コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

闇に溶け込む黒い影 9


「で、そのイマイって奴はヘロインの在り処は知らないのか?」
 サントスが訊いた。
「奴は下っ端だからね。そこまでは知らないさ」開いていた窓から入った2人は今建物の2階にいた。「ノーマンをここで見たのも偶然だったらしい」
「う~、どうもこーいう地味な捜査は苦手だ」と、立花がクスッと笑った。「なんだ?」
「いや─、ジョーに似てるな、と思って」
「ジョーにだと!やめてくれ、あんな奴と同等に見られたくない!」
「こ、声が大きいよ、サントス」立花があわててサントスの口を塞ぐ。「だけどどうしてそんなにジョーを嫌うんだ? 神宮寺とコンビだから? それとも他にも理由が?」
「り、理由と言われても─なんとなくで、他には・・・」
 ん~と考え込むサントスを見て、やっぱりジョーと同じタイプだ。言いたい事言って自分勝手ですぐ熱くなる。いざという時は仲間をも脅し上げる─だから悪い奴ではない、と立花は思った。
「君はジョーが好きなのか?」
「もちろんさ。あ、これは仲間という意味でそれ以上の事は─
「よしっ、おれがジングージとコンビを組んだらジョーは君にやる。だから手を貸せ!」
「は? や、やると言われても─」
「今からおれ達は共通の目的を持つ同志だ。仲間だ」
 サントスの太い腕を肩に回され、その重さにヨロける。勝手に同志にされてもなァ・・と苦笑した。と、
「サントス!」
 サントスの腕の中からスッと体を落とし、横の廊下から出て来た男の足を払って床に倒した。当て身を食らわし気絶させる。
「おりゃ~!」
 続いて飛び出して来た男をサントスがバンッ! と壁に押し付けた。手を放すとズルズル・・と床にへたり込む。当て身をしなくても気絶していた。
 ジリリリ・・・と警報が建物内に鳴り響いた。
「しまった」
 立花が眉をしかめた。いくつもの足音が聞こえて来た。2人は反対側に走る。

「立花!」階段を昇って来た神宮寺とジョーに会った。「なにドジってんだよ!」
「すまん。君を引き取ろうかどうか考えていたんだ」
「・・・は?」
「ジョー」
 鋭く、神宮寺の声が飛ぶ。階段の下から男達が駆け上がってきた。
「テォオー!」
 ジョーが飛び、先頭の男を蹴り上げ、だがその勢いで団子になりまとまって階下へ転がり落ちて行った。
 神宮寺が駆け付ける。と、ジョーは4、5人相手に元気に暴れていた。
「こうなったら強引に突破だぜ、神宮寺!」
 最後の1人を倒そうとして─スピードマスターが鳴った。
『ノーマンを見つけたぞ!』伊藤だ。『地下だ。建物の右側から降りられる』
「よし、おれが行くまで押さえて─うわっ!」スピードマスターに気を移したジョーを男が殴った。「このやろう!」
 体をひねりひと蹴りで床に沈める。そのまま走り出した。
「待て、ジョー!」
 声を掛けたが止まるはずはない。
 神宮寺は一瞬階上を見上げたが、立花とサントスが降りて来たのを見るとジョーの後を追った。

 地下への入り口はすぐに見つかった。降り切ると開いたドアから光が漏れていた。
「早いな、ジョー」
 伊藤が振り返った。その向こうにはイスに縛り付けられ気を失っているノーマンが見えた。西崎が縄を解いていた。
「なんでこんな所に。ノーマンは匿われていたんじゃないのか。これではまるで監禁だ」
「解けたぞ」
 縄が緩むとノーマンの体がイスからズリ落ちてきた。西崎が受け止めるが、そのまま2人して床に倒れ込んだ。
「お、重い─
 バタバタ暴れる西崎を2人掛かりでノーマンの体の下から引っ張り出した。
 ジョーがノーマンの顔をパンパンと叩く。
「起きろ、ノーマン!ヘロインはどこだ!」
 だがノーマンが目を覚ます気配はない。 
 ジョーはウッズマンを取り出しノーマンに近づけた。トリガーに指がかかる。
「ジョー!」神宮寺だ。「なにをするつもりだ」
「あわてるな。撃ちゃしねーよ」チラッと瞳だけを神宮寺に向けた。「耳元で銃声を聞かせれば、さすがのこいつも目が覚めるだろうよ」
「バカな事をするなっ」
 ウッズマンのバレルを掴み、銃口を上へ向けた。
「放せっ!」
 ジョーは左手で神宮寺を押し退けようとする。
 力はジョーの方が強いはずだが神宮寺は動かなかった。自分を掴んでいるジョーの手を引き剥がす。
 一瞬、2人の間に火花が散りその場にいた男達は固まった。だが、
「無駄だよ、ジョー」伊藤だ。「ノーマンは薬で眠らされている」
「くそォ・・・」
 ジョーが銃を引き神宮寺の手から離した。グッとバレルを掴む。
「ノーマンを車へ運ぼう。サントス頼む」
 OK! と快諾しサントスがノーマンを担ぎ上げる。しかし体格は2人ともあまり変わらない。西崎と伊藤が前後から補助をする。
 神宮寺が先に立ち階段を上がり裏口へと急いだ。途中誰とも出会わなかった。
「立花も一緒に行ってくれ。おれ達はヘロインを捜す。─行くぞ、ジョー」
 走り出す神宮寺の後を、ハッと顔を上げたジョーが追い掛けて行く。
「なんだかんだ言っても、やっぱりジングーはジョーがいいんだな・・・」大きな体のサントスが小さなため息をついた。「君も失恋だな、タチバナ」
 “失恋? ” “誰に? ”と顔を向けてくる西崎と伊藤にプルプルと立花が首を振った。

「待てよ、神宮寺」先を行く相棒の肩をジョーが掴んだ。「こんな広い所をどうやって捜すんだ。ノーマンを叩き起こして吐かせた方が─」
「おれが捜しているのはヘロインじゃない」
「え?」怪訝な目を神宮寺に向けるが、「─そうか・・・。堂本の・・・」
「ファーの移送の情報を本当に公安のあの人が漏らしていたのか・・・知りたい」
「それで西崎達を先に出したのか。だがそれはおれ達の仕事じゃない。関達がやっているはずだ」
 しかしファーの移送には神宮寺も関わっていた。確かめたいという気持ちもわかる。
「お前が任務中にチーフの指令以外の事に手を出すのは珍しいな。ま、捜してりゃあ何か出てくるだろうさ」
 完全に命令違反だが、ジョーもあっさりと受け入れてしまう。珍しくナーバスになっている相棒が気にかかる。
 2人はアルバムを見つけた部屋へと引き返した。

「他に目ぼしい物はないな」
 神宮寺がホッとしたような複雑な貌を向けて来た。と、
「お前達は何者だ」太い声に2人が振り向く。ドアを背に60代くらいの男が立っていた。「ノーマンを連れ出したのか。お前達は北川組の者か」
 男の後ろからさらに2人の男が姿を現した。下っ端とは思えない貫禄がある。天道会の幹部達か。
「あのヘロインは元々〝我々〝の物だからな」
 引き出しをゆっくり閉め神宮寺が言った。
「なかなかいい腕前だったな。北川組には惜しい。うちに来れば面倒をみるぞ」
「だとよ、神宮寺」ジョーが口元を歪めた。「〝Ja〝って返事するか?」
「それよりヘロインはどこにある。ノーマンから手に入れたんだろ」
 ジロリとジョーを睨み、そのままの目を男達に向け神宮寺が言う。先程までの暗い貌はもうない。
「隣の部屋の金庫の中だ。見たいか? 仲間になれば拝ませてやるぞ」
 男の言葉に神宮寺とジョーが顔を見合わせる。と、それをどう取ったのか「来い」と、男が踵を返した。が、
「おっと、1人づつだ。ヘタに手を出すともう1人が痛い目にあうよ」
「おれが行く」
 相手の態度に不可解さを感じたが、ジョーは自ら男の後についた。
「あの男が天道会の組長、真山か」
 神宮寺が残った1人に訊いた。
「そうだ。ちなみにおれは潮田、もう1人は白井だ。で、お前の名前は?」
「・・・・・」
 神宮寺が一瞬迷う。と、
「彼は神宮寺君。国際秘密警察の精鋭だ」
「堂本さん!」潮田の後ろから現われたのは公安2課の堂本だ。「やはり貴方が天道会と・・・」
 辛そうに呟き、ハッとジョーの連れて行かれた方へと目を向けた。1人づつだ、と引き離された理由(わけ)に気がついた。
「1人でもやっかいなのに、2人揃われるとさらに面倒だからね」堂本が薄っすらと微笑む。「仲間と連絡が取れるんだろ? ノーマンをここに連れてくるように言うんだ」
「ヘロインはもう手に入れたのに、どうしてノーマンに拘るんだ」
「あいつ、銀行の貸金庫にヘロインを預けやがった」潮田が言った。「そこはキーが静脈生体システムになっているんだ」
 そういう事か、と神宮寺は納得した。

 静脈生体システムは〝流れている〝静脈のみに対応する。
 登録されているのは当然ノーマンの静脈なのだから、彼でなければ開けられない。もちろん死体ではだめだ。だから彼は生かされていたのだ。

「まだ少し残っている。取り出すにはノーマンが必要だ」
「そうと聞いたらノーマンを渡すわけにはいかない」
「相棒が心配じゃないのか? 白井はうちのヒットマンだ」
「心配してるさ。彼を相手にする、その白井って奴の身をね」
 そのとたん、壁越しにバタン! と大きな音が響いた。さらにドタバタンと明らかに人の暴れる音だ。
 神宮寺がニッと口元を曲げ堂本と潮田を見た。
「神宮寺!」ジョーの声が飛ぶ。が、「堂本!?」
 一瞬足が止まった。そのジョーの背後から銃声が響く。ジョーの体が壁に跳び、間一髪でこれを避けた。
「ジョー!」走り寄る神宮寺の足元に潮田がタックルを食らわした。2人共床に転がる。「うっ!」
 上になった潮田が神宮寺の足を思いっきり踏みつけた。続いて負傷している左肩も蹴られた。仰向けに床に倒れる。
「動くな」潮田が銃口を床の神宮寺に向けた。「言い忘れていたが、おれもヒットマンなんだ」
 左肩を押さえた神宮寺が睨む。
 ジョーは壁を背にゆっくりと立ち上がった。彼には白井が銃口を向けていた。
「さあ、どちらでもいい。仲間に連絡をしてノーマンを連れて来るんだ」堂本の言葉に、しかし神宮寺もジョーも動かない。「早くした方がいい。彼らは気が短い」
 弾丸が神宮寺を掠りジョーの顔の横の壁に跳ね返る。
「堂本さん。あなたはおれ達の事を知っているんでしょ」静かに神宮寺が口を開いた。「だったら、いくら脅されようとおれたち自身が、そして互いが相手の人質になる事はないとわかっているはずだ」
「・・・・・」
 堂本が2人を見る。
 先程までの激しい眼の色はなく今は静かに、しかし何者にも動じない強い意志を乗せた2人の瞳にふと視線を外した。
「それなら、おもしろいものを見せてやれ」
 白井の後ろから顔を覗かせた真山が潮田に目配せをした。と、潮田がポケットから細長い物を出し神宮寺の横に踞んだ。
「!」
 神宮寺の表情が歪んだ。腕には注射器の針が刺さっていた。
「動くなよ。この中には普通に使う100倍の濃度のヘロインが入っている。少しでも体内に入れば・・・」
 潮田がピストンに指を添える。
「く・・・」
 神宮寺が抵抗しようとしたが、再び出血した左肩が動かない。
「じ、じん─」
 ジョーが一歩足を踏み出す。が、
「止まれ!」床を弾丸が跳ねた。「ノーマンを呼び戻せ! でなければ国際警察とやらの機密事項でもいいぞ。高く売れる」
「う・・・」
 ジョーが真山を睨む。
 ノーマンを呼ぶ事も機密事項を言うわけにもいかない。たとえ相棒を盾にされても─。 
 ジョーは神宮寺に目を移した。もちろん彼も想いは同じだ。真っ直ぐにジョーを見るその眼がすべてを語っている。
 と、彼の腕に刺さっている注射器が目に入った。
 あれだけの量のヘロインを射たれたら神宮寺は・・・。
 ジョーの中の恐怖が頭を擡げてきた。
 ヘロインを射った時、またそこから立ち直るための苦しさ。
 意識さえはっきりしなかったなかで、なぜかそれだけはよく覚えている。苦しさと恐怖がジョーの脳裏にしっかりと焼き付いているのだ。
「ジョー!」神宮寺が気がついた。「だめだ!」
「だ・・だけど・・・」
 体の震えが止まらない。刻み込まれたあの苦しみ─神宮寺をそんなめに遭わせたくはない。
 いや、あれだけの量を一度に射たれたら苦しむ前にショック死してしまう。
「じん・・お、おれは・・」
「さあ、早くしろ。あれだけのヘロインが体内に入ればどうなるか。お前ならわかるだろ?」
 真山の声が頭の中に響く。
 グッと目を瞑る。と、目の前が赤い光だけになった。
「──」
 ジョーにその気はないのだろう。しかし手が勝手に動きスピードマスターに伸びる。
「やめろ、ジョー! それ以上動いたらおれは舌を噛み切るぞ!」
「神宮寺」
 目を開きジョーが相棒を見る。あいつは本気だ。本気で─
「1人いればいい、殺れ」
 真山がイラつき、潮田に命令した。と、

「うりゃああ~!!」
 奇声と共にドアから大きな塊が飛び込んで来た。
「ノ-マン!?」
 真山達が叫ぶ。1番ドアの近くにいた白井が突き飛ばされた。
「なにボケてるんだ、ジョー!」サントスが叫ぶ。「相棒1人守れないのか! それならジングージはおれがいただくぞ!」
「サントス」
 ジョーが我れに返る。光を取り戻したブルーグレイの瞳が潮田を射る。
〝ノーマン出現〝にアッケにとられている潮田に向かって走った。潮田が銃口をジョーに向けた。銃声が長く尾を引き、ジョーの頬に血の筋を作る。
「ヤロウ!」
 体中のバネを使い、踞んでいる潮田のアゴに回し蹴りを食らわした。勢いで体を回転させ、相手は床に転がって行った。と、再び銃声がした。
「動くな!」神宮寺の横に立つ真山だ。「こいつのように動けなくしてやるぞ!」
「なに~。ジングージを動けなくしてナニかしただと~!」
 そんな事は言っていない。
 が、爆発寸前のサントスに油を注ぐ結果になり真山はあっさりと潰された。
「神宮寺!」
「・・・大丈夫だ」
 ジョーを見上げ神宮寺が答えた。西崎が慎重に注射器を抜く。
「す、すまない・・・おれ・・」
「─2人共無事だったんだから、いいさ」
 神宮寺がジョーの頬に滲む血をそっと指で拭った。
 ジョーが神宮寺の腕を自分の肩に回しゆっくりと立ち上がった。足が痛んだが折れてはいない。歩くのに支障はなさそうだ。
「おれが抱っこしようか、ジングージ? ジョーに引き摺られるよりラクだぜ」
「余計な手を出すな、サントス。お前は自分が潰した男を抱いてこい」
「なんだよ、さっきまでボケてやがったくせに」
「なんだと!」
「本当の事だろ!」
 う~と2人が唸り合う。が、
「頼むよ、サントス」
 神宮寺に言われサントスは牙を引っ込めた。すごすごと真山の元に向かう。潮田と白井は西崎が手錠をかけていた。
「─堂本さんは?」
「あ」
 室内にはいない。逃げたかと2人は廊下に出た。と、廊下の奥からダーン!と銃声が聞こえた。
「・・堂本」
 2人の横を擦り抜け、西崎とサントスが奥へと向かう。
 だが神宮寺とジョーはその場から動く事はできなかった。


                 
                          完につづく
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