コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

記憶の底にひそむもの 8

「チッ、やっぱ通信はできねえか」
 時間を掛け縄を解いたジョーはすぐさま通信をオンにした。案の定、音声通信は無理だが電波は飛んだはずだ。
 それも2、3回でダウンしてしまったが、誰かがキャッチしてくれる事を祈るしかない。
 ジョーは体を引き摺るようにし爆弾の所まで寄った。
 なるほど、ロブの言うとおりネジひとつない─。おまけにタイマーさえ表側には付いていない。つまりいつ爆発するかわからないのだ。
 さらに今まで重なっていて見えなかったのだが、同じ物がもう一体並べてあった。
 二体でひとつなのか、それとも時間差で爆発するのか─。
「どっちにしろ念の入った事で」
 ジョーは壁に手を付いて立ち上がろうとした。足は痛いがそれ以上に体がふらついた。が、窓の所まで歩いた。
 ビルの5、6階だろうか。広い敷地の中に倉庫やトラックが何十台も置かれているのが見えた。物流センターかな、と思った。
 その時、彼の背後でカチッと音がした。とっさに身を床に落とした。

 バンッ!

 爆音が響き、ガラス窓が割れた。身を低くしているジョーの上に降り注ぐ。黒い煙が部屋中に広がった。
 しかし威力はそう強くなかった。だがもしももう一体の爆弾が残っていたら・・・。
 モウモウと湧く黒い煙は強引にジョーの肺に侵入する。胸が痛み激しい咳が出た。
 その瞳の中にチラッと炎が見えた。
 部屋の中には梱包用資材が置いてある。それらに引火し、あっという間に室内に広がった。
「くそォ・・」
 ジョーはガラス片を取り除いた窓枠に体半分外に出すように腰を下ろした。眼下では、爆発で集まって来た人々が騒いでいた。
 もう消防に通報済みだろうが到着まで持つとは思えない。と、

「ジョー!」眼下で誰かが呼んだ。神宮寺とサントスの姿が見えた。「頑張れ、ジョー!もうすぐ消防が来る!」
「下がれ、神宮寺!皆を退避させろ!もう一体爆弾が─」火に煽られジョーの体が揺らいだ。窓枠から落ちそうになる。「逃げろ─早く─」
 サントスが人々を離れた場所に追いやった。
「お前達も早く離れろ。もうすぐ爆発─」
 プツンと糸が切れたようにジョーが窓枠から滑り落ちた。
「ジョー!」
 2人が叫ぶ。が、辛うじて伸ばされたジョーの右手が窓枠を掴んだ。
「飛び降りろ、ジョー!」サントスが叫んだ。「おれが受け止めてやる!」
「サ、サントス・・・」
 ジョーは躊躇した。
 ビルの6階から70キロの重さの物が落ちてくるのだ。いくら屈強なサントスでも受け損ねれば大怪我は免れない。
「だ、だめだ、サントス。それよりも神宮寺を連れて早く─」
 その時、

 ドーン!

 さっきより大きな音が響き、6階の壁が吹き飛んだ。
 ジョーの体がくうに跳び出した。目いっぱいに広がる青空。が、急速に遠ざかっていく。風をきる音が耳を掠めていった。
 丸めた背中にショックを受け目を開けるとサントスの顔が見えた。ニッと白い歯を見せジョーを抱えたまま建物から走って離れる。その横には神宮寺が付いて来る。
「大丈夫か、ジョー」
 神宮寺の声に気が緩み、ふと気が遠くなった。と、
「あー!これがジングーだったら─!」
 サントスが叫びギュウと両腕に力を入れた。
「あ、苦しい。放せ!このやろ!」
 命の恩人をぶん殴り、ジョーが地面に下りた。が、すぐに膝をついた。破れたズボンの間から赤く腫れ上がっている足が見える。
「ひどくやられたなあ」神宮寺が言った。「でもファーは逃げたが、お前が無事で─」
「逃げた?ファーが?」ジョーが神宮寺に目を向けた。「どういう事だ」
 一瞬顔を見合わせた神宮寺とサントスが簡単に説明した。
「なんて事だ。おれがもう少し早く行動を起こしていたら、そんな事はさせなかったのに・・」
「お、おい、大丈夫か、ジョー」サイレンが聞こえて来た。「とにかく病院だ」
「そんな悠長な事はしてられねえ。やられた分の仕返しとドウラの弔い合戦だっ」
「ドウラなら生きてるぜ」
「えっ?」
「おれ達が保護した。今はDrサカキバラの所にいる。命に別条はないそうだ」
「・・・そうか」
 ホッとしたとたん体中の力が抜けていった。
「おいっ」
「ジョー」
 サントスが再びジョーを抱きかかえる事になった。

  ファーの逃走が発覚した後、関はすぐに非常線を張ったがなぜか引っ掛からなかった。
 徒歩で逃げたとも思えず、まだ非常線内にいるのかと木村や山本達が捜索したが発見できなかった。

「ふうん、それはまた見事に逃げられたものだ」関が見舞いで持ってきてくれたワッフルをパクパク食べ、ジョーが言った。ふと箱の中を覗く。「もう、ねーの?」
「見舞いの菓子を大量に持ってくる者はいないだろう」カラになった箱を見て関が言った。「それに、1ダース全部一度に食っちまう入院患者というのもあまりいないと思うがね、ジョー」
「だって捕まってから何も食ってねえし・・・。それはなんだ?神宮寺」
「鼻が利くな」神宮寺が苦笑した。「ル・モンのサンドイッチだ。どうせこんな事だろうと思って」
 ル・モンはジョーのマンション近くにあるパンの店だ。個人経営の小さな店だがサンドイッチの種類が多くとてもうまい。
「おー、やっぱ相棒だぜ!」
 ありがたく受け取りさっそくパクついた。
「ところでジョー。お前が最初に連れて行かれたのはどこだったんだ」
「わかンねえけど日本におけるアジトのひとつだ。パソコンなどの設備があったし電波も通さなかった。ファーは日本にはもうアジトはないと言っていたが、うそだったんだな」
 サンドイッチから器用にキュウリだけを引っ張り出す。
「そうだ、そこで日本人の男に会ったぜ。50代の目つきの悪い・・・ありゃあ暴力団か警察ってところだな」その言葉に神宮寺と関が動きを止めた。顔を見合わせる。「・・・なんだ?」
「ん・・実はな・・・」
 コリコリと鼻の頭を掻きながら関は、ロブ達が公安のパソコンや通信機に入り込んでいた事、しかしそれだけでは知り得ない情報まで、それもすぐに相手に伝わっていた事などを小声で伝えた。
「それって」サンドイッチを口から離し、「ちょっとヤバイんじゃねーの」
「ちょっと、どころではない」
 遠慮なく向けてくる鋭い瞳を関も睨み返した。
「そう言えばその男、公安官の顔を知っているような事を言ってたっけ。だがおれはそいつを見た事がない。もし警察関係だとしても3課以外の奴だな」
 ジョーも神宮寺も森のお供で何度も警察庁に出向いている。だが3課のフロアしか入った事がない。そして3課は5階にあるが、後は階数が違うのだ。
「ところで、おれが閉じ込められていたあのビルはなんだったんだ?」
「物流センターの古いビルで近々取り壊す予定だったそうだ」
「ふうん・・・。ロブはよくそんな場所を知っていたな」
 パクッと3つめのサンドイッチを齧る。
「その日本人の男がロブ達の協力者だな」早くもカラになったサンドイッチの紙袋を丸めて神宮寺が言った。「しかしわからないのは成田での逃走劇だ。あまりにも見事過ぎて、まるで─」
 ふと口を閉じる。気まずげに関を見た。と、神宮寺のリンクがピッピッと鳴り出した。驚いて目を向ける。
「トレーサー?」
「お、発信を始めたな」最後のひと片を口に放り込んだ。「その男の上着のポケットにスピードマスターから外したトレーサー装置を放り込んだのさ。ただそうすると使用時間が限られるから、確実にお前がキャッチできる時間に発信するよう1日置いたんだ。男が着替えても上着の場所がわかれば─」
「だがトレーサーを外しても音声での通信はできただろう?なのになぜ─」
「取り出した部品をはめ直そうとしたけどうまく戻らなくてよ─。今度はハムとツナのサンドイッチがいいな、神宮寺」
 車や銃の組み立てはなんとかなるのに、時計のような小さく精巧な物は苦手のようだ。そのスピードマスターは今は情報課にある。
「ジョー、木村を寄こすからその男の似顔絵を描いてもらってくれ。おれは警察庁に戻る」
「じゃあおれはJBのコンピュータでこの電波の出所を確かめる」
 時計から外されたトレーサー装置の発信時間は2時間もないだろう。
 出て行こうとする2人に、
「ロブをとっ捕まえる時はおれも連れてけよ!」
 ジョーが怒鳴った。

 国際警察と公安3課、そしてジョーのトレーサーのおかげでその男はすぐに特定された。池袋界隈に大きなシマを持っている天道会の青田という幹部の1人だった。
 この天道会は今までに警視庁捜査第4課(マル暴)や公安にも世話を掛けているので、そこの幹部が公安官の顔を─皆ではないものの─知っていてもおかしくはない。
 関や神宮寺はさっそく池袋の組事務所に向かった。
 青田は引っ張れたがファーとロブ達、TEのメンバーはいなかった。
 青田の話では天道会はTEの協力者というより取引相手らしい。
 TEが日本を去る時に莫大な武器と爆薬を受け取るはずだったのだが例のモニュメントバレーの事件が起き、ロブが急遽アメリカに向かったため取引が中断していたのだ。
 おまけに武器の保管場所はファーしか知らなかった。
 その場所を確かめるため、ファーとロブ、2人の仲間、そして天道会の組員3人が山形県に向かったとわかったのはファーが逃げて3日後だった。
 だがそれでもTEの情報収集の早さ、的確さの謎は残されている。青田もそれに関してはだんまり・・・・を決め込んでいる。
 公安部長と公安委員会が動き出した。

 朝食を終えるとジョーは1人退院の準備をしていた。と、いっても着替えをバッグに放り込むだけだ。それよりも問題なのは─。
 と、ノックが聞こえた。
「支度はできたか」神宮寺だ。「ファー達の向かった先が判明した。おれ達も出るぞ」
 だがジョーは一瞬目を見開き、そしてすぐにふっと笑みを浮かべた。
「どうした?」
「いや・・もしかしたら置いて行かれるかな、と思ったから」
「ドクタの許可は出てるんだろ。それなら問題ないさ。置いて行ったら後が怖い」
 わき腹の傷を縫合して3日。経過は良いものの本心では出動はまだ早いと榊原は思っていた。
 だが彼はジョーとファーの事を知っている。その事が彼の傷をひとつ増やした事も─。
 それらをうまく処理するためにもジョー自身の手でもう一度ファーを捕まえるのがよいと考え、森と相談してジョーの出動を許可したのだ。
「ここに来る前にドクタに会ったけど、2重縫いと返し縫いで厳重に縫い合わせて、おまけに堅結びで止めておいたから少しくらい無茶しても大丈夫だと言ってたぜ」
「・・なんだ、それ」眉をひそめるジョーに神宮寺が笑った。「それより少し顔色が悪いぜ、神宮寺。疲れてるんじゃねえのか?」
「ん・・。この1週間は休みがなかったからな・・・。ちょっと疲れてるかも・・・」
「なんだよ、お前らしくもないっ。そんなジジ臭い相棒はご免だぜっ」
「・・自分から振ったくせに」
 バッグを持ち、サッサと病室を出て行くジョーの後に神宮寺も続く。いつのもジョーの自分勝手さがなぜか嬉しかった。
 と、前を行くジョーがピタリと止まり振り返った。何か言いたそうにしている。
「・・なんだ?」
「いや・・・。無理するなよ」
 再び歩き出すジョーに不可解さを感じた神宮寺だが、今は時間がなかった。彼らはこれから山形へ向かう準備をしなければならない。
(大丈夫さ、神宮寺は)ジョーがポルシェの助手席に座った。(だから奴に勧めてはいけない。こんな物は─)
 バッグの底に入れてある白い錠剤の存在を思い出す。

p2.jpg 


 梅雨までにはまだ間があるが、ここ2日程雨が続いている。特に東北地方では所々豪雨になっているという。
 そんな雨の中、2台の4WDが連なって東北自動車道を北に向かってた。
 前車のアルフォードには関と木村、山本、バートン、後車のハリアには神宮寺、ジョー、サントスが乗っている。
 目指すは山形県の小国町。7人のうち誰も行った事はないが有数の豪雪地帯で、積もった雪で車の屋根がへこんでしまうほど降る所だ。
「って事は、その小国町にもアジトがあったって事だな」助手席に追いやられ少々機嫌の悪いジョーが言った。「ファーは小国町のアジトの事は言わなかった。あのヤロウ」
「全部言えったって、そりゃ無理だろう」後ろからサントスの声が響く。ジョーがジロリと睨みつけた。「だが君が訊き出したアジトや協力者は皆とっ捕まったとセキが言ってたぜ。それだけでも大したものだぜ、ジョー」
 ガハガハと笑うサントス。
 ファーに逃走されてから3日、彼も休んでいないはずだ。なのにこの元気さはなんだ?
 不審気に見るジョーに、
「とにかく早く解決させたいんだ。そうすれば・・ムフフ・・・。楽しみだな、ジョー」
「??」
 眉をひそめるジョーの横で神宮寺が冷や汗をかいていた。彼は事件解決後の約束事デートをジョーに言っていない。
「どうした?疲れてんなら運転替わるぜ、神宮寺」
「いや・・大丈夫だ」
「休むかい、ジングージ?おれが気持ちよ~く寝かせてやるぜ」
「・・・このままでいい」
 が、福島飯坂ICから一般道に降りる前のパーキングで2車共運転手を交替した。
 嬉々としてジョーがステアリングを握る。雨は少し前に止んでいる。
 一般道という事も考慮しつつ、だがハリアのスピードが上がっていく。
『あまり飛ばすな、ジョー!』通信機から前車の関の声が響く。『スピード違反でしょっぴくぞ!』
「いいから飛ばせ、ジョー!あ~、早く東京に戻りて~!そしたら・・ムフフ・・・」
「・・・・・」
 何やら背筋が寒くなって来た。隣の神宮寺は寝たふりしているし・・・。
 いやな予感を振り払うようにジョーはアクセルを踏み込んだ。



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