コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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一緒に歩こう この道を 2


「ふ~ん、で、結局怪しい奴はいなかったんだ」
 クルクルとよく動く大きな目を向け、洸が言った。
「ああ、おれと神宮寺で駆け付けたんだが、もう誰もいなかった」シャワーを浴びたばかりなのかジョーの髪が濡れていた。「だけど新しいタイヤ痕があったから誰かいたのは確かだ」
「でも機密は燃料なんだから、車体を撮っても仕方ないんじゃないか?」
「ん・・・」ジョーがちょっと口籠り西崎を見た。「もし写真を撮っていた奴がいたとしたら、車じゃなくて植田や結城さん達を撮っていたのかもしれない」
「なるほどね。〝彼らに訊く〝方が早いってわけだ」眉をひそめ立花が頷く。「それでチーム3(スリー)が出たんだね」
 万一を考えチーム3が結城自動車工業に張り付いている。おそらく植田にもSPがついている事だろう。
「で、その車の走りはどうだった?」
「普通の車と変わりないぜ。ただエンジンの吹き上がりは良かったな。150は軽く出るな」
「それもやっぱりMOX燃料だからいいの?」
「おれに訊くな」
 それはそうだ。と、
「ジョー」ドアが開き神宮寺が入って来た。「他言しないよう言われたじゃないか」
「なあに、ここだけの話さ」ここは捜査課の休憩室だが、こういう台詞はあまりアテにはならない。「それより遅いご出勤だな。重役出勤ってやつか?」
「お前に言われたくないね」ちょっと疲れた顔を隠すように窓に顔を向けた。「なんかポルシェに乗ってきていいのかな、って思っちまって・・・」
 え? と男達が怪訝な目を向ける。
「温暖化とか大気汚染とか聞いたら、排気量の大きい車は乗り難い。ガソリンも値上がりしているし・・・。いっそ自転車で来ようかと思った」
「・・・・・」
 男達の脳裏に、キコキコと一生懸命自転車を漕いでいる神宮寺の姿が浮かんだ。 と、その後ろにはジョー、なんとか追いつこうとしている。その横を負けじと漕ぐ洸。見るとJBのメンバー全員が自転車通勤をしている。それはそれで迷惑だ。
「通勤はまだしも、犯人追跡は自転車じゃきついな」
「高速乗れないじゃん」
「PCナビはどうするんだ? 担ぐのか?」
「自転車にジェットエンジンつけて─」
 それでは車より悪い。と、
『チーム1、第2会議室へ集合』
 のアナウンスが入った。
 今までヘラヘラ笑っていた西崎と立花の貌が引き締まる。じゃあ、と手を上げ2人は行ってしまった。
「いいなァ・・・外に行けて・・・」ポツリと洸が呟く。が、「あー! 昨日の講義の宿題忘れてたー! 一平に写させてもらお!」
 じゃあねー、と洸も飛び出していく。
「とうとう宿題まで出始めたか」呆れたように神宮寺が言った。「そこまで学生気分にさせてくれなくてもいいのに・・・」
 と、自分をじっと見ているジョーに気がついた。
「・・・なんだ?」
「お前さ、最近出てくるの遅いし夕方には帰っちまうし。で、そんな疲れたツラ引きずって・・・」ジョー、と神宮寺が眉を寄せる。「何かあるのか? お前この前の─」
「なんだ、そんな事か」ジョーの言葉を遮るように神宮寺が笑う。「言わなかったのは悪かったよ。実は林さんの所でメカニックの勉強をさせてもらっているんだ」
「林・・・航空サービス?」
 ああ、と神宮寺が頷く。
 東京郊外に小さな飛行場を持つ林航空サービスは、JB所有のセスナやヘリコプターのメンテナンスを担当している。また、一般から受けるテスト飛行を神宮寺に依頼する事もある。
「もしパイロットとして飛べなくなっても、ずーっと飛行機に関わっていきたいからな。お前だって結城さんの所で車いじらせてもらってるだろ? それと同じさ」
「・・・本当にそれだけか」
 え? と神宮寺が目を向ける。
「飛べなくなるなんてもっと先の、何十年も先の話だろ。それを今からやっているのか? 本当に先の話なのか?」
「・・・・・」
 ちょっと上目づかいに自分を見るジョーの目には、今まで見た事のないような戸惑いと不安が浮かんでいる。
 この男にここまで不安な顔をさせる原因を神宮寺はわかっていた。だが、
「もちろんさ。何を言っているんだ。さあ、今日は講義に出ないとマズいぜ」
 やれやれ、というように休憩所を出て行く相棒をジョーが無言で見送る。
 この前の堂本の事件の後からなんか変だ、と─ ジョーは言う事ができないでいた。

「あの右側の大きな工場だ」
 自分の横に身を滑り込ませた神宮寺とジョーに西崎が前方を指差す。
「奴らは爆発物を持っている。伊藤ら3人が負傷した」西崎の口元がギリッと結ばれる。「君達の手を煩わせてすまない」
「お互い様だ。おれ達だって助けてもらっている」
「午後の講義に出なくて済んでありがたいくらいだぜ」
 ウッズマンのマガジンをシャキン!と入れジョーが言った。が、神宮寺はオートマグを胸に収めたままだ。
 怪訝そうにジョーが目を向けるが、“行くぞ”と西崎の合図にその思いを振り払った。

 ここ辰巳の倉庫街にダブルJとチーム1(ワン)の捜査課6人がいた。
 チーム1に下された指令はパリ本部からの協力依頼だった。
 フランス西部の港町ラロシェルで、密輸容疑で逮捕された男が密輸先のひとつとして日本の東京の名を挙げた。国際警察が追っている武器買人─ いわゆる死の商人の一組織だ。
 その日本での拠点である辰巳に向かったチーム1は、積荷を降ろすために待機していた密輸団の男達を確保し─だが7、8人が近くの工場に逃げ込んだ。
 幸いこの日は工場は休みで従業員は事務の5、6人しかいなく、彼らは全員外に逃げ出している。
 しかし男達は爆発物で応戦してくるので迂闊には手が出せない。工場内には火気厳禁の場所が多くある。
 チーム1の3人が負傷し、ダブルJの応援となった。
 
 彼らは2人づつ組み、工場の4ヶ所の入り口からそれぞれ中に入った。
 神宮寺とジョーが入った東側のドアは、そのまま製造ラインが2列並ぶ広い場所へと出た。
 休みなので機械は動いていない。ジョーが少し高くなっているラインにヒョイッと飛び乗った。と、ガタン! とラインが動き出した。
「うわっ!」
 バランスを崩しベルトコンベアの上に尻もちをついた。目の前に次の行程に入る小さな入口が見えた。鋭い刃がコンベアに乗ってくる物を挟もうと動く。
 ジョーは転がるように飛び降りた。
「気をつけろ、神宮寺! 奴ら機械の動かし方を知ってるぜ!」
 その言葉が終わらないうちに、先端に小さなドリルのついたアームがジョーに向かってきた。バク転で避ける。
「だから、科学忍者隊じゃねえって!」
「ここを出よう」ジョーが合流するのを待って神宮寺が出口へと走る。が、その目の前に黒い物が飛んできた。「伏せろ!」
 2人は固まって床に伏せた。
 ドーン! と轟音が上がる。バラバラと2人の頭上に破片が降り注ぐ。
「くそォ、奴らどこに─」
 ふと見上げると、ビルの3階くらいの高さの所にコントロールルームが見えた。チラッと動く影が見えるが、ここからでは死角になっていて銃を使うのは無理だ。
「援護してくれ」
「神宮寺!」
 止めるジョーを無視し神宮寺は壁に取り付けられているコントロールルームに続くハシゴを昇り始めた。と、上にいる男が銃を取り出すのが見えた。神宮寺に銃口を向ける。
「チェッ! いつもと反対だぜ!」
 ジョーは両手で握るウッズマンで男の銃を弾き飛ばした。
 と、その時ジョーの後方から別の男が現われた。銃声が響く。ジョーは転がり避けた。機械の陰に入ったが黒い物が、飛んでくるのが目に入った。飛び出し頭を抱え伏せた。
 ドーン! と大きな音と共に機械の破片と煙がジョーを襲う。
 その合間から、コントロールルームにいる男がハシゴに取りついている神宮寺目掛けて黒い物体を投げるのが見えた。神宮寺の動くが止まる。
「くそォ!」 
 立ち上がりジョーがウッズマンのサイトを黒い物体に合わせた。迷わずトリガーを引く。 
 ウッズマンから撃ち出された弾丸は、物体の側面を掠りその軌道を変えた。神宮寺から離れた壁に当たり爆発した。神宮寺の体が爆風を浴びる。だがその様子を見てはいられなかった。
「うっ!」
 左足に激痛を受け思わず膝をついた。が、すぐさま振り向き、続けて撃とうとしていた男の銃を撃ち落とした。身を翻して男が逃げる。ウッズマンでその足を止めた。
「ジョー!」西崎と中根が走ってくるのが見えた。「大丈夫かっ」
「おれは大丈夫だ。神宮寺を─」
 ジョーの指差す方へ中根が走る。ジョーに足を撃たれ転がる男を西崎が押さえた。
 血の溢れる傷口を押さえジョーが立ち上がる。中根の後を追いハシゴを昇り始めた。
「やめろ、ジョー! 中根に任せろ!」
 西崎がジョーの体に手を掛けた。
「あいつ・・・変だ・・・」ジョーが震える声で呟く。「・・いつものあいつじゃない・・・」
「──」
 西崎の、ジョーを掴む手が一瞬緩んだ。ジョーがハシゴを上がろうとした。が、
「2名確保!」
 頭上から中根の声が響いた。

「すまない、ジョー。ミスッちまって・・・」
「ミスッたのはおれだぜ」弾丸の摘出手術を終えた左足を庇いながらジョーがベッドの上に上半身を起こした。「銃を持った相手に背中を向ければどうなるか・・・、わかりきった事だ」
 そのまま床に右足を付け立とうとする。
「どうするつもりだ」
「・・JBに戻る。手を貸せ」
「退院の許可は出ていない。榊原さんに見つかったら─」
「榊原さんなら別の病棟を回診中だ。今なら抜け出せる」だが・・・と神宮寺が言いかけると、「だったらいい。1人で行く」
 ジョーは神宮寺の体をトンと突いて、そばのイスに手を掛けた。ロッカーに辿り着き着替え始める。ズボンを穿くのはさすがに辛いのか低いうなり声を上げる。
 彼の後ろで神宮寺がため息をつき、腕を抱えてバランスをとってやる。そのまま2人は312号室を出た。
 回診中という事もあり医師や患者が病室にいる時間の方が長い。素早くエレベータに乗り、裏庭の駐車場に向かった。そこには2人が現場に乗り付け、またジョーを榊原病院に運んだハリアが停められている。
 神宮寺が助手席のドアを開け、ゆっくりとジョーの体を入れてやる。
「手術当日にこんな事をするなんてどういうつもりだ」
 自分は運転席に着き今さら、と思ったが神宮寺が訊いた。
 ジョーの病院嫌いは知っているがここまで無茶をするのは珍しい。だがジョーは答えない。ボソッと唇を動かす。
「─ なに?」
「・・・なぜ撃たなかったんだ・・・」
 え? と神宮寺がジョーを見る。
「あの男がお前に爆発物を投げつけようとした時、どうしてマグナムを抜かなかったんだ」低いジョーの声が車内に響く。神宮寺が一瞬顔をしかめた。「あの距離ならお前は難なく男の手を狙えたはずだ。なのになぜ」
 スッとジョーが神宮寺に顔を向けた。だがそれを避けるように神宮寺がフロントに顔を向けた。
「まさか、銃を撃つのが怖いとか言うんじゃねえだろうな」
 それはいつかジョー自身が言った言葉だ。
「まさか」案の定、一笑された。「お前が援護しているんだ。おれが銃を抜く必要はない」
「だがあの時おれは援護が出来る状態ではなかった。お前だってわかっていたはずだ。なのに─」急にハリアが発進した。ジョーがシートに当たる。「神宮寺!」
「いつまでもあそこにいたら捕まるぜ」グルリと回って病院から出た。「おれはお前の援護を信じていた。お前が援護できなかったのはお前のミスじゃない。おれのミスだ」
「・・・・・」
 ジョーには神宮寺の言っている事がわからなかった。だがこれ以上訊いても彼は答えてはくれない事はわかった。
 すぐ隣に座る相棒がとても遠くに感じ、だがジョーは神宮寺から目を逸せた。
 いつの間にか外は雨になっていた。


                               3へつづく
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