コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

一緒に歩こう この道を 9


     AS355


 JBの屋上ヘリポートからAS355が飛び立つ。6人乗りの双発タービンヘリコプターだ。
 操縦桿を握るのは一平。コ・パイに神宮寺が入っている。巡航速度220キロメートル。穴水まで1時間30分のフライトだ。
 後部席のジョーと洸は機器の整備をしている。
 ジョーの右手の甲と胸部の包帯はまだ取ってもらえなかった。だが部屋で燻っているより外へ出た方がいい。いざという時は包帯なんて自分でも取れる。
「なんだ、それ?」
 ふと見ると、洸が見慣れない機器を持っていた。
「最新型のモバイルさ。軽いだろ? こんなに小さいのにパソコン並みの働きをするんだ。JBに置いて来たぼくのノートパソコンとも繋がってるし」
「またヘンなソフト入ってンじゃねえだろうな」
 ジョーが露骨に顔をしかめる。
「太陽神からとって、〝ムー〝って名前をつけたんだ」
「ヌー?」
「ムー! ラ・ムーのムー!」
「ブー?」
「・・・遊んでない?」
 睨む洸にジョーがニッと口元を歪めた。

 やがて機は石川県警穴水署のヘリポートに着陸した。署長直々に出迎えてくれた。
 彼はヘリから降りて来た4人の男達があまりにも若いので驚いた。だが4人はあいさつを済ますと穴水署が用意してくれた車両に機器類を運び始めた。
 車はランドクルーザーのプラドだった。以前に使用した事のある力(リキ)のいい車だ。 ただオートマなのと、ちょっとイヤな思い出があるのでジョーの眉が寄りっぱなしだったが。
「ではお借りします。今後我々との連絡はとれませんがご心配無用です。車両の返却はこちらから連絡しますので」
 若いのに物怖じせずテキパキと事を勧める神宮寺に署長は無言で頷いた。きっと余計な事は訊くな、と言われているのだろう。こちらとしてはありがたい。
 神宮寺がプラドの助手席に体を入れる。運転席ではいつものレーサーグラブをつけたジョーがステアリングを握っていた。相棒の姿をチラと見た神宮寺は、やはりこいつにはこの場所が1番だと思った。
 その2人の目に、北へ向かうAS355が見えた。JB2はヘリコプターで捜査に入る。双方に電波探知機を乗せている。
「さっきの線路の映像が気になる。─ ああ、やはりJBのパソコンのように細かい所までは映らないな」グーグル映像から地図表示に替えた。「穴水から蛸島までは海岸線を行く単線だったんだな。これといった重要な施設はないようだが─」
 モニタの地図が段々と北上していく。珠洲市に入り、終点だった蛸島に着いた。もう少し上がる。と、
「これは─」
「掛かったぜ!」ピーと響き渡る音と共にジョーが声を上げた。ザーツが江古田の研究所に連絡を入れたのだ。「できるだけ会話を伸ばしてくれよォ」
 ジョーがナビのスイッチをバチバチ押した。地図が消えトレーサーになる。
「洸! 捕まえたか!」
『もちろんさ!こんなに早くキャッチできるなんてラッキーだね』
「だがワナの可能性もある。油断するな」
 ラジャ! と快活な洸の返事を聞き神宮寺は再びトレーサーに目を向けた。
 発信元は249号線を走るプラドより北を示している。
 国道から一般道に入り北上する。ゴルフ場が見えた。緑が多く仕事でなければのんびりしたい所だ。
 と、遥か前方でAS355がホバリングしているのが見えた。あの下が発信元という事か。
 と、クルッと方向を変えAS355が移動する。着陸可能地点を見つけたのだ。

「この辺でいいだろう」神宮寺の言葉にジョーが車を停めた。「・・・ジョー」
「あ?」隣に目を向けたジョーは、相棒の思い詰めたような貌に驚いた。「─ なんだよ」
「もしもおれがこの前のような状態になったら・・・おれに構わずJB2と任務を続行するんだ」
 ジョーに向けられた神宮寺の目は真剣で、しかしおちついていた。
 普通に暮らしている人達の平和を乱すのは許せない。それでもまだ不安や割り切れない思いはある。
 しかしその瞳に躊躇いはなかった。自分の進むべき道は確信している。
「わかったよ」レーサーグラブを外し包帯をシュッと取った。「もしそうなったら、おれがひっぱたいて正気に戻してやるよ」
 スッとジョーが車外へ立つ。助手席の神宮寺もプラドの横に立った。互いの存在が頼もしく感じる。

 細い道を進む2人の前に大きな建物が現われた。元はペンションかプチホテルだったようだ。直感でここが発信元だと思った。
「─ にしては静かだな。もうズラかっちまったのかな」
「研究所に連絡が入ったのは20分前だぜ」
 移動したにしては早い。と、
「ミスター、ジョー」一平と洸が追いついて来た。「発信は間違いなくこの中からだ」
「行こう」神宮寺の合図と共に4人が建物のドアに取りついた。が、「伏せろ!」
 神宮寺が横に飛ぶ。考える間もなく3人も従った。
 ドガンッ! とドアが吹っ飛んできた。
「うわっ!」
 伏せた神宮寺の上に落ちて来た。
「神宮寺!」ジョーが駆け寄る。「大丈夫かっ」
「足に当たっただけだ。大した事はない」
 その言葉通りすぐに立ち上がる。
「やっぱりワナかな」
 洸が呟く。
「たとえそうでも行かなければならない」
 自分に言い聞かせるように神宮寺が言った。
「せっかく入口を開けてくれたんだしな」
 ジョーがひと足先に建物に入る。小さなフロントがあった。グルリと見回し右の廊下へと進む。その先の突き当たりをまた右に曲がった。
「ヘェ、ジョーの当てずっぽうも大したものだね」ふいに洸が言った。手には例の超小型モバイル ─ 洸が名づけたムーを持っている。「ムーも発信元はこっちだと言ってるよ」
「─ お前、そーいう便利な物は早く出せ」
 ピコピコと点滅を繰り返すムーにジョーが眉をしかめた。はいはいと洸が先頭に立つ。と、行きついたのは、〝食堂〝とプレートの貼られた大きなドアの前だった。
 4人は2人づつドアの左右に分かれる。人の気配はなかった。
 バンッ! とドアを押し開け、ジョーと一平が飛び込んだ。室内に銃口を向ける。が、
「うっ!?」
「な、なんだ、ここ─」
 2人に続き室内に入った神宮寺と洸も一瞬動きを止める。
 広い空間にはコンピュータと大きなスクリーンが置かれていた。
 スクリーンにはいくつもの四角が表示されていて、それぞれ〝塵波〝〝白丸〝と書かれている。1番端は〝蛸島〝だ。その四角を線が結んでいる。まるで鉄道会社のコントロールルームのようだ。
「これって─」
「のと鉄道の、廃線になった路線図だ」神宮寺が言った。だがなぜこんな物が。と、リンクが鳴った。「はい、神宮寺です」
 相手は森だ。
『先程ザーツから連絡が入った。政府が奴らの要求を突っぱねた事で強行手段を取って来た。あと1時間以内に要求を呑まなければ重要施設を爆破すると─』
「チーフ、実はこちらも気になる物を見つけまして─」
 神宮寺が説明する。そばで洸がコンピュータを起動させていた。
 スクリーンが明るくなり〝穴水〝と書かれた四角─ おそらく駅だろう─ が点滅し始めた。
「─ はい、ただ何に使われるのかは─」
「列車だ! 廃線に列車が走る!」別のモニタを見ていた洸が叫んだ。「この列車、例のMOX燃料システムで動いているんだ!」
 なんだって! と3人が洸の周りに集まって来た。
 モニタには列車の車体図が表示されている。エンジン部にはMOXの文字が見える。
「だけど、こんな所に列車を走らせてどうするんだ?」
「洸!」神宮寺だ。「モバイルに蛸島から北の地図を出してくれ」
「ラジャ」洸の指がキーボードの上を走る。「別にこれといった重要施設は─ あ? なにこれ?」
 ポインタを合わせて検索する。
「建設中の実験用原子力研究所だっ」
「これだな」神宮寺が路線図が表示されているスクリーンを見上げた。「建設資材を運ぶのに廃線が利用されているのだろう。奴らそこにMOXの列車を走らせ研究所に衝突させるつもりだ」
 全員が息を呑む。
「奴ら、その事をおれ達に教えるためにわざと電波をキャッチさせここに導き入れたんだ」
「なぜだ。そんな事しねえでいきなり爆破しちまえばいいじゃねえか!」
「事前に政府に知らせる事によって爆発が起こった時の対応のミスを世間に知ら示すためだろう。そして・・・奴らも成功させる自信があるのだろう」
「きったねえ奴らだぜ!」
 バンッ! とジョーがコンピュータを叩いた。今までの事件でもザーツはその姿を見せなかった。今回もまた─。
 と、今まで点滅していた〝穴水〝から、その点滅が線の方へ移動した。
「止めろ、こいつ!」
 ジョーがコンピュータを蹴った。と、ピピピ・・・とコンピュータが鳴り出した。背後から黒い煙が上がる。
「あ、あら・・」
「出るんだ!」
 神宮寺が叫び、そのとたんジョーに腕を掴まれた。そのまま引っ張られていく。
 4人が建物から飛び出したとたん、ドーン! と音が響き建物の一部が破壊された。
「無茶するなよ、ジョー!」
「いや、始めからセットされていたんだろう」神宮寺がジョーの手を振り払い言った。「それより列車だ。おれ達もヘリで飛ぼう」
 ラジャと一平と洸が先に立ちヘリへと向かう。と、
「─ 気がついていたのか」神宮寺が小声でジョーに言った。まーね、と肩をすくめる。「そうか─。だが余計な気遣いは無用だぜ」
 と、左足を庇いながら2人の後を追う。
「気の強い相棒だぜ」
 ジョーは再び肩をすくめ、その相棒に後を追った。

 やがて、一平が操縦桿を握るAS355が大空に飛び上がった。
「この列車は完全誘導だ。コンピュータが壊れても動いているところを見ると、誘導装置は車内か列車の終着地にセットされているね」
 洸はあのわずかな時間にコンピュータから自分のモバイル─ ムーにできる限りのデータを移していた。
「穴水から蛸島まで61キロ。1時間あれば到着するよ」
 奴らの言っていた〝1時間以内〝というのはこの事か。
「車内にはコンピュータ制御の起爆装置がセットされていて─ ああ、だめだ。ここからじゃ解除できない。直接車内のコンピュータを叩かなきゃ」
「列車を止める事はできないのか?線路を爆破して通れなくする、とか」
「バカな事を言うな。万一脱線して爆発でもしたらどうする。MOX燃料を積んでいるんだぞ」
 海岸線や山間を走る路線だが、もちろん街もある。ヘタをすると大勢の人が巻き添えを食う事になる。
 神宮寺は森に連絡を入れ、原子力研究所の建設作業員達の退避を要請した。
「ポイントを切り替えて予備線に入れちまったらどうだ?」
 ジョーにしてはまともな意見だが、
「今検索してるんだけど、予備線は線路が外されてもう使えないんだ」
 と、
「北上する列車を発見!」一平の声が響く。「な、なんてスピードだ。あれでは終点まで1時間も掛からないぞ」
 列車はのどかな能登半島を走るローカル線ではなかった。鼻づらの長い金属製の─ 山形新幹線に似たフォルムをしている。
 2両編成だがスピードが尋常ではなかった。もし線路上で整備の悪い箇所があったら脱線していまうかもしれない。
 一平はヘリを列車の横に並び飛ばせた。
「神宮寺、マグナムで運転席の側面を壊してくれ」
「どうするつもりだ」
「おれが飛び移る。中に入ってコンピュータを止めてやる」
「無茶だ!」
「あのスピードだよ。弾き返されたらどうするの!」
「うるせぇな! それしか方法はねえだろ! おれに任せておけ。絶対に止めてやるっ」
 神宮寺を見るジョーの瞳がいつにも増して青く輝いている。今までこの瞳の輝きに何回も賭けてきた。そしてその賭けの結果は─。
「一平、できるだけ列車に近づけてくれ」
 胸のホルスタからオートマグを抜く。
「ミスター!?」
「ムチャだよ~」
「うるさい! 言うとおりにしろ!」
 怒鳴られ一平と洸が首をすくめた。
「怖いコンビ・・・」
 洸が呟き、ジョーがニッと口元を歪めた。


                                     完へつづく
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