コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

記憶の底にひそむもの 7


「ここを出る。ゆっくり立て」
 2人の男を引き連れロブが言った。
「いよいよファーと交換か」
 立ち上がったジョーの後ろにギィがまわった。両手を後ろ手で結わかれた。こういう時ジョーは後で解きやすいように手の形を細工する。
「それは諦めた。相手も応じないだろう。だがお前を使って引っ掻き回してやる」
「・・どういう事だ」ジョーが訊くがロブはニヤニヤして答えない。眼隠しがされた。「ドウラはどうする。ここに置いていくのか」
「奴の事より自分の心配をしろ。時間までに仲間が見つけてくれなければお前はすっ飛ぶんだぜ」
 ロブがジョーの背中を押す。ギィが腕を引き部屋から出た。そのまま車に押し込まれる。
 外に出ていないので建物内にある車庫だろう。ファーは日本のアジトはもうない、と言っていたが、少なくともここにひとつはある。それに、
(すっ飛ぶだと?奴らはどこかに爆弾でも仕掛けるつもりか)
 そういえばTEはテロリスト集団だったと思い出した。武器のほとんどはアメリカで押収されたはずだが日本にある物まではわからない。
(それとも、あの日本人の男が)あの男に機器を放り込んでから半日が経つ。(気付いてくれよ、神宮寺)
 ジョーは見えない目を窓に向けた。

 ちょうどその頃、ファーを乗せた公安の車が東関東自動車道を成田空港に向かって走っていた。
 3列8人乗りの黒のフレンディのハンドルを握っているのは木村。助手席に神宮寺、2列目に ファーと山本とバートン。3列目には一人サントスの巨体が陣取っている。
 山本とバートンはこのままファーとアメリカまで向かう。空港にはネバダ州警の警官ももう着いているはずだ。と
「神宮寺です」
 ピピ・・と呼び出し音が響き、助手席の神宮寺が目の前の通信機のマイクを取った。
『今、成田空港の管理室から連絡があった』あいさつなしで要件に入るのは警察庁に残った関だ。『TEと名乗る者達からファーの乗るユナイテット機や空港の要所に爆弾を仕掛けたと言ってきたそうだ』
「警戒の厳重な国際空港でそんな事ができるとは思えませんが」
 2人の会話は日本語なので山本が英語に直してサントスやバートンに伝えている。もちろんファーにもわかるわけだ。“What!”とサントスが声を上げた。
『おれもそう思うよ。しかし管理室はびびってる。もしこれが本当だったら彼らの責任と被害は計り知れない。おれ達以上のダメージを食らう』
「主任」木村だ。「もう成田空港に入りましたが」
 フレンディはそのまま臨時駐車場に向かう。ここは国内外の要人や今回のように一般客と同じ搭乗口を使えない時のみ使用されるものだ。その入口が見えて来た。
『とにかく、予定通りファーを連れて入ってくれ。後から指示する』
 慌ただしく通信が切れた。
 おそらくこれから成田の管理室と公安とのバトルが繰り広げられるのだろう。熱しやすい関の一番苦手な分野だ。
「今は関さんの指示に従おう」
 まず神宮寺が車外に出た。
 入口には空港警察や関係者、そしてネバダ州警の警官、サイモンとノースが待機していた。と、もう1人─
「堂本さん」
 ファーと共に下りて来た山本が目の前の40代の男を見て驚いた。
「やはりヘリの方が早いな」
 男─堂本が苦笑いする。
「空港管理室との調整のために来た。関ではケンカになるからな」それから神宮寺達の方を向き、「2課の堂本です。調査専門ですが今回のように調整もします。よろしく」
「こちらこそよろしくお願します」
 差し出された右手を神宮寺が受けた。

 目隠しを外されるとそこはやはり何もない部屋だった。
 今までいた所よりは若干広かったが、長い間使っていないのかかなり荒れている。小さな窓からは空しか見えない。
 ジョーはロブに銃を突き付けられたまま、跪いて何やら機器をいじっているギィともう1人の仲間─コルツを見ていた。それが時限装置のついた爆弾だとわかり舌を打った。
「そうだ、こいつは小さいが強力でね。この階から上はまず吹っ飛ぶな」ニヤニヤとロブが言う。「ネジも何もないから解体は出来ないし、持ち上げたらドカンだ」
「それがおれの相棒か?」ジョーが言った。「嬉しくて涙が出るね」
「うまくすれば仲間が助けてくれるさ。いや、巻き添えになるかな」ロブはノートパソコンを取り出しどこかへアクセスする。しばらくピーピー鳴っていたが相手に繋がったようだ。「セキ、いるか。ロブだ」
 どうやらまた公安の通信機に入り込んだらしい。
『ロブ、そう簡単に入ってくれるな。セキュリティ問題になる』ブスッとした関の声がした。『ところでファーはもう成田だ。手は出せないぞ、諦めろ』
「飛行機や空港が吹っ飛んでもいいのか」
『空港警察が捜索したが爆弾は発見されなかった』
「ま、それはそのうちわかるさ。さらにもうひとつ、あんたらの仲間のぼうやだ」
『ジョー?無事かっ。生きてるんだろうな!そこにいるのかっ』
「まだ生きてるよ。だがあんたら次第だ。ぼうやはここに閉じ込める。爆弾と一緒にな。ファーが日本に残ったら場所を教えてやるから助けに来い」
『なに~~』
 真っ赤になっているだろう関の声に、そーいう事かとジョーは思った。ならばおとなしくここにいるわけにはいかない。ジョーの手が素早く動き、縄を解いていく。
「ロブ、こいつ─」
 その動きに気がつき、立ち上がり掛けたギィをジョーは足で払って床に倒した。続いて向かってくるコルツにまわし蹴りを食らわす。さらに銃を持つロブの手に蹴りを入れようとして─突然傷口の開いているわき腹がズキンと痛んだ。
「うっ!」
 思わず手をやる。その一瞬の隙を背後のギィが見逃さなかった。
 部屋の隅にあった角材でジョーのわき腹を打った。ドッと床に倒れた。そのまま打ち下ろされる角材を全身に受け、しかし立ち上がれなかった。
 ジョーは他人に弱みを見せるのを嫌う。また彼自身自覚していないのだが、完治していないわき腹の傷と体力の回復していない体にジョーは負担を掛け過ぎていた。
「こいつ、逃げられないように足を折ってやるか!」
 攻撃が足に集中した。
「うっ・・くっ─」
 左足には治ったばかりの銃創がある。背中の傷はまだ新しい。
『何してるんだ!』関の声が遠くから聞こえる。『ジョー!返事をしろ!』
「やめろ、ギィ」ロブが言った。「こいつがケガをしているのを知っているだろう、セキ。早く助けにこないと出血多量で死ぬぞ。足も折れてないが1人じゃ歩けないだろう」
『くそォ・・。どこにいるんだ、ジョー!』
「関・・」細い息を継ぐようにジョーが言う。「おれは大丈夫だ・・・。ファーを放すんじゃねえぞ」
「大したぼうやだな。いいか、セキ。ファーを解放しろ。それだけだ」
 そう言いロブは通信を終えジョーに目を向ける。
 彼は目を閉じ床に体を横たえていた。

「ジョーが?」
 木村から受け取った通信機に向かって神宮寺が言った。
『ああ、先日会った時には気がつかなかったが、彼は怪我をしているのか?ベガスの時のか?』
「それもありますが、その後色々と・・」神宮寺がちょっと口籠る。「ところで関さん、こちらもなんだかヤバイですよ。ユナイテット側がファーの搭乗を拒否しています。空港管理室も同じ意見で、堂本さんや州警の2人が説得を試みていますが」
『今頃なに言ってやがる。よし、おれが行って話をしよう』
「いえ、余計こじれるので」
 その時木村が通信機を指差した。彼に渡した。
「木村です。今、空港警察から第一ターミナルの南ウイングのトイレに不審な箱が置かれていると連絡がありました。ユナイテットのゲートの近くです」それから神宮寺に、「危険物の取り扱いはできるかい?爆処到着まで時間が掛かるそうだ」
「わかった」
 ファーから離れられない山本と木村、そしてバートンを残し神宮寺とサントスが南ウイングに向かう。
 途中堂本達と擦れ違い、航空安全飛行のためファーを搭乗できなくなったと聞いた。堂本にはファーのいる待合室に行ってもらう。

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 気が付くとジョーは一人部屋に残されていた。
 床から室内を見回し隅に置いてある小さな箱に目を向けた。ロブの置き土産だ。
 体を起こそうとしたが両手が後ろで結えられたままなのでうまく動けない。いや、それ以上に─
「つっ─」
 骨の上を強かに打たれたらしく、両足の向こう脛が腫れていた。わき腹に冷たいものが流れている。見ると床に小さな血溜まりができていた。
 いやしかし今は両手を自由にする方が先だ。
「くそォ、変な縛り方しやがって」
 スピードマスターはジャケットの内ポケットに入っている。部品をいくつか外したので使えるかわからないが、たとえ1秒でも発信できればこの場所を知らせる事ができる。
 ジョーは少しづつ手の縄を緩めていった。

 敬礼しその小さな箱を持って目の前から去る爆発物処理班を見ながら神宮寺とサントスはホッと息をついた。
 トイレに置かれていた爆弾は単純な作りの物で神宮寺でも充分対応ができた。彼はサントスが声援を送る中、手早く解体し進行を止め後は爆処に任せたのだ。と、サントスの持っている通信機が鳴った。
『2人共すぐに戻ってくれ!』山本からだ。『ファーに逃げられた!』
「なんだと!」サントスが叫ぶ。「なんでそんな事に─!」
「とにかく戻ろう、サントス」
 神宮寺が走り出す。う~と唸り声を上げてサントスが続いた。
 待合室には頭を押さえた山本がいた。
「どうしたんだ」
「ファーがトイレに行きたいと言うので、おれとバートンとで連れて行ったんだが─」
 ふいに山本は後ろから、バートンは横から襲われたという。2人はすぐに意識を取り戻したのだが、その時すでにファーはいなかった。
「犯人は少なくとも2人だ。他の皆は捜索に出た」
「奴らおれ達の動きを正確に把握しているという事かっ。どうやってだ!」
「おれ達も行こう、サントス」が、神宮寺の動きが止まった。リンクが振動したのだ。「ジョー?」
 通信スイッチを入れる。しかし何も聞こえない。ジョーのコールナンバーも表示されていない。が、
「ジョーか。今どこにいる。返事をしろ」やはり応答はない。だが、また振動した。「ジョー!」
 ジョーは危険な局面に立たされている。何かの理由で音声通信ができないのだ。
 神宮寺がスイッチを切り替え情報課を呼ぶ。
『ちょうどよかった、神宮寺君。今、連絡を入れるところだった』課長の井上だ。『今、スピードマスターからの発信を捕らえた。場所を割り出している』
「呼んでも返事がありません。そちらへは音声は─」
『シグナルだけだ。網を張っていたから引っ掛かったが─。お、場所がわかったぞ。成田市にグリッサンドGCというゴルフコースがある。その北に大きな物流センターがあるが発信はそこからだ』
「近いな・・・」
 呟き、神宮寺は迷った。できる事ならすぐにでも駆け付けたい。だが─
「サントスだ。おお、セキか」
 サントスが通信機を神宮寺に渡した。
『今、JBから連絡を受けた。神宮寺君はジョーの所に向かってくれ』
「し、しかし、ファーがまだ確保されていません。もしこのまま逃げられたら─」
『うちの連中や州警も追っているんだ。大丈夫。それよりジョーは一人では動けないかもしれない。間に合うのならおれが行ってやりたいが・・・。頼む、神宮寺君』
「わかりました」
 神宮寺は通信機をサントスに放って走り出した。なぜかサントスも付いてくる。
 2人はターミナル前からタクシーに飛び乗った。



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Comment

淳 says... "覚書き"
どうやってストーリーを持って行こうかと考えている時に、ある所で事故があり、そこからファーがアメリカへ護送される日とジョーの取引の日が重なったらどうなるのか、と思いつき・・・。

書きたいシーンはあるが、そこへうまく繋げるには、と目論んでいる。
2012.03.24 12:11 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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