コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

一緒に歩こう この道を 6


 一瞬の空白だった。自覚する間もないくらいの─。
 爆発物を持った男の手が振り上がった。床に転がっているジョーに投げようとしている。
 男にオートマグを向け、だが神宮寺の指は動かなかった。
 爆発物が床で弾けた。
「ジョー!」
 神宮寺は爆発物を避け、しかし床に倒れたままのジョーに駆け寄った。そのすきに男達が裏口へと走った。その足元に中根が弾丸を撃ち込む。神宮寺がジョーの体を起こした。
「大丈夫か。どこをやられた」
「─ なにしてるンだ、お前」片目だけ開けジョーが言った。「奴らが逃げる。追え」
「し、しかし・・・」
 迷う神宮寺の声と、うわっ! という中根の叫ぶ声が重なった。彼は肩に弾を受け床に転がっていた。2人の男達が裏口から出て行く。
「行け!」ジョーが神宮寺を押しやる。「逃がすんじゃねーぞ」
「・・・・・」
 神宮寺が立ち上がりオートマグを握り直した。裏口に向かって走り出した。
 上半身を起こしたままその様子を見ていたジョーだが、ふっと糸が切れたように再び床に体を倒した。
「ジョー!」
 西崎の声が聞こえた。

 中根と市原の見舞いを終え、神宮寺は321号室に向かった。
 来た時はまだ面会できなかったが、2人の回診に来た榊原から許可を貰った。
 神宮寺はしばらくの間321と書かれたドアの前に立っていたが、ひとつ息をつくとノックしドアをスライドした。
「よお、神宮寺」ベッドの上半分を45°に上げて胸部を包帯に包まれたジョーがいた。「奴ら全員確保したんだってな。中根達も命に別条はないっていうし─」
「ジョー」かすかに神宮寺が口を開く。「おれ・・・」
「できればおれ達だけの手で捕まえたかったな。水上警察には感謝してるけど」
「・・・おれ・・・お前に2度も怪我を負わせて・・・」
「お前のせいじゃない。逃がしたくなくて奴らに飛び付いたおれの判断ミスだ」
「そんなのいつもの事だ。やっぱりおれが・・・。ジョー、おれはもう・・・」
「大丈夫だ。こんな怪我大した事ないって─。だからそれ以上何も言わないでくれ」
 青い双眸に願いと希望とそして哀願を乗せ、ジョーが神宮寺を見つめた。と、その瞳から逃れるように神宮寺が顔を伏せた。
 あの細いが精悍な瞳がまつ毛の下(もと)に隠れる。そこにいるのは国際警察のSメンバーではなく、23才の青年でしかない。
 初めて見る相棒の姿に、ジョーはどうしてよいのかわからなかった。と、再びノックがした。
「どうだ、ジョー」榊原と女性看護師だった。2人の様子に一瞬足を止めた榊原だったが、「包帯を替えるからベッドを水平に戻すよ」
 と、自らレバーを引いた。
 ジョーが露骨にいやな顔をしている。火傷の包帯替えは大の男でもけっこうきついのだ。
 そんなジョーの思いがわかるのかちょっと気の毒そうな顔を向け、だがテキパキと看護師が包帯を外していく。と、右胸の上部に大きな火傷が見えた。
「至近距離での爆発だ。これで済んだのは運がよかったな。爆発物も強力な物ではなかったようだし」
 だが熱を帯びた破片がひとつ、ジョーの胸部を直撃したのだ。他に顔や体の所々に小さな傷があるがバンソウコウを貼る必要もないくらいだ。
だがそれらを目にした神宮寺は顔をしかめた。
 傷の重い軽いではない。相棒が怪我を負う切っ掛けになったのは明らかに自分のミスだ。それも今回で2回目の・・・。
「そんな顔するなよ」薬を塗ったガーゼを火傷に貼られ顔をしかめたが、「見掛けほど大した事ないんだ。明日には退院してやるさ」
「勝手に退院の日を決められても困る」榊原がポンッと包帯を叩いた。その下にいるジョーが、“イテッ!” と声を挙げた。「確かに重傷というほどではないが、ちゃんと完治してから出てもらうよ。さて左足の銃創を診ようか」
「そっちはもう大丈夫です。いてっ!」
「大丈夫じゃないではないか」
「そりゃ叩かれれば痛いですよ!」
「それはよかった。神経は無事だ」
「叩かなくてもわかります!」
 元気な怪我人と医師だ。
 そんな2人を見ていた神宮寺だったが、“JBに戻ります” と病室を出て行った。
「少し疲れているようだね、神宮寺君・・・」ポツリと榊原が言った。「休暇を与えるよう森さんに進言してみようか」
 医師である榊原の言葉なら森も聞くだろう。そして命令ならば神宮寺は従うしかない。そうでもしなければ、彼はなかなか休暇を取らないのも事実だ。
 休ませてやりたいと思う─。だがジョーは首を縦に振る事ができなかった。
 今JBから神宮寺を離したら、もう2度と戻って来ないような気がする。もちろんあいつはそんな弱い奴ではない。そう信じている。だが─。
「ドクタ、おれおとなしくしてますから早く治して出してください」
 真剣な顔で言うジョーに榊原は驚いたように目を向けた。

「神宮寺君」
 病院のロビーを出口に向かっていると誰かに呼ばれた。関だ。
「ジョーの見舞いに来てくれたんですか?」
「トランザムをJBに取りに行ったらジョーがケガったと聞いたんでね」
 そういえばジョーは関の車で現場に入った。スーツのままなので帰宅せず、関と会っていたのか。
「ジョーと飲んでいたんだ」
 神宮寺の疑問を感じ取り関が言った。
「もっとも彼は、茶を飲み過ぎたとかでひと口も飲んでいないが─。そして君の事をとても心配していた。いつもの神宮寺じゃない。虚しいだの恐ろしいだの言う奴じゃないって─」
「あいつ、そんな事まで関さんに言ったんですか」
「怒らんでやってくれ。いつもは自分勝手な事を言っているが、こういう時はどうしていいのかわからないんだ。でなければおれになんぞ話はしないだろう」
「・・・・・」
 いつだったか、ジョーに、“お前、友達多いよな”と言われた。
 確かにJB内だけでもあちこちの部署に友人がいる。大勢でつるむのが苦手なジョーに比べれば数は多いだろう。
 だがこの関を始めジョーの周りにいる人物は、彼がどんなに暴言を吐いたり自分勝手な行動をしても彼の本心を知り理解してくれる。
 ジョーがジョーでいられるのは、そんな理解者達のおかげだ。
 では自分は? 自分を理解してくれる人は周りにいるだろうか。
 もし誰かに問えば森や佐々木、西崎と多くの名前が出てくるだろう。しかし神宮寺自身はそう思ってはいない。
 思いつく何人もの親しい人々に、彼は自分の悩みを自ら相談した事はなかった。
「君達は若い。人生も勉強も恋愛もこれからだ」
「・・・そうですね」神宮寺がひどく曖昧な笑顔を見せた。「これからJBに戻って報告書を書きます。またジョーの分までやらなければならない」
 ちょっと肩をすくめ、“では” と出口に向かう。その後ろ姿を見て、
「確かにこれは一大事だな・・・」
 関が呟いた。

「えー! おれがあんたに言った事を神宮寺に話しちまったのかよ!」
「いやあ・・・、あんまり深刻な顔をしていたので心配になって、つい・・・」
「やばいなァ、ミエっぱりだもんな、あいつ。どんな仕返しされるか─」手ぶらで見舞いに来てくれた関をジョーが睨む。「あんたの口がこんなに軽いとは思わなかった」
「すまない。だが2人の秘密は守るぞ。何があろうと2人だけの秘密として─」
 関の頭がガコン! と鳴った。ジョーがプラスチックのコップを投げたのだ。
 イテ~ と床のコップを拾いジョーの目を向けた。と、彼は少し俯き気味に、そして何か考えているようだった。
「おい、神宮寺君の仕返しはそんなにきついのか?」
「─ あいつはいったい誰に言うんだろう」え? と関が訊く。「こういう時、あいつは・・・」
 少し前までの自分がそうだった。辛い事や苦しい事があっても、相棒はもちろん他の誰にも言わなかった。
 今回、関に話したのも大した理由はない。強いて言えば彼がJBのメンバーではなかったからだ。
「そういえば西崎には話していたな」その2人の話を偶然ジョーが聞いたのだ。「おれに話すのは・・・やっぱムリだよな・・・」
「おい、君まで深刻な顔になっているぞ」スッとベッドの端に腰を降ろしジョーの肩に手を掛けた。「こういう事は考えたってダメだ。行動しないと─」
「な─! このやろう!」ベッドに押し倒されそうになり、ジョーの裏拳が関に飛んだ。見越していたように関が飛び退く。「な、なに考えているんだ、いったい」
「もちろん君と神宮寺君の事だ」
「余計なお世話だ。あんたは自分達の足元をしっかり─」
 いきなり胸倉を捕まれ引き寄せられた。関の、いつになく険しい目がすぐ前にある。
「堂本の事を言っているのか。それこそ君に言われなくてもわかっている。少なくとも、恐ろしいだの虚しいだの口に出して言うひよっこに言われたくない」
「は、放せ─」
 ジョーが関の腕を掴む。力はジョーの方が強いはずだが、
「相棒だろ。これからも一緒に仕事をしていきたいんだろ。だったらおれではムリだ、なんて格好つけてないで、神宮寺君が話してみようと思う男になれ。それが相棒だ」
 ジョーは関の腕を掴んだまま、その青い瞳で彼を見据えた。口元や指先の震えが全身に広がって行く。それを感じているはずなのに、関はジョーの胸倉を掴んだまま放さない。ジョーの腕にグッと力が入る。が、
「何をしているんですか!」榊原だ。関がとっさに手を離した。「ジョーは怪我人ですよ! それをわかっててこんな事しているんですか!」
「い、いや、ドクタ。これには・・その・・あっちにもこっちにもそっちにも理由(わけ)が」
「どこの理由でも通りません。さっ、出て!」
 泣く子も黙る公安の関も榊原には敵わない。病室から出るしかなかった。が、ドアの所で振り返り、
「もし君が神宮寺君を離したら、おれ達が貰うからな」
「やるかっ!」シュッと風を切り、カップが関に向かって行った。ヒョイッと避けられた。「あ、つ・・・」
 火傷が引きつり、思わず患部に手をやるジョーの目に出て行く関が映った。
「どうしたんだね、君も関さんも」ジョーの手を引き離し患部を診る。包帯に薄っすらとシミが広がっていた。「軽傷とはいえ怪我人にこんな事するなんて─」
「・・・関のせいじゃない」ポツリとジョーが言った。「神宮寺のせいでもない・・・」
 ではなぜこんな事に?
「痛い、ドクタ。包帯はさっき替えたばかりじゃないですかっ」
「おとなしくするんじゃなかったのかね?」
 ジョーのささやかな抵抗も榊原には通じない。
「くそォ、やっぱり関と神宮寺のせいだ。口に出して言ったのはおれじゃないぞ」
 赤く熱を帯びた患部に目をやりジョーが唸った。

 神宮寺の小さな変化に気づいた者は少なかった。仲の良いチーム1の面々さえはっきり聞いているのは西崎だけだ。
 だが森や佐々木は気がついていた。
 Sメンバーはチーフ直属のメンバーだ。一度、神宮寺と話をしようかと森は考えていた時、それは入った。

「スカイラインが盗まれた?」服をバッグに詰める手を止めジョーが振り返った。「あの車は政府の研究機関に保管されてるって聞いたぜ。そこから盗まれたのか?」
「ああ」車のキーを弄びながら一平が言った。「午前中に情報が入って、おれ達と神宮寺、チーム3の柏木と水野が7階に集まったんだ。スカイラインはコンピュータセキュリティの掛かった研究所の倉庫に収められていたんだけどそのセキュリティが破られ、朝早く研究員が見た時にはもぬけの殻だったそうだ」
「ハッカーか? だがセキュリティを破ったぐらいで簡単に持ち出せる物じゃないだろ。キーはどうしたんだ? あの車、発進時にけっこう大きな音が─」
 言ってからジョーが顔をしかめた。
「まさか、内部に・・・」
「調査中だ。だがおれ達は研究所の中に入れてもらえないから情報のみで分析している。神宮寺と洸がパソコンの前に貼り付いているよ」
「GPS追跡システムは付いていないのか?」
 ジーとバッグの口を閉めた。
「もちろん付いているさ。高輪辺りまで追尾できたが、そこから先は─」
 と、肩をすくめる。
「内部の奴が関わってたら・・・やだな」
 ジョーの呟きを、しかし一平には聞こえなかったようだ。
 2人は312号室を出て一平が乗って来たティアナでJBに向かう。
 今回は1日半の入院だった。あとの処置はJBの医療部でもできるので退院を許されたのだ。
 ちなみに立花と白鳥はこの前日に退院してJBに復帰している。中根と市原はあと4、5日は出られないだろう。
「情報だけで分析してるって、どういう事だ?」
「セキュリティに侵入した時、奴ら色々と足跡を残しているらしいんだ。それを神宮寺と洸が追っている」
 ふうん、とジョーが頷く。
 2人の得意分野だ。今までもそれで活路を見つけて来た。だがそれよりも神宮寺がいつものようにJBで仕事をしている事にホッとした。早く相棒の姿が見たかったが、
「一平、その研究所の場所、知ってるか?」
「知ってるけど中には入れてもらえないぜ。チーフでさえダメだったんだ。それで捜査しろっていうんだからな」
 苛立たしげにステアリングを叩く。
「チーム3は結城さん達をちゃんと守っていたんだ。政府直属のSPだかLPだか知らないけど、車1台ぐらいちゃんと守れって!」
「車にSPは付かないだろう」ジョーが苦笑した。「外見だけでいいんだ。ちょっと見ておきたい。頼むよ、一平」
 妙に落ち着いた、いつものようにのってこないジョーに不可解な目を向ける一平だが、とりあえず研究所のある江古田に向かう事にした。


                                  7へつづく
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