コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

怒りの44マグナム 1

無題


「いいから行って来いよ、神宮寺」ジョーはチーフから渡された1枚の書類をアタッシュケースに入れながら言った。「フランスなんて飛行機で行けばすぐだし、ましてこんな紙っ切れの1枚や2枚届けるのなんかおれ1人でたくさんさ」
「ジョー、紙っ切れとはなんだ、紙っ切れとは。これにはJBの秘密事項が─」
「まあまあ」ジョーはペンを振り回して叫ぶチーフを宥めた。「なっ、行って来い。両親の結婚記念日なんだろ。たまには親孝行しろよな。放蕩息子がっ」
「・・・ん」神宮寺はまだ首を縦に振らない。「しかしなぁ・・・」
「うるせェ!おれがこーいう事言うなんてめったにねェんだぜ!行ってオフクロさんにでも甘えてこい、くそったれ!」
「まあまあ」今度はチ-フがジョーを宥めた。「彼もそう言ってる事だし・・・行ってきたまえ。いくらジョーでも書類の1枚や2枚運べるだろう」
「どーいうイミですか!」
 またも始まったジョーとチーフの言い合いに神宮寺は思わず苦笑した。

 梅雨に入ったというのにカラッとよく晴れた日曜日である。
 神宮寺はそんな天気を楽しむかのように愛車(ポルシェ)を飛ばしていた。
 車はまもなく内堀通りに入った。彼の実家のある麹町まであと少しだ。
(2ヶ月ぶりかなァ・・・)だんだん見慣れた道に入るにつれ神宮寺の顔を次第ににこやかになってきた。(ジョーじゃないがおれは本当に親不孝者だもんな)

 今日は彼の両親の結婚記念日である。
 この日は1日、今は1人になってしまった息子の力と3人で過ごす事になっている。 しかし去年は仕事でイギリスに飛んでいたので、この日は両親と過ごしていない。
 そして今年・・・パリ本部にJBの重要書類を届ける仕事がダブルJに回ってきた時、神宮寺は思わず唇を噛んだ。そして両親に今年も帰れないと連絡しようとした時、どこから聞きつけたのか ジョーがその手を止めた。
『帰ってやれよ。配達人はおれ1人で充分さ。ついでに2、3日ゆっくりしてくればいい』神宮寺は何か言おうとしたがジョーがそれを止めた。『おれだって親が生きていたらやっぱり帰ってやったぜ。たった1人の子どもだもんな・・・』
 これには神宮寺も何も言えなくなってしまい、結局彼は2日間の休暇を貰い麹町の家に帰る事にしたのだ。
 今回のようにコンビを組んでいる2人が別々に行動するのはさほど珍しくない。2人がダブルJとして事件に向かう時はその事件が大きなものの時であり、日常茶飯事的な事件には1人で行動する時が多い。
 今回は言わばその例だ。ジョーではないがいくら重要書類といえどSメンバーが2人で運ぶ必要はない。少々無鉄砲なところがあるにしろジョーも一応Sメンバーだ。パリへ行くぐらい子どもが近所のお菓子屋さんに行くようなものだからだ。
 そう思ったジョーは神宮寺を残してパリに向かったのである。

(ジョーの奴・・おれに甘えて来いなんて言っておいて自分も長官の家に寄ってくるんだろうな)神宮寺はかすかに口元を歪めた。(なんだかんだ言ってもおれ達はまだ─)
 神宮寺はふと前を見た。車はいつの間にか麹町に入っていた。彼は思わず舌なめずりをしいた。いつ左折したか覚えていないのだ。
(おれの愛車は大したもんだ。ひとりでに曲っちまった・・・)
 などと勝手な事を思い、彼は思わず苦笑した。が、その表情は長くは続かなかった。
 家まであと2、3分ほどである。だがその前に彼の目には家と家との間にある小さな空き地が映ったのだ。この空き地は彼がまだ小さい時近所の子ども達と遊びまわった所である。しかし今は周りに家も増え昔の半分の広さもない。
(・・・さとし)
 神宮寺はわずかにスピードを落とし目を細めてその狭い空間を見た。

 神宮寺智─神宮寺家の次男で兄、力とは反対にチョコマカとよく動きハツラツとした少年であった。力とは5才離れているが2人は大変仲が良く、力は智に色々な事を教えまた智も力を慕っていた。
 智が10才の夏休み、彼は家から少し行った空き地で兄達数人が野球をやっているのを見つけた。
 兄にねだりようやく仲間に入れてもらった智だが、中学生ばかりの中で彼は言わば〝みそっかす〝であり一番球の来ない外野にまわされた。それでも智は大ハリキリでグローブをはめた。
 案の定球はほとんど来なかったが一緒になって騒いでいるうちに智もすっかり中学生の兄達と一体になってしまったようだ。
 いよいよ兄、力の打つ番がやってきた。智はスコアボードを見た。9回裏同点だ。ここで力がホームランでも打てば勝負は決まる。
 智は兄と敵対する複雑さがあったものの、とにかく球が来たら拾わなければと思った。
 打った!大きい。ホームランに成りうるボールだ。
 打った力をはじめ一同が動きを止めボールの行く先を追った。と、ボールはまるで導かれたかのように智の方に向かってきた。
 彼は精一杯両手を伸ばした。が、ボールは彼の頭の上を通り抜けるとワンバウンドして道路の方に転がっていった。
 力はすでに3塁に向かっている。智はあわててボールを追いかけ道路に飛び出した。
 力がホームに向かった時、突然急激なブレーキの音と弟の叫び声が辺りに響いた。
 力は弟の名を呼び声のした方へ駆け出した。みんなも後から付いてくる。
 道路へ飛び出した力は思わず息を呑んだ。そこには車の姿はなく、血塗れの弟の姿があったのだ─。
 即死だった。おまけに弟を轢き殺した車もわからない─。
 後日、彼の家で告別式が行われた。15才であった力が受けたショックは大きかった。しかし両親はそれ以上だ。
 父も母も必死に涙を堪えていた。それがどうしてなのか力にはわからなかったが、彼もなぜか涙を堪えてる自分に気がついた。自分が泣けば母が父が泣き出すかもしれない・・・。彼は無意識にそれを恐れていたのだ。おそらく両親も同じ考えだったのだろう。力はふと目に浮かんだ涙をグイッと拭いた─。

 あれから8年・・・弟を轢いた車はもちろん犯人も捕まっていない。だが神宮寺は何年経っても犯人を捕まえる気でいた。

(おれも結局・・・親の仇を追うジョーと同じなのかもしれない・・・)
 神宮寺はふと思った。と、突然彼の目の前に小さな影が現れた。
「ああっ!」
 神宮寺はブレーキを強く踏むとハンドルを切った。幸いスピードを落としていたので車はすぐに止まった。
 彼はホッと息をつくとすぐさまドアを開け降りた。すると車の前には7、8才の男の子が倒れており、そのそばには12、3才ぐらいの少年の姿があった。
「だ、大丈夫か、君達!」
「ぼ・・ぼくはなんともないけど・・・浩一が・・・」
 少年はベソをかきながら、走り寄る神宮寺に言った。彼は倒れている男の子を抱き上げた。
「とにかく病院へ行こう。君も乗って」
 神宮寺は少年を急き立て車に乗せると病院へと急いだ。

「大丈夫、軽い脳震盪ですよ」
「・・のうしんとう」
「大方、転んだ時に地面で打ったのでしょう。明日にも退院できますよ」
「そうですか」神宮寺はホッと息をつくと医師に頭を下げた。医師は出て行き神宮寺はベッドのそばにいる少年に向かって言った。「大丈夫だよ。明日には退院できる」
「ホント?」
「ああ、本当さ」神宮寺は少年の頭に手をやり優しく言った。「ところで君の名前は?」
「信一・・・高井信一」
「高井・・・ああ、あの角の・・・」彼は頷いた。「君達、あの空き地で遊んでいたの?」
「うん・・・」
「・・そうか・・。でも飛び出しはいけない・・・危ないんだよ」神宮寺の言葉に信一は無言で頷いた。「よし─。ま、大した事なくて良かった。ぼくはこれから君の家に電話してクるからね。ここにいるんだよ」
「ねっ、おじちゃん」
「おじ・・・☆」ドアを開けた神宮寺はコケた。「あ、あのね・・・おじちゃんは・・いや、お兄ちゃんはまだ23なの。だからお兄ちゃんは・・・いやいや、おじちゃんはやめてくれよ」
「うん、おじちゃん」
「★」神宮寺はドアに寄り掛かり口をへの字に曲げた。「なンですか」
「あの銃、本物なの?」
「えっ!?」信一の言葉に神宮寺は思わず大声を上げた。「な、なんの!?」
「車のボックスに入っていたのだよ」
「あ、ああ・・・あれか・・。あれは、モ、モデルガンだよ」
「ふ~ん、かこいいの持ってるんだね」
「・・・ピストル・・好きかい?」
「うん!」
「よし、それなら明日お兄ちゃんが持ってきてあげよう。ただしもう道路へ飛び出さないって約束したらね」
「うん!約束するよ!─で・・でも・・・」
「どうしたの?」
「・・浩一も・・・」
「あ」神宮寺は思わず微笑んだ。「大丈夫、2つ持ってくるよ。同じものをね」
「わあ!ありがとう、お兄ちゃん!」
(弟思いの兄貴・・・。その兄に悲しい思いをさせなくてよかった・・。あんな思いをするのはおれ  1人でたくさんだ・・・)
 それにしてもいくら急いでいたとはいえ、いつも閉めておくはずのボックスを開けっ放しにしておいて信一に見られるような事をやらかすとは・・・。
 神宮寺は思わず頭を掻いた。

 その夜、神宮寺家では親子3人でささやかな祝いの会が行われた。
 今年は結婚26年目なのだ。しかしいつも仲の良い両親を神宮寺は何よりも自慢にしている。
 彼は父、たかしに座布団を、母、和美に名前入りのハンカチを贈った。それを手にし母は思わず微笑んだ。
「これ、あなたが刺繍したの?」
「えっ・・ええ・・」神宮寺は手にしていた杯を置いて答えた。「・・まあ」
「力、男は針なんぞ持つものではないぞ」高が言った。「・・しかし、うまいものだな・・・」
「父さんのにだってちゃんと入っているよ」
「そ、そうか。うむ、うまいものだぞ、力─さっ、飲め」
「お父様はいつもこの調子なんですからね」
 和美がまた微笑んだ。それにつられて後の2人も笑い出してしまった。
 やがて母は足りない料理を持ちに部屋を出て行った。いつもは手伝いの人がやってくれるのだが、一人息子の力が帰ってくると和美は誰にも手伝ってもらわず彼の世話をする。
 力も母の気持ちがよくわかっているので洗い物でも食事でも他の人に頼まず母に甘える。そのたびに母はニコニコしてやってくれる。彼女に掛かれば力はまだまだ子どもである。
「母さんはお前が帰ってくるのを毎日毎日数えて待っているんだ・・・」父がポツリと言った。「仕事が大変なのはよくわかるが、なるべく帰るようにしてやってくれ。本当はここから通ってくれればいいんだがな・・・」
「父さん・・それは・・・」神宮寺は困ったように言った。「・・それは・・・」
「いや、いいんだ。私も母さんもそれはよくわかっている。男が一度これだと選んだ道はどこまでも突き進まなければならない・・・。それを教えたのは私だ」
「・・父さん・・・すみません・・・」
「いいんだよ、力」高はグッと杯を開けた。「だが時々は顔を見せてやってくれ。私も一晩じっくり お前と飲み明かしてみたい・・・。本当は男3人で飲みたかったが・・・」
「とう・・さ・・・」呟くように言った父の言葉に神宮寺は思わず言葉を詰まらせた。体が小刻みに震え、拳(こぶし)に力が入る。「・・智は、ぼくが・・・」
「やめろ、力」高が止めた。「あれは事故だ。・・事故だったんだよ。お前のせいではない・・・」
 それから父は、まだ下を向いている息子の肩を叩いた。
「さっ、今夜は思いっきり飲もう。私に付き合え。─さっ」
 高は神宮寺にしきりに酒を勧めた。

 翌朝、昨夜少々飲みすぎまだ少し頭が痛み寝ていた神宮寺は枕元の時計を見てガバッと飛び起きた。
 針はすでに11時をまわっている。浩一が退院するのは確か12時だった。
 彼は急いで服を着替えると夕方には戻ると両親に告げ飛び出していった。
「あの子が中学の時は朝になるとこんな具合でしたね」
「うむ・・。勉強ならず深夜放送を聴いて寝るのがいつも2時頃らしかったからな」
 神宮寺にとってはあまり自慢できる事ではないが、親にしてみればそれもひとつの思い出らしい。
 和美はあわてて出て行く息子の後姿を見ながらもう一度あの頃に戻れたら、と思った。
 それから彼女はふと未だある智の部屋に目を向けた。



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Comment

淳 says... "覚書き"
「昭和編」です。

改めて読み返してみると、「昭和編」の神宮寺は、ちょっと2、5枚目なところが多々あるようだなあ。

写真は30ン年前のポルシェ928。当時の神宮寺の車です。
2011.12.05 17:10 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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