コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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記憶の底にひそむもの 5

928gts.jpg

「傷の手当てをするだけだ。じっとしてろ」
 いきなり部屋に入って来たドウラはそう言い、ジョーのシャツを捲り上げた。慣れた手つきで包帯を外していく。
 ジョーは始め抵抗したがすぐにやめた。血が滲んでいるので傷口が開いた事がわかったからだ。
「ひどいな。同じところを何回も怪我したのか」ドウラは古びたカバンから、これも古びたビンを出した。ジョーが一瞬身を引いた。「大丈夫。消毒するだけだ」
 慣れた手つきでビンの中味をコットンに滲みらせていく。だがジョーの眼が怖いのかドウラは彼の顔を見ようとはしなかった。
 コットンが傷口を叩く。消毒液はきらいだ、と言いたかったが弱みを見せるようでいやだった。 ジョーはいつでもドウラを抑えられるようにと体を動かしていく。
「おれを人質にしても無駄だ。ロブは何とも思わない。奴はファーを助けるためならなんでもする」ビンを仕舞った。「本当は縫った方がいいが、ここでは無理だな」
「あんた、医者だったのか?」
「親父がね。もっとも本物の医者ではなかったがスラムではけっこう重宝されて。おれはガキの頃から見ていたからこのくらいの手当てはできる。包帯がないからバンソウコウで押さえておこう」
 開いた傷口は5~6センチか。ドウラがペタペタと3、4枚貼った。
「あんた、なんでロブの仲間になったんだ。足を洗ったってサントスが言ってたぜ」
「おれもファーもロブも同じ町の出身だ。ロブには昔、命を助けてもらった。ファーが捕まったと聞いたロブがベガスに来ておれと再会した。手伝えと言われた」
「TEは壊滅状態だ。ファーを解放させて、また作り上げるつもりなのか」
「ロブはファーの末弟で年も15も違う。しかしロブはファーを尊敬している。今回もTEのためというよりロブ個人としてファーを助けたいのだろう」
「あんた、サントスに会ったらぶん殴られるぜ」
 手当ては終わりジョーがシャツを直す。
「お前が余計な事を言うからだ」ドウラが眉をひそめ、「だがな、一度この世界に浸った者はそう簡単に抜け出せないのさ。特にマフィアなんてものはな・・」
「・・・・・」
 そんな事はない。抜け出せた者など大勢いる。要は当人の心次第なのだ。
 ふと自分も何年か前の、彼自身覚えてもいない記憶の中に閉じ込められ、もがいている1人なのかもしれない、と思う。
 ドウラの例とは違うが、〝そこ〝から抜け出せないのは同じかも・・・。
「だけどおれは逃げない・・・。抜け出せなくても・・この状態が一生続いても、おれは逃げない・・・。全部受け留めてやる」
「・・・・・」ドウラにはジョーが何を言っているのかわからないだろう。彼はカバンを手に立ち上がりドアに向かった。が、「サントスに言ってくれ。いくら強敵だってこんな子ども1人で手古摺っているようじゃ、〝彼〝は手に入らないぜ、って」
「おれ、あんたがサントスの用で日本に来たのならいい、と思ったんだ。そうすればあんたをおれの方に引き入れてサントスを驚かせてやる」
「・・・・・」じっと見つめてくる─恐ろしいと思っていた青い瞳だが、それはこの男の意志の強さを映しているからだとわかる。だが、「無駄だ。悪党には悪党の仁義がある」
 そのまま部屋を出て行った。

 ジョーはまだ痛む傷口を庇うように座り直した。
 関は、“時間をくれ”と言っていたが答えはわかりきっている。それにジョーの見たところ、サントスの言うとおりTEと呼ばれる組織はないのに等しい状態だ。後はロブと2人の男、そしてドウラ─。
 それならいつまでもここにいる必要はない。4人の男を抑え、関に引き渡すだけだ。
 ジョーはトレーサーをオンにした。だが発信しない。通信機能も使えなかった。よほど山奥にいるか周りを電波塔にでも囲まれた所なのだろうか。
 この部屋には明りとりの天窓しかないので外を見る事はできない。
 道中眠らされて運ばれたジョーだが、気がついた時はあの資材置き場でセリカを下りてから2時間も経っていなかった。それなのに陸の孤島のようなここはいったい・・。
 ジョーは諦めてスピードマスターをオフにした。

「ロブがあの青い瞳のぼうやを?」
「そうだ。お前と交換だと言ってきた」サントスは目の前に座るファーを睨みつけた。「おれはベガスであいつを捕らえ損ねた。だからここまで追ってきた。ロブはお前を解放させるためにジョーを攫った。あいつの潜伏先はどこだっ」
「・・それは知らない。日本でのアジトはとうに使用不能になっているはずだ」ファーがジョーに言ったアジトはその後の公安や地元警察の調べで完全に無人になっているのが確認されている。
「おれを解放するのは無理だろう。しかしロブはおれのためならなんでもする男だ。ヘタに突っ掛かるとぼうやが危ないぜ」
「ああ─、確かにお前を逃がすわけにはいかない。日本での取り調べが終わったらアメリカに戻されるしな」
 本当は、“あんな奴の事なんか知らねえ”と言ってやりたかったが、今はJBから駆けつけた神宮寺が同室しているので口にはできない。
「だがよ、このままジョーを見捨てるわけにもいかねーのよ」
 チラッと神宮寺を見る。
「それならなんとかするんだな。ロブを甘く見るなよ」
 ファーが楽しそうに口元を歪めた。
「ファー」それまで黙っていた神宮寺が口を開いた。「あんたからロブに投降するよう話してくれないか。我々はもうこれ以上無駄な争いはしたくない。あんただってそうだろう?」
「・・たとえおれがそう思っていてもロブには通じない。あいつの想いはひとつ。おれがもう一度  シャバに出て、あいつのヒーローでいる事だ。それ以外あいつは望まない」
「行こう、ジングージ。もうすぐ時間だ」
 舌を打ちサントスが神宮寺を促した。
「ロブは捕まる。あんたはヒーローにはなれない─。それでいいんだな?」
 神宮寺の言葉にファーは肩をすくめてみせた。

 神宮寺は踵を返し、サントスに続いて取調室を出た。
 3課の前の廊下には関が待っていた。2人を見ると首を振りため息をついた。
「当然ですよ、関さん。奴の要求など通るはずはない。ジョーもわかっているはずだ」
「それはそうだが・・」
 3人はそのままJBへのホットラインが置かれているコーナーへ入った。
「大丈夫。奴はあの時のような赤ン坊じゃないんですから」相棒の神宮寺が1番落ち着いてみえる。「それにジョーは自分の居場所を知らせようと思えばできます。それをしないのは何か考えがあるのか、それとも今のところ危険と面していないのか」
「いや、そうとも言えない」関だ。「ロブは天才的なハッカーだそうだ。今いる所に電波遮断装置なんてものがあるとは思えないが、何らかの方法で連絡できないでいるのかもしれない」
 JBへのホットラインを使えるのは関を始め主任以上の階級の者だけだ。ロブはそのホットラインの波長をなんらかの方法で知り侵入してきた。おかげでダイレクトにJBに中継する事ができたが、普通なら考えられない事だ。と、

『セキ、いるか?ロブだ』開きっぱなしにしていたスピーカーからロブの声がした。3人が一様に緊張する。『さっきの返事を聞きたい。ファーを解放するか、それとも』
「ファーの解放を受け入れる事はできない。たとえ仲間を盾にされても」今まで眉を八の字にし沈んでいた関がキッパリと言った。「これが我々の答えだ」
『・・・はっきりしていて気持ちがいいくらいだな』
「ジョーを解放して君達も投降しろ。ファーもそう思っている」
『虫のいい奴だなァ。─おい』スピーカーの向こうでロブが誰かに合図をしたようだ。ガサガサと音が響く。『おれ達の要求が通らなくて残念だ。こいつもまだ若いのにな』
「なんだと。ロブ、ジョーを─」突然スピーカーから銃声が響いた。“うわっ!”と声が上がる。間違いなくジョーの声だ。「ロブ!ジョーに何をした!ジョー!」
『悪いのはあんた達だぜ。仲間を犠牲にしてもファーを抑えていればいいさ』
 続いてもう一発─。ドサッと床に倒れる音がした。続いてもう一発─。もう声は聞こえない。
「ジョー!」
「ロブ!てめえ、なんて事を─」
 神宮寺とサントスが叫んだ。
『もう用はないから早く取りに来い。でないと野犬のエサになっちまうぜ』
「ど、どこに!ロブ!ジョーをどこに!」
 関が叫んだが通信は一方的に切れた。思わず通信機を掴んでガタガタと揺すったが、2度と繋がる事はなかった。関がガックリと首を落とす。
「ま、まさか・・ジョー・・・」
「なんて奴だ」サントスが呟いた。「こんなに思い切って人質を殺すなんて─」
「ジョーは死んではいない!」関がサントスに掴み掛かる。「あの悪ガキがそう簡単にくたばるものか!あいつがくたばる時は世界中が崩壊している!」
「そうだ。あいつが死ぬわけがない・・・」
 静かな神宮寺の声が室内に広がる。わめいていたサントスと関が口を閉じた。
「あいつの姿を見るまではおれは信じない」スッとその端整な顔が上がる。「ロブはジョーをどこへ放り出すつもりだろう」
「取りに来い、と言われてもな・・」
 アメリカとは比べものにならないが東京も広い。いや、奴らが東京にいるのかもわからない。
 神宮寺がリンクを操作した。だがスピードマスターからの反応はない。やはり何かに邪魔されているようだ。
「取りに来い・・・。ロブもおれ達も知っている所・・・。ここ警察庁はあまりに危険だ。という事は・・・セリカのあった所か!」
 神宮寺が部屋を飛び出した。関もサントスもついてきる。
 エレベータを待たず階段を一気に駆け下り、目をむく警備員を無視してポルシェに乗り込んだ。すぐさま発進する。
 乗り損ねた2人がクレスタに乗り込むのをミラーで見て、ポルシェはおそらくセリカが通っただろう同じコースを中野へと向かう。
 PCナビで情報課を呼び出し、セリカが置かれていた正しい位置を確認しナビにセットした。
 軽く200キロは出るポルシェ928GTSだが、交通量の多い新宿通りですっ飛ばすわけにもいかず、それでも制限速度ギリギリで車の間をまるでゲームのようにスッと抜けて行く。
 バックミラーからクレスタの姿が消えたが構ってはいられなかった。

 やがてポルシェは弥生町のあの資材置き場の前に着いた。
 鉄柵の門が閉まっていたが軽く乗り越える。敷地はそれほど広くはないが、積み重ねてある木材などで視界はかなり遮られる。
「ジョー!」神宮寺は走りながらジョーを呼んだ。ロブ達に遭遇してもいいようにオートマグを携帯している。「どこだ!ジョー!」
 門から50メートルも入っただろうか。ポカリと空いた広場の向こう側─やはり積み重ねられている丸太の前に何かが横たわっているのが見えた。思わず足を止める。
 頭から腰の辺りまで黒いビニール袋に包まれていてもちろん顔は見えない。体型で男だとわかる。
「ジョー・・」
 まさかと思った。ジョーのはずはないと・・・。それでも神宮寺の足は動かない。
「ミスター!」
「神宮寺君!」
 2人が追いついて来た。その彼らの声が神宮寺の背中を押した。倒れている男に向かって走り寄った。
 男の手前で膝をつき、震える手を押さえてビニール袋をズッと引っ張り上げた。男の顔が現われた。
「──!?」
 神宮寺の動きがピタリと止まる。そこへ関とサントスが到着した。神宮寺の肩越しに男を覗く。と、
「ドウラ!?」サントスが叫んだ。「ジョーじゃない!ドウラだ!な、なんでこいつが─!」
 サントスがドウラを抱き起した。関もラスベガスでドウラに会っているので顔は知っている。    だが、これは・・・。
「まだ生きている。出血はひどいが生きてるぞ」
 と、すぐに関が携帯で救急車を要請した。
「ジョー・・・」
 その様子を見ながらフラリと神宮寺が立ち上がり辺りを見回す。だがそこに横たわっていたのはドウラ一人だけだった。
「神宮寺君」呼ばれて振り向いた。「生きているぞ。ジョーは─必ず」
「──」
 なんの確証もない関の言葉─。だが神宮寺は信じて頷いた。

(・・ウウ・・・)胸がムカついて気分が悪い。吐き気がする。何か、薬を嗅がされた時と同じ気分だ。(・・〝あれ〝か)
 努力して目を開けるとそこは元いた部屋だった。

 関が言っていた1時間が経ち、ジョーはロブやドウラ、他の仲間の男達と共に通信機のある部屋に連れて行かれた。
 交渉は決裂だ。そんな事はわかっていたが、急にロブがジョーに向かって発砲した。右足を撃たれ床に膝をつく。そのジョーの目の前で2発目が発射され、ドウラの腕から血が飛び散った。
 驚いて彼の名を呼ぼうとしたジョーの口を茶髪の男がタオルで押さえた。甘酸っぱい臭いが鼻を突く。
 ジョーは男を押し退けようとしたが、その時3発目の銃声がしドウラの胸を赤く染めた。
(ドウラ!)
 叫んだような気がして─ジョーはそのまま意識を失った。

(で、こーいう格好悪い事になってるわけだ)
 ジョーはゆっくり体を起こし壁に寄り掛かった。
 目の前でドウラが撃たれた。あれは本当の事だったのだろうか。それとも自分に見せるための芝居?なんのために?
 と、ドアのキーが開いた。入って来たのはロブだ。ジョーが壁から体を起こす。
 床から睨め上げるロブはファーによく似ていた。そんなジョーにロブが苦笑する。
「そう睨むな。掠っただけだから大した事ないだろう」
「ドウラはどうした。なぜ奴を撃ったんだ」
「お前の代わりだ。これでこっちが本気だという事が向こうにもわかっただろう」
「ドウラは悪党にも仁義があると言っていた。なのにお前は─」
「ドウラはサントスと知り合いだから手を組んだんだ。サントスを脅すためにな。だがもう身代わりはいない。これ以上奴らが拒否するなら次はお前だ」
「こんな小細工が通用する相手だと思っているのか」
 もしそうならおれは借金返せるほどボーナス貰って有給も年に三分の一は取ってもっとラクしているさ。
「通用するかしないかじゃない。おれのやり方で行くだけだ」とロブは何かをジョーに放ってよこした。バンソウコウだ。「ファーが解放されるまで体は大事にしてくれよ」
 ハハハ・・と笑い声が響き、ドアが閉まる。
「ああ、せいぜい大事にするさ。おれを生かしておいた事を後悔させてやる」
 床に落ちたバンソウコウを拾い、ジョーがゆっくりと口元を歪めた。



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