コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

始まりの地にて 7

 「つっ・・」
 頭が痛い。それになんだかとても不自然な恰好をしている。首も痛いし、いったい・・・。
 目を開けた。真っ暗だった。が、自分がどのような状況に置かれているかはわかった。
 ジョーはイスに座り、後ろ手にされイスに縛り付けられているのだ。今まで気を失っていたらしく頭が垂れていた。それで首が痛かったのか。では頭は・・。
 「あっ」
 思い出した。オリバーに呼び出されたのだ。
 トーマスにホテルまで送ってもらってその後、ジョーは1人で昼食─ドイツで言う暖かい食事─を済ませ、部屋に戻ろうとした時ケータイが鳴った。オリバーからだった。番号はラルフから聞いたという。
 “話したい事があるのでホテルの裏に来て欲しい”と。なんとなくいやな予感がした。センサーが鳴る。しかし先ほど聞いたトーマスの話も気になる。
 オリバーが何をしようとトーマスに捕まろうとどうでもよかったが、それにラルス達が関わっているとしたら話は別だ。
 ラルス以外の4人は、昔は別に親しかったわけではない。暴れん坊で同級生はおろか上級生にさえ敬遠されていた自分を、やはり遠目に見ていただろう。
 しかし13年ぶりに会ったジョーを彼らは受け入れてくれた。まるで今までずうっと付き合っていた友人のように。笑い冗談を言い肩を叩いて─。
 ジョーはオリバーの事より、彼らが犯罪に関わっているかどうかが気になった。
 オリバーの言うとおりホテルの裏道に出ると、彼と2人の男が待っていた。ジョーの警戒センサーが一段と高く鳴り響く。が、彼はそれをそう大した事だとは思わなかった。彼が今まで対応してきた奴らに比べれば、オリバーは町の悪ガキのようなものだ。本気にはなれない。が、そのジョーの油断が勝負を分けた。
 “昨夜言った仕事の事なんだけど”にこやかにオリバーが近づいてきた。
 その影からヒゲの男が飛び出しジョーに殴りかかってきた。寸でのところで体をかわす。横にいたオリバーに足を蹴られ地面に倒された。が、体のバネを使い、すぐさま飛び起きる。
 後ろからくる男を回し蹴りで倒しオリバーの方を向こうとした刹那、頭に衝撃を感じた。一瞬目が眩む。眇めた視界の片隅に、棒を持ったヒゲの男の姿が映った。が、地面に倒れる前に消えた。
 (で、この様かい。本当に鈍っちまったのかなあ)
 またもや本気で落ち込んだ。が、現状はジョーに反省する時間を与えてはくれなかった。
 突然、光が目を射る。とっさに目を瞑る。人の気配で目を開けてみると
 「やあ、ジョージ」オリバーだ。さっきの2人もいる。「手荒くしてすまなかったな」
 「・・・・・」
 全然、反省している口調ではない。ふと辺りを見回す。5m四方くらいの小さな部屋だ。何も置いていない。強い光を浴びたと思ったが、実際には小さな電灯だった。
 「その恰好も許して欲しい。君は思った以上に強そうだ」
 ジョーは無言のままオリバーに目を向けている。ビビっているわけではなさそうだ、とオリバーが思う。
 「君に訊きたい事があるんだ。さっきハンブルク市警の奴らとホテルにいただろう。奴らとどういう関係なんだ?何か聞きに来たのか?」どこかで聞いた質問だなあ、と思ったが黙っていた。「君はラルスの友達じゃないのか?おれに接触するように誰かに言われたのか?」
 「・・・・・」
 どうやらオリバーはジョーを警察のスパイとでも思っているようだ。なんでそういう考えになるんだろう、と面倒になった。
 「職務質問だ」
 「え?」
 「ちょっとでかい家の前に立ち止まっていたら職務質問にかけられたのさ。ホテルには身元を確かめに来た」
 これは本当だった。
 トーマスはジョーを送りがてら、フロントで彼の名前をチェックしたのだ。フロントは“何かありましたか?”と不安そうにトーマスに訊いたが、“なーに、迷子になっていたんですよ、ハハハ・・・”と、あまりかっこよくない理由で誤魔化してくれた。
 「本当だろうなっ」
 ヒゲの男が凄む。ジョーの頭を棒で殴った奴だ。今も短い角材を手にしている、それをジョーの頬に押し当てた。
 「疑うならホテルでも市警にでも訊いてみりゃいいだろう」それから上目遣いに男を睨む。「あんたにその勇気があればな」
 とたんに頬を角材で殴られた。続いて左肩にも打ち下ろされる。
 「やめろ、ギド」オリバーが止めた。「君も余計な事は言わない方がいい」
 「動けない相手に凶器を使って脅すような奴を見るとムシズが走るぜ」
 「なんだと、このガキ!」
 「やめろって、ギド。君もラルスの友達にしては凶暴だなァ」
 「こんな奴、殺っちまおうぜ!」
 「よく考えろ。1回職質にかけられた奴が行方不明や死体で出てみろ。市警は大っぴらに捜査し始めるぞ。どんなに細い糸でもおれ達に辿り着くかもしれない。あと2、3日の辛抱だ」再びジョーを見る。「一人旅だろ。男が2、3日ホテルに戻らなくたって、誰も心配しないさ」
 そのまま出て行ってしまった。
 「チェ、3日もこの恰好でいろというのか」
 ジョーはクサリばがらも両手を結わえているロープを探ってみた。これならそう時間も掛からず解く事ができそうだ。逃げるのはいつでもできる。
 「せめて、あったかいスープでも差し入れてくれねえかなあ・・」
 呑気に呟く。

 「昨日も今日も連絡が取れないなんて・・・。いったいどうしたのかしら?」
 幸子が小さく息をついた。
 おととい電話を貰ってから2、3回掛けているのだが、なぜか出ないのだ。電源を切っているわけではない。一生懸命呼んでいる。しかしジョーは出ない。
 「そういえばあの子、ケータイを携帯していなかったわ」
 小物を持つのをいやがるジョーは、ケータイ電話も持ち歩かず部屋に置きっぱなしになっている事があった。これでは固定電話と同じだわ、と、その時は笑って済んだが。
 「どこのホテルかも聞いていないし」
 別に用事があるわけではない。ただハンブルクに向かう前のジョーの状態がいつもと違っていたのが気になるのだ。男親らしく鷲尾は、“大丈夫だから、放っておけ”と言っていたのだが─。
 目の前でおやつのパイをパクつく健を見ながら、幸子は再びため息をついた。

 「やっぱりこいつだ!おれ達を探ってたんだ!」
 突然ドアが開いてギドが飛び込んできた。その勢いでジョーを殴る。イスごと床にひっくり返った。
 「ジョージ!」ラルスの声にジョーは顔を上げる。「オリバー!なんでこんな事を─!」
 「こいつはスパイなんだぞ!だからルーニーが捕まった!」ギドが怒鳴る。
 「彼は2日前にハンブルクに来たんだぜ。そんなひまないよ!」
 「そんなのはうそだ!」
 ギドとラルスの言い合いが続く。ジョーはわけもわからず、床から2人の争う姿を見上げている。
 「なのに、こんな奴にやらせるなんて。オリバー、何を考えているんだ!」
 ギドがあとから入ってきオリバーを睨んだ。
 「ルーニーがいないんだ。おれ一人では荷が重い」
 オリバーは床に転がっているジョーのロープを解いた。が。立ち上がろうとするジョーに“ヘタな事をしたらラルスが危ないぜ”と言い添える。
 本人は気がつかないようだが、ラルスは人質になっていた。
 「それに、銃の心得もあるようだしな」
 「・・・おれに何をさせる気だ・・」
 ジョーはハンブルクドームでのことを思い出していた。
 相手の手を握っただけで銃を扱い慣れていると見抜いたオリバー。ジョーが気がつかなかったのは、左利きのオリバーがジョーと握手をする時、右手を出したからだ。
 「説明するから付いて来てくれ」
 オリバーがジョーを促す。ラルスにも、こい、と言う。
 ギドは自分の前を通ろうとしたジョーを角材で殴ろうとした。ジョーの腕が中段で受ける。角材はベキッと割れて飛んだ。そのまま裏拳をギドの顔面にくれてやる。あっけなくひっくり返った。
 「・・ジョージ」
 「今までのお返しだ」
 呆れて呟くオリバーに、ジョーが言った。なんでおれがこいつらに付き合わなくちゃならないんだ。これはトーマスの仕事だろう。と、少々不機嫌になってきた。
 しかしラルスを捕まえられていては仕方がない。ジョーはオリバーのあとに続いた。
 廊下は暗く、石作りのせいか寒々としている。どこかの古い家のようだ。5、6m離れた部屋のドアを開ける。
 「あっ!」
 中に入って驚いた。そこはかなり広い部屋だった。そして今までジョーがいた部屋や廊下と違って煌々と明かりが点いていた。その部屋の隅には大きなコンピュータが1台、いくつかある机の上には12、3台のパソコンが置いてある。パソコンの前には5、6人の男が座って、何やら操作している。
 「・・これは」
 「あの大きなコンピュータがサーバだ。あれで色々な所に入れる」
 「え?」
 ジョーも、そしてラルスもオリバーの言っている意味がわからない。
 「そうか、ラルスもここは初めてだったな。あのサーバとパソコンで色々な施設のセキュリティに入り込んで、それを解除するのさ。あとは忍び込み放題だ」
 「な、なんだって・・・」
 ジョーの顔色がそれとわかるくらい青くなる。セキュリティを解除?そして、どうするんだ・・・。忍び込む?そして・・・。
 「忍び込むってどこへ?」ラルスが訊いた。
 「銀行とか宝石店とか色々あるぜ。セキュリティシステムのある所の方が、かえっていいのさ。なんせそのセキュリティを請け負ってる会社が、おれ達のバックなんだから。今まで十何件侵入したかなあ」
 「そういえば、セキュリティシステムがあるのに侵入される店舗が相次いだってニュースで言っていたが、あれは君達が─」
 「そうさ、ラルス。ここのパソコンでちょこっとな。頭は使い様さ」
 「・・・フン。ちょっと頭のいいコソドロか」ジョーが毒づく。
 企業でも個人でも、今や“セキュリティ”という言葉は当たり前になっている。パソコンにはウイルス対応ソフトを、店舗や自宅にはセキュリティ会社のシステムが導入されているのも珍しくはない。
 しかしその折角のセキュリティも、その大本がハッカーに情報を流しているのでは防ぎようがない。
 「ところが今夜の仕事はコソドロじゃない」ジョーの悪舌をかわし、オリバーが言う。「ターゲットは市の要人だ。ルーニーと2人で侵入するつもりだったが─」
 「ま、まさか、それをおれに・・・」
 ジョーが絶句する。セキュリティを解除した家に侵入してその要人とやらを・・・。それではまるで・・。
 「おれにやらせるつもりか・・・」ジョーの声が震える。
 一瞬、光が散ったように見えた、が。とっくにリマインダーに達しているジョーは一歩手前で立ち止まる。器はいっぱいだ。溢れている。これ以上入れようがない。
 「ヘェ、君みたいな者でも人を殺るのはやっぱり怖いのか」
 「オリバー!」ラルスが叫ぶ。「ジョージはそんな事やらないよ!」
 「やるさ」ラルスを見る。「君がここにいるんだからな」
 「!」
 この時ラルスは、どうして自分がここに呼び出されたのかを知った。同時にオリバーがここまで2人に話したという事は、自分を盾にしてどうあってもジョーに今夜の仕事の手伝いをさせるつもりだと悟った。
 「ま、時間までゆっくりしていてくれ」
 そう言うとオリバーは銃を2人に向け、ジョーがいた部屋に2人を閉じ込めた。拘束はされなかったが、替わりにカギを掛けられた。
 ジョーは床に座り込み壁にもたれ掛かって荒い息を整えていた。
 日本での記憶が・・・12年前の記憶が再び脳裏を巡る。その記憶を失くす事はできない。両手で顔を覆い、耐えるしかない。
 「ジョージ、ごめんよ」ラルスがオロオロしている。「こんな事になって・・・」
 「・・・・・」
 ジョーは顔を上げラルスを見る。そうだ、時間がない。今夜と言っていたっけ。
 「ラルス、お前の言っていたバイトってこれか?奴らのやっている事を知っていたのか?」
 「知らなかった。おれが行っていた場所はここじゃないけど」ちなみにここはテレビ塔の近くだという。「送られてくるデータをパソコンで集計する仕事なんだ。まさか裏でこんな事してるなんて・・・。オリバーがこんな・・・」
 「・・・そうか」ジョーが安堵の息をつく。
 ラルスの言っている事が本当だったら、彼は“ただのバイト”という事になる。今回の件に荷担しているわけではなさそうだ。
 それにしても厄介な事だ。セキュリティがなんの役にも立たないとしたら・・。
 「そうか、だから管理課が」
 今回のターゲットは“市の要人”と言っていたが、これから先、誰が狙われるかわからない。国際警察の要人だって、この街には住んでいるだろう。
 おそらくオリバー達は、その国際警察のセキュリティサーバにもハッキングを掛けたに違いない。破られたかどうかは知らないが、管理課が危機感を持つのは当然だ。
 巧妙なハッカーは傷跡をまったく残さない。それを“オリバー”という個人にまで辿り着いたのは国際警察ならではの事だ。
 「ラルス、よく聞け」ジョーは回りを見ながら小声で言った。盗聴器は仕掛けられていないようだ。「今夜その要人とやらの所に向かう時、おれがチャンスを作る。だから逃げろ。そして警察に行って、トーマス・レイマンという男に会ってこの事を話してほしい。おれの名前を出せば必ず会ってくれる。あとは彼に任せればいい」
 「・・・君はやっぱり、警察の・・・?」
 「トーマスとは個人的な知り合いだ。それより今夜形をつけないと大変な事にある」え?、とラルスが問うようにジョーを見る。「オリバーはあと2、3日の辛抱だと言っていた。もしかしたら、今夜の件が片付いたらどこか他の土地に逃げるつもりかもしれない。その時・・オリバーを知っている君やイルゼ達を─」
 「イルゼ?なに?」
 「口を塞いで行く事も考えられる」
 「ま、まさか」自分がオリバーをイルゼやフリッツに紹介したから?なんでそんな事に・・・。「ジョージ・・君はいったい・・・」
 「だから躊躇うな。一気に逃げ切れ。何があっても振り向くんじゃない」
 「ジョージ、君が逃げる方が確実だと思うけど」
 「おれが逃げたら今夜の計画は中止されるかもしれない。そうしたら奴らを捕まえるチャンスを失う。一網打尽にするにはこれしかない」
 「・・・・・」ラルスが言葉を失う。
 何者なんだ・・ジョージは・・・。なんでそんな危ない事をしようとするんだ。さっきまで青い顔をしていたのに、今は瞳をギラつかせている。そう、まるで昔のように・・・。
 しかし彼には頷くしかなかった。


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