コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

北海道の旅はいそがしく 9

 「何度言わせるんだ!おれはそんなルートの事なんか知らん!」
 「うるさい!」今井の手が再び一平の頬を打った。「何度言わせる、はこっちの台詞だ!しらばっくれるのもいいかげんにしろ!ちゃんと情報が入っているんだぞ!」
 「く・・う・・」
 左右から体を押さえられ動けない一平は、悔しさに思わず歯軋りした。
 「あのな、あの船に乗っていた外人はお前の仲間だけだ。お前達が4人で来たのも、おれ達の目を誤魔化すためだとわかった。第一、警察に追われているのが何よりの証拠だ!」
 振り向いた今井の目を見た一平は口を閉じた。あの目は何を言っても聞かない目だ。それにもし。一平が今井の言っている人物と違うとわかれば、もはや一平に用はない・・という事は・・。
 一瞬にこれだけの事を考え。一平はかすかに下を向いた。
 「・・フッ、観念したか。さっ、秘密ルートの詳細を言うんだ!」もちろん一平に答えられるはずがない。彼は下を向いたままなおも黙っていた。「・・フン・・まあいい・・。どうせもうすぐお前の仲間が来るのだからな」
 「えっ」一平が顔を上げた。「ここに・・」
 「そう、この地獄谷へな。ここは観光地として有名だ。だがそれは表だけの、入っても安全な所だけだ。本当の地獄谷は地元の者じゃないとわからない」一平は自分の顔色が次第に変わっていくのがわかった。「もう10時半・・あと30分だな」
 (ミスター、ジョー、洸・・・、来ないでくれ・・)一平は思わず唇を噛んだ。

 「苫小牧か・・・ここで海ともおさらばというわけだな」
 事なげにジョーが言った。だがその響きある言葉に、他の2人には何かが感じられた。
 「それにしてもやつらはどこで待っているんだろう。地獄谷といっても結構広いぜ」
 「まっ、観光用ガイドに載っている可愛い所じゃない事は確かだな」
 「そうだね。もしガイドに載っている所だったら、ぼくがいるから相手にならないもんね」
 「あ・・☆」シリアスに決めていた神宮寺がコケた。
 やがて車は苫小牧を抜けると白老郡に入った。今井が言っていた2時間後まであと30分だ。潮見坂を登り、目の前には地獄谷から吹き上がる噴煙が見えてきた。
 「ジョー、車で行かれるのはここまでだよ」洸が後部席から顔を出した。
 「しかし車を降りちまったら、奴らからの連絡がうけられねェぜ」
 「いや・・大丈夫だろう」神宮寺が周りを見ながら言った。「奴らはもうおれ達の事に気が付いているはずだ。なにしろ警察の無線からおれ達の行き先を盗み聞きしていた連中だ。抜かりはないだろう」
 「それもそうだな─。それじゃ」
 そう言うとジョーは先に車を降りた。駐車場はいっぱいだ。周りは人ばかり。ツンと鼻をつく硫黄の臭いにジョーは顔をしかめた。
 「おい、ホントにこの人だかりの中でおれ達に何か言ってくるのか」
 「たぶんな─。とにかくおれ達も観光客を装って見物に行こうぜ」
 「フン、おれ達は本当の観光客だったんだぜっ!」
 怒って先に行くジョーの後姿を見て、神宮寺は思わず頷いた。
 地獄谷─その名の通り、赤茶けた地肌から噴煙や熱湯が噴出してすさまじい景観を見せている。
 地熱の伝わってくる辺りには不気味な噴出音が聞こえ、その名に恥じない迫力がある。が、それでいて気軽に見物ができるところから、シーズンになるとかなりの人がここを訪れる。
 神宮寺、ジョー、洸の3人も観光客を装い─もっとも彼らは元々観光客であったが─あっちキョロキョロ、こっちキョロキョロと、しばしの間吹き上げる噴煙や周りに景色に見入っていた。
 やがて約束の時間が過ぎた。しかし彼らの周りには変化はない。
 ジョーが神宮寺のそばに寄り小声で呟いた。
 「車に戻って連絡を待った方がいいんじゃないのか」
 「そうだなァ・・」珍しくも神宮寺が自信なさげに呟いた。と、その時
 「ねえ見て!この山の向こうからも煙が上がってるよ!」声の主は少し先にいる洸だった。「この向こうにも噴気孔があるのかな」
 彼はその方に足を向けた。が、“立入禁止”の札に仕方なく足を止めた。
 「やっぱりあるんだな。しかし残念だ」
 「チェッ、何事かと思ったぜ。急にでかい声─」
 「ジョー?」
 声が途切れたので神宮寺は振り返った。と、ジョーのすぐ後ろに1人の男が立っていた。男はジョーの背中に何かを突きつけている。
 「ジョー」
 「動くな!」男が声を上げた。神宮寺の体がピタリと止まる。「よし、そのままその札を越え、向こう側へ行くんだ」
 「この“立入禁止”の札をかい」洸が訊いた。「そりゃ行きたいと思ってたけど・・」
 「つべこべ言わず、早く入れ!」男が怒鳴った。
 洸は肩をすくめるろとその札を越え、なだらかな丘を登り始めた。その後ろに神宮寺が続く。
 「さっ、お前もだ。余計な手出しをすると背中に穴が開くぞ」
 男は銃でジョーの背中を突っついた。ジョーは思わず舌を打った。彼はこんな状況には慣れている。もちろんそれはジョーだけではない。コンビの神宮寺も同様だ。
 男の持っているのは小型の銃らしい。ジョーはいとも容易く、この男を抑える自信があった。が、一平の行方を突き止めないうちは手を出す事はできない。
 先の2人はもう丘を登りきっていた。
 「よし、ゆっくり降りろ」男が命令した。
 3人は手を震わせたものの、黙って丘を降り始めた。
 「ミスター、あれを!」
 洸に言われるまでもなく、彼らの目の前に広がっているのは─地獄谷と同じ風景だった。
 「地獄谷の他にこんな所があったなんて・・・」
 「驚いたか」男は笑いまじりに言った。「ここは一般の観光客は入れない。おれ達地元の者しか知らない所よ」
 「地元?するとお前は松前組の者じゃないのか」
 「松前組、登別支部の者さ。さあ、そこを降りたら真っ直ぐ行くんだ」
 彼らは再び歩き出した。銃口は相変わらずジョーの背中に突きつけられている。
 「まいったな・・」神宮寺が息を吐いた。「奴ら、おれ達4人のために支部とも合流しやがった。その秘密ルートというのをよほど知りたいらしい・・」
 「VIP並だね・・。ええっと、少なくとも本部に20人、支部に10人として─」
 洸の計算に神宮寺が絶句した。と、突然目の前が開けた。大小多数の噴気孔が中央に集まった大きな空間だ。その一角に数人の男達の姿が見える。
 「一平!」洸が叫んだ。
 男達の1人は確かに一平だ。が、洸が叫んだのは一平の姿を見つけたからではない。その姿に、だ。よほど殴られたのか顔にはいくつものアザがあり、服もあっちこっち破けている。彼は両側から男に支えられ、ようやく立っているようだ。
 「くそォ・・、よくもぼくの相棒を・・」
 彼らにとって仲間は自分の命に等しい。まして洸と一平はコンビを組んだばかりで、ついこの前、生死を共にしようと誓った仲間だ。洸がいつになく怒りを見せているのはもっともだ。
 彼は思わず駆け出そうとした。と、その腕を神宮寺が掴んだ。
 「あわてるな、洸。今こっちから手を出したらよけいに一平が危なくなる」
 「だ、だけどあいつら・・一平を・・ぼくのコンビを・・」
 「気持ちはおれも同じだ・・。しかし時には耐える事も必要だ」
 その言葉に洸は唸ったものの、それ以上進もうとはしなかった。
 そんな洸を見て神宮寺が苦笑して言った。
 「君はジョーより物わかりがいい」
 その時、洸は改めてジョーが銃を突きつけられている事を思い出し振り向いた。が、ジョーは顔色ひとつ変えていなかった。
 やがて4人はさらに降りると男達の10m前に立った。ここまでくると一平の有様がよりよくわかる。洸は男達を睨んで歯軋りした。
 「時間通りだな」一人の男が前に出た。今井だ。「お前達の仲間はここにいる。無事だから安心しろ」
 「何が無事なもんか!ぼくの大事な相棒をよくも─!」
 「洸!」神宮寺の手が洸の頬に飛んだ。洸は驚いて口を閉じた。「─約束どおりおれ達は来たんだ。仲間を返してもらおうか」
 「いいとも。が、その前に秘密ルートを教えてもらいたいものだな。こいつ強情な奴で、何をしても口を割ろうとはしなかった」
 (言いたくとも知らないものは言えないじゃないか。こなくそ??!)
 洸は心の中で叫んだ。そして横の神宮寺を見上げた。彼は黙っていた。もうここまで来た以上、知らぬの一点張りでは通りそうもない。何かチャンスを作らないと一平の救出は難しい─。神宮寺は思わず唸った。
 「よし、おれが言おう」後ろから声がした。ジョーだ。
 神宮寺は振り向き彼を見た。ジョーは神宮寺と目をあわすとかすかに目配せし、再び今井に顔を向けた。
 「しかしおれは全部は知らねえ。完全なひとつのルートにするには、そっちに捕まっている男から要所要所を聞かなければばらない」
 「なるほど・・。分けて教えられたのか」
 「そうすれば、もし1人が捕まってもルートの割れる心配はないからな」
 「よし、わかった」ゆっくり降りて来い。あとの2人は動くなよ」
 今井の言うとおり、ジョーは神宮寺達の横を通りゆっくりと今井達に近づいた。奴らのすぐ横には草むらがある。ジョーの眉がピクッと動いた。そのジョーの変化が後ろの神宮寺にも伝わり、彼はいつでも銃の抜ける体勢へと体をゆっくり向けていった。
 そのうちにジョーが今井の前に辿り着いていた。今井はアゴを一平の方にしゃくった。ジョーはゆっくり一平に近づくと2言3言早口でささやいた。と、一平もジョーに何か言っている。ジョーはわざと頷いてみせた。
 「どうだ、わかったか」
 「ああ、わかったとも」ジョーは一平の横に立ち今井に言った。「秘密ルートはな─」
 今井が体を乗り出してきた。ジョーはニヤリとすると後方の山を指差した。
 「あの山の中だ!」
 今井は反射的に後ろを振り返った。
 「今だ!」
 ジョーは叫ぶと一平を抱え、横の草むらに飛び込んだ。と、すかさず神宮寺は後ろの岩陰に身を隠し、洸はさっきまでジョーに銃を突きつけていた男に得意のキックを食らわすとその手から銃を奪い、神宮寺とは反対側の岩陰に躍りこんだ。
 「大丈夫か、一平」ジョーは手の甲で2、3度一平の頬を叩いた。
 「このくらい・・・、君の運転に比べれば・・・」
 「ヘッ、そりゃ悪かったな!」
 そう言いながら2人はすぐさまその場を離れた。
 「追え!なんとしてでも捕まえて、秘密ルートを聞き出すんだ!」
 今井の言葉に男達は4人が逃げ込んだ所に足を向けた。が、いない。いつまでも同じ所にウロチョロしているほど彼らはバカではない。男達はバラバラになって捜し始めた。
 (早くジョーと合流しなければ)
 神宮寺は改造コルト片手にゆっくりと移動し始めた。と、その岩の横を男が通った。神宮寺は銃口を向けたが撃つ事はできなかった。
 (・・町のチンピラ相手におれ達が銃を使うまでもないな・・)
 神宮寺は後ろから男の首に腕を回し口を押さえるとグッと絞めた。本当は相手をキズつけたくなかったのだ。彼は男を気絶させるとジョーと一平の姿を捜した。と、少し向こうで銃声がした。見ると洸が辻から奪ったニューナンブN60を男達に向けている。
 「撃つな、洸!」
 神宮寺は立ち上がると思わず叫んでしまった。
 男達がその声を聞きつけこちらに向ってくる。が、銃は撃つ気配はない。あくまでも捕まえて秘密ルートを聞き出そうというのだろう。場所を移動しながら神宮寺はそう思った。その方がこちらにとっても都合がいい。相手が撃たないのならこっちから撃つ必要もない。肉弾戦なら得意である。
 神宮寺は素早く洸の隣についた。
 「いいか、洸。何人でもいい。奴らをジョー達の方から引き離すんだ。本当なら合流した方がいいんだが、これじゃとてもできそうにないからな」
 「わかった!」返事が早いか、洸はスッと後方に飛んだ。神宮寺も続く。
 「追え!あっちだ!」
 今井の指差す方に男達が体を向けた。神宮寺と洸はわざと岩の間からチラチラと体を覗かせながら走っていく。
 「足元に気をつけろよ。落ちたら火傷」では済まないぞ」
 「わかってる、わかってる─わっ!」
 「言ってるそばから!」神宮寺は、足を滑らせジタバタしている洸の腕をグッと掴んだ。「むこうが撃ってこないからいいようなものの、まったく・・・」
 が、その考えは甘かった。
 相手は要は秘密ルートを聞ければよいのだ。聞き出すには口が動けば良い。腕や足の1本や2本無くなっても差し支えはないのだ。
 とうとう男達が撃って来た。合図の第1発が神宮寺の左肩スレスレに通った。
 「くそォ、来たか」彼は内ポケットからコルトを出した。
 「待って、ミスター。こっちの方がいい」そう言うと洸はN60を神宮寺に抛って寄越した。「ぼくにはコルトをくれ。コルトの方が使いやすいや」
 「この銃だと、罪の意識に耐え兼ねないかな」神宮寺は洸に改造コルトを返した。「だが殺すなよ。銃を落とすだけだ。いいな」
 「わかってるけどさ、このコルトうまく改造されてないんだよなァ」
 洸がぼやいた時、何発目かの弾丸で2人は左右に大きく分かれ、神宮寺は岩陰に洸は大きな噴気孔のそばに身を伏せた。
 男達はゆっくりとこちらに向ってくる。全部で8人だ。神宮寺と洸の腕ならそう難しい事はない。
 2人はタイミングを合わせ一気に飛び出し、前にいた男の手からライフルを撃ち落した。残りの6人がサッと左右に分かれる。
 神宮寺は左に走り、ピストルを持った男の右手を狙った。
 右に分かれた男達は一斉に洸に向って乱射しだした。が、洸はコルト片手にヒョイッと宙返りをすると5mほど後ろに降りコルトを構えた。
 銃を持つ男が3人に減った。
 「へっ!どんなもんだい!」
 洸がわめいた。が、神宮寺の表情は柔らかくならない。彼は残った3人の1番後ろの男を見た。手にしている銃はブローニングらしい。ここからでは何型かわからないが、ブローニングとN60、コルトでは勝負は見えている。
 (そう・・銃だけなら勝負はわかりきっている・・。だが・・)
 神宮寺の足元で弾丸が跳ね返った。彼はひっくり返ったがその瞬間、両手でN60を握り男の右腕をぶち抜いた。
 (要は腕だ!)
 神宮寺は振り返り洸を見た。彼は撃つより早く、得意なキックを食らわせている。神宮寺の口元が歪んだ。と、その時だ。
 「うわァ!」空(くう)を切るような銃声が辺りに響き、洸の手から」コルトが飛んだ。
 「洸!」
 神宮寺はとっさに男を撃った。だが弾丸は肩を掠っただけだった。男は、右腕を押さえて膝をついている洸のそばに寄りコルトを拾い上げた。そして洸に銃口を突きつけた。
 「くそォ!」神宮寺は再び引き金を引いた。が、N60はカチッと音がするだけだ。「し、しまった。もう弾丸がない・・」
 「はははは・・・」男は大声で笑い出した。神宮寺は悔しそうに男を見上げる。「散々手こずらせたが今度こそお終いのようだな。さあ、秘密ルートを教えてもらおうか」
 まったくしつこいとしか言いようがない。神宮寺は唇を噛み黙っていた。と、男はコルトを神宮寺に向けた。
 「言いたくないのならまあいい。口を割らせるの1人で充分だ。な。ぼうや」
 「ぼ、ぼうやだとォ!」洸が思わず大声を上げた。「ぼくにはひびき洸という─!」
 「黙ってろ!」
 洸は男に蹴っ飛ばされ再びひっくり返った。そしてゆっくりと神宮寺に向き直る。「せめてお前の仲間のこのぼうやの銃で、あの世に送ってやるぜ」
 男は銃口を神宮寺に向けた。いくら改造銃でもこの近さでは威力はそう変わらないだろう。神宮寺の額に汗が滲み出てきた。
 「やめろォ!」
 洸が男に飛びついた。が。男に銃のシリで頭を殴られてしまった。
 「お前はあとでゆっくり付き合ってやる。それともあの男を助けたいのなら秘密ルートの在処を言うか?」洸は殴られた頭を押さえ唸った。知らないものを言えるはずがない。「─それじゃ、仕方ないな。恨むんだったらこのぼうやを恨めよ」
 男の持つコルトが再び神宮寺に向けられた。引き金に指が掛かる。
 「ミスター!」
 洸は飛び出そうとして、岩に足を取られ前乗りに倒れた。次の瞬間、耳をつんざく物凄い轟音が辺りに響いた。洸は思わず耳を押さえ、それから恐る恐る顔を上げた。「・・あ・・・?」
 洸は自分の目を疑った。撃たれたはずの神宮寺が目の前に立ち、代わりに男がひっくり返っている。しかも右手を真っ赤に染めて─。
 「・・暴発、か・・・」洸はゆっくり立ち上がった。と、その横に神宮寺が並んだ。
 「・・どうやらそうらしい・・。が、おかげで助かった」
 「そうだよな」洸がバラバラになったコルトを拾い上げた。「考えてみればここまでよく持ってくれたよ。しかもこっちの危ない時には暴発して助けてくれるなんて」
 「本当に。お前の腕は確かだよ、洸」
 「??」
 「とにかく元の所に戻ろう。こいつらは放っておいたってもう銃は撃てないさ。それよりジョーと一平が心配だ」
 そう言うと神宮寺は洸の腕のキズ口をハンカチで縛った。と、その時、十数人の男達の姿が札を越えこちらに来るのが見えた。
 男達は二手に分かれ一方はジョー達のいる方へ、もう一方はこちらに向ってくる。
 「くそォ・・。新手か・・」
 神宮寺は思わず立ち上がった。



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