はどこだろう」
「─あそこのようだ」神宮寺は立ち止り、突き当たりのドアを指差した。「あの部屋から強い磁気反応がある。おそらくコンピュータ室かあるいは─」
「よし」
 一平が進んだ。と、横の壁の上が四角く開いた。
「避けろ、一平!」
 神宮寺の言葉に一平は横に跳んだ。その後にガガガ・・・という音が響く。
「マ、マシンガン・・」
 一平はとっさにその正体を知った。
「気をつけろ!マシンガンは一機だけだがかなり飛ぶぞ!」
「任せておけって!」そう叫ぶと一平はベルトの後ろに挟んであるナイフを手にした。「こいつがあればたとえミサイルでも─」
 一平は呟くとナイフをマシンガンに向かって思いっきり投げつけた。鋭い刃先がキラリと光る。
「伏せろ、ミスター!」ザッと鈍い音がしたかと思うと、小さな爆発音が2人の耳を突いた。「・・・ふう」
 一平は立ち上がると少し向こうに落ちている自分のナイフを拾った。
「すごいものだな。ナイフ一丁でマシンガンを倒すとは」
「ドーエルナイフ─ナイフだって時には銃以上の働きをするんだ。特にこいつは素晴らしいナイフさ」一平は右手でナイフをクルクルと回転させベルトの後ろに収めた。「それにしても、建物の中にまであんな物が設置されてるとは驚いたなァ」
「つまり、あの部屋に入られちゃ困るというわけさ」
「しかしおれ達は入らなきゃ困る─。行こうぜ、ミスター」
 2人はマシンガンの破片を避けながらドアに近づいた。

 中から音は聞こえない。たぶん防音になっているのだろう。
「たとえ今の音が中に聞こえなくても、中に人がいれば我々の事に気がついているはずだ。油断するな」
 神宮寺の言葉に一平は頷いた。神宮寺も軽く頷きゆっくりとノブに手を掛け、一気にバッとドアを開けた。
「あっ!」
 2人は思わず声を上げた。予想はしていたものの室内はわけのわからない機械だらけだった。
 そしてその中で1番大きなコンピュータの前に1人の男が立っていた。金髪の、科学者らしい男だ。
「あの部屋を抜け出しここまで来るとは思わなかった」なまりのある英語だ。一平の眉がピクッと動いた。「お前達はただ者ではないな。日本の警察の者か」
「警察?」神宮寺が言った。「我々はただキャンプに来ただけだ」
「・・・まあ、いい。どうせお前達はここから出られない。私の研究を手伝ってもらう」
 2人は思わず顔を見合わせた。男は肩を動かし声を立てず笑っている。
「ミスター!」ふいに一平が声を上げた。「あれは!」
「あっ!」
 一平の指差す方を見た神宮寺も思わず大声を上げた。
 目の前のコンピュータの向こうに水をいっぱいに入れた透明のタンクがある。その中の水がだんだん黄色く変わって行くではないか。それはあの小川を染めた色を同じだった。
「こ、これは・・」
「これが私の研究だ。2年掛かりのな」
「研究?いったいなんの研究です」男は神宮寺に目を向けた。だが答えようともせず、ただ彼の顔を見て声もなく笑っている。「こんな山奥で、それもレーザーやマシンガンを使って人を寄せ付けないところを見るとあまりいい研究とは思えませんが」
 男の目がキラリと光った。そして右手ですぐ後ろのコンピュータのボタンを押した。と、天井から細長くパイプの先を丸く窄めるような物が出て来た。そのとたん神宮寺は体に軽いショックを感じよろけて膝をついた。
「ミ、ミスター!」
 一平が彼を支えた。
「フフ・・。科学者を相手にする時は口に気をつけるんだな、ボウヤ」男はスイッチを切った。すると神宮寺の体を包んでいたショックがうそのようになくなった。「私の研究をバカにするのはよしたまえ。ある組織から極秘で頼まれた偉大な研究だ。フフ・・なんだと思うかね」
 男はコンピュータの横の棚から不透明な液体が入っている小さなビンを取り出した。それは神宮寺が小川から拾ったビンと同じ物だった。
「この中に入っている液体こそ私の偉大なる研究の成果なのだよ。BPH+S・・・バリウムや水銀、その他の化学薬品とあるウィルスを加えシミュレーションしたものだ。これを水の中に落とせばその水は恐ろしい毒物となる。呑めば人間とてイチコロだ」
「なんだって」
「なんのためにそんな物を─」
「わからんかね」
 男は相変わらず口元に笑みを浮かべている。それが一種の狂人のような印象を2人に与えている。
「もしもだ。もしも・・この液体を日本のどこか大きな川に入れたとする。と、どうなると思うかね。その川の水を飲料水としている地区の人間は残らず全滅だ。おまけにこの液体はある時間経つとその効果はなくなり、水も元の姿に帰る。つまり原因はもちろん証拠も何も残らん。言わば完全犯罪というわけだ。これさえ完成すればミサイルなどいらなくなる。敵国の川にちょっと流せばいい。それだけだ。誰がどのような方法を用いたのかもわからない。どうだ、すごい発明だろう。ハハハ・・・」
 男は始め低く、だがそのうち室内全体に響き渡るような大声で笑い出した。金髪と青い瞳が異様な光を湛えている。その光景を見て2人はゾッとせずにはいられなかった。
(奴はおれ達をここから出さないつもりで話したんだろうが、それが運の尽きだったな。そうと知ればどんなことをしてもその液体製造を阻止してやる)
 神宮寺は無言で一平に合図した。一平は頷いて再び男を見た。

 何かが爆発したような音で洸は目を覚ました。と、そこは何かの建物の中だった。
「確かぼくは洞穴を見つけ入ろうとして・・・。そうか、足元が崩れて落っこちたんだ」
 洸は腰を摩りながら立ち上がり辺りを見回した。周り中白い壁の廊下である。時々何か薬品の臭いが鼻を突く。洸は思わず鼻を擦った。
 と、向こうから光が漏れているのが見えた。行ってみるとドアが少し開かれた実験室のような部屋だった。中に2、3人の白衣を着た男がいて何やら忙しそうに動いている。
 洸は知らないが3人の男の内の1人はトニーズだった。
「勝手に入って見つかったら怒られるだろうな・・」
 と、1人の男がカゴから1匹のハツカネズミを取り出し不透明な液体をそのネズミに注射した。ネズミはもがき暴れていたが、やがてぐったりとなった。
「動物実験はこれでOKだ」トニーズが言った。「あとは人間に対してどのくらいまで効果があるかという事だが─」
「博士はあの捕まえた日本人を実験に使うつもりらしいですよ」
「・・・これが完成すれば我々は祖国に帰れる。もう世界中を放浪しなくて済むんだ」その時卓上のスピーカーが音を立てた。「はい、トニーズです。あ、博士。はい・・・部屋に残っている男ですか。ええ、マウスでの実験は成功です。今までで1番強力なものができました。え、この薬を・・・はい・・わかりました。すぐ行きます」
 彼はスイッチを切るとあとの2人に顔を向けた。
「君達、あの男をつれてコンピュータ室へ行ってくれ。私はここを片付けてから行くと博士に伝えておいてくれ」
「わかりました」
 男達は足早にドアに向かった。洸はあわててドアから離れ角に隠れた。男達は洸に気づかず反対の方へ行ってしまった。
(あの液体・・・どうやら毒物のようだ。人体実験をやるつもりなのかな・・・。ま、まさか、あの男って一平達の事では!)洸は声を出しそうになった自分の口をあわてて押さえた。(もしそうだとしたら・・・そりゃ大変だァ!)
 洸はソッと室内に入り込んだ。



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