コールナンバー ダブルJ

国際秘密警察スペシャル(S)メンバーと呼ばれる男達のお話です
Posted by  朝倉 淳

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始まりの地にて 8

 赤レンガの家が見える。ジョーが昔、両親と暮らしていた家だ。だけど今は違う。2階のジョーの部屋を別の子どもが使っている。10才くらいの男の子だ。部屋にはベッドや机、プラモデル、サッカーボールがあり、ジョーがいた頃と大して変わらない。
 突然、警報が鳴り響く。乱れた足音と銃声が─。そして、あれは・・・火?
 「!」
 ジョーは飛び起きた。頭を抱え体を丸める。が、すぐに我れに戻った。とたんに暗さと寒さに押し包まれる。
 ラルスが横で寝ていた。彼らはまだあの部屋に閉じ込められているのだ。
 ジョーが安堵の息をつく。あの家が襲われたわけではない。あの子も両親も無事だ。大丈夫・・・何も起こってはいない・・・。
 しかし奴らのようなハッカーを放っておけば、あの家もいずれは日本の家のように・・・。
 「そんな事は・・させない・・」
 「時間だ。出てくれ」ドアが開かれオリバーが顔を出す。「あ、ラルスは─」
 「い、行くよ。ジョージを巻き込んだのはおれなんだから」
 ラルスが精一杯抵抗する。彼がひとりここに残されたのでは、これからジョーが作るチャンスに逃げ出せない。
 「ま、いいや。一緒に来い。ジョージ、ラルスと無事に戻って来たかったら・・・わかっているな」
 ジョーは小さく頷く。横でラルスがジョーの顔を見てかすかに目配せした。
 2人は建物の外に連れ出された。相手はオリバーを入れて3人。甘く見られたものだ、とジョーは思った。もしオリバーがジョーの正体を知っていたら、こんな人数では対応しなかっただろう。
 ギドはいない。まだひっくり返っているのかと思ったら、あとから出てきた。これで4人だ。
 ギドはジョーを睨んだが手は出さなかった。仕事の前だ。余計な事はするなと言われているのだろう。
 2台の車のうち前の車にジョー、後ろにラルスが乗るよう促される。ラルスについているのは1人だけだ。どこに連れていかれるかわからない。チャンスは今しかない。
 「ラルス!」ジョーが叫ぶ。ラルスについている男に蹴りを食らわし、地面に倒した。「行け!」
 ラルスが走り出す。
 追い縋ろうとするギドの前にジョーは立ち塞がった。殴りかかってくるのを体をスライドさせ避けながら相手の腹に蹴りを入れる。
 だがギドは、己が倒れる勢いにジョーを巻き込んだ。2人で地面に転がる。そのとたん自由になった足でギドの横っ腹を蹴り込んだ。
 オリバーの横にいたもう1人の男が加勢に来たが、あっさりと倒される。あとはオリバーだけだ─。が
 「うわっ!」
 ジョーの体が横に飛ぶ。そのまま地面に転がった。起き上がろうと足をついたが、またすぐに膝をついてしまった。左足に激痛が走る。見ると血が流れていた。
 「く・・うっ・・」
 「君は本当に無茶な奴だなあ」
 スーと白煙が上がる銃口をジョーに向けたままオリバーが言った。ジョーの腕を取り強引に立たせ後部座席に押し込んだ。
 「ギド、アーロン。いつまで寝てる。行くぞ!」
 自分は運転席に着いた。ジョーの横にギドが乗り込み左足を蹴っ飛ばした。ジョーが声を上げ座席に蹲る。
 「やめろギド。それ以上やったら仕事に使えなくなる」
 (くそォ・・。ちょっと誤算だったなあ・・)
 車の振動から左足を庇うようにしてジョーは歯ぎりした。ラルスを逃がしても今すぐ自分に危害が加えられる事はないと思っていた。そんな事をして困るのはオリバー達だ。
 しかし彼は躊躇いもなくジョーを撃った。手ではないから銃は撃てるが、この足でどこへ侵入できるというのだ?
 外はかなり暗い。時計を見ると11時を回っていた。
 ふと、この時計がスピードマスターのように通信機だったらといいのに、と思う。これからどこへ行くかわからないし、着いてもその場所をトーマスに伝えるすべはない。あとはラルスに賭けるだけだ。

 後ろから銃声が聞こえた。一瞬止まりかけたが、ジョーの言葉を思い出しまた走った。5分くらい走って目に付いた警察署に飛び込んだ。
 事情を話しトーマス・レイマンという男に会わせてくれるよう頼んだ。運が良かった。そこは中心部に近く、今度の件で国際警察が協力を頼んでいる警察署だった。
 すぐさまトーマスが呼ばれた。ラルスは今までのことをすべて話した。しかし彼らがどこへ向かったのかはわからないと言う。もちろん誰を狙っているのかも。
 「ありがとうラルス。あとは我々に任せてくれ」
 トーマスは警官に頼んでラルスを自宅まで送るよう手配した。あとはオリバー達が向かっている先だが・・・。
 「そうか、ハッキングだ」
 おそらくオリバーは、今夜押し入る家のセキュリティシステムはハッキング済みだろう。ハンブルク市の要人でセキュリティをハッキングされた痕跡のある家を捜せば・・・。
 大変な仕事だが今はそれしかない。それなら国際警察ハンブルク支部のスーパーコンピュータを使った方がいい。
 トーマスは警察署を飛び出した。

 「見えるか?3軒目の黒い屋根の家だ」
 ギドと場所を変わったオリバーがジョーに言った。車は大きな家の裏口近くに停まっている。
 「あそこにあるのがセキュリティボックスだ。点滅しているランプはセキュリティシステムの有効を表わしている」オリバーの言葉にジョーはその家に目をやった。「君にはあのランプを撃ち抜いてもらう。と、同時にアーロンがこのパソコンでシステムを乗っ取りおれが侵入する」
 「な、なるほど・・」それならジョーが歩けなくてもいいわけだ。
 「ギドもアーロンも射撃はまったくダメでね。それでこんなに苦労しているわけだ」 オリバーの言葉にジョーはフウンと鼻で笑ってやる。ギドが真っ赤になった。素直でおもしろい奴だ。と、オリバーがジョーに銃を渡す。モーゼルC96だ。
 「弾丸(たま)は1発しか入っていない。ヘタなまねするなよ。ラルスは逃げたが、おれ達は奴の家を知っている。もちろんお友達もな」
 「・・・・・」
 ジョーは銃を手に取り唇を噛む。ワルサーより大きいし銃身も長い。こんな形で再度銃を手にしたくなかったのだが・・・。
 「君がまた余計なまねをしたら、今度はギドも黙ってはいないよ」
 銃を持つジョーをギドがやはり銃で狙っている。いくら苦手でもピッタリくっついていれば当たるだろう。
 アーロンがサンルーフを開ける。ジョーは屋根に上半身を預けた。肘を立て両手でモーゼルを握る。久々だが恰好だけはピタリと決まる。それを見てオリバーがニヤリと笑った。
 「ギドの合図で撃てよ」
 そのギドは車内にいてジョーを下から狙っている。あまりいい気分ではない。
 オリバーが車を降り裏口のそばに張り付く。
 ジョーがランプを銃で撃ち抜き、セキュリティが切れた瞬間にアーロンがパソコンでシステムを乗っ取る。裏のドアを開けてオリバーが侵入する、という手口だ。
 これなら警報は鳴らないだろう。
 ジョーが辺りの気配を探る。閑静な住宅街はもうとうに眠りについている。
 (トーマス、間に合わないか)
 ジョーはモーゼルを握りしめ、トーマスの到着を待った。

 トーマスは同僚のカインとウェインと3人で、車で市街を走り回っていた。
 彼らが手にしているのはノートパソコンだが、ここにはハンブルク支部管理課のサーバからの情報が次々と入ってくる。一刻を争う時だ。支部でジッとしているより車で動いている方が、場所が判明した時にすぐ駆けつける事ができる。
 パソコンのモニタには、市の要人の自宅で今までハッキングを受けた所が映し出されている。全部で8ヶ所だ。思ったより多かった。
 8台の車に分乗した管理課と捜査課のメンバーがそれぞれの場所に向かう。だがもしもの8ヶ所以外の所だったら・・・。
 トーマスは焦るがどうしようもない。

 「撃て!」ギドから合図が来た。ジョーは息を詰めて時間を置く。「何している、早くしろ!もう1発食らいたいか!」
 ギドがジョーの足を銃口でつっつく。
 「撃ちたかったら撃て」ジョーが言う。「2発も銃声がしたら、さすがに皆起きるだろうぜ」
 下でギドが唸っているのがわかる。ジョーはできるだけ時間を稼ごうとした。
 「こいつ!」
 突然、ギドがサンルーフから上半身を出してきた。ジョーは押され体勢が崩れる。いきなり髪を掴まれ顔を屋根に打ちつけられた。両手はモーゼルを握っているので対応できない。頭に銃口を押し付けられた。
 「早く撃て!」
 「──」
 口の中に血の味が広がる。たまらず吐き出した。
 もう時間延ばしは無理だろう。再びモーゼルを構える。と、突然、ピピピ・・・という甲高い音が当たりに響いた。男達は驚いて辺りを見回す。
 音の出所はジョーの腕時計だった。
 「な、なんだこれは!?」
 ギドに訊かれたがジョーには答えられない。が、その時ジョーは何か・・自分と同じ感覚を近くに感じた。うまく言えない。しかしこのまま撃っても大丈夫だと確信した。自分と同じ思いが彼を包んでくれる─。
 ジョーはモーゼルを構え、セキュリティランプを撃ち抜いた。

 「セキュリテキが切断された!?」ノートパソコンのモニタを見ていたトーマスが叫んだ。「ローデンバウム通りのフリードリヒ邸だ。あ?また繋がった??」
 トーマスも、横でモニタを覗いているカインも途惑った。が
 「とにかくローデンバウムに急いでくれ。カイン、他の車にも連絡だ。フリードリヒ市議の家に集めてくれ」
 カインは通信機を取った。

 ジョーがランプを撃ち抜いた刹那、アーロンが手元のパソコンでシステムを乗っ取った。これで警報も鳴らさずドアの開閉ができる。が、アーロンはドアを開ける事はできなかった。
 モーゼルを放り出したジョーが車内に滑り込み、ランプに目が行っていたギドの銃を奪い、アーロンの持っているパソコンを撃ち抜いたのだ。
 貫通した弾丸がアーロンの足に当たる。ギドがジョーを押さえようとしたが、素早く車外に転がり出た。
 「!」車のライトがジョーの目を射る。目が眩み、膝をついた。
 「ジョージ!」車からトーマスが飛び出してきた。ジョーに駆け寄る。「大丈夫か?」
 「大丈夫だ。それより奴らを」
 「それこそ大丈夫だ。見てくれ」
 トーマスの指差す方を見ると車が次々と停まりオリバー達を取り囲む。オリバーが銃で抵抗しても、これだけの人数を相手にすれば結果は目に見えている。
 「よく知らせてくれた。君の任務もこれだったのか?」
 「いや、これは偶然の産物で・・・」
 トーマスの肩を借り立ち上がったジョーは、少々決まり悪そうに答える。これもあれも、今のジョーにはない。
 「とにかく、君は病院だ」
 トーマスは乗ってきた車の後部座席にジョーを座らせ振り返る。
 オリバー達が確保されたのを確認した。

 ボンッと音が響き地面が跳ねた。金属片や土が降って来る。
 「くそォ、地雷が仕掛けられてあるとは思わなかったぜ」カイザーが言った。「それでもここは目的地じゃない。ダミーのひとつとは」
 「こんな仕掛けがあちこちにあるのだろうな」土を払いながら神宮寺が立ち上がる。「洸達にも知らせておこう」
 時計型通信機に洸のコールナンバーを打ち込む、と、ガガガ・・・と、いつもはしない音が聞こえてきた。
 「電波状態が悪いのかな。外国だし」
 各通信機は日本国内用だが、今回ドイツに出張するSメンバーのためにユーロ用に改造してある。雑音が収まった。
 「洸か。ダミーの建物には爆弾が仕掛けられている。気をつけろ」
 『了解!・・爆弾かあ・・。ドンカンジョーは“爆弾”に気がつかないし・・』
 「なんだって?」
 『なんでもないよ!じゃあね!』洸の方から通信を切った。
 神宮寺はしばし通信機を見ていたがカイザーに呼ばれ振り向いた。

 翌日、ジョーはディアブロでアルスター湖をゆっくり一周していた。
 やがて湖を離れアウトバーン1号線に向かう。
 今度はいつ来られるのだろう。いや、いつでも来る事はできる、とジョーは自分に言い聞かせる。
 ハルフェシュテフーダ通りの家には寄らなかった。いくら見ていても、あの家はもう自分の家ではないのだ。外に立って見る事しかできないジョーは、そう思い知らされた。
 ラルス達にも会わないで出てきた。ただ一晩入院した病院を退院する時トーマスが来てくれた。もちろん医師は止めたのだが、弾丸さえ抜き取ってくれればもう病院には用はない。トーマスには次の仕事がある、と言った。
 昨夜はあのまま徹夜だったらしく赤い目をしながらジョーに礼を言い、今日はバックのセキュリティ会社に乗り込む、と教えてくれた。
 もちろんもうジョーには関係ない事だった。
 ジョーは車を徐行させ、もう一度ハンブルク市街に目をやる。
 結局彼はここに来た目的を達成していない。それも仕方がない。自分は自分でしかないのだから─。
 (こうなりゃもう居直りだな)
 ジョーは微笑み、グッと前を向く。もう振り返らない。このままフランスへ戻ろう。彼の瞳が遥か前方を見通す。─と、その時、ジョーの左手首の時計が鳴った。
 (まただ)
 ジョーは左手をステアリングから離し文字盤に目をやる。昨夜これが鳴った時、ジョーは不思議な感覚に捕らわれた。今もそうだ。あの時はトーマスが来てくれるのを予感したからか。と思ったが・・・。
 ふと見ると、リューズの少し上に小さな突起物が見えた。
 (ま、まさか・・)
 ジョーは車を路肩に停めた。アウトバーンに乗る前でよかった。エンジンを切った車内にはジョーの息遣いだけが響いていた。
 (まさかなあ・・)
 ジョーは苦笑いした。が。この時計を持ってきたのは洸だ。あいつなら・・・。
 ジョーは思い切ってその小さな突起物を押してみた─と
 『─爆弾が仕掛けられている。気をつけろ』『了解!爆弾かあ・・。ドンカン─』
 「洸?神宮寺・・・」
 かすかに聞こえてくるその声は、確かに洸と神宮寺のものだった。彼らは今ハルツ地方に来ている事はトーマスが言っていた。
 実はジョーは昨夜病院に行きがてら、トーマスにハルツでの事を少し聞いていたのだ。
 ユーロに反対するある団体がユーロ解体を各国に申し入れているという。言うとうりにしないとミサイルを撃ち込むという乱暴な話だ。
 その施設がハルツにあるらしく、今7人のSメンバーとベルリン支部のメンバーが潜入しているという。
 もちろん聞いただけで、ジョーには関係のない事なのだが─。
 彼は地図を取り出しハルツを確かめる。ハンブルクからはアウトバーン7号線で南下すればいい。200キロもなかった。
 「ハルツって・・・あのハルツか」
 ジョーもまた、初仕事で登った冬のハルツを思い出した。静かに地図を閉じ目を瞑る。
 ハンブルクに来ても自分の将来を決める事はできなかった。だが自分の“今”なら決められる。
 「・・・運命だな」小さく呟く。
 普段はそんな事信じないのに、何故か今は素直にそう思った。
 ジョーは目の前に見える1号線から7号線に入るコースをとった。


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Comment

淳 says... "覚書き"
いよいよジョーがハルツに向かう。
この日(現実)のトップニュースは北がミサイルを6発発射したことだ。う~ん、またかぁ・・・。
確かにストーリー内のミサイルは北が準備している、というニュースから取ったものだが、まさか本当に発射するとは。
こっちはさせません!

W杯、イタリアが勝った。次はポルトガルvsフランス。
2011.01.29 18:00 | URL | #vDtZmC8A [edit]

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