コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   1 trackback

北海道の旅はいそがしく 5

 「ハアックション!」暗い部屋で突如怪獣の声がした「ハァック─もう出ないか」
 声の主は神宮寺であった。彼はベッドから起き上がると電気を点けた。
 「いつの間にか寝ちゃったのかな・・。あれから1時間経ってる・・・。ジョー達にしては長湯だな」  
 彼は1人でいるのにも飽き、洸ではないがちょっと歩いてみようと部屋を出た。
 小さなホテルだからシーズンの今は観光客でいっぱいだ。神宮寺は気の向くまま歩き出した。と、擦れ違った女の子は必ずと言っていいほど振り向き彼を見る。なかには立ち止まって見送る娘(こ)もいる。
 これは決して女の子だけではない。男性の何人かも彼に目をやった。しかし神宮寺は知ってか知らずでか、ただスタスタと歩いて行く。
 やがて彼はちょっとしたホールの前で足を止めた。10数人が踊れるくらいのフロア、色様々な照明、ミュージックボックス・・・洸が言っていたディスコステージだろう。フロアには10数人の男女が入り乱れ、音楽が高く鳴っている。ここだけはまるで北海道にいる事を忘れさせてしまうようだ。
 神宮寺はその男女の中に知っている顔を見つけると、フロアに入っていった。
 「やあミスター!」洸が声を掛けた「一緒に踊ろうよ!」
 「風邪をひくぞ。フロの帰りにこんな─」
 「大丈夫!これで風邪をひくようだったらムムムは失格さ!」一平の言葉に神宮寺はそれもそうだ、と頷いた「それに動いていればあったまっちゃうよ!」
 「ほら神宮寺!」ジョーが彼の腕を引っ張った「この前、新宿に行っただろ!」
 さっきまで怖い顔をしていたジョーまでもが、全身に汗をかき体を動かしている。神宮寺も踊れないわけではないが、こういう事はどちらかというと苦手な方である。が、3人に誘われ周りには10何人もの若者が踊りまくり、そして息をもつかせぬディスコサウンドが流れるなか、どうしてじっとしていられよう。
 少しも経たないうちに神宮寺もその渦の中へと引きずり込まれて行った。
 「うまいじゃないか、一平!」髪を振り乱し、ジョーが叫んだ。
 「あったり前さ!本場アメリカ仕込みだぜ!」
 見事なステップで体の位置を変え、一平が答えた。いや一平だけではない。ジョーも神宮寺も洸も、その動きから何回かディスコに行っているようだ。
 「サイコー!」洸が叫んだ「まるでサタディナイトフィーバーだ!」
 「今日は日曜─サンディナイトフィーバーさ!」
 「いい事言うじゃないの、神宮寺さん!」
 ジョーが肘で彼を押した。と、素直な神宮寺はトットットッとよろけ、隣で踊っていた人の体に当たった。
 「すみません」神宮寺は振り返った。ぶつかったのは17、8の可愛い娘(こ)だった「・・ど、どうも・・」
 ガラにもなく彼は赤くなった。
 音楽がますます高くなりミラーボールがいくつもの色や輝くを作り出し、フロアはまさにフィーバー状態だ。と、洸がジョーの背中を突っついた。
 「あれ見て」洸の指さす方にジョーは顔を向けた「ミスターったら、あんな可愛い子ちゃんと踊ってるよ。ほら、あんな真中で」
 「ホントだ。神宮寺の奴鼻の下長くしてよ。とても見られたツラじゃねぇな─ん?」
 「どうしたのさ」今度は洸がジョーの指さす方を見る番だ「あァ!一平!」
 見ると一平も数人の女の子相手に踊っている。
 「あンの??」
 「・・・あぶれたな・・おれ達・・」
 「な?んのなんの。これからさ─それェ!」突然洸がフロアの真ん中に飛び出し空中で一回転をした。続けて空中三回転横ひねり、地に降りるとすぐとんぼ返り、そしてまた飛び上がる「これが洸式ディスコさ!」
 女の子の歓声が上がった。洸はニカッと笑い、空中三回転に入ろうとした。と、その踏切の足にジョーが足を引っかけた。洸はベチャッと顔面から墜落した。
 「オーオー、みっともないこと!」
 腕を組み、足で拍子をとりながらジョーが言った。
 「君が足を引っかけたからじゃないか!」洸はすぐさま飛び起き反論した「なんだい自分ができないからって。ジョー式ディスコってーのでもやってみろ!」
 「へっ!これがおれのやり方さ!」
 ジョーはものすごい速さでステップを踏むと、いきなり洸の足を踏んづけた。すると洸もその気になり、ステップを踏みながらチャンスを狙っている。ジョーは洸に踏まれないようにと、ますます速く動く。
 2人の熱気が周りにも飛んだのか、何人かが踊るのをやめて2人を見ている。その人数は少しづつだが増えていった。音楽はさらに高く早くなってくる。まるで2人に合わせているようだ。
 「参ったって言えよ!」
 「そっちこそ言え!そしたらやめてやる!」
 始めのうちはこんな事を言っていた2人だが、そのうちそんな事はどうでもよくなり、高まる音に体が乗り互いに互いを煽りたて今はただ踊る事のみに集中している。と、たちまち周りから歓声が上がった。特に女の子の声がすごい。
 「・・負けたな、神宮寺」
 「そのようで」一平の言葉に彼はヒョイっと肩をすくめた。
 この夜4人は自分達の身分の仕事もすべて忘れ、若い炎をさらに燃え上がらせていた。

 昨夜の事もあり、翌朝彼らは昨日より1時間ほど遅れてホテルを出た。
 彼らは知床を回り、美幌に向かっている。
 はじめは神宮寺が運転していたが、これから峠に入るという事でジョーが無理矢理運転席に着いた。
 「峠ってやつは練習には持ってこいなんだ。さて、すっ飛ばしてやるかな」
 「ミスタ?」ジョーの言葉に、洸が前席の神宮寺に耳打ちした「もし谷にでも向かって行ったら、ぼくすぐ前のドアを開けるから、ジョーを突き落として運転席に着いてね」
 本気なのか冗談なのかわからない洸の言葉に神宮寺はキョンとして彼を見たが、やがて苦笑して頷いた。
 標高525mのここ美幌峠は阿寒への入口と言われており、阿寒一帯はもちろん遠く大雪や熊取湖、さらにオホーツク海まで見渡す事ができる。
 そして眼下には屈斜路湖が静かに横たわり、その周りには煙をたなびかせた硫黄山や摩周岳が望める。
 4人はその摩周岳の中腹にできた摩周湖に車を停めた。霧の摩周湖と言われる通り、辺りには薄っすらと霧が流れている。しかし今日は良い方なのだ。濃い日には足元の石さえ見えないほどだ。
 4人は手すりのある所まで崖を降りて行った。
 この湖は岸辺に降りて水に手を浸す事ができない。200m下方で濃い藍色の水面を輝かしている姿を遠くから眺めるだけなのだ。
 しかし霧の流れの間から見る湖面の美しさ、可愛らしい小島、周りを囲む山の蒼さなど、一度見た者はその光景を忘れる事はできないだろう。
 4人は湖を見ながらクッシーの話をしていたが、やがてそばの土産物店に入った。
 「ぼくなんにも買ってないんだもんな。母さんにお土産を買ってってあげなくちゃ」
 「おれも何か買ってくるかな」洸と神宮寺は揃って土産選びを始めた。
 「おい!そんな事してると日が暮れちゃうぞォ!」
 「いいじゃないか、ジョー。おれもアメリカにいる姉さんに何か─」
 「フン、勝手にしろ!」
 ジョーは膨れてそっぽを向いた。が、横目でチラリと彼らを見た。3人は笑い合い、手にした物を見せ合いながらはしゃいでいる。ジョーは目を伏せた。
 (・・おれだって、誰か・・誰か・・)そんなジョーに神宮寺が声を掛けた。
 「どうだ、長・・鷲尾さんの奥さんにでも買って行ってあげたら」
 「え?」ジョーが顔を上げた。
 「またパリに行くんだろ。その時にでも持って行ってあげれば喜ぶよ、きっと」
 ジョーはなぜか神宮寺を見つめた。と、彼はニコッとし、手にしていたアイヌの木彫りのペンダントを目の前にかざして見せた。ジョーの顔がかすかに綻んだ。
 「・・そうだな・・」彼は神宮寺の手からペンダントを受け取った「それもいいかもな・・。またミートパイを作ってくれるかもしれないし・・。それならついでに健にも─」
 「健君にそのペンダントをあげるのかい?」
 「え」
 ジョーは思わず手を見た。ペンダントが2つ握られている。あわてて1つ戻すと笑い出した。その声に神宮寺もつられた。
 4人はあーでもない、こーでもないと言いながら、まるで子どものようにはしゃぎ土産選びを始めた。

 「えっ?今度は阿寒へ!?」網走湖荘に着き部下の報告を聞いた辻は、目をパチクリさせた 「函館から札幌、網走・・そして阿寒・・。いったい奴ら何しに来たのだ。これではまるで観光旅行だ」
 辻は思わず頭を押さえたがすぐさま部下に言った。
 「見張りの者は付けているのだろうな」
 「はい、それは大丈夫です」
 「よし、とにかくもう少し様子を見よう。今のところ何も証拠はないのだからな。だがもし松前組と合流する気配を見せたら、その前に抑えるんだ。いいな」
 それだけ言うと辻は電話で車を呼んだ。

 ワインレッドのコスモAPは、その車体を周りの緑に光らせながら美幌峠を走っている。ステアリングを握っているのは相変わらずジョーである。
 3人は疲れるから交代しようと言ったのだが、ジョーはガンとして聞かなかった。一度自分が握ったステアリングを、他の者が握るのはいやだったからだ。一種のレーサー気質である。3人もそれがわかっていたので、それ以上何も言わなかった。疲れている時の運転が危険なのは誰よりもジョーが一番よく知っている。その時は、彼の方から交代を頼むだろう。
 「それでさ、北海道といえばやっぱりトウモロコシにじゃがいも、そしてカニ─」
 「北国だから果物はだめかな、やっぱり」牧場主の息子らしく、一平が訊いた。
 「そんな事ないさ」洸が言った「りんごだって寒い地方で作られるんだよ。あ、そうそう、りんごといえばさ─」
 まったく洸の話はよく飛ぶ。しかしそれに付いて行く一平も一平である。さすがコンビだけあって、そんな息までぴったりだ。
 さて前席のコンビだが─。
 彼らはあまりしゃべらず、もっぱら後ろの2人の話を聞いている。そして時折口を挿むのだ。洸と一平はけっこうムチャクチャな話を楽しんでいる。いつもなら一緒になってピーチクやる神宮寺とジョーだが、なぜか今回だけは口を開かずグッと前方を見ている。景色を見ているのでもないようだ。それが証拠に、2人は同じ目をしている。
 「ところでさァ、ミスター」洸が斜め前に突き出ている神宮寺の頭をポコンと叩いた「昨日の女の子可愛かったね。名前はなんだって?」
 「名前?」神宮寺が前方よりわずかに視線を逸らした「そーいえば・・訊かなかったっけ」
 「訊かなかったァ!?どじだなァミスターも!」洸は大声を上げた「それだから今だに独り身なんだよ。どーするのさ、23にもなって!」
 「余計なお世話だ」彼は振り返り洸を睨んだ「おれはまだ若いんだからなっ」
 「そんな事言っているうちに、すぐおじいちゃんになっちゃうよ。花の命は短いんだ」
 「う??」神宮寺が唸る「言っておくが、おれとお前とは3つしか変わらないんだぞ」
 「3つも、さ!ぼくが生まれた時ミスターは3才。わっ、おじん!」
 「るせー、ガキが!」
 「神宮寺」それまで黙っていたジョーが突然口を開けた「─気が付いているか」
 「後ろのチェリーだろ」
 ジョーの言葉に神宮寺はすぐさま向き直った。すでに真剣な目になっている。ジョーが無言で頷いた。
 「さっきの続きじゃないけど、ぼくはどっちかと言うとチェリーよりりんごの方が─」
 「バカヤロウ!後ろの車の事だ!」ジョーが怒鳴った。洸と一平が後ろを向こうとした「振り向くな!こっちが気が付いている事を相手に気付かせるんじゃない!」
 「だ、だけどジョー・・どうしてそんな・・」一平が訊いた。
 「そうだよ、ジョー。まさか後ろの車が・・その・・ってわけじゃないだろ」
 「さあな。そいつは後ろの車に訊いてみるんだな」
 後席の2人はバックミラーで後ろの車を盗み見た。真っ赤なチェリーだ。前席に男が2人乗っているのが見える。
 「よォし、少しカマを掛けてみるかな」
 ジョーはギアをトップに持って行くとアクセルをさらに強く踏んだ。コスモは車体を震わせ、速度計の針は一気に100に上がった。と、後ろの車もあわててスピードを上げぴったりと付いてくる。ジョーは鼻を鳴らした。
 「やっぱりな」
 「・・目的はおれ達だろうか・・」神宮寺が呟くように言った。
 「まっさかあ!」その声が聞こえたのだろう、洸が叫んだ「ぼく達はここに遊びに来たんだぜェ!それなのにどうして─」
 「洸」低い神宮寺の声に、洸は思わず口を閉じた「確かに我々はここに遊びに来たのだ。しかしJBのSメンバーである以上、いつ何どき誰から狙われるかわからない─。これがSメンバーの宿命なんだ・・」
 一言一言噛みしめるように、そして自分自身にも言い聞かせているような神宮寺の言葉に洸はそれ以上何も言えなかった。
 「そう言えば・・」呟くように一平が言った「前のスカイラインも、ずい分前からおれ達の前にいるような・・・」
 「そう言えばな」前方を睨んでいたジョーが言った「さっきスピードを上げ追い抜いた時も、またすぐさま追い抜かし前に付いたっけ・・」
 「フン、前門の虎に後門の狼って奴か─しかしいったい何者なんだろう」
 「そんな事どうだっていいさ」隣を見ずジョーが答えた「相手が何者であろうと向かってくる奴は受けて立つ。そうしなければこっちが─」
 「あっ!」ふいに洸が声を上げた「後ろの車のスピードが上がったよ!」
 「どうやらこっちが気付いた事に、気が付いたようだな─どうする、ミスター」
 「相手の正体がわからない以上、あまり事を荒立てたくない。逃げきれるか、ジョー」
 「フン!すい分とひどいお言葉だぜ!おれに逃げろと言うのかよ」
 「・・他の車に迷惑が掛からないようにするためには仕方がないさ」
 「しかし奴らがそう簡単に逃がしてくれるかねっ─ほおら来た!」
 ジョーの言葉が合図でもあるかのように、チェリーはさらにスピードを上げコスモと並ぼうとしている。並んだついでに鉛玉でもぶち込まれたのでは適わない。ジョーはその気はなかったがスピードを上げ結局逃げる形になっている。性能的にはコスモの方が上だが相手はなかなかやるもので、なんとか並ぼうと頑張っている。
 「くそォ!いっその事ぶつけてやろうか!」
 「わっ!やれやれ!」冗談気に洸が叫んだ。
 「よおし、それなら─。みんなしっかり掴まっていろよ!」
 「へっ!?」
 洸の声と同時に車はスライドし始め、彼は迫りくる一平に押し潰された。ガツン!という鈍い音が響く。チェリーは驚いてわずかに後退した。
 「ヘン!さまあみろ!」
 「ジョー、あれ見て」一平がチェリーを指さした「乗っている男が何か言ってるみたい」
 見るとチェリーの助手席に座っている男があわてたように、こちらに向かって一心に身振り手振りを示している。もちろん何を言っているのかわかるはずないがない。
 「フン、今さらゴタゴタ言ったってもう遅いやい!そおれ、もういっちょう!」
 「やめろ、ジョー!」神宮寺が止めた「まだ敵と決まったわけじゃない」
 「なんだとォ!」
 ジョーが神宮寺に顔を向けハッとした。助手席の窓からは今まで前方を走っていたスカイラインが見え、乗っている男達がこちらに銃を向けていたからだ・・・。



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