コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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闇に溶け込む黒い影 完


「2人共、今回は本当に世話になった。すまなかった」
 ダブルJ室に入るなり関が頭を下げた。
 いえ・・と神宮寺が言い、ジョーはそっぽを向いたままだ。
「報告書は読んだ。あの別荘には堂本が流したと思われる公安の情報があったそうだ」
「そうですか・・・」
 神宮寺が小さくため息をつき、ジョーがチラリと相棒に目を向けた。

 最後の銃声から2時間後、西崎から連絡を受けた公安3課の関達が現場の別荘に到着した。
 西崎やサントスと合流し別荘を捜索する間、神宮寺とジョーはハリアで待機していた。 
 立花が2人の傷の手当てをしてくれたが、それが待機の理由ではなかった。
 ノーマンはすでに伊藤の運転するエルグランドで富士吉田の病院に運ばれていた。
 立花は神宮寺達も病院に搬送しようとしたが2人に拒否された。
 だが建物内の捜索に加わる事はなく、2人は無言のままハリアの座席に身を預けていた。
 やがて担架によって堂本が運び出された。車内から2人が見送る。
 大きな怪我はないが、神宮寺の青白く沈んだ横顔が気になる。ジョーは相棒のそばを離れられずにいた─。

「堂本の甥が天道会の組員でな。幼少の頃から可愛がっていた甥らしいが・・・」
 堂本はなんとかして甥を天道会から切り離そうとした。それが彼が長年天道会に関わる結果になってしまった。
「奴とここの捜査課の山田が同期の中では1番の出世頭で飲み友達だったが」
 堂本と天道会との繋がりに気がつかなかった自分を関は責めていた。
「どうしてそーいう事になってしまったのか」今気がつき、神宮寺が関にコーヒーを勧めた。「堂本さんの口から聞いてみたかったですね」
「そんな事聞いてどうするんだ」
 ジョーが神宮寺に目を向けた。
 いつもの強い光を乗せた瞳が、だがなぜか時々不安気な色に変わる。おそらく彼自身は気がついていない。
「そんなの意志が弱かったに決まってるじゃないか。甥のためと言いながら相手に引き摺られ最終的には自分の利益のために─」
「ジョー」
「いいんだ、神宮寺君。ジョーの言うとおりだ」煮詰まっていたのか今日のコーヒーはいつもより苦い。「情報に対しての金銭のやり取りもあっただろう。公安2課に対する調査もまだ終わってはいない。ヘタすると2課長にまで手が行くだろう」
「関さん、JBへの3課のバックアップは」
「ああ、それは今まで通り続行が決まった。JBに対する我々の功績を森チーフと鷲尾さんが内閣府に報告し、引き続きの協力を要請してくれたんだ」
「そうか」ジョーが初めて関に目を向けた。「それは良かった」
「・・・・・」
 珍しく素直な口調のジョーに関はまじまじと彼を見た。
「なんだよ」
「いや・・・、熱でもあるのかと思って・・」
「フン!あんたにはまだピカピカの色っぽい所に連れて行ってもらってないからな。利子に利子が溜まってJB全員分になってるぞ。逃げられてたまるかっ」
「ピカピカもいいがな、もっと漢字を勉強しろ、ジョー」と、ジョーの書いた報告書をパンッ!と指で弾いた。「〝不死山〝や〝別草〝はまだわかる。だがな、中には当用漢字や常用漢字どころか古語にも、いや中国の漢字にもないような字がゴロゴロしてる。それとわからない言葉だけドイツ語で書くのはやめてくれ」
「うるせーな。文句は日本語を教えた親父と鷲尾さんに言ってくれ」とても言えない。「政府が漢字禁止令とか出さねーかなー」
「なにを言っとる。とりあえず書き直して明日中に再提出してくれ」
「えー、やだよー!おれ達はこれから六本木のホテルのプールで─」
「ジングージとロッポンギのホテルだと!?」バン!とドアが開きサントスが飛び込んで来た。「今回はセキも一緒か!なんでおれを誘わない!」
「だからまだ行ってねえって!やめろ、サントス!重い!」
 ソファに押し付けられたジョーがサントスの腹に足を掛け思いっきり後ろにすっ飛ばした。
 ドーン!と室内が揺れる。関は絶句し、神宮寺はサントスの分のコーヒーを用意していた。
「六本木のホテルのプールか。いいなァ」関がため息をついた。「おれは当分オフを取れそうにない。今回の事で警察庁は公安員の身元確認を再検討し実施するそうだ。また忙しくなる。プールもピカピカもお預けだ」
「ヘェ!」ジョーが声を上げた。「そうなったらおれなんか公安に入れなくなるな、関」
 あ~、よかった!とたばこをくわえライターを鳴らした。
 ジョーの周りに紫煙が漂う。彼の表情が見えなくなった。
「気の毒だな、セキ。その分おれ達3人でロッポンギを楽しんで来るよ」
「事件は解決したんだ。あんたもアメリカへ帰れよ。いーかげんクビになるぜ」
「少しだが有給休暇が残ってる。めいっぱい使って日本にいるぞ!」
 いいな~と呟く関と、迷惑な話だ、と眉をしかめるジョーを前にガハガハ・・・と豪快なサントス。

『サントスはそこか?』室内フォンが鳴った。森だ。『ニューヨーク支部からすぐ帰国するよう連絡が来ている。向こうに報告はしたかい?』
「おっと、報告するの忘れてた。ですがミスター・モリ、おれは有給でもう少し日本にいるつもりなので、その連絡をする時に一緒に報告しますよ」
『あー、まだ連絡を入れていないのか』珍しくあがる森の素っ頓狂な声に神宮寺とジョーがモニタに目を向けた。『すまない、サントス。実は君の滞在許可が下りなくて、ミスター・ユーイングと相談して有給扱いで滞在するという事で─』
「えー!じゃあおれの有給は─。もしかして─!」
『・・・完全にオーバーしているそうだ』
 すまなそうな森の言葉に、えええー!とサントスがわめく。
 神宮寺が気の毒そうに苦笑しジョーと関が爆笑した。
『笑ってる場合じゃないぞ、ジョー。君は左近さんに始末書をまだ提出していないそうだね』
「─あ」
 そういえばそーいうのがあった・・・。どこへやっただろう・・・。
『明日までに始末書と、その始末書の始末書を特別課に提出するように。それが完了するまでは休みはなしだ』
「そ、そんな、チーフ!」
 わめくジョーを尻目に森はさっさと通信を終えた。
 今度は関とサントスが爆笑する番だ。ジョーはモニタをぶっ叩いてやろうかと思ったが、もし壊して借金が増えても困るのでグッと我慢した。

 が、結局〝3人〝は六本木のホテルのプールライフを楽しむ事はできなかった。
 六本木のホテルならずJBの食堂で、たまたまそこに居合わせたメンバーにお茶で送られたサントスは渋々と帰国の途に就き、ジョーは始末書とその始末書の始末書を左近のデスクに放って逃げてきて、さあこれでオフだ!と喜んだのもつかの間、神宮寺に先日のドクターストップの続き(?)が掛かってしまったのだ。
 体調にまったく不調を感じていない神宮寺が抗議したが榊原相手に通るはずもない。仕方なく神宮寺は2日間の監禁・・・いや、療養入院となった。

「神宮寺のあんな不機嫌な顔って初めて見た」カチャカチャとコーヒーを掻き回し伊藤が言った。「全然元気だったもんな。直前までスポーツジムにいたし」
「でも休みはちゃんと取らないとな。Sメンバーだって人間だし」
「神宮寺がいないんだから、ジョーにヘンなちょっかい出さない方がいいな」
 高浜が言い、少し離れた窓側の席でぼんやり外を見ているジョーの様子を窺う。と、今まで一言も口を開かなかった西崎が立ち上がり、自分のカップを持ちジョーの隣へと腰を下ろした。
 ジョーはチラッと目を向けたが、すぐに外へと視線を移す。
「どうした? 相棒がいないとさすがの君もおとなしいな。かえって皆怖がっている」
「そんなんじゃねーよ」
 西崎を見て口をへの字に曲げる。しかし何か言いたそうだ。根気よく西崎が待つ。
「あいつ、おかしいんだ。というか・・なんか違う」
 神宮寺が? に頷き、
「体が不調だとは思えない。いや不調でもあいつの迫力が失われる事はない。なのにあのくらいの事でやられるなんて─」ジョーが組んだ拳をグッと口元に押し当てた。一瞬言葉を躊躇うが、「あいつがこのまま消えてしまいそうで・・・」
「・・・・・」
 西崎にはジョーの言う神宮寺の異変はわからなかった。だがジョーの思い違いだと、ひと言で片付ける事も出来ない。
 天道会の別荘での堂本の件─。いつもは真っ先に向かう神宮寺が動けずに立ち竦んでいたのだ。
 これだけでも確かにおかしい。
 西崎は、コーヒーにまったく手をつけずにじっと外を見つめているジョーに目を移した。 でかい体の相変わらずの存在感を発する男が、どう自分の考えを処理していいのかわからずうろたえている。
 いつもは自分の気持ちに正直で言いたい事を言い、やりたいように行動するジョーだが、今はただ漠然とした不安を抱え、だがどうする事もできないでいた。
 そしてそんなジョーに西崎も何も言ってやる事ができなかった。
 
 そして2日後、神宮寺の退院の許可を待っていたかのようにダブルJに指令が下った。 
 場所はシンガポール。国際警察が全国に指名手配していた男達が関わっている事件だ。
 ジョーに迷っている時間はなくなった。そして神宮寺にも─。

 留守中に届いていた宅配便の包みを管理室で受け取り、神宮寺はエレベータで6階の自宅へと上がった。
 午前中に榊原病院を出て何日ぶりかの帰宅だ。洗って水切りに伏せておいた食器が完全に乾いていた。
 黒と白を基調にした部屋は、ジョーの所程ではないが物はあまり置いていない。それらを片付けながら明日からの仕事の用意をする。
 指令は病院で受けた。榊原は反対したが今度はこちらが押し切った。今夜の便で現地に向かう。のんびりしてはいられない。
 バッグに荷物を詰め込みながら、しかし時々その手が止まる。ふと、窓から外を見て小さく息をついた。
 体調は悪くない。フルマラソンに出ろ、と言われれば走り切るだろう。
 だがそれとは別の何かが・・・気持ちが着いていかない。
 どうしたのだろう。今までにこんな事はなかったのに。

 ふと、テーブルの上に置いてままになっているダンボール箱に目が行った。送り主は母の和美だった。いつもの差し入れだろう。
 もう成人した息子なのに、母親にとっては心配なのだろう。時々服や日持ちのする食料を送ってくる。そして必ず手紙が同封されている。
 内容はいつものように近況の話や食事をちゃんと摂るようにとか、体調に気をつけるように、と─これもいつもとまったく同じだった。
「子どもじゃないんだから」
 苦笑いをし手紙をたたむ。
 いつだったかジョーの前でつい今と同じようなグチを言った事があった。
 と、彼は、“それならその手紙とおばさんをおれにくれ”と真剣な目で言った。
 いつもの鋭さではなく、かといってとても穏やかとはいえないその瞳の色に神宮寺は黙ってしまった。
「わかってるさ。もちろん」
 箱の中からいくつか引っ張り出してみる。
 ジョーの所に届く幸子の荷物のように酒類は入っていない。が、缶のスープやシチューがあり思わず苦笑した。
 彼が実家にいた頃─というか─中学生の頃に好きだったクッキーが入っていたのには呆れた。
 2箱あるから1箱はジョーに、という事だろうか。母からだと言って渡す時の顔が見ものだ。
 神宮寺は服が散らばっているソファに座り込んだ。
 体調はいい。なのに動く気がしない。何かに行動を押さえられているように気持ちが重い。
 こんな思いをして、母に心配をかけてまでおれは何をしているのだろう。
 堂本さんはどうして公安に背き、天道会と手を繋ぐ事になったのだろう。
 以前、母がジョーに言った事、あれが本心なのだろうか。だとしたらおれは・・・。

 ポンッと時計が鳴り、神宮寺はあわてて立ち上がった。


                           完



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