コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

記憶の底にひそむもの 1

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「おかえり、ジョー」
「今回は長かったな」
 神宮寺と共にJBの食堂に現れたジョーにお茶中の洸や一平、西崎達が声を掛けた。
 ジョーはちょっと驚いてだが少しテレ臭そうに微笑んだ。ニューヨークからデイトナ、ラスベガス、モナコ、フランス─と、確かに今回は長丁場だった。
「ラスベガスとモナコで破産してフランスへ逃げたって聞いたけど」
「ラスベガスで大男に食われた、とも聞いたぞ」
「食われてねーっ」一平の頭をパコンと叩いた。「神宮寺はどーだか知らねーけどよー」
 えええっ!と皆、神宮寺に目を向ける。バカン!とジョーの後頭部が鳴った。
「食われてても食われてなくても、とにかく帰ってきてくれて嬉しいよ、ジョー」目元をウルウルさせ西崎が言った。「おれ達、もうこれ以上食うのきついし─」
「・・・?」
 ジョーが怪訝そうに西崎を、そして周りでウンウン頷いている仲間を見た。と
「さ~、ジョー、食ってくれ~。サバのみそ煮強化計画、合わせみそ、白みそ、赤みそバージョン5。豆みそ2とついでに手作りみそのみそチャーハンにみそ汁かけご飯に─」
 もはや最後はみそ煮ではない。
 しかしニコニコしている杉本調理師長の顔を見たら何も言えなかった。
 日本に帰って来たのだとジョーは実感した。

「背中の銃創も腹部の銃創もきれいに塞がっているね」オリーブ色に焼けたジョーの上半身を前に榊原が言った。「完治しないうちに日本に帰ってしまったので幸子さんが心配していたが、もう大丈夫だな」
 次にわき腹を診た。
 モナコでモーターボートの残骸に切られ、その後ウェズレーでもう一度負傷した。
「傷が裂けたようだね。跡が残るかもしれないな」
 この負傷の詳しい説明はしていない。いや、榊原の事だ。鷲尾から直接聞いているかもしれない。
 この傷は、浅はかな考えで何人もの人を傷つけてしまうその一歩手前で止めてくれた鷲尾の愛情でありジョー自身の戒めだ。傷跡が残るかどうかは問題ではない。
「幸子さんも鷲尾さんも、せめて傷が治るまでフランスにいてほしかったそうだよ」
「ええ、でも・・・」まだ少々引きつる傷を見て、「居心地がいいから・・・このままフランスに居付いてしまいそうで・・・。それに休暇は終わっているから早く戻らないとチーフが怖い」
 人差指で自分の目尻をクイッと持ち上げた。榊原が笑いながらわき腹の包帯を手際よく取り換えた。
「明日の今頃包帯を取り換えに来なさい」と、身体健診書を手に取りジョーに渡そうとして、「何か・・薬を飲んだかね?」
 えっ、とジョーが振り向いた。一瞬目が泳ぐ。
「睡眠薬かね。しかしこれは・・・」
「ああ、時差で夕べ眠れなかったので─」
「─そうか。ちょっと強い成分が入っているようだから、常用しないように」
「・・・はい」
 ジョーは健診書を受け取り、シャツを肩に引っかけたまま診察室を出た。
 薬の成分が以前より長い時間体に残るのは疲れているか、それとも量を増やしたからか・・・。それにしても医者というのも誤魔化しの効かない相手だと思った。

「おかしいなー」
 隣の控室には洸と一平、高浜や西崎が健診の順番を待っていた。
「あんなに食べているのに、どーして体重増えないんだろ??」
「あんなに食わないのに、どーして体重増えてンだろう??」
 う~んと洸と高浜が顔を見合わせ唸っている。
「家で計ってもここで計っても4キロオーバーだ」
「正確な体重計だな」2人のやり取りを見ていた西崎がふと、診察室から出てじーと健診書を見ているジョーに気が付いた。「どうしたんだ?」
「ラスベガスでおいしい物食べ過ぎて太ったンじゃないの」
 洸がジョーの手元を覗き込んだ。
「関さんと大男のサンドイッチとか─。えー?去年より身長伸びてるー!?」素っ頓狂な声が上がった。「ジョー、まだ育つつもり!?あ、でも体重は減ってるんだね。サンドイッチ食べ損ねたの?」
 ペチンと洸の後頭部が鳴った。
「ちゃんと仕事してるから太れねえんだよ」
 しかし、確かに筋肉が少し落ちて来たのは感じていた。 ここ数週間まともな訓練をしていない。実戦だけでは体力を維持できないのだ。だが訓練再開の許可はまだ出ていない。ジョーは苛立つ自分を押さえられない。
20才ハタチ過ぎても身長って伸びるんだねェ」
 高浜が言った。
「運動していると結構伸びるよ。サッカー日本代表GK川口選手なんて、プロフィールを見るたびに身長伸びてるんだもん」洸の言葉に、“ふ~ん”とよくわかっていない高浜が素直に頷いた。と、肩にシャツを引っ掛けたままジョーが出て行った。「─すごいな」
 うん、と西崎が頷きドアに目を向けた。
 良い色に焼けてはいるが全身に傷痕が見えた。それも勲章と言えばそうなのかもしれないが・・・。もちろんここでは気にする者はいない。
「ジョーっておれより食べる時もあるのに、なんで肉つかないんだ?」
「運動量が違うんじゃないの?」洸がじと目で高浜を見た。「きっとジムに行ったぜ。高浜も行って相手してもらったら?」
 ブルブルと高浜が首を振った。
 そう、洸の予想通りジョーは同じ棟の1階にあるスポーツジムに向かっていた。ちょうど到着したエレベータについ立ち止る。ドアが開くと、
「・・・なんて格好してるんだ、お前」
 眉をひそめた神宮寺がいた。
「お前こそ、なんでこんな所にいるんだよ」
「健診さ。今、警察庁から戻ってきたんだ。お前はもう済んだんだろ。だったら部屋に戻って書類をまとめるのを手伝ってくれ」
 ジョーは不満そうに口を曲げたが、自分がいない間神宮寺に負担が掛かっていたのも自覚しているので今はおとなしく彼の言う事を聞く事にした。が
「お前、なんで警察庁へ行ったんだ?関の所か?」
「ん・・・。前の事件の報告漏れがあってな」
 それだけ言うと神宮寺は医療部へと向かった。だが、その背後からじっと見つめる鋭い視線は感じていただろう。
 神宮寺は一旦足を止め─が、結局控室のドアの向こうに消えた。

「Isn't it that little boy with blue eyes today?(今日もあの青い目のぼうやじゃないのか)」
「・・・・・」関は目の前に座る、少しくせのある英語を話す男を睨みつけた。こいつ、毎回同じ事を言いやがる。そしておれも─。「彼はここにはいない。何回言えばわかる」
「だけど細身のぼうやは時々顔を出すじゃないか。ありゃ、彼の仲間だろ?」
 神宮寺の事だ。自分が関わった事件なので気になるのか時々顔を出す。
「なぜそんなに彼の事を気にする?お前は以前から彼を知っているのか?」
「生意気なぼうやが好きでね。睨みつけるあの眼がたまらんね」ま、それはわかるが─。「あんたこそ同僚でもないのに、なんであのぼうやの事を気にしているんだ?」
「・・・・・」関は男─ファーとジョーの事は知らない。「彼を子どもの頃から知っている」
「ぼうやの親父さんが死んだというのは本当か?」ファーが訊き関が頷いた。「そうか・・・」
 ファーの目にふと哀しみが映ったのは関の見間違いか。
「おれもぼうやをよく知っている。2、3日だが夜を共に過ごした事もある」
 もっとも20年前だが。
「な、なんだと!い、いつ、そんな─!」
「ぼうやにだったらなんでもしゃべってやるのになー」
「貴様、いいかげんにしろ!」
 関がバンッ!と拳(こぶし)を机上に振り下ろした。
「・・・あ~あ。関さん完全に血が昇ってる」
「ジョーが絡むと関さん人が変わるしな」
 部屋の隅で記録を取っている山本と木村がため息をついた。

 カタタタ・・・と室内にはキーボードを叩く音だけがしている。
 神宮寺もジョーもそれぞれのデスクでそれぞれのパソコンに事件の報告書を打ち込んでいた。 時々ジョーが漢字の意味や使い方を神宮寺に訊く以外は声もしない。
 ジョーがフランスに行っている間、溜まっていた仕事の大方は神宮寺が片付けてくれたが、ラスベガスの事件のようにジョーでなければ分からない事もあり後少し残っていた。
 やがてカタタ・・・の間にポコポコ・・・という音が聞こえて来た。パーコレータの中のコーヒーだ。 神宮寺が自分とジョーのカップにコーヒーを入れ、彼のデスクに置いてやる。しばらくキーボードを打つジョーを眺めてた。
「─なんだよ」
 瞳だけ後ろに動かしジョーが言った。
「いや、お前がおとなしくデスクワークしてると、後が怖いかな、って」
「じゃあ、やらせるな」
 ジョーが鼻を鳴らす。パソコンは嫌いではない。だがそれを使って仕事をするのは嫌いだ。こいつは世界中の楽しい映像を見るためだけにあればいい。
「で、お前は訊かねーのな」
 え?と神宮寺がカップから口を離す。
「おれがパリに行った理由(わけ)さ」
「・・・・・」神宮寺が再びカップに口を付けた。喉元がゆっくりと上下する。「おれには訊く権利あるよな。相棒がいない間、仕事を干されてたんだから」
 その方がいーじゃん、とジョーが笑う。
「話す時がくれば話してくれるんだろ。おれはそれでいいさ」
「じゃあ、おれが訊く。どうして毎日警察庁に行ってるんだ」その言葉に神宮寺は怪訝そうにジョーを見た。「一平から訊いた。3日くらい前から毎日顔を出しているそうだな」
「余計な事を・・・」小さく舌を打ったが、「隠していたわけじゃない。ファーがいるんだ」
「ファー?アメリカの?」ジョーがモニタから眼を離し振り返る。そういえば怪我が治ったら日本に護送されると言ってたっけ。「警察庁にいるのか・・」
「モニュメント・バレーでの事を聞ければと思ったんだ。お前はパリに行っちまって報告書のその部分だけ空白になっていたから」
 もちろんそれも理由の1つだ。だが─。
「そうか・・・」ジョーがコーヒーカップを手にした。口を付けたが苦かったのか一瞬顔をしかめた。そして、「おれ、赤ん坊の頃ファーに誘拐された事があるんだ」
「は?誘拐?」今度は神宮寺が驚く。「そりゃ予想の範疇以上だ」
「どんな予想してたンだよ」ジョーがイヤそうに言う。「その時の事を鷲尾さんに訊きに行ったんだ。ファーもマーキンスも親父に会っているって言ってただろ」
 やはり2人の言っていたジョーに似た男というのはアサクラ氏の事だったのだ。
 それからジョーはあのモニュメント・バレーでのファーとの対話、そして鷲尾から聞いた話をポツポツと話し始めた。
 キーボードの音が止み、ジョーの低いがよく響く声だけが室内を埋めた。
 彼は話しながら無意識に左腕を摩っていた。それを見ながら神宮寺は黙って聞いている。

「そんな事があったのか・・」
 神宮寺はモニュメント・バレーの赤土に塗れ倒れていたジョーとファーの姿を思い出した。
 2人はまるで寄り添うように倒れていた。しかし2人が撃ち合った事は確かだ。ジョーは左腕からファーは右胸から血が溢れ出ていた。
「お前にちゃんと話してからパリへ行けばよかったんだが・・・」しかしあの時はそんな余裕は彼にはなかった。「こうやっておれはいつもお前に迷惑かけるのな・・・」
「お前・・・熱あるのか?」
 るっせーやいっ!とジョーがモニタに向き直る。
「だけどこれでファーがお前を気にしているのがわかった。会いたいって関さんにダダこねてるそうだ。お前になら全部自供するってさ」
「なんでおれに・・・」ジョーが眉をひそめ神宮寺から顔を背けた。「おれは会いたくねえぜ」
 再びキーボードを叩き始める。
「親父はどういう奴だったんだ。昔の親父を知っているという奴に会うとロクな事がない」ブツブツ言っていたが、「そうだ、頼みがあるんだ」
「え・・・」神宮寺が一瞬眉を寄せる。「なんか怖いな。金ならないぜ」
「違うよ。くれるなら貰っておくけどよ」と、神宮寺がそっぽを向く。「フランス語を教えてほしいんだ。お前話せるだろ?時間のとれる時でいいから」
「お前だって少しは話せるじゃないか。健に教えてもらったって言ってたし」
「犯人相手に“Bonjour(こんにちは)”や“Combien est-ce que c'est?(いくらですか?)”で、どう渡り合うんだよ」
「おれも人に教えるほど堪能ではないんだが・・・。管理課の新井さんが専門だぜ」
 なぜか管理課には語学に堪能なメンバーが集まっていた。
 フランス語はもちろんドイツ語、イタリア語、韓国─珍しいところではアフリカのナントカ族の言葉を話せる者もいるという。ジョーはイタリア語を独学で普通に会話できるくらいのまで身に付けたが管理課のメンバーに教えてもらう事もできたのだ。
「・・・・・」
 ジョーが口を閉じ神宮寺を見つめる。彼は管理課に親しい者はいない。
「ま、いいさ。英語を習ってからドイツ語やフランス語はやりにくいというけど、お前は下地にドイツ語があるからおれでもなんとかなるだろう。普通に会話できればいいんだろ」
「ああ、少なくとも人質解放の交渉ができれば文句はねえ」
「・・・普通の会話じゃないぜ、それ」
 神宮寺は口をへの字に曲げたが、すでにジョーはモニタに向き直りまたキーボードを叩き始めていた。

 その事件は昼を少し回った頃発生した。
 八王子市の駅近くの銀行に銃を持った3人の男が押し入り、銀行員と客を人質に立て籠もったのだ。
 ちょうど近くで市民にインタビューしていたテレビ局がその一報を聞き駆け付けたのでリアルタイムでの放送となった。
 JBの休憩室でも何人かのメンバーが見ていた。


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