コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

毒を食らわば富士山で 完

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 男─ラドット博士はマイクのスイッチを切ると再び神宮寺と一平の方を向いた。
「さっき君達に手伝ってほしいと言ったが、なんの事だかわかるかね」
 博士は相変わらず笑みを浮かべ横柄な態度を続けている。自分の研究に満足しきっているのがよくわかる。
「今、実験室の助手と話したのだが、ここにあるこの薬よりもっと強力なのができたそうだ。そこで今度こそ人体実験を試みたいのだよ」
「えっ!」2人同時に声を上げた。「じ、人体実験!?」
「そうだ。2人共後ろを見たまえ」
 博士の言葉に2人はゆっくりと振り向いた。
「ジョー!」最初に2人の目に入ったのはドアの所に立っているジョーの姿だった。次に彼を両方から抱えるようにして支えている2人の男が目に入った。「ジョー!」
「動くな!ヘタに手を出すとこの男がどうなるか・・・。わかるだろ」
 神宮寺は足を止めジョーを見た。ジョーは目を瞑り荒く息をしている。額は汗でいっぱいだ。
(ど、どうしたんだ・・。いつのもジョーじゃない)
 2人の男はジョーを博士の横のイスに座らせた。と、そこへトニーズが入って来た。
「すみません、博士。これが新薬品です」
「ご苦労」
 ラドットはトニーズから小ビンを受け取るとジョーの顔を上げさせた。
「や、やめろ!」神宮寺が飛び出した。が、次の瞬間彼はまたも体にショックを感じ転倒してしまった。「い、一平・・」
 神宮寺は一平を見た。が、彼も神宮寺同様一歩も動けない状態でいる。
「ジョー!目を覚ませ!」
「あっ!」
 ジョーはハッとし目を開けた。と、そのとたん何かが口の中に流れ込んで来た。やがてそれは喉を通って体内に入って行った。
 ジョーはイスから転がるように床に倒れた。
「ジョー・・・」
「フフフ・・」ラドットがジョーの体を引き起こした。彼はさっきとは反対に顔面は赤くなり、体も火照っているのがわかる。「我が偉大なる研究のためだ。光栄に思ってくれたまえ。トニーズ、しっかりと記録しておくんだぞ。なんせ私も初めてなんでね」
「くそォ・・・勝手な事を・・・」と、ジョーが顔を上げた。そしてだるそうに顔を神宮寺に向け、かすかに目を開けた。「ジョー、しっかりしろ。おれがわかるか」
「ヒック!★」
「へっ!?」
 神宮寺は目をパチクリさせジョーを見た。と、ジョーはゆっくり体を起こした。
「ど、どうしたのかな、おれ・・・。なんかとてもいい気分・・・ヒック!」
「あ・・あいつ・・??」
 神宮寺は目を見開き一平を見た。一平もポカンとしている。
「な、なんだ、これは!いったいどうなっているんだ!」
 ラドットが大声を上げた。が、トニーズは答えられずオロオロとしている。その時だ。
「アハハハハ・・・!」
 ドアの方からけたたましい笑い声が響いて来た。
「洸!」
 2人は同時に声を上げた。その笑い声の主は洸であった。
「博士、あんたがジョーに飲ませたのはあの薬品じゃなくてぼくの持ってきた日本酒さ。彼がゴタゴタしているうちにすり替えたんだよ。残念でした!」
「に・・にほん・・ヒック!」
「やるぜ、洸!」
 一平が口笛を吹いた。
「し・・知らないぞ・・。ジョーに日本酒なんか飲ませて・・・」
「どーして?」
「彼に酒を飲ませるのと毒を呑ませるのと、どっちが恐ろしいか考えてみろ」
「・・・・・
「くそォ。よくもこのおれをモルモット代わりに使ってくれちゃちゃ・・ちゃらて・・ちゃらら・・・らら?─と、とにかく許さねえ!」
 ジョーはイスを持ち上げラドットに向かって投げた。が、博士が避けたのでイスは後ろのコンピュータに当たってしまった。と、今まで神宮寺と一平の体を包んでいたものがスッと消えた。
「しめた!」
 一平はさっそく飛び出し、男の1人にパンチを食らわした。
「こらあ、一平!手を出すな!おれがやるんだ!」ジョーがわめいた。「こうなりゃハデにぶっ壊してやる。Dieser Dummkopf!(このやろう) くそォ!」
「な、なるほど・・・。ミスターの言うとおりだ・・・」
 洸が小声で呟いた。
「トニーズ!薬品を!実験室の─!」ラドットが叫んだ。するとそれと同時にどこからか爆発音が聞こえて来た。黒い煙がこちらに流れてくる。「な、なに事だ」
「あ、そうだ」洸が振り向いた。「言うの忘れてたけど、さっき忍び込んだ時、薬をすり替えついでに小型爆弾をセットしておいたんだ。なんせ周り中機材だらけでしょ。腕が鳴って腕が鳴って─。そういうわけだからアシカラズ」
「う・・うう」ラドットの顔色が変わって来た。「お前達は・・いったい何者なんだ」
「さあね。ただこうした非道は許してはおけないタチでね」
「よっ!、一平!決まってるゥ!アイフル~!」
「ンナロウ!おれに言わせろっちゅーのにィ!」
「わめくな、ジョー。まったく酒が入るととたんに豹変するんだからな」
 神宮寺はおもわず洸を見た。洸はペロッと舌を出して誤魔化した。

「く、くそ・・・。こうなったらせめて私の手元にあるこの薬品だけでも─」
「ミスター!」洸が大声を上げた。「博士が逃げるよ!」
「一平!JBに連絡してくれ!チーフがうまくやってくれるはずだ」
「OK!」
 一平の返事を聞くと神宮寺はジョーの後を追った。
 廊下を走り階段を昇る。前方にジョーの姿はなかったが、神宮寺は彼の残していった形なきトレーサーで導かれているようだった。
 建物にして3階くらい上がっただろうか。突然、前方から銃声がした。
「ジョー!」
 神宮寺はさらに速度を速めた。と、階段も終わり屋上へのドアが開いていた。キュンキュンという音が聞こえる。
 彼は用心深く屋上に出た。そこには2機のブイトールが置いてあった。そのうちの1機にラドットが乗っており、今しも飛び立とうとしているところであった。
 ジョーはもう1機のブイトールのそばにいた。
「怪我はないか、ジョー」
「そんな事よりこいつを動かしてくれ。奴の後を追うんだ」
「わかった!」
 神宮寺は素早く左側の座席に着いた。そしてピッチレバーを回しスターターボタンを押した。エンジンが掛かった。ローターが周りブイトールは静かに上昇していく。
「あそこだ、神宮寺!前方約200メートル!」
「任しとけっ!すぐ追いついてみせるさ」
 神宮寺は操縦桿を思いっきり前に倒した。
 彼の言うとおり2機の間はぐんぐんと縮まって来た。このままでは間もなく追いつくだろう。追いつかなくてもこの小型のブイトールではあまり遠くまで飛ぶ事はできない。
 それにラドットは日本のどこにも安全に身を置ける場所はないはずだ。なのに前方のブイトールはまるで目的地があるかのように一進に進んでいる。
「どうもおかしい。ジョー、横に地図が置いてあるだろ。このまま北西に真っ直ぐ行くと何がある?」
「何があるって・・・、富士吉田市に入って・・あと山中湖ぐらいかな・・・。ま、まさか!」
「そうか。奴は山中湖にあの薬品を・・・」
「冗談じゃねえ!そんな事をしたら─!」
「一時的にせよ山中湖は汚染され、その水が飲料水と混じったら・・」
「ちくしょう!死んでもそんな事はさせねえぞォ!」
 その時、今まで前方を飛んでいたブイトールがクルッと向きを変えこちらに向かってきた。そしてその機体の先端から2本の丸い物がキュッと飛び出した。
「あいつ・・・どうするつもりだ」そのとたんものすごい轟音が響いた。さっきの丸い棒はマシンガンの銃口だったのだ。「ヤロウ、危ないじゃねえか。当たったらどうするっ」
「向こうはそのつもりさ。ほら、また来た」
 神宮寺は迫りくるブイトールを左に躱した。が、ラドットはしつこいほどに向かってくる。小型だから小回りは利くが性能的にはあまりよい機体ではないらしく、操縦桿を左右するたびに激しいショックが走る。
「こ。このままではラチがあかない。撃ち落とされてしまうぞ」
「よおし、それならこっちも─。このMCボタンだな」
「だめだ。奴の機を撃ち落とせば住民に被害を与えるばかりか、あの薬品を空からばら撒く事になるんだぞ」
「おれの腕を信じろ。マシンガンだけ撃ち砕いてやる」ジョーは唇を舐めるとスイッチを押した。と、先端から銃口が出る。「近づけ、神宮寺。真正面からできるだけ近づいてくれ」
「ラジャー!」
 神宮寺は機を旋回させラドット機の正面に出た。向こうの先端のマシンガンもやはりこちらを狙っている。神宮寺はすぐにでも旋回できるようにと操縦桿をぐっと握った。
「今だ!」
 ジョーがレバーの上のスイッチを親指で押した。
 ガガガ・・・という音と共に先方のマシンガンがすっ飛び、神宮寺はすぐさま機を左に旋回させた。
「さすがだな」
「お前もな」
 2人は顔を見合わせ互いに口元を歪めた。するとその時、ジョーの右横に置かれている無線機が鳴り出した。ジョーはすぐにスイッチをONにした。
『私はドクター・ラドット。聞こえるかね』スピーカーからラドット博士の声が聞こえて来た。『これ以上私を追うのはやめろ。でないとこの薬をあの湖に投げ入れるぞ』
「くそォ・・・卑怯な・・」
 神宮寺が悔しそうに歯ぎしりした。
「かまわねえ、神宮寺。奴に近づけろ」
「し、しかし」
「いいからおれに任せろ。作戦があるんだ」
 ジョーの自信ありげな言葉に神宮寺は再び前を向き、ブイトールの速度を上げラドットを追い始めた。
『お前達、この薬品を投棄してもいいのか。湖を汚染してもいいのか」
「できるものならやってみろ!お前に水面スレスレにまで降りられる自信があったらな!」
『くそォ、見てるがいい!』
 突然ラドット機が降下し始めた。
「追え、神宮寺!機間は20メートル!後はお前の腕を信じるぜ!」
 ジョーはスイッチの上に親指を乗せ叫んだ。神宮寺がグッと頷く。彼はジョーがやろうとしている事を察していた。
 2人は言葉もなく互いの心を読み互いの腕を信じて一か八かの作戦に出たのだ。

 湖面まで200メートルという所まで来た。
「よし!」ジョーの親指に力が入り、ラドット機の後部が弾け跳んだ。「右だ!奴の右へまわれ!」
 ラドット機は後部から黒い煙を上げながら一直線に水面に向かっている。あと150メートルという所で2機のブイトールが平行に並んだ。そして双方はほぼ同時に機首を上げ、水面100メートルくらいの高さを並んで飛んだ。
 と、ラドットが風圧に耐えながらドアを開けた。その右手には例の小ビンが握られている。彼は右手を大きく振りかぶった。
「ジョー!奴はあのビンを水面にぶつけるつもりだぞ!」
「ああ!この時を待っていたんだ!」ジョーは両腕に力を込めドアを押し開けた。風圧を受け機体が傾く。「ラドットはお前に任せる!落ちるなよ!」
「ジョー!」
 神宮寺の声と共にジョーがくうを飛んだ。機体がさらに右に傾いた。が、その反動でドアが閉まり機体はすぐに元の体勢に戻った。
「あ、あのバカ・・・無茶な事を─」
 神宮寺は旋回してジョーの行方を追った。

 ジョーは見事なダイビングで一直線に落ちて行く。その少し先にはラドットの投げた小ビンが見える。このままビンが水面に落ちたらそのショックでビンは割れ中味が出てしまう。そうなれば山中湖は数十分のうちに毒の湖に変わってしまうのだ。ジョーとてどうなるかわからない。
 彼は手を思いっきり伸ばした。が、わずかの差でビンに届かない。水面はグングン迫ってくる。
「くそォ!」
 ジョーはとっさにGパンのベルトを外しビンの底を弾いた。ビンがわずかに跳ね上がった。ジョーはベルトを放り、上半身を伸ばし右手でビンを掴んだ。そして再び体を真っ直ぐに伸ばした。と、そのとたん彼は水の激しいショックを受けた。
「ジョー!」
 神宮寺はブイトールを乱暴に着水させ、ジョーが沈んだ辺りの水面に飛び込んだ。

「・・・ん」
「気がついたか、ジョー」
「神宮寺・・・」ゆっくり目を開けたジョーの前には神宮寺の笑顔があった。「ここは・・・」
「安心しろ。ブイトールの上だ。まったく無茶をやりおって。ひとつ間違えば水面に体を叩きつけられて骨がバラバラになるところだったんだぞ」
「・・・おれ・・何したのかな・・・」
「え?」
「確かいい気分になって、妙に頭に来てブイトールから飛び出して・・・」
「お、おい、ジョー。お前まだ酔っているのか」神宮寺はまじまじとジョーの顔を見た。彼は半分ポケッとしている。「な、なんて奴だ・・。正気で立てた作戦ではなかったのか・・・」
「よく覚えてねえや─。あれはラドットのブイトールか。無事着水したんだな」
「まいったな。いったいどこまでが正気でどこからがボケてたんだ」
「お前こそ何ブツブツ言ってるんだ。見ろ、JBの事故処理班がご到着だぞ。後は任せておれ達は引き上げようぜ。いつまでもいると面倒な事になる」
「・・それもそうだな」
 2人はそそくさとブイトールに乗り込んだ。

 一平の連絡を受け、チーフは富士山に事故処理班と科学実験室々長を急行させた。そして  チーフ自身もセスナで現場に向かった。
 事故処理班は神宮寺によって山中湖に導かれ、科学実験室々長、及びチーフは一平によって富士山の研究所に案内されそれぞれの処置が行われた事は言うまでもない。
 研究所は完全に破壊され、ラドット博士は墜落した機体内で遺体で発見された。
 こうして恐ろしい毒薬品製造は人知れず4人によって阻止され、富士のキャンプ場には再び静かな時が戻って来た。

「一平!」さっきから忙しそうに包丁を動かしている一平の後ろからジョーが大声を上げた。「このやろう。こんなにニンジン刻んで─。これ全部入れるつもりかよっ」
「だって今日は朝、昼と抜かしちゃって野菜がだいぶん残っているんだもん。捨てるのはもったいないし持って帰るには重いしさ」
「るせェ!いいかこれ以上ニンジン入れてみろ。東京へ帰ったらすぐさまワルサーのターゲットにしてやるからな!」
「フン!これ以上邪魔するとおれのS&Wマスターも黙っちゃいないぜ!」
「言ったな、馬ヅラ!」
「ぬかせ、ハゲタカ!」
 一平はニンジンを掴むとジョーに投げつけた。
「なんの!」ジョーはとっさにベルトを外すとニンジンを弾き跳ばした。「どんなもんだ!ムチだってお前には負けないぞ。なんせこのベルトで─」
「ジョー!ズボンが落ちるよ!」
「えっ!」
 ジョーはとっさに両手でGパンを押さえた。
「スキあり!」
 一平はニヤッとすると再びニンジンを投げ、ジョーはまともにそれを顔面に受けた。
「やれやれ・・またやってるよ」神宮寺が呆れて呟いた。「これじゃいつ夕食にありつける事やら・・・。ジョーも嫌いならそれだけ食わなきゃいいのに」
「まったくだよ。でもジョーにお酒呑ませると恐ろしい事になるんだね、ホント」
「洸!酒だ!」
「ま、またですか」神宮寺が振り向いた。「いいかげんにしてくださいよ、チーフ」
「そーですよ。急に加わって、酒、酒って─。いったい誰の─」
「私の酒だ!お前が居間からチョロマカしたのではないか」
 森チーフは火のそばにデンッと座り、ナポレオンのボトルを抱えたまま洸を睨みつけた。
「チョロマカしたなんて人聞きの悪い!ぼくはチーフがいいって言ったから─!」
「もうなんでもいい。こうなりゃヤケだ。呑もう、神宮寺君。洸!ウオッカを持ってこい。さっ、神宮寺君、座りたまえ」
 赤い顔をしたチーフは逆らう神宮寺の腕を掴んで座らせるとコップにナポレオンを注いだ。
 神宮寺はしばらくじと目・・・で見ていたが、やがてグラスに口をつけると一気にそれを呑みほした。
「ん!見事だ!さすがはJBきってのすご腕、神宮寺君だ。男はそうでなくちゃいかん。洸!何やってる。遅いぞ!」
「どーしてこ~なるンだよ~!
 洸は2人の周りを駆けずり大声でわめいた。
 早い山の夜はもうすぐ更け様としている。



                                             完


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Comment

淳 says... "覚書き"
「昭和編」を読んでいると30年の時の流れを感じる。
ブイトールの写真を出したかったが、当時淳がイメージした・・というか・・実際にあったブイトールの機体は古すぎるのかネットを探しても見当たらなかった。

今の方が性能はぐんといいのだろうなあ。
でも、昔の無骨な機体も好きだなあ。
2011.11.16 15:49 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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