コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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記憶の底にひそむもの 2

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「やっぱ久々だと辛いぜ」
 全身にシャワーを浴びながらジョーが呟いた。
 午前中、パソコンの前に座っていたので体が痛くなり、昼食前にひと汗かこうとジムでランニングマシンとベンチプレスを軽くやったつもりが・・・久々すぎてかえって疲れてしまった。
 体がなまっている証拠だ。
 後で医療部所属のインストラクタに調整メニューを作ってもらおうと思い早々に切り上げた。
 と、誰かがシャワー室に入って来た。ブースからヒョイと顔だけ出す。一平だった。
「あれ?ジムにいたか?」
「ジムじゃない。夕べ徹夜したから仮眠していたんだ。デスクワークするのに目を覚まさせなきゃ」
「みんな同じだな」髪からポタポタ垂れる水滴をそのままにジョーが苦笑した。「でもこの時間にジムが空いているのも珍しいな。事件抱えてたっけ?」
「休憩室でテレビを見てるんじゃないかな。八王子の・・・、SATが出たんだ」
 一平はジョーの隣のシャワーブースに入り、コックをひねった。勢いよく飛び出す水が一平の髪や全身を流れて行く。
「所属は違うがSATの仕事はおれ達と似てるから、みんな気になるんだろ」
 ハイジャックやテロなどの特に危険な事件を扱うSATは日本のSWATといってよいだろう。
 ジョーが以前参戦したフランスのレイドを参考に組織された。この急襲部隊ができたおかげで、JBの狙撃部が廃止されたのだ。

 先にシャワー室から出たジョーはダブルJ室に戻ろうとしたが、ふと4階の休憩室を覗いてみた。一平の言うとおり洸や立花達がテレビの前に陣取っていた。
「まだ続いているのか?」ジョーの声にみんな振り向く。「SATが出たって聞いたけど」
「1人やられた」悲痛な表情の立花が言った。「至近距離で撃たれたんだ」
「至近距離?なんでそんな所に」
「指揮系統が混乱しているらしい。バックアップについていたSATの位置を指揮官が押さえていなかったようだ。SATが動き出して初めてわかったんだが」
「なにやってるんだ」
 ジョーは思わず舌を打った。一平の言うとおり、やはり気になる。
「殉職したSATの隊員はまだ23才だって」洸が言った。「彼の父親も警官で、やはり去年ナイフを振り回していた男を押さえようとして刺され殉職したって。親子2代だよ。家族はどんな気持ちだろう」
 仕事も年令もここにいる男達とそう変わらない。他人事ではないのだ。
「天国で顔合わせて・・・お父さん驚くだろうなあ・・・」
「せめてうまく出会えるといいな」
 ボソッと伊藤が言った。
「ぼく、聞いた事あるけど」洸だ。「親は天国からいつでも子どもを見ていて、たとえ天国に昇る人が何10万人いても、必ず自分の子どもは見つけて出迎えてくれて一緒に過ごす事ができるって。このお父さんもきっと見つけるよ」
「・・・本当に親は見つけてくれるのかな」ジョーの言葉に全員が彼に目を向けた。「おれ、ガキの頃と髪や目の色も違うし体もでかくなってるし・・・、それでも親はおれの事を見つけてくれるのかな・・・」
 ふと顔を上げるといくつもの目がジョーを見つめていた。が、誰も何も言えないでいる。
「悪ィ、ヘンな事言っちまって─」
「大丈夫さ。こんな悪っタレ、めったにいないからすぐわかる」今まで黙っていた神宮寺が口を挟んだ。「もっとも天国がうるさくなるから追い帰されるかもしれないけど」
「そしてら真っ先にお前の所にバケて出てやるぜ」
 ジョーが声を立てて笑う。それを聞いていて他の男達も笑った。
 他人事ではない話だがまだ若い彼らにとって〝死〝は身近ではない。
 明日は自分に起こるかもしれないとわかってはいるが・・・。

「ジョーに、ですか?」思わず出てしまった不満の声色は、受話器の向こうの相手にも伝わっただろう。だが、「日本におけるファーの事件はそちらの担当ですが」
『無理を承知でお願いしています。我々の力不足も自覚しています。ですが、森チーフ』受話器から関の声が響く。『2年前の山荘爆破事件の全容解明はもちろんですが、日本にファーの仲間が潜入した、という情報もあります。我々は一刻も早く奴らの動向を掴みたい。もう日本で爆破テロなど起こさせたくない』
 それでも森は黙ったままだ。
『私の名前で不足なら公安課長、刑事局長、警視総監のサインの入った書類をそちらに届けます。なんならパリ本部にも─』
「・・・・・」
 そんなものを貰ってもこちらに従う義務はない。反対にパリ本部から内閣府に意見書が出されるだろう。だが─。
 森は鷲尾からフランスのウェズレーでの一件の報告を受けている。それに伴う20年前の事件の事も、ジョーがファーから聞いた内容を鷲尾に確かめた事もだ。
 話を聞いたジョーは納得したらしいが、その寝た子を今また起こすような事はしたくなかった。 だが関の言っている事も無視できない。関も森も日本の安全を守るための組織の責任者なのだ。
「─わかりました。日本支部のチーフとしてジョーに命令します。ただ─」ただ?と関が訊き返してきたが、「いえ、なんでもありません。日時など細かい事はまた連絡します。私はこれから会議がありますので」
『感謝します』
 関が安堵の息をついたが、森の厳しい表情は変わらなかった。

「En janvier, c'est mars en février ─(1月、2月、3月)
「 April、 June 、 May─」
「July、August─、あー!違うじゃねえかよ!このやろう!」ジョーが横から口を挟んできた洸を追いかけポカポカと叩く。「おれはフランス語で言ってるんだ。邪魔するなっ」
「だったら部屋でやってよ。なにもこんな食堂の片隅でやらなくても」
 洸が口を尖らせた。
 どう見ても日本人ではないジョーが、どう見ても日本人の神宮寺から外国語を習っている─。こんなおもしろいシーンを彼らが見逃すはずはない。2人の周りにはいつの間にかチーム1のいつのも面々が集まっていた。捜査課がヒマなのは良い事だ。
「だって部屋でやるとパソコンが目に入って仕事を思い出して落ちつかないから」
「・・・そっちを先にやるべきでは・・?」
 伊藤が呟きジョーに睨まれた。
 もっとも今は昼食時なので食堂にいても文句を言われる筋合いはない。2人の前にもパスタ セットとコーヒーが置かれている。そしてもうひと皿─、
「サバのみそ煮?パスタに・・?」
 伊藤が怪訝な目でジョーを見た。
「・・杉本さんのサービスだ」ボソッと答えるのに男達が爆笑した。「うるせえ!メシと勉強の邪魔だ!あっちへ行け!」
 ジョーの剣幕に男達は一瞬身を引いた。─が、突然ジョーが動き、洸の左手をガシッと掴んだ。自分の方へ引き寄せる。
「これは、なんだっ」洸の口が“え?”と型どる。引きつって声が出ない。「これはなんだ、と訊いてるんだっ」
 ジョーが洸の左手をさらに引き、2人は接近する。と
『チーム1、至急第2会議室に集合せよ』
 館内放送だ。
「あ、タイミング悪い」
「これからおもしろくなりそうなのに」男達が口々に言い洸に目を向ける。「キスされたか殴られたかあとで教えろよ!」
「キ─って!やだよ両方!助けてよ!」
 だが呼び出しには速やかに従わなければならない。伊藤や立花などチーム1は昼食も摂らずに食堂から走り出て行った。
「うわ~、薄情者~!食われたらバケて出てやる~!」
「この手首のヒモ、これはなんだ、洸っ」
「え?ああミサンガか」ミサンガ?、とジョーが呟き、爪でカリカリと引っ掻いた。「だ、だめだよ、外しちゃ。これは自然に切れないとダメなんだ」
「ミサンガって確かJリーグや野球の選手がしていて、一時期流行ったな」
「うん、ミスターの言う通りさ。これは先週原宿で勝った物だけど」
「で、このミサンガっていったい何に使うものなんだ?」
 ジョーが訊いた。
「願い事を叶えたい時に手首や足首に結ぶんだ。自然に切れた時に願い事が叶うんだ」
 洸が手首を掲げた。5、6色の色糸で織られている。
「結ぶ・・・。だから留め具がついていないのか」
 ジョーが財布の中から1本のヒモを摘まみだした。以前、トーニから受け取ったカテリーナが作ったと言われているものだ。が、トーニもジョーもそれがなんなのかわからなかった。
「これもミサンガか?」
「何色もの刺繍糸で編まれていてきれいだ。手作りだね。この中に入っているのは─」
「母親の金のネックレスだそうだ」
「じゃあ、これは本当のミサンガだね」洸がミサンガの端を持ち、目の前に掲げた。「ミサンガって語源はポルトガル語でチェーンの意味なんだ。だから日本で売っているものやぼくのしているもののようにヒモだけで編まれたものは本当はミサンガとは言わないんだ。日本ではこれが主流になってるけど」
「母の昔のメイドが言うには、母が父のために作った物らしい。だけどシチリアの別荘に残っていたそうだ」
 ジョーが洸からミサンガを受け取る。細い刺繍糸を何十本も編み合わされていて、見た目より丈夫そうだ。
「2人でイタリアから出る時、なんかの理由で持ち出さなかったんだろうな」 ジョーはその細い物に母のぬくもりを感じたいのか、意外に長い指がスーと撫でて行く。
「ジョー、何か願い事ないの?結んであげるよ」
「・・・・・」そう言われたもののこれといって思いつかない。世界の平和を1人で担うにはちと重すぎる。「今は早く訓練に戻りたいって事だけだが・・」
「そんなのダメだよ。お母さんのミサンガだよ。もっと壮大な事に使わなきゃ」
「・・・・・」ますます思いつかない。「強いて言うば杉本さんのサバのみそ煮攻撃が早いとこ終わってくれるのを願うが・・」
「当分、仕舞っておいた方がよさそうだな」
 神宮寺の言葉にジョーは素直に頷いた。
「悪い、洸。もう行っていいぜ」
「・・ん・・」ジョーに言われ食堂を出た洸だが、「─って、ぼく昼ごはん食いに来たんだぜ!」
 と、再び食堂へUターンした。

「う~ん・・・だいぶ落ちてるな」スポーツジムでのデータをパソコンのモニタで見ながらの秋山が言った。「これでプレスベンチは辛いだろう」
 と、ジョーが情けなさそうに肩をすくめた。
 秋山は整体師であり、メンバー達の運動メニューを製作してくれるスポーツインストラクターでもある。彼の前のパソコンにはJBの隊員全員─もちろん森や佐々木もだ─のデータが収められている。
 隊員達は週に一度はスポーツジムでのデータをこのパソコンに送らなければならない。ジョーの分は久々で、前回に比べると体力の落ちているのがひと目でわかる数値だ。
「今、事件を抱えていないね?だったらじっくりと元に戻そう」
 秋山がキーボードを叩き、運動メニューを作って行く。
「筋力が落ちているのはわかるけど、疲れは全然感じないんですけどね」
「若いからだよ。まだ体に無理が利く。だがそれに甘えていると・・・。さ、できた。後はこれに医療部長のサインを貰えばいい。午後は病院の方だと言ってたな、榊原さん」
 カタカタとキーボードの音が響く。
「文書のやりとりもネットでできるから便利だな。早いし持って行かなくても済むし─ん?」ふと秋山の手が止まりモニタを見る。「ジョー、君はまだ訓練再開の許可が出ていないじゃないか」
「─あ」忘れていた。「やばいっ。秋山さん!それ榊原さんに送らないで!」
「・・もう送ってしまったよ」申しわけなさそうに秋山が言い、「あ、もう返事が来た─おわっ!?」
 ピッとキーを叩くとモニタいっぱいに、“こらー!”という文字がドンッと映し出された。
「さ、榊原さん、いつの間にこんな大文字の表示を覚えたんだ?」
 素直に感心する秋山だがジョーはそれどころではない。〝本人〝がモニタに現れるまでにここから消えなければ─と、左手のスピードマスターが鳴った。
『ジョー、森だ。すぐに7階へ来てくれ』
「喜んで!」
 どこかの居酒屋のような返事をしてジョーは秋山の元を飛び出した。

 キーを叩く手を時々休め、神宮寺がテレビを見ている。八王子の事件が長引いているのだ。
 何人かの人質が解放されたが、店内には犯人はもちろんまだ3、4人の銀行員が残っているという。
 SATの隊員が撃たれたせいか指揮に乱れと躊躇いが見える。
 ジョーと2人で仕事をする時、もしくはそこにチーム1が入っても神宮寺が指示をする事が多い。
 しかしさすがに警官に機動隊、SATとこれだけの大所帯の指揮はした事がない。JBでは捜査課の眉村がその仕事を受け持つ。強靭な精神力と頭の回転の早さ、柔らかさを持っていなければ務まらないだろう。
 と、ドアが開きジョーが入って来た。珍しく点いているテレビに目を向け眉をしかめる。銀行を遠巻きにしている映像に、八王子の事件だとわかったのだろう。だが彼は何も言わず冷蔵庫からエビアンを一本取り出し一気に飲み干した。そして
「モタモタしてねえでさっさと突入しちまえばいいんだ。そのためのSATだろう」
「チーム1が出動した。もう八王子に着いている頃だ」
「この事件ヤマに?なんでおれ達JBが出るんだ?」
「解放された行員の1人が犯人の顔を携帯で撮っていて、そいつが国際啓発が手配しているテロリストだとわかったんだ。チーム1はその確認だ」
「なるほど。ご大層な面々を集めてくれるぜ」
 ピッ!とテレビを消した。
「イラついてるな。何かあったのか?」
 勝手にテレビを消された神宮寺が訊いた。
「明日、ここに来る前に警察庁に寄ってくる。おれをご指名だとよ」
「ご指名?ファーが?関さんがあいつの要求を呑んだのか」神宮寺がイスごと体をジョーに向けた。「あっちの言う事を聞く事はないぜ。うちの担当じゃない」
「命令だと言われれば仕方ないだろ」ジョーがもう一本エビアンを取り出した。「関も公安もだらしねえぜ。警視庁もSATもだ」
 エビアンの中味が見る見るカラになる。大きなため息がついて出た。
「・・顔も見たくないのに・・」
「断れ。おれも一緒にチーフに言ってやる」
「だから命令なんだってよ。おれ達に選り好みする権利はない」
「関さんはお前とファーの事を知らないんだ。ベガスでの事しか。だから」
「ま、いいさ。関に貸しを作るのもおもしろいぜ」が、言葉とは裏腹にジョーはひどく疲れた貌で息をついた。「おれ、少し寝る。まだ時差ボケだ」
「・・大丈夫か?」
 フラリと立ち上がり隣の仮眠室へと向かうジョーに神宮寺は声を掛けた。ジョーがニッと口元を歪めドアの向こうに消えた。
「命令だと?命令だからってこんな事・・。チーフだってジョーとファーの事は知っているのに・・」
 神宮寺は再びパソコンに向かったが珍しく仕事をする気にはならなかった。


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Comment

淳 says... "覚書き"
ここに出てくるカテリーナの形見であるミサンガは、「Wanted dead or alive」でトーニからジョーに渡された物。
彼が大切にしている金のネックレス同様、両親を思い出させる大事な品物だが、読んでわかる通り今は身につけていない。
実は何作かあとになって大切なアイテムになる。

もっともまだ淳の頭の中にあるその話。いったいいつ書けるやら。

「Wanted ─」でミサンガを登場出せたのはのちの話の伏線だが、当時息子Gがサッカーの試合で実際に足に付けているのを見て思いついた。
クラブのマネージャーが選手全員(GはGKなので手に付ければいいのに、と思った)に作ってくれたそのミサンガのおかげか、息子達は私学大会(私学高校のオリンピック)で準優勝する事ができた。
その後、かなりくたびれるまで足に付けていたっけ。

その動力をジョーにも。
2012.01.24 15:32 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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