コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   2 comments   0 trackback

闇に溶け込む黒い影 2

新宿ゲーセン

「おとなしめの店だったが意外と楽しかったなァ」
 機嫌のよいサントスの声が、夜遅いが未だ明るい繁華街に響く。
「ニューヨークよりは地味だが、可愛い男(こ)もたくさんいたし」
 早めの夕食を摂り関が案内してくれたのは、2丁目の少し先の小さなビルの2階にあるクラブだった。
 といっても高級感はなく、元気な女の子と可愛い男の子がたくさんいる店だった。
 この店のスタッフは男から女になったり、またその反対だったり、男なのに女らしかったり、またその反対だったり、そのままだったり─とにかく誰でも(?)楽しめる明るい雰囲気の店だった。
 関が仕事上でここのママと知り合い、2、3回木村や山本を連れてきているらしい。
 2時間ごとに行われるステージショーも楽しく、飛び入りしそうになるサントスを止めるのに苦労した。
「おれの好みではないが、ママが素敵だと店は繁盛するなァ」
「マネージャーもなかなかの男前だろ」関だ。「昔はちょっとワルだったんだがな」
「関さん、本当に2、3回しか行ってないんですか?常連みたいにモテてましたね」
「まあ、おれのような魅力たっぷりの男は─ん?どうした?おとなしいな、ジョー」3人の後からトボトボ歩いてくるジョーに目を向けた。「そういえばママに気に入られていたが」
「しっ、関さん」神宮寺が遮った。が、その目は楽しそうだ。「そのママにモテた事がショックだったようですよ。他にも女の子がたくさんいたのに全然寄ってこなかったし─」
「な~んだ、そんな事か!」ハハ・・と笑い、関がジョーの肩を組む。「いいじゃないか、ジョー。そうやって自分自身の視野と可能性を広げていくものだ」
「・・・そんなもの広げたくねえ・・」
「あのママはいい人だよ。一人身らしいし。若く逞しい君がとても頼もしく見えて─」
「だからって男(ママ)に言い寄られたくねえ!」バシッと関の手を振り払う。「あ~、ムシャクシャする!関!さっきのシューティングやって行こうぜ!今月の給料全部賭けてやる!」
「完全におれ達の職業、忘れてるな」
 関が肩をすくめ、神宮寺が苦笑する。が、
「いえ・・思い出せそうですよ」
 チラッと神宮寺の目が関の肩越しに前方に向けられた。関が振り返ると、明らかに敵意を含んだ5、6人の男達が立ち塞がっていた。
「日本にいるとは驚いたぞ」その中の大柄の男が言った。「一緒に来てもらおう」
 その言葉に関と神宮寺が、〝誰の客だろう〝と顔を見合わせた。と、大柄の男の合図と共に残りの男達がサントスを囲む。
 日本語だったせいもありサントスはキョトンとし、
「これって日本式のナンパか?」
 と、神宮寺達を振り返り見た。
「君達は何者だ。彼になんの用がある?」
 とりあえず関が訊いた。
「お前達もこいつの仲間か。ブツの在り処を知っているなら一緒に来てもらうぞ」
「ブツ?」関と神宮寺が首を傾げ、「何かいい物を持ってるか?」
 と、どー解釈したのかサントスがニッと笑った。
 男達はちょっと引いたが、サントスを連れて行こうと手を掛けた。その手をサントスが振り払う。男がドタッと地面に転がった。
「お誘いなら、もうちっと優しくするんだなっ!」
 サントスが男達の中に踊り込んだ。ボカ!ドスン!と自分は優しくない返事をする。
 サントスのお客らしいし、事情がよくわからないので関と神宮寺は参加を迷っていた。が、
「おー、ムシャクシャしてたんだ。ちょうどいい」
 背後から低い声が響く。ふと見ると、ブルーグレイの瞳を光らせ両手をポキポキさせているジョーがいた。
「ヤバッ。関さん止めてください。この状態で暴れられたら手に負えなくなる」
「わかってる」
 関があわててジョーの腕を掴んだ。だが、これで止められるようではSメンバー失格だ。
 おまけに先程までのショックとアルコールも手伝い、ジョーは男達の中に飛び込むとサントスが押さえている男まで奪ってボカッ!ガツン!とハデな音を上げ始めた。
「あ、あ~あ・・」
 こうなると関はもちろん神宮寺にも止められない。
 男達には気の毒だが2人は早々に諦めて、道の真ん中に次々と倒されていく男達を見ていた。
「ものたりねっ」パンッと手を叩きジョーが言う。「おれ達をナンパするなら、もう少し手応えある奴を出して来い。─で、こいつら誰だ?サントス」
「知らねーよ。君達の友達じゃないのか?」
 友達ならこんなボコボコにはしない。と

「危ない!」
 関がジョーとサントスの体をドンッと押した。スレスレに銃弾が跳ぶ。1人残った大柄の男が銃口を向けていた。
「おれ達に銃を向けるなんていい度胸だ」
「あーいうのを〝知らずがほっとけ〝って言うんだろ?」
 ジョーの言葉に関が首を傾げた。
「ゆっくりとこっちへ来い、ノーマン」
 男はサントスに言う。
 人違いなのはわかったが、サントスは言われた通り男に近づいて行った。途中チラッと神宮寺に目をやる。
「よし、このままおれに─」
「であ!」
 サントスの足が上がり、男の手から銃を蹴り飛ばす。そこへ神宮寺の手刀が首筋に入り、同時に腹を蹴り上げた。男はあっけなく地面にうっぷした。
「さすが、ジングージ
「お前にしては攻撃的だな、神宮寺」
 完全に気絶した男を突っつきながらジョーが言った。
「素手のおれ達に銃を向けたんだ。これくらい当然さ」
「ってお前、素手も武器じゃん」
 ジョーに言われ、ふむ、と神宮寺が自分の手を見た。

 と、遠くからサイレンが聞こえ、やがてこちらに向かってくる足音が響く。
「あ、ヤベェ」関が焦る。が、「・・君達が一緒だからなんとかなるか」
「だから、そーいう事に利用しないでくださいって!」
「なんだ?新手のナンパか?お~、制服か~、それもいいな~」
「範囲広いな、サントス」
「もちろん何も着ていないのが一番いいけど」
 チラッと神宮寺を見る。パキッと神宮寺の指が鳴った。
「手を上げろ!ゆっくりだ!」
 警棒を持った警官達が4人を囲んだ。
「おい、間違えるな。おれ達は襲われた方だぞ」
 と関は言うが、目の前のこの状況を見れば関の言う事を信じる者はいない。と、
「ノーマン?」私服警官の1人が呟いた。「ノーマンか。日本に帰ってたのか!」
 警官達がサッとサントスを取り囲んだ。
「連行しろ!こっちの3人も転がっている男達もだ!」
 サントスが動こうとしたが神宮寺が止めた。
「あ~あ、また左近さんに叱られるなあ」
 警官を睨めつけ、ジョーが呟いた。

「また君達かね」
 案の定、ダブルJを目の前に新宿署特別課々長の左近がため息をついた。
「おまけに今回はニューヨーク支部のメンバーに公安の主任・・・なんて取り合わせだ」
「おれ達だって来たくて来たんじゃないんですけどね」ソファに座り、ちゃっかりとコーヒーをご馳走になっているジョーが言った。「あの男達は何者なんですか」
「あの辺りをシマ(縄張り)にしている北川組の連中だが・・なるほどね」
 サントスを見て頷く左近が1枚の指名手配書を4人に渡した。何人かの外国人が写っていて、その1人が、
「サントス?」ジョーが呟き、「あんたお尋ね者だったのか」
「いや、目の色と身長が違う」神宮寺が言った。「よく似てるがサントスじゃない」
「これだけでかかったら2、3センチの違いなんてわかンねえぜ」ジョーが手配書の写真をピンッと指で弾いた。なぜかサントスが痛そうに顔をしかめる。「つまり奴らはこの男とサントスとを間違えたってわけだ。このサントスはなにしたんですか?」
「ノーマン・スティビー。元は奴らと同じ北川組の─ええっと、彼(サントス)日本語は?」
「ニホンゴ?シッテマス。ジングージ、スキ、アイシテル。コンヤイッショニ─ぐあっ!!」
「続けてください、左近さん」
 目を見開いてサントスを見ていた左近の目の前で、その巨体に肘鉄を食らわし神宮寺が言った。
 ジョーと関が肩を震わせ彼らから目を背ける。
「あ、ああ」左近が英語に替えた。「同じ北川組の組員だったが、3ヶ月程前に突然行方不明になってね。それも末端価格60億円と言われているヘロインと一緒に」
「それで〝ブツ〝なのか」関が頷いて、「組はまだその60億を諦めてはいない─」
「それどころか他の組も狙ってましてね。ヘタすると東京中の暴力団がノーマンを捕らえたいと思っていますよ。それに奴らは裏切り者に厳しいから、突然撃ってくるかもしれない」
「そりゃいいや。サントスを新宿に放しておけばヒットマンを捕らえ放題だな」
「サントス、あまり出歩かない方がよさそうだな」
「やだっ。まだジングーとロッポンギに行ってないっ。このくらいの事でジングーと遊びに行けないなんていやだ!」
 わめくサントスに、神宮寺と六本木に行くために命を賭けるのか・・と思ったが、あまりにも怖すぎて誰も何も言えなかった。
「今日はもう帰ってもいいですよ。でも気を付けてください、サントス」
 無罪放免となった4人が新宿署を出る。終電には間に合いそうだ。
 ジョーは中野の神宮寺のマンションに、サントスは曙橋の関のマンションに泊る事になった。 
 組み合わせが違うだろー!とサントスがわめいたが、神宮寺は無視した。

 新宿や池袋、上野など都内あちこちの暴力団関係の動きが慌ただしくなったとJBに伝わったのは、それから2日後だった。
 警察はサントス達を襲った北川組の組員逮捕の際、人違いで外国人を襲ったと罪状を組に伝えているにも関わらず、いやあれは本当はノーマンだったのだと真しやかに噂が流れ、多くの組関係が〝ノーマン〝を追う事になった。そのための情報も求めているという。
 60億ものヘロインを扱えない小者達が、その情報料を取ろうと町に出ている。さらに他の組に渡すくらいならと北川組がヒットマンを出した、という噂もある。
 が、そのうち本当にノーマンを見た、という者も現われた。
 ノーマンはサントスよりわずかに背が低く瞳の色が違うが、サントス同様褐色の肌に短髪、2メートルを超す巨体─と、一度見たら脳裏に焼きつく風貌だ。
 おまけにどう考えてもその時間、サントスが行かれない場所での目撃情報も相次いでいる。
 警視庁はパトロールの警官を大幅に増やした。

「おとなしくしていた方がいいと思うぜ、サントス」
 閉まるドアに寄り掛かりジョーが言った。
「やだね、ほっといてくれ。それになんで付いてくるんだよ」
「出て行くのを見かけちまったんだ。仕方ねえじゃん」ガタンと車体が動いた。次はもう新宿駅だ。「それにおれもひまだし、おもしろそーかな、って」
「こっちはおもしろくない。時間がないんだ」
 外国人が電車に乗っていても珍しくないが、この2人ではやはり目立つ。
 朝のラッシュアワーはとうに過ぎているが、昼前の山手線もかなりの乗客だ。皆、チラッと2人に目を向けてくる。が、サントスはそんな事に気付かずひとりイライラしていた。
 この3日間、街に出るたびに警察に職務質問されたのだ。原因はわかっているがどうしようもない。
 彼は国際警察だが、ファーの件で来日しているので今は公安預かりになっている。しかしそれを明かす事はできないので、日本語がわからないふりをし─本当にわからないのだが─結局責任者の関に迎えに来てもらう事となる。
 関も大変だが、“ノーマン発見!”と出向いてそのたびにサントスでは警察も大変だ。行動を自重するようにと公安課長から言われてしまった。
 それなら色気のない(?)公安にいるよりJBで遊ぼうと千駄ヶ谷に来たのだが、神宮寺は今日は〝表の仕事〝とやらで不在だった。それがますますサントスを不機嫌にした。
 勢い付いて外へ出て行くサントスを見て、何かを感じたジョーがくっついて来た。もちろん、おもしろそうというのも本音だ。
「そうか。ロブとドウラが退院したら、あんた一緒に帰国するのか」
「ロブは今日明日にも退院できると、ドクタが言っていた。そしたらおれはもうオフは取れない。ジングーとロッポンギに行けなくなる」
 東口の改札を出て、ええと・・と迷うサントスに、こっちだとジョーが手を振った。階段を上がりアルタの前に出た。
「いざとなったら2、3発ぶん殴って、入院を長引かせてやる」
「やるか、そこまで・・」

 2人は靖国通りを渡り歌舞伎町1丁目に入った。見渡す限り飲食店やゲームセンターで溢れている。
「この辺りはこの前関達と見た通りとは違うが、昼間はこっちの方が人通りが多いぜ。で、ここで何するんだ?」
「決まってる。ノーマンとやらをとっ捕まえるんだ」
 ヘエ!とジョーが楽しそうに声を上げた。
「奴が捕まればおれは安心して街を歩ける。ジングーと遊びに行ける」
 警察なんだから、ノーマンを見つけてへロインの押収を─と考えそうなものだが、サントスの目的はあくまでも神宮寺と六本木に行く!─この一語に尽きる。
 ジョーは感心と呆れを半々にサントスから少し距離を開けて付いて行った。

 この広い新宿、いや東京でそう簡単にノーマンが見つかるとは思わない。
 しかしサントスが動く事によって北川組を始めとした暴力団が動き、一般人に被害が出るのだけは防がなければならない。またサントス自身でさえヒットマンの銃弾で倒れるかもしれないのだ。
(こーいうひまな役って苦手なんだよなー)
 ジョーはため息をついたが、こうなる事を見越していた神宮寺からサントスが動いたら必ず付け、と言われている。いつもとは反対の役に少々イラつく。
(チェッ、洸にでも押し付けちまえばよかったな。─ん?)
 ふと前を見るとサントスがいない。おれを撒くなんざァ、さすがニューヨークのメンバー!と思ったが、なんの事はない。すぐ横のゲーセンに入っただけだった。
 彼は店の真ん中に立ち、
「どいつが北川組のチンピラだ?ジョー」
 が、ジョーが知らねーよと答えると、サントスは店内にいる男達を片っ端から捕まえて、「You!?」と訊きまくり始めた。
「あ、あのバカ・・」
 ジョーが頭を抱えた。
 彼は騒ぎを起こすのは得意だが収めるのは苦手だ。だが放っておくわけにもいかない。
 ジョーはサントスの腕を掴み店外へ引き摺り出そうとした。が、サントスの力に跳ね返されてしまう。
「やめろ、サントス!騒ぎを起こすな!」
「お前の方がうるさいぞ、ジョー!おれとジングーをロッポンギに行かせないつもりだな!」
「六本木だろうと三途の川だろうと好きな所に行ってくれ!あんた1人でな!」
「嫉妬か。見苦しいぞ」
「なんでおれがあんたに─!」
 とミイラ盗りがミイラになり、2人は店の真ん中で取っ組み合いを始めた。
 こうなると後はいつものお決まりのコースで─。



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