コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳   0 comments   0 trackback

闇に輝く光の下(もと)に 1


「神宮寺!」樋口が1人の白衣の男と共に神宮寺やジョー達の元に走って来た。「佐藤博士だ。3階にはもう誰もいない」
 50代のその男が小さく頭を下げる。
「これで6人全員保護だな」
 神宮寺が周りの男達を見回した。
 政府の研究機関から開発中のMOX 燃料システムのエンジンを奪った国際テロ組織ザーツは、そのシステムエンジンを搭載した列車を走らせ建設中の原子力研究所に激突させようとした。が、ダブルJ とJB 2の活躍で列車は止められシステムも回収された。
 しかしその一方でザーツはMOX や原子力に詳しい科学者の誘拐を行っていた。
 チーム4の内偵によりその科学者達の居場所がわかったのは能登の事件が解決して2日後だった。
 ダブルJ とチーム1が出動した。
「あの・・・」佐藤博士が口を開いた。「木梨君がいません。昨日連れて来られた若い男性です。確かもうひとつの建物の研究室に配属されたはずです」
 事前の調査では、誘拐されたのは6人と聞いていたが。
「追加って事か」ジョーが言った。「とにかく助けにいかねえと」
 と、どこかでボンッ! と大きな音が跳ね、建物が揺れた。

「奴ら、この建物を爆破させるつもりか」
 伊藤が言った。
 山の中のアジトなので周りに害が及ぶ事はないが、このままここでのんびりしているわけにもいかない。
「よし、樋口達は皆さんを連れて待ち合わせの地点まで行ってくれ。もうすぐ西崎のヘリが到着するはずだ。おれとジョーはその木梨さんとやらを連れに行く」
 佐藤博士から研究室の場所を訊き神宮寺が言った。
 男達は頷き左右に分かれた。6人の科学者を連れた樋口と伊藤は正面入口へ、神宮寺とジョーはその反対の奥へと走って行く。
 すぐに裏口のドアに突き当たる。オートマグが火を噴きドアが吹き飛んだ。一旦外へ出て、もうひとつの建物のドアもオートマグで開けた。
「最近過激だな、神宮寺」ウッズマンを出し掛けていたジョーが苦笑する。「また眠いとか言うんじゃねーだろうな」
「なんだ、それ」神宮寺が眉をひそめた。「赤ん坊じゃあるまいし、眠いくらいで銃をぶっ放すか」
 先に体を建物のドアから滑り込ませる。ジョーが肩をすくめた。が、
「おい、赤ん坊は眠いからといって銃をぶっ放したりしねえぜ」
「・・・・・」神宮寺がまじまじと相棒を見る。こいつなんでそんな事に拘るんだ?「欲しいのか? 赤ん坊・・・」
 はァ? とジョーが目を見開く。
「それなら女の子を捕まえるのが先だぜ」
「おれはそんな─!」
 ふと口を閉じた。神宮寺も前を向く。佐藤博士が言っていた研究室の入り口が見えた。 そのとたんドアがバンッ! と開き、バババ・・・という音と共に弾丸が2人目掛けて飛んできた。とっさに左右に分かれる。一旦廊下の曲がり角まで後退した。 銃声はまだ続いている。
「くそォ、数撃ちゃ当たる作戦かよ」
「この間に木梨を動かされたら面倒だな」
 研究室のドアは廊下の突き当たりだ。他にどこからも入る所はない。銃声から推測すると相手は2、3人だろう。
「久々の強行突破といくか」ジョーがウッズマンを握り直した。「援護を頼むぜ」
 そう言いバッと廊下に飛び出した。
 強行突破はダブルJ の、特にジョーの十八番だ。このように狭い廊下では逃げ場がないので危険なのだが─。
 案の定、弾丸がジョーに集中する。しかし同時にジョーからも相手が丸見えになった。 ジョーのウッズマンが正確に相手に向かって弾丸を送り出していく。
 彼が銃を持つ相手の前に身を晒せるのは神宮寺に対しての絶対的な信頼感があるからだ。
 その力強い44オートマグの援護も加わって、やがて辺りは静かになった。
 ジョーは研究室のドアの右につき、そっと室内を窺う。誰もいないようだが・・。
「あ」
「人が倒れているぞ」
 神宮寺が室内に飛び込み、床に伏している白衣を着た男を仰向けに起こした。と、かすかに呻き男が目を開けた。
「木梨さんですか」
 男は神宮寺に向かって頷き、その眼をジョーに移した。とたんに両目が見開かれる。思わず叫んでジョーから逃れるように手足をバタバタさせた。
「どうしたんですか。我々はあなたを救出に来た者です。佐藤博士や他の人はもう脱出しました。我々も急ぎましょう」
「ほ・・本当に─?」震える木梨に神宮寺が頷く。目を向けて来たのでジョーも頷いた。「す、すみません。ここの連中はみな外国人で・・・。なかにはイタリアのマフィアも出入りしていると聞きましたので─」
「なんだと!」ジョーの鋭い眼が木梨に向けられた。木梨はビクッと体を震わせ口を閉じた。「イタリアのマフィアだと? なんという名前のファミリーだっ」
 ジョーが神宮寺の手から木梨を奪い取った。木梨の手足がまたバタバタする。
「やめろ、ジョー。脱出が先だ」
 神宮寺が2人の間に割って入った時、部屋の奥からバンバンと銃声が響いて来た。佐藤博士は知らなかったようだが、この奥に他に出入りできるドアがあるようだ。
 神宮寺はジョーを押し退け木梨を立たせた。体に手を添え一緒に廊下へと走る。その後ろにジョーがついた。
 奥から4、5人の男達が走ってくるのが見えた。手には小型だが銃が握られている。
「つっ!」
 2人を庇うようにして後ろに付いたジョーの腕を弾丸が掠る。
「ジョー」
「大丈夫だ」
 振り向く神宮寺にいつもの不敵な笑みを掃いた。
「先に行け、神宮寺。ここはおれが食い止める」と、何か言おうとした相棒に、「任せておけ。いつものようにうまくやるさ」
 そう言いジョーは2人に背を向けドアの横に貼りついた。
「早く行け! 奴らは絶対にここから出さねえ!」
 廊下に出てしまった3人の姿が見えなくなったので、一瞬だが銃声が小さくなった。このチャンスを生かさなければ。
 神宮寺はちょっと躊躇ったものの、すぐに木梨と共に出口に向かって走り出した。

「体を低くして! 早く乗ってください!」
 ブレード音の中、西崎が叫ぶ。
 少し開いた山間の平地に降りたヘリに科学者達が次々と乗り込んで行く。
「神宮寺やジョーは?」
「もう来ると思うよ。─ ほら」伊藤が目を向けた方から神宮寺と白衣を着た若い男が駆けて来た。ヘリの中の男達が歓声を上げた。「ジョーは?」
「奴らを押さえてる」
 木梨をヘリに押し込み神宮寺が建物に目を向ける。何やらいやな予感が胸に湧き上がる。
「おれはもう一度建物に戻る。もし10分経っても戻らなかったら─」その時、建物が大きな音を立てて爆破された。「ジョー!」
「危ない!」
 伊藤の手を振り払い、神宮寺は今来た道を引き返して行った。

 保護された7人の科学者たちは一度地元の病院に収容され診察を受けた後、警察庁の施設に一時移された。
 MOX燃料システムとザーツが関わっている事件なので公安部長が直接事情を聞く事になり、国際警察との関係から3課の課長と主任の関も同席する事になった。
 ここで関達は初めてMOX 燃料システムに関する今までの事件の流れやJB の活躍を知ったのだ。

「だけどホントにジョーは悪運が強いよな」
 入ってくるなり西崎が言った。
「なんとでも言ってくれ。悪運だって運の内だ」
 捜査課の休憩室にはジョーと神宮寺、西崎と伊藤の4人がいる。ダブルJ はすっかりここに入り浸るようになった。
「奴ら自爆するつもりか爆発物を投げてきてよ。それを避けて飛んだら別のドアに当たり、そのまま部屋に転がり込んだんだ」
 おかげで爆発の直撃を受けずに済んだ。被害があるとしたらまだ2、3回しか着ていない薄茶色のアルマーニのジャケットが焦げ茶色になった事くらいだ。
「日本では売ってないからママに頼んで送ってもらったのによ」
 ため息をつくジョーを不可解な目で伊藤が見る。
 ジョーのような風貌の男が、〝ママ〝 と言うのはなんとなく合わないような気がする。
 が、自分が母親を、〝お母さん〝 と呼んで育ったのと同じようにジョーは〝ママ〝 と呼んでいたのだろう。合わないと思うのは伊藤の勝手な見方だ。
「結局あのアジトにいた奴らは逃げたか、捕まったとしても死体だけだな」
 西崎がコーヒーの自販機のスイッチを押した。型は一般の自販機と同じだが、コインを入れる必要はない。
「公安が博士達から話を聞いている。少しでも奴らの事がわかるといいけどな」
「それによってまたおれ達が出るってわけだ」う~んとのびをしてジョーが言った。「いつ出動になるかわからねえから少し寝ておこうかな。─ お前も寝る?」
「・・・・・」訊かれた神宮寺が顔をしかめた。「・・・なんでそんなにおれを寝かそうとする?」
「・・・いや、別に・・・」寝不足の神宮寺は機嫌が悪くて怖い、とは言えない。「じゃあおれひと眠りしてくるぜ」
 そそくさと休憩室から出て行った。
「時々わけわかんない事言うよな、ジョー」
 西崎と伊藤が顔を見合わせ笑う。
「だけどいつ出動になってもいいように準備しておかなくてはな」チラリとチーム1のリーダーの顔を見せカップを自動洗浄機の中に入れた。「夕飯食いに行こうぜ」
「おれは6階に戻るよ」神宮寺が言った。「調べたい事があるんだ」
「疲れてるのか? 顔色よくないぜ。足はもう大丈夫なんだろ?」
「2日前の怪我だぜ。とっくに治ってるよ」
 いつもの、神宮寺の笑顔だ。だがその隅に小さな陰りがある。
 しかし、“じゃあな” と手を上げそのまま休憩室を出て行った。
「・・・まだ続いているのかな、神宮寺・・」呟く伊藤に西崎が目を向けた。「一時期、この仕事に迷いがあるように見えたんだ。そりゃおれ達だっていつも迷いははあるさ。だけど神宮寺のあんな姿見るのは初めてだし、S メンバーなのにって思ってしまって・・・」
「・・・・・」
 その事は西崎も知っている。しかしそれとは違うような気がする。
 どちらにしろ神宮寺が自ら口に出さなければ西崎に何も言う事はできない、と思った。

 自分のデスクのパソコンを立ち上げた神宮寺は、しかし調べ物などなく、しばらくポーとモニタを見ていた。
 体は疲れているのだが妙に頭が冴えて眠れそうにない。
 気がつくとスクリーンセイバーになっていた。洸が作ってくれたもので神宮寺の愛機が上下左右にと飛びまわっている。
 その映像を解除し、ふと思いつき神宮寺は〝ゲーム・アキラ〝 のサイトに入ってみた。 
 このサイトは洸からゲームソフトを貰いインストールしたパソコンのみで使えるのだが、なぜかネット経由で最新版に更新できる。JB 内のみ流通しているもので、どう考えてもJB のサーバに入り込んでいると思われるのだが管理課からの苦情はない。息抜きのひとつとして黙認されているのか。 
 ちなみに森や佐々木がこのサイトを知っているかどうかは不明だ。
 神宮寺はゲームをする気はなかったが、〝国際秘密警察悪童軍団パート2〝 は迫力満点でおもしろい、と伊藤に聞いていたのでちょっと覗いてみようと思ったのだ。
 このゲームではJB のメンバーが実際のシフトで出ている。ゲーマーは自分が誰になるか決め、その人物中心でストーリーは進んで行く。
 1番人気のあるストーリーは、やはり敵地に突っ込み壊滅するというものだ。そんな事は実戦でいくらでもやっていてわざわざゲームでやる事もないのだが─。
 神宮寺はジョー中心のストーリーを進めてみた。と、いくつかのストーリーがあったが、どれも最後はジョー1人の強行突破になった。
(やはりな・・・)
 小さく息をついてゲームを終了した。
 洸だけではなく、おそらく皆のイメージがそうなのだろう。実戦でもそうなのだから仕方がないが。
 今回の救出作戦でもジョーはあたりまえのように自ら強行突破を行った。その後木梨を無事逃がすために神宮寺に託し、自分は残った。
 彼らは役割を決めてはいない。その場で1番有効な行動を起こすだけだ。が、今回のようにトップを神宮寺が切り、ラストをジョーが受け持つパターンが多い。それが今まで1番良い結果に繋がった。
(おれはジョー1人に危険なパートをさせているのか・・・)
 神宮寺は思った。が、強行突破を行ったからといって必ずしも危険とは限らない。指揮官が先にやられるケースもあるのだ。
 銃撃の現場に1人残るのは危険だが、要警護者を連れ先に脱出に向かう方が危険に落ち込む事もある。
 実戦の現場に安全なパートなどないのだ。
 それは彼自身よくわかっているはずだが─。
 
 ふと気がつくと室内フォンが呼んでいた。オートになっていなかった。
「はい、ダブルJ室です」
 珍しくあわてた声に、
『寝ていたのかね?』
 と、森が訊いた。いえ、と神宮寺が答えると、7階まで来るように森が言った。
 了解しフォンを切ると神宮寺はジョーに伝えるため仮眠室のドアを開けた。
 2台あるパイプベッドの奥の方にジョーは寝ていた。珍しく神宮寺が入ってきても起きなかった。よほど疲れているのか安心しているのだろう。声を掛けようとしその顔を見て口を閉じた。
 長い前髪が上に跳ね上がっているので、いつもは隠れている額が丸見えになっていた。その端に斜めに走る小さな傷痕があった。
 先日暴走する列車に跳び移り、神宮寺が車輪を外して列車を止めようとした時車内にいたジョーがどこかに当たって切ったらしい。救出されるまで本人も気がつかなかった。  確かこの事件の時もジョーは何度か1人で現場に残ったっけ・・・。そしておれは犯人を追いジョーをその場に残し─。
「神宮寺」ふいに呼ばれ神宮寺はハッと声のした方を向いた。上半身を起こしたジョーと目が合った。「なにしてるンだよ。男の寝顔を見るのがシュミか?」
「そんな気色の悪い趣味はない。チーフの呼び出しだ」
 そのまま踵を返す。
「ヘンな奴だ」
 ジョーは口をへの字に曲げ、それでも急いでシャツを着た。



                                     2へつづく


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