コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   1 comments   0 trackback

始まりの地にて 6

 「ここゴスラーとヴェルニゲローデ、クヴェトリンブルクやターレ、この辺りをハルツ地方といいます」地図の上をカイザーの指が動く。「実際にはもう少し広範囲ですが」
 居並ぶ7人の顔を見回し説明している。
 7人はベルリン支部の者ではない。イギリスとフランスに2人、日本に3人いるSメンバーの面々だ。
 「やはり広いですね」神宮寺が言った。
 「そしてこれが衛星からの写真ですが」
 カイザーは地図の上に透明の地図を乗せる。それには偵察衛星が送ってきた“ユーロ反対団体”─彼らは勝手に“反ユーロ”と呼んでいるが─の施設らしい建物がいくつも写り込んでいた。
 「このすべてが重要施設ではないでしょう。ダミーかと思われます。この中から本物を探し出し─」
 「ミサイル発射施設と制御施設か」洸だ。「たぶん別々にあるんだろうな」
 「おそらく。しかしそれも1ヶ所づつとは限りません。我々も何組かに分かれます」
 「これは大変な仕事になるな」フランス人のジャンが言った。
 神宮寺は再び地図を見る。広大なるハルツ山地・・・。ここへ再び入るのか。相棒もいないのに・・・。

 ハラーシュトラーゼ駅からU1に乗った。北へ向かう。南に向かうコースより少し遠回りになるが乗換えが少なく済むのだ。
 9才でドイツを出たジョーは1人で地下鉄に乗った事はない。今走っている銀色と赤の車体が当時と同じだったのかわからない。なんとなく日本の地下鉄を思い出す。
 ドアの近くに立ち、ぼんやりと車内に眼を向ける。6時を過ぎているのに子供づれが多いのは、たぶん目的地がジョーと一緒だからだろう。
 突然、左手首のシャルルホーゲルが振動した─ように感じた。ジョーは驚いて時計を見る。もう何も感じない。何かの機能が働いたのだろうか。
 考えてる間もなく乗換駅に着いた。客がドッと吐き出された。皆U3乗り場に向かう。6つ目がザンクト・パウリ駅だ。
 地下から上がるとすぐ目の前に会場の入り口が見えた。もうすでに暗くなっているので遊園地の乗り物はネオンがピカピカに輝いてきれいだ。が、ジョーは一瞬躊躇する。と
 「ジョージ!」ラルスが手を上げてジョーを呼んだ。「ここだよ。やっぱり来たね」
 「わあ、本物だあ」ラルスと一緒にいた男女が声を上げる。「本当にジョージだ」
 「・・やあ」ジョーは軽く片手を上げて彼らに歩み寄る。
 「フリッツにイルゼ。マリアとギュンター」ラルスが1人1人教えてくれる。「わかるか?みんなあまり変わっていないと思うけど」
 「ああ」
 名前と顔を照らし合わせて、ジョーの記憶が一気に甦ってきた。確かに皆ジョーの小学校時代の同級生だ。
 「あなたが洋服をボロボロにして暴れていたあのジョージ?」イルゼだ。「信じられないわ。こんなに素敵になるなんて」
 「君もさ、イルゼ」ジョーが口元を歪める。「ちょっかい出すとスカートをまくって追いかけてきたオテンバ娘が、今はどこのご令嬢だい?」
 「まあジョージったら!セクハラになるのよ、今は」金髪を揺らしてイルゼが怒る。「罰として今夜あなたの部屋に泊まりに行くわよ」
 「・・・それって、誰が罰を受けた事になるんだ?」ギュンターが混ぜっ返し、皆笑う。
 「あ、そうだ。もう1人、オリバーだ」
 ラルスが1番端にいた男を紹介した。黒い髪に茶色の瞳をした25、6才くらいのがっちりした男だ。
 「彼の事は知らないよな。おれがバイト先で知り合ったんだ。気さくないい奴だよ」
 「よろしく」オリバーが右手を差し出す。なんだ、道理で思い出せないわけだ、と安心してジョーも右手を出した。「!」
 ジョーの手を握ったオリバーがビクッと反応した。それはジョーにも伝わったが、何に驚いたのかはわからなかった。オリバーは手を離し、じっとジョーを見た。
 「さあ、早く行きましょう」
 マリアの声と共に一行はゾロゾロと輝く遊園地に入っていった。
 ドームはザンクト・パウリ駅から隣の駅の間、約3、3キロほど続く。モンスターハウスやジェットコースターのある移動遊園地の他に、レストランやバーまであるのだ。
 「今回こそ観覧車に乗りましょうよ」
 「やだよ、寒いもん」フリッツが言う。
 観覧車には窓ガラスがなく吹きっさらしになっている。冬のこの時期に乗るのは確かにきついだろう。
 「そんな事言って・・。確か夏は暑いからいやだって言ったじゃない」
 「そうだっけ・・?」フリッツがとぼける。
 彼らは別に乗り物に乗りたいわけではない。年3回来るこの祭りの雰囲気を楽しんでいるのだ。
 「おれは夏のリベンジをするぞォ」ギュンターが息込んで店に入って行く。
 「まただよ?」ラルスが声を上げた。「ギュンターの射的は長くなるぜ」
 「いいじゃない。私、ぬいぐるみがほしいわ」
 マリアがギュンターのあとに続いて“射的ゲーム”と看板を掲げた店へと入っていく。皆も続いた。
 「ほら、ラルスもフリッツも─」“共犯”にしようと、ギュンターが友人達に射的用のおもちゃのピストルを持たせていった。「ジョージも」
 「い、いや、おれは」
 と、言っているうちに持たされた。一瞬右手が震えたがすぐに収まる。これは遊びだ。これはワルサーではないんだ、と自分に言い聞かせた。
 弾丸(たま)は5発。8mほど向こうの的に当てるだけだ。点数が書いてあって、それによって賞品が貰えるらしい。マリアがしきりに“大きなぬいぐるみ”と言っている。
 ギュンターやラルス達は次々と撃っている。しかしジョーと、やはり持たされ組みのオリバーはなかなか撃とうとしない。こんな物は早く撃って終わりにすればいいのだが─。
 だがジョーは、試したくなった。
 彼はフランスに来てから、いや日本でのあの事件の時も、一度も銃を撃ってはいない。銃口を向けるが、どうしてもトリガーを引けなかった。
 横須賀港で貨物船に突入する前、神宮寺がワルサーを手にするのを迷っていたジョーに向かってこう言った。
 “今、これを手にできないとこれから先─”
 彼の言葉はここで切れたが、この先はわかっている。手に取る事はできたが結局撃つ事はできなかった─。
 今もそうだろうか・・・。おれはまだ撃つ事ができないんだろうか・・・。
 「ジョージ、どうしたんだ?」
 ラルスに声を掛けられハッと我に返る。ピストルを肩の位置まで上げてスタンディングオーベーションに構える。
 (そう、これはおもちゃだ)
 一気に5発撃ちつくす。弾丸は全部高得点を撃ち抜いた。横にいたオリバーが目を瞠っている。
 「すごいなあ、ジョージ」ギュンターが驚いて声を上げた。「失業中だって聞いてたけど、警官になれるんじゃないか」
 「こんな怖い目の警官がいたらいやだな」フリッツがまた混ぜっ返した。
 ジョーは受け取ったぬいぐるみをマリアに渡した。頬にキスをされ赤くなる。いや、赤くなったのは照れているからではない。“自分は撃てる”と確信したためだ。
 その後オリバーも見事な腕前をみせ、ぬいぐるみがもう1つ増えた。
 ジョーは安堵するとまだゲームで遊ぶ友人達を見ていた。と
 「失業中なのか?」オリバーだ。「よかったら仕事を紹介するぜ」
 「え・・・」
 「あんた、銃を撃った事あるだろう。それも頻繁に」ジョーが驚いてオリバーを見る。「あんたのその手でわかるよ。銃ダコでね」
 「・・・・・」
 ジョーは思わず右手を握る。たった一度握手しただけで、ジョーがよく銃を使っていたとわかるこの男は・・・。
 「気が向いたら連絡をくれ。番号はラルスが知っている」
 そう言うとオリバーはラルス達の方へ走って行ってしまった。

 「くそォ、ここも違うぞ」一平が唸る。「建物の規模からみて、絶対だとおもったのに」
 「あっちはどうかな」洸はGショックに神宮寺のコールナンバーを打ち込み発信した。「ミスタ?うん、やっぱりね。こっちもダミーだったよ」
 どうやら神宮寺とカイザーが向かった建物も外れたらしい。
 「一度ベースキャンプに戻るの?わかった」
 「こんな事やってて本当に間に合うのかなあ。奴らの期限は2日後なんだろ。それまでに本拠地を見つけて叩かなきゃ、ユーロのあちこちにミサイルが落ちるぜ」
 「でもあんまりハデにはできないだろ」ベースキャンプに戻るために、2人とベルリン支部の3人が車に乗り込む。「ぼく達が動いている事はあくまでも秘密なんだから。万一バレてミサイル発射を繰り上げられたらそれこそ大変さ」
 「わかってるけど・・いいかげんじれったいぜ!」
 一平が声を荒げた。

 「!?」
 ジョーは左手首に振動を感じ足を止めた。しかしそれ以上何も変わった事は起きなかった。いや前にもあったなあ・・。説明書を読んでいないので、ジョーの知らない機能が付いていてもおかしくはないのだが─。が、ひとつ気になる事がある。この時計を持ってきたのが洸だという事だ。
 「爆弾でも仕掛けられているのかな」
 あいつならやりかねない。
 再び歩き出し、大きな家の角を曲がる。目の前にあの家が現れた。
 (もうすぐ帰らなければいけないし・・・)
 ジョーは、家がよく見える所に立ち止まる。昔よく行ったアルスター公園へ散歩に来て、そのままここまで来てしまった。ホテルからは2キロもないのだ。
 (もう一度だけ・・)
昨夜は10時半の花火の打ち上げまで皆と過ごした。ラルス達はあのあと飲みに行ったらしいがジョーは一人先にホテルに戻った。なぜかひどく疲れていた。部屋に入ったとたんベッドに倒れ込む。
 皆と別れ際イルゼがジョーのホテルを訊いたが、結局彼女は来なかった。もっとも来たところでジョーはそのまま眠り込んでしまったので、またイルゼを怒らせる結果になったかもしれないが。
 ジョーはコートの襟を掻き合わせ、冷たい風に抵抗する。
 車で来ればよかったと、ちょっと後悔した。寒さもあるが今は平日の昼間だ。ただでさえ人通りが少ないのに、じっと立ち止まって家を見ているジョーは絶対に怪しい。日本なら通報されているかもしれない。一度ホテルに戻って車で来ようかと思ったが、果たしてまたここに来ようという気持ちになるだろうか。
 もしその気にならなかったら、これでこの家の見納めになるかもしれない・・・。自分が決めればいい事なのだが・・・。そう思うと、ジョーはこの家の前から離れることができない。
 そのうちポツポツと雨が降ってきた。小さく舌を打つ。
 2階の窓に目をやった。一番右端がジョーの部屋だった。今も明るいブルーのカーテンがかかっているから、子ども部屋として使っているのだろうか。昨日の10才くらいの男の子─。
 雨は弱いが確実に体を濡らしていく。身震いした。が、立ち去ろうとは思わなかった。
 そんなジョーの横を1台の車がスーと寄って停まった。中から3人の男が降りてきてジョーを囲むように近づく。動きに無駄がなく確実だ。ただ者ではない、とジョーのセンサーが鳴っている。
 「What are you doing here?」ダークブロンドの、1番背の高い男が言った。「あなたのパスポートを見せてくれませんか」
 「・・・Ich bin ein Deutscher(おれはドイツ人だ)」
 「あ、これは失礼」
 男はちょっと驚いたようだ。しかしジョーの場合、これはよくある事だ。どういうわけかドイツ人には、ジョーはイタリア人に見えるらしい。とりあえず英語で話しかけてくる。
 「それでは、何か身分を証明する物を見せてくれないか」
 「・・・・・」
 ジョーは3人の男達を睨みつける。蹴り飛ばして逃げる事は可能だろう。だが後々の事を考えるとそれも躊躇う。
 これは“仕事”ではないし、今のジョーは一般人にすぎない。
 「その前に・・あんたら何者だ」
 「我々はこういう者だ」
 別の男が内ポケットから何かを出して掲げた。
 「ハンブルク市警・・?」
 ジョーは途惑った。警察にやっかいになる事をした覚えはない。一瞬、鷲尾が手を回したのかと思ったが、そんな事をする必要もされる必要もない。
 ジョーは仕方なく運転免許書を出そうとした。
 「こ、この男、昨日オリバー達と一緒にいた男だ!」1人が叫んだ。
 「なんだって!?」
 ダークブロンドの男がジョーを掴もうと手を伸ばして来た。とっさに払い除け蹴り上げようとしたが、別の男が組み付いてきた。顔面に手刀を入れてやる。グッと唸って男はひっくり返った。
 「抵抗するな!」
 「そっちが先だろ!」
 ジョーも怒鳴る。ダークブロンドの男に掴みかかろうとして─動きが止まった。銃口がこちらを向いていた。
 「・・くそォ」
 「ルーカス、大丈夫か」
 銃を握りながらダークブロンドの男が気遣う。ジョーに倒された男が今、起き上がったのだ。
 「大した手刀だな。鼻にヒットしていたら折れていたかもしれない。クリフ、ボディチェックだ」
 「手加減してやったんだよ」ジョーがうそぶく。
 クリフはジョーのハーフコートを脱がし、体をパンパン叩いた。
 「凶器は持っていないようだ」
 当たり前だ、とジョーが睨む。
 「運転免許書がある」クリフがダークブロンドの男に渡した。
 「国際免許証か・・・。GeorgeーAsakura?」男がジョーを見た。「そういえば君をどこかで見た事があるような・・。アサクラ・・。もしかして君は、日本のSメンバーのジョージ・アサクラか!」
 「!」ジョーも驚いて男を見た「あ、あんたは─」
 「トーマス・レイマン」男はジョーの反応で自分の言った事の正しさを確認したのだろう。「ハンブルク支部、管理課副課長」
 「管理課・・・。じゃあ・・」ジョーは家を見上げた。と「ふぁっくしょん!」
 「お、おやおや」トーマスはクリフからジョーのコートを受け取り、肩に掛けてやる。「車に乗りたまえ。中で話そう」
 「トーマス。大丈夫か、彼はオリバーと─」
 「大丈夫、おれの仲間だ」
 後ろのドアを開けてジョーを促す。自分もその横に座った。あとの2人も前の席についた。
 「彼ら2人はハンブルク市警の警官だ。ちょっと手伝ってもらったんだよ」
 「手伝い?」暖房を入れてもらい、ホッと息をつく。
 「2日続けて、あの家の前に張り付いている不審な男がいる─ってね」
 「ハン・・なるほど」
 髪を掻き上げジョーが呟く。
 ジョー達が暮らしていた頃も、この家は完全なセキュリティシステムに守られていた。もし今も国際警察の関係者が住んでいるとしたら、当時より数段進んだセキュリティが施されているはずだ。今や一般の家でさえ、防犯カメラが設置されているのだから─。
 ちょっと考えればわかりそうなものだ。どうもこちらに来てから調子が悪い。最初は日本での事件のショックのせいかと思っていたが、いつまでたっても頭はすっきりしないし体も重い。日本にいた時より、ゆったりと余裕のある生活をしているのに。物事をあまり考えなくなり、体も切れがなくなったように思う。さっきだってトーマスを蹴ろうとしたがジョーの呼吸と体の動きが合わなく、ルーカスに組み付かれてしまったのだ。
 「チッ・・・、鈍ったかな」
 「でも」トーマスが怪訝そうに言う。「日本のSメンバーは今ハルツのはずだが」
 「!」
 ジョーの目がトーマスを捕らえる。青い目が今までにない強い光を発する。
 「あ、いや、あの・・」ジョーの反応にトーマスの方が驚いた。「まあSメンバーの任務というのも、色々あるみたいだし」
 彼は勘違いしてくれた。ジョー1人だけ別の任務を受けていると思ったようだ。
 一般のメンバーはSメンバーの任務には関与しない。もちろん詮索も無用だ。だがトーマスには、1つだけ確かめておかなければならない事がある。
 「君はハンブルクドームでオリバーと一緒だったが、どういう関係だい?」
 「オリバー?」ああ、さっきもそんな事言ってたっけ。「オリバーとは昨夜初めて会ったんだ。あとの5人は基礎学校(小学校)の同級生だが・・・。え?見張っていたのか?」
 「君の今の任務とオリバーとは、関係ないんだな」トーマスが訊く。
 ジョーは一瞬返事に詰まったが、とりあえず頷いておく。
 「それならこの件はもう忘れてくれ。今まで通り付き合っていけばいい」
 「オリバーが何か犯罪に関係しているのか?」まあ、な・・とトーマスが頷く。「おれの友人が関係しているかもしれない。オリバーは何を─」
 「大丈夫。そこはうまくやるよ。我々の目標はあくまでもオリバーだ。だから君は自分の任務を全うしてくれ」
 任務なんかあるか、くそっ!と思ったが黙っていた。
 同じ国際警察の組織でも、国によって多少の違いはある。しかし捜査課ではなく管理課が動いている事件というのはいったい・・・。
 「ホテルまで送るよ」
 トーマスの声にハッとする。窓から外が見えないくらい雨足が強くなっていた。 
                  5 へ      ⇔     7 へ 
                     

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Comment

淳 says... "覚書き"
結局パリ編も2冊(ノート)になる。

W杯ベスト4がドイツ、イタリア、フランス、ポルトガル。いい顔ぶれ。
ドイツvsイタリアか・・・複雑だ。ドイツに勝ってもらいたいけど。

「ドイツ人にはジョーがイタリア人に見えるらしい」と書いたのだが、サッカーダイジェスト(雑誌)にW杯の各国の選手の顔写真が載っているが・・・う~ん・・イタリア人か・・・。確かにそう見えるかも。
元々のGがジョーはイタリア人の設定になっているし。

でもドイツ人の顔立ちの方が好きだな、淳は。
バラック(ドイツ代表)はいわゆる「灰色かかった青い瞳」のように見える。
2011.01.29 17:30 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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